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第32話 ダンジョンドッグラン(最強種族の場合)

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 「おめでとう、やすひろくん!」
「はい?」

 新興ダンジョンの話を聞いた数日後。
 ちょうど配信を終えたところで、えりとから謎の祝福をされた。

「なんだよ意味が分からないぞ」
「君に許可が下りました!」
「……何の?」

 聞き返すと、えりとはスマホをこちらに向ける。
 なんか嫌な予感がしたが、それは見事に当たる。

「『新興ダンジョン』探索許可です!」
「え?」
「これでいつでも入れます!」
「はああああっ!?」

 なんか陽気な話し方しやがると思っていたら、内容が重大じゃないか!
 というか何で勝手に許可取ってんだ!?

「確認だけど、新興ダンジョンって難しいんだったよな?」
「うん。超凄腕探索者たちが苦戦してるぐらいには」
「おいおい」

 軽々しく言ってくれる。

 もちろん情報が無いから慎重に進んでる、という部分もあると思う。
 それでも先行隊って日本トップ探索者達だぞ?
 
「じゃあ『はじまりの草原』が1、『まあまあの密林』が3だとすると?」
「んー、30!」
「おいいいいっ!」

 俺死ぬじゃん!
 なんでお前、そんな余裕そうなの!?

「まあまあ、やすひろよ」
「なんだよ」
「『世界樹』を発展させるヒントほしいだろ?」
「そりゃそうだけど」

 『世界樹』の発展はロマンだ。
 数日前に聞いた話は本当にワクワクした。

 でも、それとこれとは話が違わないか?
 俺はあくまで情報を待ってるつもりだったのに。
 自ら得る事は全く考えていなかった。

「新興ダンジョンがあまりに今までと仕様が違ってな。先行隊が苦戦してるんだ」
「らしいな」

 その話はちょくちょくこいつから聞いていた。

「そこでやすひろ、お前ってわけだ」
「いやいや」

 そうはならねえよ。

「とにかく無理だって。俺にはできない」
「じゃあ真面目に話すが、冗談抜きでお前は他にないものを持ってる」
「……ペット達だろ?」
「そうだ」

 言いたいことは大体分かる。
 三匹とも最強種族なわけだし。

 日本全体で見ても、俺より連れ・・が強い人はいないと思う。
 でも、当の俺が強くないのでは無理だろ。

「それにな」
「?」
「俺の予想通りだと、メリットがあるのはお前だけじゃねえ」
「どういうことだ?」

 えりとのニヤリ顔。
 とんでもない事を言い出す予感がしながらも、言葉を待った。

「実はな──」







『準備はいいか』
「おう!」

 耳元から聞こえてくるのはえりとの通信。
 なんでわざわざ通信をしてるかって?

「いつでも行けるぜ」

 俺は今、新興ダンジョンの扉前だからだ。
 昨日の話から一転、なんやかんやあって俺は結局乗せられてしまった。

『まさかあんなに簡単に乗るとはな』
「まあな!」

 なんたって、ペット達の為にもなる・・・・・・・・・・と言われてしまったからな。

「準備はいいか?」
「ワフッ!」
「ニャフッ!」
「キュルッ!」

 フクマロ、モンブラン、ココア。
 三匹はとっても元気な返事をした。
 最近で一番気合いが入っているように見える。

「じゃあ入るぞ」
『ああ。頼んだ』

 そうして、俺は山奥に出現した『新興ダンジョン』の扉を開けた。

「うおっ!?」

 扉を開けた瞬間、目の前に広がる景色に声を上げてしまった。

「す、すげえ……!」

 それはまるで、恐竜の時代かのようなジャングルの光景。

 俺たちが立っているのは丘。
 そこから見渡せるのは、圧倒的な大自然。

 周りを蹴落けおとしてでも高く伸びようとする木々、明らかにヤバい生物が住まう湖、今なお煙を上げる火口など。
 恐竜時代を実際に見たわけじゃないが、ほぼイメージ通りの光景だ。

 その中でも一つ。
 遥か遠くでも、その圧倒的な高さでそびえ立つことで視界に入ってくる一本の木。

「……ッ!」

 あれが本場の『世界樹』なのか。
 思わず見惚みとれてしまう。

『どうだ?』
「これは……予想以上だな」
『ああ。俺はデータだけでビビってんだから、本場はもっとすごいだろうな』

 えりとは自嘲気味に笑った。

「ところでえりと。例の件は?」
『安心しろ。じきにくる・・はずだ」
「……!」

 えりとがそう言った瞬間、

「ワフゥゥゥ……!」
「ニャァァァ……!」
「キュルゥゥ……!」

 ペット達がうめきだした。
 間違いない、これはあの予感だ……!

「クォ~~~ン!」
「ムニャ~~~!」
「キュル~~~!」

「おおおっ!」

 そうして、三匹の体が巨大化した。

 これまで二度ほどみてきた光景。
 最強種族の覚醒だ!

「みんな!」

 白い毛並みを逆立て、周りに電流のようなものを走らせるフクマロ。

「ワフ」

 栗毛色の毛は黄金となって輝き、爪や牙が大きく伸びたモンブラン。

「ニャフ」

 そして、焦げ茶色の頬とお腹がぷっくらした体はそのまま大きく、持っていた種すらも巨大化したココア。
 モフみが増したか?

 さらに、おっとりとした雰囲気をただよわせるつぶらな瞳はどこかキリっとして、もう誰も末っ子属性とは呼べないだろう。
 親シマリスクイーンとそっくりな頼れる風貌ふうぼうだ。

「キュル」

 それぞれいつもの甘えた声ではなく、少し低くなったかっこいい声色。
 目の前の光景を前にしても、俺は確信できた。
 みんながいれば負けない!

『言った通りだっただろ?』
「おう! さすがえりと!」

 これがえりとの言っていた「ペット達のメリット」だ。

 研究の結果、覚醒するタイミングは『闘争本能が高まった時』だと判明した。
 今までの事を考えれば、ニャニオンキング(モンブラン)、親シマリスクイーンの咆哮ほうこうを聞いた時だったので合っているだろう。

 加えて、定期的に覚醒しておかなければ、ストレスが溜まったり、うまく力をコントロールできなくなる可能性がある、とも言っていた。

 そして今回、難易度の高い『新興ダンジョン』に来た。
 この各所から伝わってくる強者のオーラに、思わず闘争本能が高まったのだろう。

 結果的にみんなの覚醒をうながせた。

 言うならば「最強種族たちのドッグラン」みたいなものかな。
 覚醒させることでストレスを軽減させるんだ。

「ワフ」
「よし!」

 いつも通りフクマロに乗せてもらう。
 だが、さあ行こうというタイミングで。

「ワフ!」
「どうした?」

 フクマロが威嚇いかくするように前方を睨みつける。

「ん~? えっ!」

 それからだいぶ遅れて、俺もようやくそれを視界に捉える。

「プクー!」
「なんだ!?」

 まだ遠い距離で飛ぶ・・何か。
 人間の視力では大きな影しか捉えられないが、魔物であることには間違いない。

「プク?」
「!!」

 そして、気のせいなどではなく、明らかに俺たちの方を見ておちょくってきた。

「ほう、俺たちを前に中々強気じゃないか」
「ワフ」
「ムニャ」
「キュル」

 俺の言葉にはみんな同意らしい。
 
「プクー!」
「よーし……」

 そうして『世界樹』の方へ飛んでいった魔物を指し、俺は高らかに号令した。

「いくぞみんな!」
「ワフ!」
「ニャニャー!」
「キュル!」

 こうして、覚醒したペット達を連れ、凄腕探索者たちですら苦戦するという『新興ダンジョン』の探索が始まった。

 俺の見間違えではなければ、あのおちょくってきた魔物は確実にモフい・・・
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