千年夜行 裏

真澄鏡月

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第3章 厄災 大禍刻編

前編 「絶望の夜明け」

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千年夜行 第3章 厄災大禍刻編 前編 「絶望の夜明け」


何時間たったんだろう…...ここは何処だろう…...死後の世界?ではなさそうだけど……私は……確か白い軍服を来た存在を倒した後倒れて……ここから出なくちゃ……

周りを見渡すも出口は見えない。

「……て…………ち……」

なにか聞こえた?耳を澄ますと絶え間なく声らしきものが聞こえる。私はそれに導かれるかの様に歩き始める

「……て…あ……ちゃ…」

その声は明美のものでした。

「お…て…あや…ちゃん」

そっちに行けばいいの……?

闇の中を明美さんの声に導かれて歩く。しばらく歩くと淡く光る球体が見えどうやら明美の声はその球体から聞こえている。

私は恐る恐るその球体に触れると視界が歪み、意識が球体に吸い込まれる。


………

……………

……………………?


ゆっくり目を開けると白く濁った視界に微かに木造の天井が見え、左から木漏れ日が差し込んでいる。

……眩しい…………

木漏れ日に背を向ける様に右を向くと明美さんが私を見下ろしている。

ポタッ…ポタッ…ポタッ……

私の頬に温かい雫が落ちてくる。


「綾乃ちゃん!良かった…本当に良かった…」

不意に抱きしめられる。

……ピキッ………ビキビキ……

体内から聞こえてはいけない音が響き渡る

「痛い痛い痛い!!力強すぎです!身体中から変な音なった!!本当に私、死んじゃう!!」

「あ………」

明美は手を離すと同時に私は力なくそのまま敷布団の上に倒れ込む。一瞬意識が遠のくものの、痛みで意識を取り戻す。

ドタドタドタドタ………ガタン!

私の絶叫を聞いたのか誰かが引き戸を開いて入ってくる。


「神山直階どうしたんだ!」


男性の声が聞こえ、すかさず明美が答える。

「田村正階様、篠原綾乃様がお目覚めに!」

男性は驚き私の横に駆け寄ってくる。

「神山直階!綾香を呼んできて!」

「はい!」

明美が大きな返事をし、部屋から飛び出していく。それを見届けた男性は

「君大丈夫か?身体で痛む場所とかは?」

「綾乃さんに抱きつかれて全身が痛いです……いや体内からなってはいけない音がなったので何本か骨が折れた気がします。

私は苦笑いを浮かべながら答える。

「本当に大丈夫かい?」

「はい……大丈夫です。それよりここは何処でしょう?霊能暗躍特務部隊の和歌山支部なのでしょうか?」

そう言う私の問に男性は少し驚いた様子で、よくご存知でと返す。そこから私は男性に次々と質問し、男性は淡々と答えを返す。そんなやり取りの中で男性は田村 明伸と言い、この支部の支部長であり、明美と綾香さんの上司である事を知りました。


「そういえば私のお母さんはどうなりました?」


「貴方のお母様含め御家族様のお祓いは貴方が眠りについた次の日、一昨日に終わっています。」

2日前……って……まさか……

私が動揺を隠せない中、田村さんは話を続ける

「貴方は3日間眠り続けていました。その間、明美さんは一睡もせずにずっと付きっきりで貴方の看病を……まるで亡き妹と貴方を重ね合わせているように……」

そう言われ、包帯で巻かれた手をまじまじと見たり、額を触ったりする。

そういえば手や額が包帯等で処置されてる……



ごめんね暗い話になってしまって、貴方のお祓いは3日後の昼です。私はその儀式の準備をしてくるので、そこでゆっくりされていて下さい。」

田村さんは物悲しそうに一通り語り終わると立ち上がり私が横たわる部屋を後にする。私は田村さんの後ろ姿を見送り、暫く天井を見ていましたが、とても喉が乾いている事に気付く。辺りを見回すと部屋の中央にちゃぶ台のようなものがあり、その上には薬罐と湯呑みが微かに見える。

……あそこまでどうやっていこう……


そう思い、包帯で巻かれた両手を握ったり開いたりして感覚を確かめる。


よし……腕はいける……次は……

膝や足の指を動かしてみる。

……足も動く……よし……

私は壁に寄りかかり、伝い歩きでちゃぶ台を目指す。十数分かけてちゃぶ台に1番近い壁に着くと、壁から手を離し1歩、2歩踏み出す。足が産まれたての小鹿のように震えドサッと音を立てて転倒し額を畳に強打する。

「いったぁ……!」

額の傷の痛みに暫く悶絶し、ほふく前進でちゃぶ台まで進む。ちゃぶ台の前までくると座布団の上に正座し、薬罐のお茶を湯呑みに入れ、外の鳥の鳴き声と、外からの風を感じてズズズッとお茶を口に含む。


ドタドタドタ!バーン!


突然障子が勢いよく開けられ明美が飛び飛んでくる。私は思わず口の中のお茶を吹き出す。

「ゲホ……ゴホ……何ごと!?」

「大きな音がしたからどうしたのかって思t……うわぁぁ!」

明美が私を見て叫び駆け寄ってくる。

「今度は何!?」

「綾乃ちゃん頭の傷が開いて血の海になってる!!」

訳が分からず、え?と声を漏らし額を触る。

ヌメッ

ヌメッ……?なんか濡れてる……

恐る恐る額を触った手を見ると案の定真っ赤……

「あ……」

「私は綾香姉さんを呼んで来るから綾乃ちゃんはそこから動かないで!!」

「は、はい……」

明美の勢い負けし、呆然と明美を待っている。暫くすると綾香さんを連れ、空の車椅子を押した明美が入ってくる

「うわ…どうしたの綾乃ちゃん!」

「転んで傷口が開いてしまいました」

「怪我人が無理しちゃダメでしょ!そこに座って!」

綾香に叱られながら額の傷を処置してもらい、包帯を巻かれる。

ふと振り子時計がゴーンゴーンと音を立てて時間を知らせる。

「これで終わり」

額の包帯をキュッと締められ、明美が押してきた車椅子に介助で乗せられる。


「じゃあ時間ですし、田村正階の説明を聞きに行きましょうか」


明美さんが車椅子を後ろから押してくれ、縁側に出る。外から縁側に差し込む陽光は少し暮れかかり夕焼け空の紅い日差しが空を染めている。夕焼けが差し込む縁側を進み、暫くすると前を歩いていた綾香さんが立ち止まり、左手の部屋の襖障子を軽くノックし開ける。部屋の中は四隅に揺れる蝋燭の明かりが照らす薄暗がりの中、既に田村さんが座布団に座っている。

「綾乃さんどうぞこちらへ」

私は明美に介助され座布団に正座する。間を置かず明美と綾香が私より少し後方の両隣に座る。

「さて今から綾乃さん、貴方の中に居るものを引き摺り出します。強い苦痛に襲われますが頑張って耐えてください。質問等はありますか?どんな質問でも結構です。」

私はふと疑問に思っていた事を質問する

「どうしてこの建物はとても広いのに人が殆ど居ないのですか?」

その問いに田村さんはすかさず答える。

「もし君がここに来る前と同じように暴走した場合普通の神職では手に負えません。なのでここの3名、この建物の地下にある儀式場にいる20名以外はこの境内から撤退させました。他に質問はありますか?」

「いいえ特には……」

と答えるとひと呼吸おいて

「篠原綾乃さん今から貴方を拘束します。」

「え!?」

両隣にいた明美と綾香さんが私の手に木で作られ、御札が数多に貼られた手枷をつけられる」

「えぇぇ!」

3人が畳に手を置き、
「万象一切包み隠さず我ら彼の者の前にさらけ出せ。浄玻璃の陣」

と唱えると私の座っている位置から淡い光の直線が3人の座布団の下に伸びていき、田村さんと綾香さん、明美が座っている位置まで来るとそれぞれ右と方の下まで光の線が伸びる……そしてその線はロウソクの位置全てに伸びていき、陣となる……

次の瞬間全身を強い電気が流れた気がしたのも束の間、自分の体の中から何かが猛烈な勢いで胃、食道、口と辿り口から飛び出す。それはドス黒い液体でした。そして一際大きなものが

おえぇぇ…びちゃびちゃ……

恐る恐る目を開けると黒い吐瀉物の中、真っ白な肌をした胎児が横たわっていました。その胎児はドス黒いオーラを纏い、ふわふわと浮き上がり、私達の前で成長していく。

胎児が新生児になり

新生児が乳児になり

乳児が幼児になり

そして小学生程の子供の姿をへて
あの時夢で見た顔に黒いモヤのかかった紅黑い巫女服を着たの少女の姿になる。

「あら…まさか私が引っ張り出されるとはね……」

黒いモヤを纏い、紅黑い巫女服を着た少女は裾をパンパンとはたく。

「まさか…お前が紅蝶か……?」

田村さんがボソッと呟くと少女は田村さんを見てニタァと笑う。

「あら?私の事を知っているのですね。驚きました。」

「紅蝶……いや大厄災の執行官の1人【血染めの紅蝶】」……」

「あら、物知りなんですね坊や。んーでも残念です。今の私の力はとても弱い。坊や達程度に引き剥がされるぐらいにね……」

紅蝶は何かを思いついたように手をパンッと叩き

「そこで!この聖域を陥落させようと思います!」

「させると思うか?化物が!」

「女性に向かって化物は酷くない?しかもノリ悪いし……まあいいか、いでよ!ヒトガタ達~!」

紅蝶が両手を横に開くと少女の足元から田村さん達と同じ服装をした血塗れの人間が多数現れる。そのどれも体が欠損しており明らかに生きていない。

「あの人達3日前夜間の山間部の巡回で大量の血を残して行方不明になった隊員達だよ!!」

明美が大声で叫ぶと紅蝶は再びニタァと笑い

「あらあら、お知り合いでしたか。これは都合がいい。ヒトガタ共この地を地獄に変えなさい!」

紅蝶の命令と同時にヒトガタ達はバラけて走り出す。

「明美!」

「はい!」

「綾香!」

「はい!」

「2人はヒトガタの始末!1匹たりとも逃がすな!」

「了解!!」

返事と同時に明美と綾香が部屋から出ていく。

「さて……」

田村さんが右の拳を強く握り紅蝶との距離を急激に詰め

「我流霊体術壱の型!砕骨!」

田村さんの霊力が込められた拳は紅蝶の胸を殴り貫く。

「けほっ……やるね……我らに抗う者よ……またどこかで……会い見えようぞ……」

紅蝶の体は白い煙をあげ崩れていき少量の煤が残る。

暫くして明美と綾香さんが戻ってくる。

「思ったより弱かった」

「全員倒してきました。田村正階」

「お疲れ様。」

田村さんは私の方を向いて

「本当によく頑張ったね綾乃さん」

私はある事に気が付く……視界が澄んでいるのだ。

「あれ?目がよく見える……」

それを聞き綾香さんが駆け寄って私の瞼を指で開き覗く。

「目の霊障が消えてる」

「本当!?良かった!綾乃ちゃん良かったね!」

横から覗いていた明美が喜んでいる。

「篠原綾乃さん。3日後の9月7日正午12時に最後で最も強力な除霊を行います。それまでゆっくり体を休めてください本日は本当にお疲れ様でした」

と言うと何か腑に落ちない様子で部屋を後にする。

その後、綾香さんが真心込めて作ってくれた夕食を頂く。

口に入れると、とろけるように柔らかい卵焼きと塩鮭、白飯、メニューは質素ですがとてつもなく美味しい……私の目から無意識に涙が頬を伝い零れ落ちる。

夕食を完食し、入浴し、寝巻きに着替える。布団を敷き、縁側から街の光を眺めていると

「あ、いたいた綾乃ちゃん!」

明美がpapiko(*1)を持って歩いてくる。

「明美さん……どうしたの?」

「これあげる。」

papikoの片方を差し出される。私はそっと受け取り封をあけpapikoの中身を吸いながら街を眺める。

「横座っていい?」

私が頷くと右隣に座り、空を眺めている。私も真似して空を眺めると満天の星空がみえる。あの日黒い月を見て運命がねじ曲がった……確かに夜に空を眺めるのは怖い……でも今私の目の前に広がっている星空は本当に美しい……

少しの間見入っていると右肩をトントンと叩かれる。右を向くと明美が満面の笑みを浮かべている。

「これあげる」

彼女の手に握られていたのは手作り感満載の赤い布に黒い刺繍がされた御守りと狐の飾りと2つの鈴が着いたシュシュでした。

「え?いいの?」


*1 papikoはアイスクリーム

《運命分岐》
1.御守りとシュシュを受け取る

2.御守りとシュシュを受け取らない
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