【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重

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第19話

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 お茶会を明日に控えた今日、急遽夜に社交界パーティーの予定が入りました。
 お兄さまがそのパーティーに参加する予定だったのですが、お仕事が入ってしまいいけなくなってしまった名代で向かいます。

「(王族の方ですか?)」

 ノートに文字で質問をするとお父さまは答えてくださいます。

「ああ、どうやら隣国との友好条約30周年記念だそうでな、向こうの第二王子であるオリヴィエ王子が来られるそうだ」

 なんと、王子様がっ!
 それはもしお会いしたら粗相のないようにしなければ……。

「まあ、おそらくうちも王族が一部参加するらしいから、そちらで対応するだろうが、知っておいてほしい」
「(かしこまりました)」

 お父さまとそのあと少し雑談をして、その場をあとにいたしました。


 王族の方がいらっしゃるパーティーとは……本当に粗相のないようにしないとですね。
 部屋に戻るとクリスタさんがすでにパーティー用のドレスを何着か広げて待っていてくださいました。

「パーティーへのご参加のお話伺いました。何着か選定したのですが、本日の気分はどれでしょうか?」

 クリスタさんはいつも私の好みを把握したうえで、今日の気分で私に選ばせてくださいます。
 服のセンスが自分にあるとも思えないのですが、クリスタさんの選定の時点でどれを選んでももう素敵な衣装なのが確定しているので、安心して選んでいます。
 そうです……今日はこのオレンジにしましょうか。

「オレンジの衣装ですね、もしかして髪飾りは蝶のものをご希望ですか?」

 クリスタさんはなんでもお見通しですね。
 そうなんです、今日は自分に自信をつけたいのと、お兄さまのお母さまに守っていただける気がしてこの蝶の髪飾りをつけたかったんです。
 お兄さまの瞳と同じサファイアブルーの輝きを放つこの蝶の髪飾りは、私のお守りになっています。

 どうか、今日もうまくいきますように。
 そうお祈りをしながらパーティーの準備を進めました。



◇◆◇



 パーティーは少し遅めの時間から始まりました。
 緊張しながらもエリー先生のマナー講座で教えていただいた精神『背筋を伸ばして堂々と』をモットーに会場へと向かって行きます。
 今日はいつも見守ってくださるお兄さまもいません。
 一人でなんとかしなければならないため、不安で押しつぶされそうになり、息が乱れてきました。

 落ち着きましょう。深呼吸をして、ゆっくり目を開いて、大丈夫。やれます!

 私はウェルカムドリンクを受け取って、会場に足を踏み入れました。
 今日は王宮の一角にある宮殿でパーティーはおこなわれます。

 あ、おそらくあの皆様に囲まれてお話されている方が隣国の第二王子オリヴィエ・ブランジェさまですね。
 黄金色の綺麗な髪にアメジスト色の透き通った目をなさっています。
 立ち居振る舞いがとても上品かつ大胆な印象を抱きます。
 お兄さまの繊細な感じとはまた違う風格がございますね。

 さすがというべきでしょうか、宰相の方々やそれに由緒ある高貴なご令嬢などがご挨拶をして楽しそうにお話をしております。

「ローゼマリー様」

 私を呼ぶ声に振り返ると、そこにはなんとも可憐で可愛らしい方がいらっしゃいました。
 ふんわりとした髪にリボンをあしらった髪飾りをつけていらっしゃいます。

「明日の我がフェーヴル家でのお茶会に参加していただけるとのこと。大変光栄と存じます」
「(いえ、こちらこそです!)」
「大変ご足労いただきますが、よろしくお願いいたします」

 フェーヴル伯爵令嬢のお辞儀に合わせて私もお辞儀をします。
 声が出ないことを皆さんご存じの方が多いので、表情や手振りなどである程度理解してくださいます。


 パーティーも終わりの頃になってきました。
 もう少ししたら無事にお役目を果たせますね。
 そんなことを頭の中で考えていたら、突然叫び声が聞こえてきたのです。

「ヴィルフェルトっ!! よくも~!!」
「きゃーっ!!」

 私は咄嗟の事で動けませんでした。
 なんと叫び声をあげた方のほうを見るとなんと私に向かってナイフを向けていたのです。
 これは、まずいです……!

 しかし、身体はすくんでしまって一歩も動けません。
 刺されてしまう……!
 そのように思った瞬間、何かが倒れる音が響き渡りました。

 ゆっくり目を開けると、大きな背中が目の前にあって、その人はなんとオリヴィエ王子でした。
 そのすぐ前の床には先ほどの暴漢が倒れており、その傍に落ちたナイフを王子は足で払いのけました。

「大丈夫かい、ご令嬢」
「(……こく)」

「王子っ! ご無事ですか?!」
「私は大丈夫だから、すぐにこのご令嬢に怪我がないか確認と、あとこのならず者の処理を」
「かしこまりました!」

 すぐさま警備の方々がたくさんいらっしゃり、さらに王族もいらっしゃったため騎士兵もやってきました。

「お怪我はありませんか、ローゼマリー様」
「(はい、大丈夫です)」

 私は騎士兵の方に保護されてその日は家まで送っていただきました。


「ローゼマリー!!」
「(お兄さま)」
「怪我はなかったか?!」
「(はい、大丈夫です)」

 お兄さまに続き、お父さまとクリスタさんも玄関に出てお迎えに来てくださいます。
 皆さんにご心配をおかけしたようで申し訳ございません。

 どうやら私を襲った方は貿易業がうまくいかなくなったことを、同じく海洋業で栄えていたヴィルフェルト家のせいだと逆恨みして今回の犯行に及んだそうです。
 王族の皆さまは隣国の国王より今回の一件で、警備の甘さを責められたそうです。

 オリヴィエ王子にはきちんとお礼が伝えられませんでしたので、あとでお手紙をお送りできないか、お父さまに相談してみましょう。

 そう思いながら私は明日のお茶会に備えて休むことにしました──
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