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01 崩壊する前の日常

03 アヌビス拳銃

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 細かい打ち合わせは後日ということにして解散になった。
 フーベルトは兵舎の中に用意された部屋に行く。

 味気ない部屋だった。
 コンクリートにクリーム色のペンキを塗っただけの壁、硬そうなベッド、ノートパソコンを置けるかどうかぐらいの小さな机、それだけだ。 
 褒める点があるとしたら個室なことぐらいか。

 机の下に鍵のかかった箱が置いてあるのを見つける。
 箱を開けるためのカギはすでに受け取っていた。
 中に入っているのは任務のために支給された装備だ。
 一つ一つ取り出していく。

 まず、四角い弁当箱のような物。シールド・デバイス。防御用の魔術結界を発動できる。
 大口径のライフル弾ぐらいまでなら、無害化できる防御力がある。

 そして武器。対ダイル仕様の大型拳銃。アヌビス。
 大型のダブルアクション・リボルバー。弾は五発入る。
 口径12.5ミリの銃弾には特殊な金属が使われている。
 発射すると同時に魔術を発動し、奇跡の防御を無効化して標的に突き刺さる。
 この弾丸を撃つと銃身が異常に加熱するので連射できないのが難点だったが、気軽に持ち歩けるサイズの対ダイル武器としては、これ以上の物はない。
 シールドデバイスをベルトの左側に吊るし、アヌビス拳銃をショルダーホルスターに入れて装着、その上から上着を羽織ってみる。

「こんなもんか……」

 鏡に映った自分の姿を見て不自然でないことを確認する。
 強いて言うなら、今日は上着が必要な気温ではない、というぐらいだけれど、言い訳できないほど暑いわけでもない。

 フーベルトは部屋の外に出る。
 今日の予定はもうない。暇だったので、少し外を歩いてみるつもりだった。

 格納庫の近くを歩いている時に、整備士の一人が声をかけてきた。

「おい、おまえ、もしかしてフーベルトか?」

「ん? ……エディーか?」

 銀髪の男、エディー・ノッド。
 四年前、フーベルトがCCKに乗っていた頃の担当整備士だ。
 こんな所で再会するとは思わなかった。

「ここの勤務になっていたのか?」

「ああ、去年からな。おまえも退院してたのか?」

「ん?」

 フーベルトは、別に入院していた覚えがない。
 何かの記憶違いだろうと思っておく。

「CCKの新しいパイロットが来るなんて聞いてなかったな」

「いや、俺はもうCCKには乗らないんだ。最近は後方支援というか、刑事の真似事みたいなことをさせられてるよ」

 苦笑しながら、服の裏のホルスターがある辺りを叩いて見せると、エディーはニヤリと笑った。

「そうなのか? まあいい、来たばかりでこの辺りの店なんか全然知らないんだろ?」

「ああ。案内してもらえるか?」

「もちろんさ。ところで、おまえ、今恋人はいるか?」

 急にわけのわからないことを言い出す。

「いや、いないな」

「だろうと思ったぜ」

 悪かったな、と言おうとするとエディーは少し顔を近づけて小声で言う。

「出会いを求めるのにいい店を知っているんだ。16番街だから、ちょっと遠いけどな」

「わざわざ遠くまで行くことないだろ」

「そう言うなって。いい店なんだよ。それに今日みたいな日だと学生とかも来る」

「いいのか? 下手すると捕まるぞ」

「おいおい、何がいけないんだ? いっしょにジュースを飲んで楽しくお話しするだけさ」

「本当に大丈夫なんだろうな?」

「当たり前だろ。何を心配してるんだ? 少し早めの休憩時間を貰ってくるから、ちょっと待っててくれ」

 エディーは鼻歌を歌いながら格納庫の方へと行く。
 フーベルトは呆れながら空を見た。
 太陽は空の高い所にある。赤道付近だと南中が南とは限らないんだなと、どうでもいいことを思った。

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