愛車

花結まる

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第二章

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季節は何十周ももかけ巡った。
かけ巡りすぎて、もう全部は覚えきれないくらいになった。
僕と彼の自慢のターコイズブルーも、もう出会った頃の色ではなくなっていた。
街ですれ違うものたちは、最新モデルの洗練されたデザインで颯爽と走り去った。
僕はたまに申し訳ない気持ちになるのだけど、彼も彼女もそんな話はしなかった。

また季節が去り、彼は毎日のようにスーツを着て出かけることがなくなった。
お家にいたり、彼女とお出かけすることが多くなった。
僕も一緒にいくのだけど、僕にも変化が訪れていた。
僕のエアコンは、効かなくなった。
ワイパーも思うように動かなくなった。
エンジン音も前より大きくなったみたいだ。
僕は、次第に動けなくなっていた。
いつの間にか別人になってしまったのだ。

彼はそんな僕を車庫にしまった。
出会った頃とは別人の少し白髪混じりで、背中も曲がった彼が、今までありがとう、と僕のハンドルをさすった。
そして、いつも引出しに入れていたカードを取ると、それから二度と僕に乗らなかった。

僕はずっと車庫にいた。
乗りもしないのに、彼は晴れた昼下がりには、定期的に水かけなどして、僕をキレイにしてくれた。
見た目が変わっても、真面目なところはちっとも変わらない。

ある日、知らない人が2、3人やって来て、僕をジロジロと品定めして、運んで行った。
その様子を彼と彼女は終始見つめていた。
僕がトラックに積まれる時、彼の目は少し潤んでいた気がした。
僕はわかった。これでお別れなんだと。

どのくらい時が経っただろうか。
僕は最高潮の気分だった。
身体はとても軽くて、頭も冴えてる。
エアコンもワイパーもエンジンも、全て調子がいい。
自慢のターコイズブルーもその鮮やかさを取り戻していた。
僕は、昼下がりの晴れた空の下、大きな駐車場にいた。
似たようなものがたくさんある中で、誰かが僕を見つけた。
まだ白髪もない黒々とした天然パーマで、背中も真っ直ぐでひょろっとした真面目そうなあの頃の彼だった。
僕はタイムスリップしたのだろうか。
すると、その後ろから、50年間共に寄り添って来た白髪で背骨の曲がった彼が姿を表した。
まだ若い彼は、あの小さな彼だったのだ。
これはすごい!かっこいい!
大きくなった小さな彼が、ねっ父さん、と彼にいう。
彼は黒縁眼鏡を掛け直し、僕を隅々まで眺めると感心したように言った。
出会った頃のまんまだ。

それから僕は、彼と大きくなった小さな彼を乗せた。運転手は交代だ。
シートは変わっていなかった。擦り減らずずっときれいなままだ。
僕たちはその足で海に行った。
大きくなった彼は僕が初めてだと言った。
だからその運転はどこかぎこちなくて、荒っぽくて、そして心配性みたいに慎重だった。
海沿いを走りながら懐メロを聴く。
窓から心地よい風が走り抜ける。
彼も大きな彼も最高にノリノリだった。
ひとしきり走って、小さな丘に出た。
目の前に広大な海景色が広がる。
二人は僕から降りて、海の匂いを思いっきりすった。
僕を見て、海を見て、海を見て、僕を見て。
満足するまで何回も同じことして、
やっぱりターコイズブルーがいい!
と、顔を見合わせてはち切れるくらいに笑った。
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