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第三章

第四十二話「息抜き」

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 結月は凛に誘われて、一条家の者が切り盛りしている茶屋へと来ていた。

「はあ……やっぱりここのお団子は美味しいですね」

「ええ、やはり一級品です」

 二人は団子を食べ、茶で喉を潤す。

「結月さん」

 凛が結月に声をかけた。

「はい」

「今日茶屋に結月さんを連れていくように言ったのは朔様ですよ」

 凛は茶を飲みながらここに来た顛末を言う。

「え……朔様がですか?」

 凛の言葉は結月の虚を突いた。
 結月は朔が自分のことをただの敵をおびき寄せるための”ふり”の婚約者と思っていると考えていた。
 気遣ってもらえることが結月は嬉しかった。

「あのお方は口に出さないだけで、結月さんのことを心配していつも気にかけているのですよ」

 結月には思い当たる節がいくつもあった。
 着物を選ばせてくれたり、南蛮のものが到着した際には自室に呼び、好きなものをくれたりした。
 さらに美羽がよく朔に結月の様子を聞かれると言っていたことを思い出す。

(自分は幸せ者だ……)

 凛はさらに言葉を紡ぐ。

「恥ずかしながら、私はあの夜自分が判断を誤ってしまったことをずっと悔いて職務に集中できていませんでした」

 結月は飲んでいた茶を置き、真剣に耳を傾ける。

「同時に結月さんに感謝しています。結月さんがいなければ朔様のことお守りすることができなかったかもしれません」

 凛が会釈をして感謝を述べる様子を見た結月は心に決めた。

(立ち止まってはいけない。私がなんとかする。全て守る)

 結月はそう心の中で思い、凛に告げる。

「必ず自分の力を制御します。必ず……」

「はい、私たちも力になります」

 こうして二人は茶屋を後にした──


 翌日の朝、結月と凛は朔に報告にきていた。

「……という内容が記載されており、口承の部分の手がかりはいまだつかめませんでした」

「それだけで十分だろう」

「必ず力の制御をし、治癒の力についても引き続き何か手がかりがないか探ります」

「わかった」

 二人は深くお辞儀をして退室した。


「治癒の力か……」

 二人のいなくなった部屋に朔の声が響いた──
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