天牙の華~政略結婚から始まる復讐は、最強の【刀】に至上の恋を教える~

八重

文字の大きさ
2 / 62
第一章

第二話「仮初めの平和が今、終わりを告げる」

しおりを挟む
 男は森の中を必死に逃げていた。
 しかし、木の根につまずき、転んだ。
 その間に野盗に詰め寄られる。

「ひいいいいいーーーー!!!!」

「ほらっ! 金目のもの全部出しなっ! 死にたくなかったらなー!」

 野盗は男に向かって刀を振り上げる。


 しかし、野盗が男を斬りつける寸前──短めの刀がそれを弾き返した。

「なんだ……?」

 野盗は弾いてきた刀の先を見る。
 そこには20歳程の赤い髪の女がいた。淡い青色と紫の着物に動きやすそうな深い靴を履いている。
 腰には二本の鞘がぶら下がっており、片方の刀は納められたままだ。
 
「しまいなさい。そんなことのために刀はあるんじゃない」

 女は刀を野盗に向けると忠告した。
 しかし、その言葉も虚しく、野盗は彼女に斬りかかろうとした。

「いい度胸じゃねぇか、この俺にたてつくなんてなっ!」

 野盗の持つ刀が女の顔面目掛けて振り下ろされる。
 刃が女に触れる寸前、しまっていたもう片方の刀を抜き、受け止めた。

 女はそのまま野盗の持つ刀の勢いを殺して、弾き飛ばした。
 
「なっ!」
 
 女は双剣使いだった。
 刀を胸の前で交差させ、野盗に向かって問う。

「まだやりますか?」

「──っ! その構え……まさか、【二刀使いの結月】か……?!」

 【二刀使いの結月】と呼ばれたその女は、野盗の言葉に返答する。

「痛い目をみたくなかったら、おとなしくここを去りなさい」

「くそっ!」

 野盗は弾かれた刀を急いで拾い上げ、逃げるように去っていった。


「ふぅ……」

 女は双剣を鞘にしまうと、襲われていた男に向き直った。

「大丈夫ですか……?」

「は、はい。助けていただき、ありがとうございます」

「ここは野盗が多くでますし、よかったら近くの茶屋まで護衛します」

「本当ですか?! ありがとうございます……!」


──────────────────────────────

 茶屋の傍から頭を深く下げて見送る男。
 そこからしばらく森を歩き、見えてくるぽつんと佇む質素な一軒家。

 そこが野盗を倒した女──涼風結月すずかぜゆづきの家だった。

 しかし、ここは彼女の実家ではない。
 彼女の実家は10歳の時に何者かに襲われて燃えて失われていた。
 彼女の父親と母親、そして一族と共に──

「ただいまー」

「おかえりなさい、結月。夕ご飯できてるよ」

 結月が戸口を開けて家に入ると、そこには彼女の育ての親である清子きよこが微笑みながら、夕飯の準備をして待っていた。
 清子が出迎えた土間の近くの畳の上では、すでにもう一人の育ての親である千十郎せんじゅうろうが、夕飯のおかずを口にしていた。

「いただきまーす」

 結月は清子の作る煮物が大好物であり、この日の夕飯にもそれがあった。
 さらに味噌汁に入っている大根と小松菜は、家の前の畑でとれた自家製の野菜である。
 結月は清子の作る夕飯に舌鼓を打っていた。

「出ていけ」

「へ……?」

 突然の千十郎の声と内容に、思わず結月は煮物の椎茸を皿に落とした。
 結月はすぐに顔をあげて千十郎を見るが、何食わぬ顔をしていた。
 千十郎の顔のみでは意図を把握できずに清子の顔を見るが、彼女も真剣な顔でこちらを見ていた。

「お前も十分大人だ。一人で生きていきなさい」

「え? 何言い出すの。私がいなくなったら……」

「『イグ』が尽きかけておるのだ。これが何を意味するかわかるか?」

「──っ!」

 『イグ』。それは古来より存在する不思議な力。かつては数名の『イグの行使者』と呼ばれる特別な存在しか使えなかったが、やがて時を経て一般的に人々が使えるものとなった。人々はそれをかまどの火をつけたり、重い荷物を運搬したりなどの生活力底上げに使用している。『人を傷つけない』安全な力として皆に親しまれている。
 そのイグが尽きるということは、まもなくその人間に『死』が迫っているということ。

「ばあさんはわしより数ヵ月前に尽きかけておる。もう永くない」

「そんな……」

 突然突きつけられた事実に目の前が真っ暗になる結月。
 千十郎も清子も60歳を超えており、寿命が長くないのも当たり前ではあった。

(だけど……だけど……)

 結月の脳内で10歳のあの日の記憶がよみがえる。
 父親と母親を失い、屋敷から命からがら逃げ延びた、あの地獄の日──
 屋敷の燃える轟音に、必死に森の中を駆け抜けた。
 結月に【昔の記憶】を呼び起こさせるには十分だった。

(もう……失いたくない……)


「イグを……イグの消失を止めることはできないの……?」

「結月、それは不老不死と同じじゃ。できん。大丈夫だ。わしらは余生を二人で過ごす。結月、お前は綾城あやしろに行け」

「綾城……?」

 綾城──
 この地方で最も栄えた都市国家。『イグの行使者』の一族である一条家の加護のもとで繁栄をする街である。
 そこになぜ向かえと言われているのか、結月はわからなかった。

「綾城にいるわしの古い友人が、最近涼風家の生き残りと称するものがいる、と風の噂で聞いたと言っておった」

「──っ!!」

(涼風家の生き残り……。それが本当なら家族かもしれない)

「でも、じいちゃんたちを残していくわけには……」

「だいじょうぶ。ばあちゃんたちは二人で生きる。結月は新しい人生を歩みなさい」

 清子が結月の手を握り締めた。
 結月は少しの間迷った後、決心をした。

「ばあちゃん……。綾城に行って確認してすぐ戻るから! それまで絶対生きて!」

 力強く握り返された手を一瞥した清子は、安心したように結月に微笑みかけた。



──────────────────────────────

 翌日──

 結月は綾城に向かうために、森を抜けていた。
 この旅立ちが長い長いものになるなんて結月はこの時思っていなかった──





 一方、結月の去った家に残った二人は式神を使い、ある場所へ伝言を伝えていた。


『ユヅキ、ブジタビダチ』


「あとはあのお方がどうなさるか……。わしらにできるのはここまでじゃ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...