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第59話 何かを知る里長
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「ようこそお越し下さいました」
「!?」
俺たちのここまで案内してくれたフェンリル、その隣にいるフェンリルが人の言葉を話した。
「え、言葉?」
「ほっほ」
その個体をよく見れば、逆立つ毛並みは少々元気がなく、フクマロや案内してくれたフェンリルよりも少し老けて見える。
フクマロや他のフェンリルより渋い感じのフェンリルだ。
「驚かれましたかな」
「ま、まあ……」
「それも無理はありませんな」
「……」
しかも、気まで使われてしまった。
完全におじいちゃんの気遣いじゃないか。
なんだか話していて安心感まで湧いてきたぞ。
「あの、あなたは一体?」
「そうですな。わしはこの里をまとめる者。里長、という言い方が正しいかの」
「里長……」
うん、いかにもな雰囲気だ。
大体分かってはいたけど、やはりそうらしい。
「ただ、“名前”はというのもはない。我らは個人を判別できるからの」
「な、なるほど」
「フクマロ、という名前も些か羨ましくは思えてくるがの」
「!」
隣の案内フェンリルから聞いたのだろうか。
「フー」
「お、そうじゃったな」
そうして雑談に花を咲かせていると、隣の案内フェンリルが里長に話しかけた。
やはりフェンリル同士では会話が成り立っているらしい。
「とにかく里を案内しよう。一番奥のわしの寝床まで来てくれるだろうか」
「ですが──」
「なに、無駄な遠慮はいらん。そこのフクマロのことも気になろう?」
「!!」
里長はチラリとフクマロの方を見た。
「フクマロについて何か知っていることがあるんですか!」
「それはあちらで話そう」
「は、はあ……」
何かは分からないにしろ、里長はフクマロについて知っていることがあるみたいだ。
ただ、
「フクマロ?」
「ワフ……」
フクマロの方がこの里にあまりピンときてなさそうなところは気になる。
他のペット達同様、綺麗な光景には声を上げていたものの、それ以上はなかった。
「付いて来るが良い」
「分かりました」
それでも、今は行くしかないか。
幸い、とても悪い人(フェンリル)には見えないしな。
「この里、広いですよね」
「う、うん……」
美月ちゃんとも話しながら里長に付いて行く。
里長の寝床は一番奥らしいので、この広い里を見渡しながら進んでいるのだ。
だけど、やっぱり……。
「……うず」
「やすひろさん?」
「あ、いや! なんでもないよ! ……うず」
今は付いて行かなければならないのに、体が抑えきれない。
「いえ。やすひろさん、気持ちは分かります」
「え?」
「わたしもですから……うず」
「まさか!」
だがその症状は美月ちゃんも同じだったよう。
「だー! もうダメだ!」
そう思うとダムが決壊した。
「里長さん!」
「む?」
俺と美月ちゃんは口を揃えて言う。
「フェンリル達と戯れさせてください!」
「フェンリルさんと戯れさせて!」
俺たちは、あのモフモフ達と戯れたかった!
里長の寝床へは一本道。
里の中央を通るようにして付いて来たわけだが、右を見ればフェンリル、左を見てもフェンリル。
つまり、モフモフ達に囲まれているのだ。
敵でもないのに、それに触れることもなくただ通り過ぎていくのは、先程からただの拷問でしかなかった。
里長は目を見開く。
「ほっほっほ! いいでしょう」
「「本当ですか!」」
俺たちはまたも口を揃えた。
里長は嬉しそうに続ける。
「その者も、よく懐きよく成長しておるわけだ」
「え?」
俺は思わず声を漏らした。
里長がフクマロを「その者」と呼んだからだ。
それに今の言葉、俺にはどこか意味深に聞こえた。
「それに……おっと。ちょうどタイミングも良かったようじゃな」
「?」
さらに、里長に促されて後ろを振り向く。
そこには──。
「ワフ?」
フクマロを見つめる二匹のフェンリルがいた。
「!?」
俺たちのここまで案内してくれたフェンリル、その隣にいるフェンリルが人の言葉を話した。
「え、言葉?」
「ほっほ」
その個体をよく見れば、逆立つ毛並みは少々元気がなく、フクマロや案内してくれたフェンリルよりも少し老けて見える。
フクマロや他のフェンリルより渋い感じのフェンリルだ。
「驚かれましたかな」
「ま、まあ……」
「それも無理はありませんな」
「……」
しかも、気まで使われてしまった。
完全におじいちゃんの気遣いじゃないか。
なんだか話していて安心感まで湧いてきたぞ。
「あの、あなたは一体?」
「そうですな。わしはこの里をまとめる者。里長、という言い方が正しいかの」
「里長……」
うん、いかにもな雰囲気だ。
大体分かってはいたけど、やはりそうらしい。
「ただ、“名前”はというのもはない。我らは個人を判別できるからの」
「な、なるほど」
「フクマロ、という名前も些か羨ましくは思えてくるがの」
「!」
隣の案内フェンリルから聞いたのだろうか。
「フー」
「お、そうじゃったな」
そうして雑談に花を咲かせていると、隣の案内フェンリルが里長に話しかけた。
やはりフェンリル同士では会話が成り立っているらしい。
「とにかく里を案内しよう。一番奥のわしの寝床まで来てくれるだろうか」
「ですが──」
「なに、無駄な遠慮はいらん。そこのフクマロのことも気になろう?」
「!!」
里長はチラリとフクマロの方を見た。
「フクマロについて何か知っていることがあるんですか!」
「それはあちらで話そう」
「は、はあ……」
何かは分からないにしろ、里長はフクマロについて知っていることがあるみたいだ。
ただ、
「フクマロ?」
「ワフ……」
フクマロの方がこの里にあまりピンときてなさそうなところは気になる。
他のペット達同様、綺麗な光景には声を上げていたものの、それ以上はなかった。
「付いて来るが良い」
「分かりました」
それでも、今は行くしかないか。
幸い、とても悪い人(フェンリル)には見えないしな。
「この里、広いですよね」
「う、うん……」
美月ちゃんとも話しながら里長に付いて行く。
里長の寝床は一番奥らしいので、この広い里を見渡しながら進んでいるのだ。
だけど、やっぱり……。
「……うず」
「やすひろさん?」
「あ、いや! なんでもないよ! ……うず」
今は付いて行かなければならないのに、体が抑えきれない。
「いえ。やすひろさん、気持ちは分かります」
「え?」
「わたしもですから……うず」
「まさか!」
だがその症状は美月ちゃんも同じだったよう。
「だー! もうダメだ!」
そう思うとダムが決壊した。
「里長さん!」
「む?」
俺と美月ちゃんは口を揃えて言う。
「フェンリル達と戯れさせてください!」
「フェンリルさんと戯れさせて!」
俺たちは、あのモフモフ達と戯れたかった!
里長の寝床へは一本道。
里の中央を通るようにして付いて来たわけだが、右を見ればフェンリル、左を見てもフェンリル。
つまり、モフモフ達に囲まれているのだ。
敵でもないのに、それに触れることもなくただ通り過ぎていくのは、先程からただの拷問でしかなかった。
里長は目を見開く。
「ほっほっほ! いいでしょう」
「「本当ですか!」」
俺たちはまたも口を揃えた。
里長は嬉しそうに続ける。
「その者も、よく懐きよく成長しておるわけだ」
「え?」
俺は思わず声を漏らした。
里長がフクマロを「その者」と呼んだからだ。
それに今の言葉、俺にはどこか意味深に聞こえた。
「それに……おっと。ちょうどタイミングも良かったようじゃな」
「?」
さらに、里長に促されて後ろを振り向く。
そこには──。
「ワフ?」
フクマロを見つめる二匹のフェンリルがいた。
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