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第4話 アネットの『秘密』と『罰』
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彼の問いにアネットは思わず息を飲んだ。
(どうして公爵様が、お母様のことを……どこまで知ってるの?)
アネットは必死に考えを巡らせる。
彼女が母親から伝え聞いている限り、自分の出自を知っている人間はアネット本人を含めて四人だ。
アネットの母親、祖父、祖母、そしてアネット自身……。
他にこの秘密を知っている人がいることを聞いたことがなかった。
(まさか、伯爵家にもバレているんじゃ……)
アネットの鼓動は一気に速まり、冷や汗が止まらない。
自分の存在が公になってしまえば、一生懸命守り抜いてくれた母親の苦労や育ててくれた祖父母の想いが水の泡になってしまう。
(どうすれば……)
アネットがごくりと息を飲んだ時、ジルベールが口を開く。
「申し訳ない。君を怖がらせてしまった」
謝罪の言葉を口にした彼は、自分が「アネットの秘密」を知った経緯を語り始めた。
「私の家柄は代々戸籍と領地管理を統括する部署の長を任されている。この国は知っての通り『死産』の扱いに厳しい」
(そうか、『キルバース伯爵死産偽装事件』……)
このメルテリア王国では30年前に御家断続を命じられたキルバース伯爵が死産を偽装して、国に内密で男児の誕生を偽って申請して家の存続を図った事件があった。
その偽装は男児が二歳の時に発覚し、キルバース伯爵は罰せられて投獄されることとなったのだ。
男児はその後、病死したことでキルバース伯爵家は正式に断絶したが、この事件をきっかけに国は貴族の「死産」に厳しくなった。
「君の母親であるバルテル伯爵夫人は、戸籍省に娘の『死産』を提出した。そして、審査の目がそれほど厳しくない平民戸籍で君の戸籍を取得した」
(そこまでバレてしまっているのね……)
言い逃れはできないといった様子でアネットは目を伏せた。
そして、深々と頭を下げて謝罪する。
「申し訳ございませんでした」
彼女は全てを諦めたようにうなだれて、唇をぎゅっと閉じている。
(この事実がバレているのなら、結婚は破談になるわ)
村に戻されてしまい、支度金も回収されてしまうのだろう。
アネットは祖父母を悲しませてしまう苦しさで胸が圧し潰されそうになった。
ジルベールは冷たい声で戸籍偽装について告げる。
「本来であればただちに裁判所にて裁きが下るだろうが、君の母親はすでに亡くなっている」
「…………」
アネットは何も言えず目を閉じた。
しかし次の瞬間、覚悟をした瞳でジルベールに嘆願する。
「私が代わりにお裁きを受けます! ですから、祖父母にはこのままの暮らしを与えてはもらえないでしょうか!?」
「君……」
涙を零しながら懇願するその様子に、ジルベールの心も大きく動かされる。
彼は彼女の手を握って、今度は優しい眼差しで言う。
「安心しなさい。君の家族に処罰は下らない」
「え……?」
彼はアネットの涙を拭ってやりながら、「秘密」について語り始める。
「君が生まれた18年前。当時、戸籍省の長をしていたのは私の父だった。父は『死産』による戸籍偽装だと見抜き調査をおこなった」
彼の父親は貴族の戸籍取得と出生届の申請に、伯爵夫人という身分ながら一人で来たアネットの母親のことが気になった。
すぐさまバルテル伯爵家を進めていく。
「だが、そこでバルテル伯爵家の『赤い瞳の伝承』を知った」
「あ……」
「何か事情があると考えた父は、君の母親の実家を調べた。すると、君がいた」
ジルベールの父親はアネットの母親の実家を調べ、彼女が平民出身であったことと里帰り出産していたことを知る。
「そして、君の育ての親が抱く赤子は『赤い瞳』だった」
「それで、あなたのお父様はまさか……」
「ああ、事情を理解した父は『死産』を見逃すことにした。そして、いずれ跡を継ぐ私にもその事実を知らせたんだ」
今まで知らされていた「秘密」に隠された、影の支援者の存在にアネットは心を打たれる。
(私が生きるためにこんなにたくさんの人が罪を犯した……)
顔を両手で覆って泣く彼女の背中をジルベールは優しく撫でた。
「うわああああーーーー!!」
とめどない想いが次々に溢れてくる。
どれだけの人が自分のために犠牲を払い、守ってくれていたのだろう。
そのことを知らずにただ平和に穏やかに過ごす事ができたのは、自分の力ではない。
たくさんの「愛」と「罪」のもとで成り立っていたのだと知り、アネットは泣き叫ぶ。
「お母さん……私は、私は……!」
自分の存在価値に迷いが生まれる彼女に、ジルベールはただ一言告げる。
「生きろ」
「え……」
その瞳は真っすぐにアネットを捕らえていた。
「『秘密』も『罪』も私が共に背負う。だから、君は生きろ。生かしてくれた想いに応えるために」
震えていた唇は止まり、赤い瞳は大きく見開かれた。
「君の過去を私も背負おう。だから、傍にいてほしい」
「ジルベール様……」
アネットは涙を拭って彼の瞳を見据える。
「私は、生きててもいいんですか?」
「ああ、生きてほしい」
ジルベールは目を閉じた彼女をそっと抱きしめた──。
(どうして公爵様が、お母様のことを……どこまで知ってるの?)
アネットは必死に考えを巡らせる。
彼女が母親から伝え聞いている限り、自分の出自を知っている人間はアネット本人を含めて四人だ。
アネットの母親、祖父、祖母、そしてアネット自身……。
他にこの秘密を知っている人がいることを聞いたことがなかった。
(まさか、伯爵家にもバレているんじゃ……)
アネットの鼓動は一気に速まり、冷や汗が止まらない。
自分の存在が公になってしまえば、一生懸命守り抜いてくれた母親の苦労や育ててくれた祖父母の想いが水の泡になってしまう。
(どうすれば……)
アネットがごくりと息を飲んだ時、ジルベールが口を開く。
「申し訳ない。君を怖がらせてしまった」
謝罪の言葉を口にした彼は、自分が「アネットの秘密」を知った経緯を語り始めた。
「私の家柄は代々戸籍と領地管理を統括する部署の長を任されている。この国は知っての通り『死産』の扱いに厳しい」
(そうか、『キルバース伯爵死産偽装事件』……)
このメルテリア王国では30年前に御家断続を命じられたキルバース伯爵が死産を偽装して、国に内密で男児の誕生を偽って申請して家の存続を図った事件があった。
その偽装は男児が二歳の時に発覚し、キルバース伯爵は罰せられて投獄されることとなったのだ。
男児はその後、病死したことでキルバース伯爵家は正式に断絶したが、この事件をきっかけに国は貴族の「死産」に厳しくなった。
「君の母親であるバルテル伯爵夫人は、戸籍省に娘の『死産』を提出した。そして、審査の目がそれほど厳しくない平民戸籍で君の戸籍を取得した」
(そこまでバレてしまっているのね……)
言い逃れはできないといった様子でアネットは目を伏せた。
そして、深々と頭を下げて謝罪する。
「申し訳ございませんでした」
彼女は全てを諦めたようにうなだれて、唇をぎゅっと閉じている。
(この事実がバレているのなら、結婚は破談になるわ)
村に戻されてしまい、支度金も回収されてしまうのだろう。
アネットは祖父母を悲しませてしまう苦しさで胸が圧し潰されそうになった。
ジルベールは冷たい声で戸籍偽装について告げる。
「本来であればただちに裁判所にて裁きが下るだろうが、君の母親はすでに亡くなっている」
「…………」
アネットは何も言えず目を閉じた。
しかし次の瞬間、覚悟をした瞳でジルベールに嘆願する。
「私が代わりにお裁きを受けます! ですから、祖父母にはこのままの暮らしを与えてはもらえないでしょうか!?」
「君……」
涙を零しながら懇願するその様子に、ジルベールの心も大きく動かされる。
彼は彼女の手を握って、今度は優しい眼差しで言う。
「安心しなさい。君の家族に処罰は下らない」
「え……?」
彼はアネットの涙を拭ってやりながら、「秘密」について語り始める。
「君が生まれた18年前。当時、戸籍省の長をしていたのは私の父だった。父は『死産』による戸籍偽装だと見抜き調査をおこなった」
彼の父親は貴族の戸籍取得と出生届の申請に、伯爵夫人という身分ながら一人で来たアネットの母親のことが気になった。
すぐさまバルテル伯爵家を進めていく。
「だが、そこでバルテル伯爵家の『赤い瞳の伝承』を知った」
「あ……」
「何か事情があると考えた父は、君の母親の実家を調べた。すると、君がいた」
ジルベールの父親はアネットの母親の実家を調べ、彼女が平民出身であったことと里帰り出産していたことを知る。
「そして、君の育ての親が抱く赤子は『赤い瞳』だった」
「それで、あなたのお父様はまさか……」
「ああ、事情を理解した父は『死産』を見逃すことにした。そして、いずれ跡を継ぐ私にもその事実を知らせたんだ」
今まで知らされていた「秘密」に隠された、影の支援者の存在にアネットは心を打たれる。
(私が生きるためにこんなにたくさんの人が罪を犯した……)
顔を両手で覆って泣く彼女の背中をジルベールは優しく撫でた。
「うわああああーーーー!!」
とめどない想いが次々に溢れてくる。
どれだけの人が自分のために犠牲を払い、守ってくれていたのだろう。
そのことを知らずにただ平和に穏やかに過ごす事ができたのは、自分の力ではない。
たくさんの「愛」と「罪」のもとで成り立っていたのだと知り、アネットは泣き叫ぶ。
「お母さん……私は、私は……!」
自分の存在価値に迷いが生まれる彼女に、ジルベールはただ一言告げる。
「生きろ」
「え……」
その瞳は真っすぐにアネットを捕らえていた。
「『秘密』も『罪』も私が共に背負う。だから、君は生きろ。生かしてくれた想いに応えるために」
震えていた唇は止まり、赤い瞳は大きく見開かれた。
「君の過去を私も背負おう。だから、傍にいてほしい」
「ジルベール様……」
アネットは涙を拭って彼の瞳を見据える。
「私は、生きててもいいんですか?」
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