人が怪物化する世界だとしても、この少女だけは守りたい

ソエイム・チョーク

文字の大きさ
5 / 30
01 崩壊する前の日常

04 ミーナと友人

しおりを挟む

 十六番街にはいくつもの施設があるが、その中でも一番大きい施設はブルガダ寄宿学園だ。
 全寮制のこの学園は五百人近い生徒を抱えるが、今日は休日と言うこともあって、園内は閑散としていた。

 寮の一室で、昼近くになっても二段ベットの上の段で寝ていた女生徒が、友人から呼び掛けられていた。

「ねえミーナ、起きてる?」

「ううん……もう朝?」

「昼だよ!」

 友人の叫び声で、さすがに目を覚まさなければいけないと感じ、ミーナは布団から這い出した。

「おはよー、……」

「もう、やっと起きた……」

 ミーナがベッドの下を見下ろすと、長髪の女生徒が頬を膨らませていた。同室のリアーネだ。


「ごめんごめん。なんか頭がしゃっきりしなくて……」

「っていうか、なんか顔色良くないよ? どっか具合悪いの?」

「そうじゃないけど、凄く眠くて……。でもおなかすいた……」

 ミーナは適当にごまかしたが、正直に言えば、昨日の夜の時点では確実に具合が悪くて少し吐き気があった。それで夕食も取らずに寝てしまったのだ。
 そして今朝も朝食を食べていない。最後に何か食べてから、そろそろ二十四時間が過ぎようとしている。
 そのせいか、空腹感はあった。

「さすがに、お昼ご飯はまだだよね?」

「まだだけど、食堂なら今日の昼は開いてないと思うよ」

「そっか……」

「食べるなら外行くしかないね」

 そう言われて、今日は久しぶりに外出許可が出ているのを思いだした。その分、学園内のいろいろな業務は停止する。
 だからリアーネもしつこく起こしに来ていたのだろう。

「どうする? 寝てる?」

 ミーナは重い頭で少し考える。ミーナが行かないと言えば、この友人は自分も外出しないと言うだろう。
 それは少し申し訳ない。
 それと、何かちゃんとした物を食べたかった。

「んー、行こうかな」

 そう口に出して見ると、多少は元気が出てきたような気もして、ミーナは二段ベッドからノソノソと降りる。

「昨日、シャワー浴びた?」

「浴びてない……今から行ってきていい?」

「いいよ。ジゼラとリーゼルにも声掛けとくね」

 リアーネは部屋を出ていく。
 ミーナもバスタオルと着替えを持って、パジャマ姿のまま部屋を出た。

 シャワールームの脱衣所でミーナはパジャマを脱ぎ捨て、コーパメントに入る。
 蛇口をひねるとお湯が降り注いで湯気が立つ。

「くぅ……」

 大きく伸びをする。体が温まってきたせいか、頭もすっきりしてきた。
 体の表面を流れていくお湯に沿って、指を走らせる。

「ふーふふん、ふーふふふーん」

 鼻歌を歌いながらシャワーを終えて脱衣所に戻り、バスタオルで体の水気をよく落としてから、湯冷めする前に服に袖を通す。
 ドライヤーで髪を乾かしていると、脱衣所にショートカットの少女が入ってくる。ジゼラだ。

「おはよう! 昼だけど」

「おはよー」

「こんな時間にシャワーなんか浴びちゃって、何張り切ってるの、うりうり」

 からかうように指で頬をつつかれる。

「別にそんなんじゃないよぅ……」

「あはは、でも元気そうで良かった」

「やっぱり行くの? ブラッディーナイト」

「久しぶりの外出だもんね。この前行った時はヤバかったけど」

「あれはびっくりしたよね……」

 二週間ほど前にその店に行った時は、配管業者か何かが天井裏で何か作業していたのだが、足の踏み場を間違えたのか、天板を突き破ってしまったのだ。
 下のフロアにいた客たちには天井を突き破って足が生えてきたように見えて、大騒ぎになった。
 その時の穴もさすがに塞がっていると思うが。

 ジゼラが思い出したように言う。

「そー言えば、今朝、新聞部員と会ってさ……なんか取材、っていうか質問? いろいろされた」

「あの人たち、頑張ってるよね。あんな新聞、誰も読んでないのに……今度は何の話?」

 ミーナは、つまらない話だろうと思ったのだけれど、ジゼラの顔に影が差す。

「……最近、うちの生徒が何人も入院してるって知ってた?」

「噂は聞いたことがあるけど……あれって本当なの?」

「うん。本当。しかも、その生徒の友達が警察に逮捕されたんだって……」

「逮捕?」

「私が聞いた噂ではね。でも新聞部員の人が言うには、逮捕は間違いで、実際は警察で事情を訊かれただけ。その日のうちに帰ってきたって」

「なんだ……普通じゃん」

 噂の真相なんて、大体そんなものだ。

「でもね、これが凄かったみたいで、事情を聞いてきたのは警察じゃないんだって」

「え?」

「取調室に神経質な軍人みたいな人が入ってきて、全ての質問にノーで答えろー、とか言われて、意味わかんない質問を百個ぐらいされて、それ全部にノーって答えさせられたんだって」

「え、何それ、怖い……」

 そんなの取り調べになっていない。
 もし全部の質問にイエスと答えることを強要したなら冤罪の作成かもしれない。
 それはそれで良くないと思う。
 しかし、全部の質問にノーと答えるように強要するのは、本当に目的がわからない。

「それで新聞部のやつ、次の新聞ではそれをまとめるから絶対読めー、って言ってた」

「何それ、ズルいよ。そんなこと言われたら、読みたくなっちゃうじゃない……」

 たぶん、今ジゼラが言った以上の情報はほとんどないのだろう、と予想できるにも関わらず。それを確かめるために読むしかなくなる。

「まあ、反響がないと寂しいんでしょ、あいつらもさ」

「うーん……」

 そういう問題なのかな、とミーナは納得がいかない。

 髪を乾かし終えてから部屋に戻り、外出用のバッグを持って玄関へ降りる。リアーネとジゼラが待っていた。
 ミーナが外靴に履き替えていると、くせっ毛の小柄な少女がやってくる。
 リーゼルだ。
 四人で宿舎を出て校門へと向かう。

「出かけるのかね?」

 校門へ向かう途中で呼び止められた。現れたのは黒い神官服に身を包んだ五十代ぐらいの男性、校長のガスパル神父だ。
 リアーネがすまし顔で応じる。

「ええ、外出許可はとっていますので」

「そうかね? その割にはずいぶん遅い時間まで校内にいたようだが……」

 校長は疑うような目でミーナたちを見る。
 この校長、生徒からは、いじわる爺さんだの、偏屈者だの、ネガティブなあだ名で呼ばれている。

 リアーネがカバンから許可証を出そうと探していると、白いシスター服を着た女性がやってきた。
 シスター・エルミーヌ、四十代ぐらいの女性で、いつも優しい笑みをたたえている。

「あら、どうかしたのですか?」

 エルミーヌは、校長に向けて微笑む。笑顔だが、どこか威圧的でもあった。

「いや……どうというわけではないが」

 校長も、エルミーヌには強く出れないのか、少し気おされている。

「外出でしょう? あまり引き止めたらかわいそうですよ……」

 エルミーヌは校長をどこかへ押していきながら、四人に微笑む。

「せっかくの休日ですもの、楽しんでいらっしゃいね」

「「「「はーい」」」」

 四人は無邪気さの見本のような返事をして、その場を去った。

 校長に声が聞こえないぐらいまで歩いてから、リーゼルが言う。

「シスター・エルミーヌって優しいよね」

 するとジゼラが小声で言う。

「実はレズって噂があるけどね」

「えー、うそでしょ」

「リーゼルとか狙われてそうな気がする。……食べられちゃうぞぉ」

「や、やめてよぉ……」

 リーゼルがわざとらしい悲鳴を上げて、四人は笑いあった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...