鍵開けスキルと冥界の門 -こっそり率いる最強軍団、たぶん滅びる世界で生き残れ-

ソエイム・チョーク

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01 冥界の門を入手する

禁忌:死者蘇生

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 ゴブリンの襲撃は終わった。
 戦いは俺たちの勝利だ。
 少なくとも、ゴブリンの船は撤退したし、残ったゴブリンたちも兵士によって殲滅された。

 北の丘と領主の館は、ほとんど被害が出ていない。
 一方で南の丘は全焼、建物を焼かれた後、ゴブリンの襲撃を受けて、何人殺されたかも数えられていない状態。

 兵士たちは、生存者を捜索して北の丘に連れてくるか、南の丘にテントを建てるかで揉めていた。

「自力で動けない負傷者がいるかも知れません。南の丘にテントを立てて、とりあえず朝までしのぎます」

 ヘレナが言うと、方針はそれで決まった。

 俺とヘレナは、ニックの死体を荷車に乗せて、西の丘を目指す。

 水没した道は、前回より水深が深くて膝の上まで沈んでしまった。
 雨季の川は増水する。
 来週だったら、船が必要だったかも。

 何度も道を踏み外しそうになりながら、西の丘にたどり着いた。

 冥界の門。
 廃墟の中央で空中に浮かぶ、球状の石。
 どこが開くのか見当もつかないけれど、スキルが有効だから、鍵があるのだろう。
 表面には文字のような赤い模様があるけど、今は読めない。

「本当にやるんですか?」

 ヘレナは俺の方を見る。

「やるよ」

 友達を見捨てて逃げても楽しくない、ニックはそう言った。
 なら俺も、友達を見捨てない。
 それだけのことだ。

「《鍵開け》」

 俺は冥界の門に対して、スキルを発動する。
 空中にゆらゆらした光の文様が浮かび上がる。
 この文様を正しい形にできれば、鍵が開く。

『望みが決まったのか?』

 球体の表面に書かれた模様が、文字として読めるようになっていた。
 ヘレナは反応していない。
 たぶん読めると思っているのは俺だけだ。

『死者の復活は禁忌、それを理解しているか?』

 わかっている。
 けど、そこに可能性があるなら、賭けるしかない。

『愚かな定命者よ、呪われるがいい』

 覚悟の上だ。俺は最後の鍵を開ける。

 キュイイイイイインン

 天から、キラキラした光が降り注ぐ。
 まるで教会のスキルガチャだ。どうして?

『神によりスキ……』

『エラー発生、(コード:02643)』
『しばらくお待ちください』

『現在の要求をスタックに追加……』

『システム再起動、自動修復中……』
『エラー回避のため、あなたの情報権限を昇格します』

『スタック解放中……』

『神(シャテンデスカオス)によってスキルが与えられます』
『《禁忌:死者蘇生》』

 ばちん。

***

 目を開けると、夜空が見えた。
 また気を失って倒れて、ヘレナに膝枕されていたらしい。

 廃材を燃やしたのか、近くに焚火があった。
 その光と温かさが俺たちを包み込んでいる。

「大丈夫ですか?」

「ああ……」

「よかった……前回よりも長い時間、気を失っていたんですよ」

「ごめん……でも、成功したよ。新しいスキルが手に入ったみたいだ」

 俺は起き上がり、左手を空に掲げる。
 何か、今までにはない力が、腕の中を循環しているのを感じた。

「スキル、ですか?」

「うん。《禁忌:死者蘇生》……知ってる?」

「わかりません。後でスキル辞典で調べてみる必要がありますね」

「……」

 たぶん、調べてもわからないだろうと思った。
 禁忌なんて名前の付いたスキル、見た覚えがない。
 それに、本当に死人を生き返らせることができるスキルなら、重要なスキルとして扱われるはず。
 将軍なんかよりも、ずっと価値が高い。

 俺たちが知らないなら、スキル辞典には書いてない。。

 俺以前にこのスキルを取得した人はいない。
 仮にいたとしても極めて人数が少ないし、そいつは報告していない。
 俺だって、ヘレナ以外に教えるつもりはなかった。

 だって死者が生き返るんだぞ。
 こんなの、チートだ。

 俺たちは、荷車に乗せていたニックの死体を地面に寝かせる。

「《死者蘇生》」

 俺の左手から、ゾブゾブと音を立てて、呪文でできたヒモのような物が這い出して来る。
 それは蛇か何かのようにグニャグニャと動いて、ニックの体に入って行った。

「……ごふっ?」

 ニックがむせた。
 本当に生き返った。
 俺たちは慌ててニックを仰向けにして背中を叩く。

 ニックは、泥のような物や、血の塊を吐き出した後、息を整えた。

「うえええ……酷い目にあった」

「ニック、大丈夫?」

 俺が声をかけた途端、ニックは、はっとなった。
 態勢を整え、俺に向かって、うやうやしく頭を下げる。

「ソリス様。おかげで助かりました」

「えっ……」

 俺を貴族か何かと勘違いしているのか。
 なんか気持ち悪い。
 こんなのニックじゃない。
 蘇生に失敗したのか? それとも……

「もしかすると、蘇生するだけでなく、相手を服従させる効果もあるのでは?」

「そんな……」

「やめてって言ってみたら、やめてくれるかも知れません」

「そうだね。ニック、いつも通りの態度と言葉遣いにして。あと様付けするのもやめて」

「わかった……。ソリス、こうでいいか?」

「う、うん」

 表面上は、違和感がなくなった。
 けれど、中身が生きていた時のニックと同じかどうか、いまいち確信が持てない。
 このスキル、本当に大丈夫だろうか?

「ちょっと、質問してみましょう。この島に来る前は、どこに何をしていたんですか?」

 ヘレナが問うたが、ニックは呆然とヘレナの方を不思議そうに見るだけだ。

「ニック。ヘレナの質問にも答えてあげて」

「あ、ああ……。この島に来る前は、ベルクウッド領にいた。猫族と戦争になった時に、貴族の宝石を奪って逃げてきた。しばらく北岸の町で遊んで暮らしてたけど、金がなくなったから、この中洲島に来た」

「どう、ですか?」

「……正解なのかわからない」

 というか、一人で逃げても楽しくないって、実体験だったの?

「あなた、宝石が好きなんですか? うちの所からは奪ってないでしょうね?」

「ああ。実は、こんな物を持ってるんだが……」

 ニックはポケットから、宝石を取り出す。
 ヘレナはそれに見覚えがあったようだ。

「え? それ、ヴァネスの首飾りじゃないですか? どこで手に入れたんですか?」

「あ、それは……」

 ニックはさすがにマズいと思ったのか、俺の方をちらりと見る。
 だが、この質問は避けて通れない。
 どうせいつかは知られること。

「ニック、答えてあげて。ヴァネスがどうなったのかも」

「あ、ああ。この首飾りは、ヴァネスの死体から盗んだ。悪かったよ」

「ヴァネスを殺したんですか? あなたが?」

「え……」

 ニックは言葉に詰まる。
 その先は俺が答える。

「俺だよ。ヴァネスは俺が殺した」

 ヘレナは慌てて、俺の方を見る。

「ソリスさん! なんでそんなことしちゃったんですか!」

「ごめん……」

 ニックが俺とヘレナの間に割り込む。

「待てって。違うんだよ。俺は見てた。ヴァネスのやつ、ソリスに依頼してたんだ。お前を殺すようにな。ソリスがそんなの従うわけないし、ついヴァネスを殺しちまうのも仕方ないだろ?」

「……」

 ヘレナは深いため息をつく。

「いえ、殺したことは、いいんです。むしろヴァネスは、私が対決しなければいけない相手でした」

「……」

「ただ、私や私の知り合いがヴァネスを殺したとなると、お家騒動と言うことになってしまいます。下手人がソリスさんだと知られたら……処刑されてしまいます」

「覚悟はできてる」

「何を落ち着いてるんですか!」

 ヘレナは俺の両肩を掴んで揺らす。
 でも、あの時、他にどうしようもなかった。
 こうなるのは運命みたいな物だった。俺はそう諦めていた。
 ヘレナはまだ諦めていないらしい。

「早く館に戻って偽装工作をしないと……」

「偽装工作って、どうするんだよ。裏庭の死体はもう兵士に見つかってる頃だし……」

「それでも、何かあるはずです。あなたの命がかかってるんだから、ちゃんと考えて!」

「何慌ててるんだよ。偽装工作なんて簡単だろ」

 ニックが、緊迫感のない声で言う。

「つまり、死体がなくて本人が動いてりゃ、いいんだよな?」

「……」

 俺とヘレナは、同時に俺の左手を見た。
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