天牙の華~政略結婚から始まる復讐は、最強の【刀】に至上の恋を教える~

八重

文字の大きさ
6 / 62
第一章

第六話「見せかけ婚約」

しおりを挟む
「…………はあ?!」

 結月は思わず大きな声を出した。

「なっ! お前! 朔様に向かってなんて口の利き方をっ!」

 赤く濃い服を着た、小柄な男の子が顔をあげ、声を荒らげた。
 それを聞いた凛がすぐさま制止した。

蓮人れんと、控えなさい」

「──っ! 申し訳ございません……」

 ばつが悪そうに小声で蓮人と呼ばれたその男の子が発言する。
 静まったのを確認し、朔様と呼ばれたその男が言葉を発した。

「もちろん本当の婚約者ではない。見せかけだ。”やつ”をおびき出すための」

「”やつ”……?」

 私の疑問に返答がかえってきたのは、私の真正面からではなく横からだった。

「それでは、朱羅しゅらをおびき出すための罠を張るということですか?」

 朱羅と呼ばれたその人物が”やつ”なのだと気づくまで、結月は数秒かかった。

「数年”やつ”を探したが、”あれ”以降姿を見せぬまま。もはや、涼風を使うしかあるまい」

 その場が静寂に包まれた。
 結月は自分の置かれた立場がもはやわからなくなっていた。
 端を発したのは、黒髪の長髪の男だった。

「朔様、それではこの娘を危険にさらすことになってもよろしいのですか?」

 結月と朔以外の全員が、それを聞きたかったかのような同意の空気が流れた。

「構わん。死なせるほど、この綾城も一条も軟弱ではない」

「かしこまりました。それでは、兵の数や配置など再度検討し、宮廷の守りを固めます」

 黒い髪の男があげた頭を再度下げ、すぐさま返答を返した。
 結月はようやくそこで『自分の身が危なくなる提案をされた』ことに気づいた。

「あの……私、危険な目にあうのでしょうか……?」

 結月は率直に朔に向かって聞いた。

「さっきの言葉を聞いていなかったのか? 綾城も一条も軟弱ではないといったはずだが」

「死なないことは保障されていましたが、それ以外はなにも保障されていないような……。あと、婚約者になるのとその”やつ”や危険が結びつかないのですが……」

 朔がため息をつき、言葉を返した。

「どうやら俺の婚約者は頭が悪いらしい」

「なっ! っていうかもうわからないことだらけなのですが! もっとわかりやすく説明してくれますか?!」

 結月は自分だけ置いてけぼりを食らったように理解できないことに嫌気がさし、ついに声を荒らげた。

「お前っ! 朔様に向かってなんてことをっ!」

「まあ、待ちなさい。私が話します」

 再び結月に食って掛かる蓮人を制止して、凛が話し始めた。

「きちんと話していませんでしたね。彼は一条朔様。一条家のご当主であらせられます」

「──っ! 一条家の……ご当主……」

 結月はとたんに理解した。一条家といえば、綾城を治める一族。
 先代の一条家当主の時哉ときや様が亡くなられてから、若いご子息が継いだと結月は聞いていたが、まさか彼だったとは思いもよらなかった。
 まわりのこの場にいた男たちが敬い、話す様子も理解できた。

「そして、民衆は気づいていませんが、私たち人間は妖魔の存在に脅かされています」

「よう……ま……?」

「その妖魔の勢いが昨今増しています。その主たる要因が『涼風家の滅亡』と『朱羅の台頭』です」

「……? 待ってください、なぜそこで涼風家が……」

 一呼吸置き、凛は言葉を発した。

「涼風家は『イグの行使者』の最も強い血筋の一つ。そして、その強大なイグの力を使っておこなっていたのが『妖魔退治』です」

「──っ!」

「つまり、涼風家の本当の役割は『妖魔を抑止すること』」

「そんなこと……お父様もお母様も一言も……」

「言っていなかったのでしょうね」

 凛が話しているところで朔が口を開いた。


「涼風家は朱羅に襲われ、滅亡した」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...