鍵開けスキルと冥界の門 -こっそり率いる最強軍団、たぶん滅びる世界で生き残れ-

ソエイム・チョーク

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01 冥界の門を入手する

ムダに偉い無能貴族たちのムダな会議

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(ガルディア・クトクア視点)

 俺を含むオルライト市周辺の兵長、そして各小領地の領主。
 その全員がオルライト・パレスの大会議場に呼び出された。

 またくだらない会議の始まりだ。
 
 オルライト・パレスの大会議場。
 そこには、横に長いテーブルがある。

 テーブルの手前には、小領地の領主たちや俺を含む兵長たち数十人が、床に跪いている。
 端の方に、ヴァネスもいた。
 ……生きてやがったのか。
 巻き込まれて死んでくれた方が好都合だったのだが。

 そしてテーブルの向こうには、七人の男女が、豪華な椅子に座ってふんぞりかえってやがる。
 中央に座る男が、マーシウス・オルライト。
 オルライト領の領主だ。

「それでは会議を始める。今回の議題は、ケケルス島、……中洲島をゴブリン族が襲撃した件だ」

 くだらない報告会だった。
 敵がいなくなってから会議をして何になると言うのか。

「父上。ゴブリン族から宣戦布告があったのですか?」

 テーブルの左端に座る少女が聞く。
 あれは、領主の末娘だ。

「いや、聞いていない。先ほど問い合わせたが、ユグドラシルにそのような通知は来ていないそうだ……」

 当然だ。あれは奇襲だろうから。

「布告なしに攻め込んでくるのは協定違反では?」

「そうだ。我らも舐められたものだよ。……クトクア少尉。報告せよ」

 領主に呼ばれ、俺は顔を上げる。

「ケケルス島を調査し、ゴブリンの死骸を大量に発見しました。これらはケケルス島の兵士によって殺された物です。襲撃者はゴブリンで間違いありません」

 我ながら、くだらない報告だった。
 内容自体は、既に文章で送ってある。
 この場に集まった小領地の領主や、兵長たちに聞かせるためのものだ。

「続けよ」

「一方で、使用していた装備は……なんというか粗雑な物でした」

「粗雑とは、どういうことかね?」

「素人が作ったとしか思えない品質の低さです。紋章などもありません。作った領地は特定できないでしょう」

「迫撃砲で火炎弾を撃ち込まれたそうだが?」

「船は夜半に撤退してしまいました。使っていた大砲などを鹵獲できれば、証拠品になったのですが……」

「なるほど。襲撃者がゴブリンであったことは間違いない。だが……どこの領地のゴブリンなのか、証拠がないというのだな?」

「くだらん」

 領主の左隣りに座る男が言う。
 あれは領主の次男だ。口が悪いやつ。

「大型船で川を遡上してきたなら、マッスキア領のゴブリンだ。他に、考えられない」

「それは、同意します。しかし……」

「証拠がないから、ユグドラシルに抗議できない? そうだな。それをくだらないと言うんじゃないか?」

「よさんか。現場を詰ってもどうにもならん」

 領主がとりなし、次男は黙る。
 代わりに、他の者たちが喋りだす。

「川下から来たなら、ニヒットを通過したはず。何か報告は?」

「聞いていないよ」

 長男が質問し、右端に座る三男が答える。

「ニヒット領はトカゲの領地だ。マッスキア領のゴブリンどもと手を組んでいるのだろう」

「奴らに期待するな。いずれ我らを裏切るクズどもの集まりよ」

 テーブルの左側では、四男と次男が悪態をついている。

「……それは違うのではなくて?」

 右から二番目に座る女が言う。
 領主の長女だ。

「彼らは、私たちの方が裏切ると思っているのですよ」

「だから? その前に我らを裏切ると? そんな考えのどこに正義がある?」

 左の次男が鼻で笑う。

 俺に言わせれば、相手が手を出すまで虎視眈々と待ち続けるやり方こそ、悪そのものだ。
 相手が先に手を出した、などというのは表側の話だ。
 裏では、相手がキレるまで巧妙な嫌がらせを続ける。
 それこそ正義などない。

 ただ、今回に限って言えば、嫌がらせを受けているのは、我々オルライト領の方だが。

「対外的な処置はともかく、内政的な問題だけでも解決すべきでは?」

 テーブルの左端に座る末娘が言う。
 他の領主一家の全員は、ため息をつく。

 正論はバカの言葉だ。

 ここに集まっている人間は、問題解決など考えていない。
 現実と向き合ったり、対策を話し合う気などない。
 会議をしている間は、現実から目を逸らすことができる。
 だから会議をしているのだ。

 運が良ければ、自分以外の誰かが責任をとってくれる。
 実にくだらない会議だ。

 それが、末娘の正論のせいで、話を進めるしかなくなった。
 領主はため息交じりに、中洲島の領主を呼ぶ。

「ヴァネス・ハーネカル。ケケルス島の被害について報告せよ」

 赤いドレスを来た女が立ち上がる。

「今回の襲撃で、兵士45名のうち、死者6名、負傷者18名。ほぼ半分の人数で回している状態です。加えて、下流域の監視所の人員、16名は全滅でした」

「22人死亡か。被害は甚大だな」

「はい。すみやかな増員をお願い申し上げます」

 何かが妙だった。
 俺の知るヴァネスとは違う気がする。
 あの女は、もっと頭が悪くて、すぐ騙されて、そもそも兵士の仕事に興味などなかった。
 バカみたいに俺に金を貢いでいたあの女と、同一人物とは思えない。

「スナホリの死者数は65人。これも半数に相当します」

「ふむ。今後の労働力不足が懸念されるな。対策は?」

「我々の力ではどうにも……南丘のスナホリ居住区は破壊され、寝泊まりにも困る有様です」

 その言葉に、テーブルの右側で、三人が話し合っている。

「ケケルス島が敵の手に落ちれば、川の両岸の通行が危うくなるぞ」

「そうは言っても、今のままでは守るのが難しいかもな」

「……増員、いえ要塞化を進めるべきでは?」

 島を支援する方向で考えているようだ。
 一方、テーブルの左側では、逆の考えが出る。

「退くのはどうだ? 雨季が終わるまでは、どうせ何もできないんだから」

「確かに。今は下流の監視所を再建するのが先決だな」

 左端の末娘は、話に加わらず、つまらなそうにしているだけ。
 領主が最後にまとめる。

「ケケルス島は要塞化する。工事は雨季の終了直前に始める。半年ほどで完成する規模とする。必要な物資と人員は、後ほど調整する」

 無難な結論となった。

 たぶん、この場の誰もが思っている。
 雨季が終わる前に正式な手順で宣戦布告されて、攻め込まれるのでは? と。
 もちろん、言い出す者はいない。
 責任を取りたくないからだ。

 ゴブリンは来るだろう。
 そしてまた被害が出る。
 その時に誰が責任を取るのか見ものだな。

 そう思って、俺は内心ほくそ笑んだ。
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