ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航

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1巻

1-2

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《は?》
《正面から受けてノーダメージ……?》
《異次元過ぎて笑えてきたw》
《もう訳わからんwww》
《ぶっ倒しちまえ!》


「撮れ高は十分かな」

 コメント欄をチラ見してから、俺はダンジョンの地面を蹴る。

「とあー!」
「──ギャアアアアアア」


 俺はその勢いのまま、ワイバーンの頭をぶん殴った。ワイバーンの長い首はグニャリと曲がり、地上へ崩れ落ちる。やがてその体はダンジョンへと取り込まれていき、跡形もなく消えた。

 これは討伐の証だ。初めて見たけど。


《なんだその声www》
《とあー(棒)》
《かっこよくなくて草》
《Sランクを倒すとか、まじで信じられない……》
《ガチで偉業クラスじゃないか……?》


 危機が去り、コメント欄はここ一番に盛り上がっていた。いつの間にか、同時接続数は50万人を突破している。安堵あんどしたのか、ナナミも全身の力が抜けたようにぺたんと座り込む。

「よ、良かった……」

 でも、俺には疑問が残っていた。今のが最上位のSランク魔物なのだろうか。
 俺は思わず首をかしげながら、つい声を漏らしてしまった。

「うちのペットたちの方が強くないか?」


【天の川ナナミの配信について語るスレ vol.16】


 45:配信を見守る名無し ID:hF2nRu9C 
 お前ら、今日のナナミンの配信見たか


 46:配信を見守る名無し ID:hA9tXw3Q 
 トラップにかかったやつだろ
 さすがに衝撃映像だった


 47:配信を見守る名無し ID:hL7pVz1K
 〉〉45 なにそれ


 48:配信を見守る名無し ID:hA9tXw3Q 
 知らないのか
 今のトレンドを埋め尽くしてるぞ
 これ見てこい
 https://wwv.kysnrnndwvjc.com


 49:配信を見守る名無し ID:hL7pVz1K
 サンガツ
 ちょっと見てくるわ


 50:配信を見守る名無し ID:hX6KmYq0 
 ファッ!?


 51:配信を見守る名無し ID:hT0WbZp8 
 これガチ映像か??


 52:配信を見守る名無し ID:hC5QrMo2 
 この「ホシ君」ってやつ何者?


 53:配信を見守る名無し ID:hP3NyLv7 
 それが分からなくて話題になってんだよ


 54:配信を見守る名無し ID:hM8XfWa1 
 配信中に探索者ランクはFとか言ってた


 55:配信を見守る名無し ID:hR1ZtKc4 
 〉〉54 え? Fランク???


 56:配信を見守る名無し ID:hN4LpYv6 
 車の仮免レベルだぞそれ


 57:配信を見守る名無し ID:hY7FwQo3 
 嘘だろ……しかも若くね?


 58:配信を見守る名無し ID:hG0XmBp5 
 天の川ナナミの幼馴染って言ってたし高校生っぽい


 59:配信を見守る名無し ID:hW6CvLz9 
 いやいやどうせ合成やろこんなん


 60:配信を見守る名無し ID:hU9TrKx2 
 こんなのに騙されるとかwww
 情弱乙www


 61:配信を見守る名無し ID:hK2MoWy8 
 〉〉60 どうやったら合成できんだよ教えてくれ


 62:配信を見守る名無し ID:hJ5XpNc0 
 ナナミンはそんなことしないだろ


 63:配信を見守る名無し ID:hE3ZqLv1 
 まあ、そんだけありえないってことだわな
 俺もまだ半信半疑や


 64:配信を見守る名無し ID:hB8YwMt4 
 本当はすっげー有名な探索者でしたー、とかじゃないん?


 65:配信を見守る名無し ID:hD1RpKz6
 もしそうだとしても、ワイバーンをソロ討伐は不可能


 66:配信を見守る名無し ID:hZ7XoCv3 
 別ダンジョンのワイバーンに対しては、Aランク集団が撤退したぐらいだからな


 67:配信を見守る名無し ID:hV9KmXq2 
 しかも手ぶらに装備無しだぞ


 68:配信を見守る名無し ID:hT1ZpRo8 
 アホすぎてもはや笑えてきたwww


 69:配信を見守る名無し ID:hC7nWyLb 
 わかるww
 俺もホシ君のファンになりそうだわ


 70:配信を見守る名無し ID:hX4MoKv3 
 ちょくちょくクセになる部分あるわw
 天然とか、微妙にかっこよくないところとか


 71:配信を見守る名無し ID:hL6YzWp0 
 ホシ君配信始めてくれないかな


 72:配信を見守る名無し ID:hB0RpXc5 
 始められないよ
 合成だってバレるもん


 73:配信を見守る名無し ID:hU2FtMq9 
 いーや、配信始めて伝説を作っていくと予想


 74:配信を見守る名無し ID:hN8XqLb1 
 強くなった経緯とかも気になるよな


 75:配信を見守る名無し ID:hF3ZyWo7
 ダンジョンも一つしか潜ったことないって言ってたし


 76:配信を見守る名無し ID:hW5LvKt6 
 気になりすぎるな


 77:配信を見守る名無し ID:hR0XpNc4 
 他に高校生でSランクって誰かいなかったっけ


 78:配信を見守る名無し ID:hG1MoYv8 
 〉〉77 ヒカリちゃんだろ 
 あの子でも無理っぽいけど


 79:配信を見守る名無し ID:hA6ZpXt2 
 じゃあまじで何者なんだ


 80:配信を見守る名無し ID:hM7WqKo9
 わからなすぎる……


 ☆ ★ ☆


 その頃、とあるマンションの一室にて。
 掲示板の書き込みが加速する中、画面を食い入るように見ている少女がいた。

「嘘でしょ。なんなのよ、これ……」

 少女の名は、『日向ひなたヒカリ』。
 金色のショートカットヘアに、あどけなさを残す整った顔つき。身に着けているのは、可愛らしいリボンが特徴の制服だ。
 ヒカリは、日本に四人しかいないSランク探索者の一人。また、その中で最年少の上、唯一の現役高校生である。
 そんな彼女が、話題沸騰ふっとう中のナナミの配信を確認していた。度肝を抜かれた表情で。

「こんなの、ありえない……」

 ホシの驚愕きょうがく映像はフェイク説すら出ている。だが、Sランクの肩書きを持つヒカリには、それがすぐに本当の映像だとわかった。
 だからこそ信じられないのだ。それほどに、ホシの動きや拳の破壊力は計り知れないものだった。それも身一つという、あえてなのか、単純に何も考えていないだけなのか、判別できない規格外っぷりで……
 そして、極めつけは最後にボソッと口に出した言葉だ。

『うちのペットたちの方が強くないか?』
「!?」

 どんな些細ささいな音も逃さないヒカリは、わずかにマイクが拾ったホシのつぶやきを聞き取っていた。
 しかし、耳を疑っている。ワイバーンが討伐されたのすら初めてなのにもかかわらず、それを超す強さを持つ「何か」がいるというのだから。
 そして、ヒカリは決意した。

「彦根ホシ。一度、接触してみる必要がありそうね」



 第一章 伝説の始まり



「久しぶりだなあ」

 俺はアパートの一室の前に立ちつぶやく。たった今呼び鈴を鳴らしたのは、ナナミんち。

「まったく。騒がしい奴だよ」

 ナナミの助っ人配信を終えて、次の日の朝。
 日曜日だからゴロゴロしていようと思ったのに、さっきいきなりナナミから通話があった。

『ホシ! と、とにかく今すぐうちに集合! いいわね!』

 急にそんなことを言われて、やってきた。幼馴染とはいえ、山奥の俺んちからは結構かかるのに。少し待っていると、勢いよく玄関が開いた。

「来たわねホシ!」
「あ、おはよう。今日はなんの用──」
「いいから早く入って!」
「うわっ!」

 ナナミの前髪は上にはねていて、急いで支度したみたい。その慌ただしい格好のまま、ナナミはいきなり俺を家の中に引っ張った。

「なんだよ~。あ、お邪魔しまーす」
「なんだよ~、じゃないわよ! はい、そこ座る!」

 一応あいさつをして、そのままナナミの部屋へ。なんで正座したんだ、俺。

「ったく、この状況でよく呑気のんきでいられるわね! これを見なさい!」
「んー?」

 何やら焦るナナミにスマホを向けられ、俺は適当に画面を見る。
 だけど、ナナミが画面をスクロールしていくにつれて、俺の目はどんどん釘付けになっていった。そこには信じられない光景があったからだ。

「なんで俺の名前がたくさんネットに!?」

 ナナミが見せてくれたのは『ツブヤイター』。SNSの一つだ。 
 そして驚くことに、そこには『彦根ホシ』、『謎の助っ人Fランク探索者』、『超新星ホシ』などの言葉がトレンドになっている。というか、トレンドを埋め尽くしている。

「ど、どういうこと!?」
「本当に何も知らないのね。今時SNSもやってないとか、相変わらず原始人じみてるわ」

 続けて、ナナミはある動画を見せてくる。映っていたのは、ワイバーンと戦う少年……って。

「これ俺じゃん!」
「だから言ったでしょ。これが今拡散されて、とんでもないことになってるの!」
「そ、そうなんだ……あ、そういえば」

 言われてみて思い当たることがあった。今日はここに来るまで、やけに人の視線を感じるなーって思ったんだ。もしかして、この件があったからなのか。

「それでナナミも、玄関で周りを気にしてたの?」
「そういうこと」

 そこで一度会話が止まる。それと同時に、とんでもない不安が襲ってきた。

「……あれ、これってまずいんじゃ」

 俺は思わずその場で項垂うなだれた。
 まさかこれが特定というやつなのか! そういうのが怖くてSNSをやっていなかったのに!
 そんな気持ちが勝手に口から飛び出していく。

「ナナミ、助けてくれ! 俺は一体どうしたらいいんだ!」
「ちょ、ちょっと、落ち着きなさいってば!」
「あうっ」

 ナナミにしがみついた俺は、すぐにひっぺがされる。

「典型的なSNSへの不安と恐怖ね」
「昨日のワイバーンより全然怖い」
「今の言葉、配信してたらまたバズりそうだわ」

 ナナミは呆れたような目で見てくる。それでも俺を見捨てないでいてくれた。

「よく聞いて。これは別に悪いことじゃないの」
「そ、そうなの? さらされているわけではないの?」
「そうとも言えるけど……少なくとも、これは悪意ではなく賞賛されて注目を集めているのよ」
「えっ、そうなんだ!」
「単純か」

 その言葉で急に安心したのがバレたらしい。

「でも……そうね。そこがウケるポイントよ」
「どういう意味?」

 ナナミはニヤッと笑って言葉にした。

「ホシ、あんた配信をやりなさい!」
「ええーっ!?」

 言われたのは、予想外の言葉だった。俺には無理に思えるけど、ナナミは「いける」と確信を持っているみたい。

「ホシ、昨日のワイバーンはどうだったかしら」
「え、強くはなかったけど」
「ほら。もう面白い」
「どこがだよー!」

 ナナミの口角が吊り上がる。世間ではこれがウケるのかな。

「それにあんた、バイト探してるんでしょ?」
「あ、うん。そうなんだよね」

 俺の家は山奥にあり、高校に通うのすらそれなりの時間がかかる。その上、市街地でバイトをするとなると、さすがにハード過ぎるので、最近ナナミに軽く相談していたんだ。

「だったら、配信はまさにぴったりだわ」
「配信がー? 言ってもそんなにお金にならないでしょ?」
「あんた、ダンジョン配信をナメてるわね」
「じゃあ、ナナミはどれぐらい稼いでるんだよ?」

 やれやれといった様子のナナミに、俺は期待せずに聞いてみた。対して、ナナミはニヤッとした顔で言い放つ。
 どうせしょぼ──と思ったのが俺のあやまちだった。

「こんぐらいよ」
「なんだってー!?」

 ナナミが指で表した数字は、俺の想像を遥かに超えていた。さらに、ナナミはここぞとばかりに手の形を変え畳み掛けてくる。

「先月は……たしかこれだけよ」
「うっそお!」
「どうよ。驚いたかしら」
「あ……あぅあ」

 これは決まりだ。

「ハイシン、ヤル」
「単純で助かるわぁ。じゃあ、それ開けて」 

 ちょろいなぁと言われながら、ナナミが指したダンボール箱の中を、俺はガサゴソと探った。そこから出てきたのは、カメラやマイクといった、配信機材一式だ。

「うわぁすごい! これどうしたの?」
「わたしのお古よ。全然使えるから、ホシにあげる」
「ええ! これを全部!?」

 でもさすがに、はいどうもとは受け取れない。

「どうせもう使わないからいいわよ」
「けど、だからって……」

 そうして戸惑とまどっていると、ナナミはみるみるうちに顔を赤くさせて言った。

「もー! わたしがしたいの!」
「え?」
「またいずれ、あんたと配信したいの! 配信者になったあんたと! 乙女に全部言わせんじゃないわよ!」

 すると、さっきまで合っていた目線がまるで合わない。ナナミが逸らしているからだ。

「それでいずれ、またわたしとコラボする! これでチャラよ!」
「……! わ、わかった。ありがとう」

 それから最後にチラッと合った視線は、なんだかいつものナナミとは違って見えた。

「じゃ、色々と教えるから! あんた機械音痴きかいおんちだしね!」
「よ、よろしくお願いします……」

 かと思えば、ナナミはいつものようにパッと明るくなる。よくわからない奴だ。
 その後、ナナミに配信について手取り足取り教えてもらった。


   ◆


 ナナミんちから帰宅して、夕方。

「こ、これでいいんだよな」

 俺は自宅で浮遊型カメラの前に立っている。ナナミから『鉄は熱いうちに打て!』と言われたので、早速配信を開始しようとしているところだ。

「うわあ、緊張してきた……」

 スマホには、ナナミから『がんばー☆』とのメッセージが。よし、頑張ってみるか。

「配信開始!」

 習った通りに操作し、俺はいよいよ配信を開始する。すると、浮遊型カメラからコメントが一気に映し出された。


《きたああああ!》
《うおおおお!》
《本物のホシ君だ!》
《昨日のワイバーン討伐見ました!》
《楽しみに待ってました!》


「うえっ!?」

 一気に流れるコメントと共に、隣の数字に目が行く。

『5000人が視聴中』

 ナナミを手伝っている時は気にしていなかったけど、これってリアルタイムでこれだけの人が見てくれているってことだよな? それってすごくない?

「皆さん一体どこから……?」


《ナナミちゃんから》
《ナナミンが告知してたよ~》


 そういうことか。ちょっと人が多すぎて緊張するけど、ナナミには感謝しないとな。

「で、では、早速配信を始めていきたいと思います」

 そう言ったものの一歩が出ない。しまった、緊張しすぎて肝心な配信内容を考えていなかった! ──なんて思った時。

「キュイ~!」

 家の奥から、可愛い声が聞こえてくる。俺はすぐさま振り向くと、ソレを両手を広げて迎えた。

「お! めろん!」
「キュイー!」

 飛んできたのは『めろん』。うちで飼っているペットのうちの一匹だ。
 明るい黄緑の毛並みでおおわれた、もふもふの全身。両手で包み込めるサイズ。背中からは、ぴょこんと小さな羽根が生えている。
 めろんは、俺が幼い頃から家にいるトカゲのようなペットだ。なんか空飛んでるし毛も生えてるから、たぶん違うんだろうけど。
 名前の由来は、体の色が果物のメロンに似ているからだ。

「どうしたんだーめろん。何をしてるか気になったのか?」
「キュイッ!」
「お~可愛いやつだ」

 俺はめろんを胸元に抱きかかえ、頭をでてやる。この感触が気持ちいいんだ。

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