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02 最強の剣を入手する

ムダに偉い無能貴族たちのムダな会議

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(ガルディア・クトクア視点)

 また会議だ。
 オルライト・パレスに呼び出し。
 この前、中洲島の襲撃の件で、会議したばかり。
 新たな事件も起こっていないのに、どうして全体会議が必要なのか。

 さっきの会議の後、まだ自領に戻っていない小領主もいるだろう。
 というか、俺も戻っていないんだが……
 下流の状況について報告を求められても、何もわからないぞ。
 まあ、適当に答えて置けばバレないが。

 正直に言うと、俺には、この招集は都合がいい。
 理由は二つだ。

 一つはオルライト市に居座る理由ができたこと。
 これでにカジノに通う時間を作れる。
 もう一つは、ヴァネスと会うチャンスがあることだ。

 金づるは簡単には増やせない。
 とりあえず、もう少しヴァネスから金を搾り取る必要がある。

 最近は、ヘレナが警戒しているようだが、あいつを消すのは難易度が高い。
 どうやっても怪しまれる。

 そろそろ潮時か。
 これが最後になるのを承知で無茶な大金を引き出そう。

 俺はそんな決意を秘めて、大会議室の前でヴァネスを待つ。

 ヴァネスはやって来た。
 だが、知らない男が隣を歩いている。
 ……あの服は、スナホリか? この前、ヘレナと一緒にいた男とは別人のようだが。

「おう、お疲れさん!」

 知らない男が、俺に声をかけてくる。

「誰だ?」

「俺はニック。いずれ世界最強になる男だ。あんたがガルディアだな?」

 世界最強? 何を言ってるんだこいつは。
 いや、こいつはどうでもいい。

 俺はニックを無視してヴァネスの方へ行こうとする。
 だが、ニックは両腕を広げて邪魔をする。

「おいおい。それは困るぜ」

「何が困るんだ?」

「悪いけどあんたと会話させちゃダメって言われてるんだ。用があるならヘレナを通してくれ」

 用心深いな。

「そのヘレナはどこにいる?」

「中洲島に戻ってるぜ。警備体制を確認するんだとさ」

 これはチャンスだ。
 ヘレナが居ないなら、こいつさえ適当にごまかせばいい。
 なんなら、味方に引き込んでみるか?

「ちょっとヴァネスと話し合う必要があるんだ」

「あんた、ヴァネスの恋人だっけ? すまないが命令なんだ。本当は俺だって、おまえらの愛を引き裂きたくはないんだよ」

 愛?
 何を言ってるんだこいつは。
 ただ俺は、ヴァネスが金を持っていて騙しやすい女だったから、狙いをつけただけだ。
 愛なんかねーよ。

「二人で話し合う必要がある。大事な話なんだ」

「ああ、わかるよ。あんたの気持ち。ヴァネスはいい女だもんな。中身はともかく、顔と体はいいよ」

「いや……」

 女なんてどいつもこいつも同じだ。
 大事なのは、金を持ってるかどうかだ。

 ってか、こいつ、さっき愛とか言ってたよな?
 こいつにとっての愛は、体の関係のことを言うのか?
 なら、そこから攻めてみるか?

 ニックとヴァネスをベッドインさせてしまえばいい。
 そうすれば、ニックは俺の言いなりにできる。

「おまえも、ヴァネスを好きなのか?」

「実はそうなんだ。この状況なら、俺の好きにしてもいいんじゃないかと思ったんだよ。だけど、さすがにそれはマズいって言われててさぁ。ソリスは頭が固いぜ」

「……おまえは、何を言ってるんだ?」

「いや、別にソリスの悪口を言っているわけじゃないんだ。たださ、ちょっとぐらい、俺もおいしい思いをしたいじゃん?」

「俺に言うな」

 バレないやり方なんていくらでもある。
 なんなら、この会議の後にでもヤッて、ヘレナには黙っていればいいだけだ。
 ヴァネスの口をふさぐのが簡単なのは、俺が良く知っている。

「だから、それがダメなんだよ。何度も頼んだら、銀貨あげるから娼館に行けとか言われるしさ。……行ったけど」

「……」

 なんだ、この下品な男は。
 意味がわからん。

 こいつは、ヴァネスとやったのか?
 いや、それを望んでいるが禁じられているのか……。
 こいつが禁を破るのは、時間の問題じゃないか?

 ヘレナは、何を考えて、こんなやつを護衛に使ってるんだ?
 どう考えても、こいつが一番危ないだろ?

 え? まさかヘレナは、俺をこいつ以下だと思ってるのか?
 嘘だろ?

「それはそうと、もう会議始まるみたいだから、行った方がいいぜ」

 ニックに言われて顔を上げると、ヴァネスは一人で大会議室に入って行くところだった。

 まあいい。ここで分離するなら、話し合うチャンスはいくらでもある。
 とにかく、赤ダイヤの火炎剣だ。
 金を得て、カジノで勝って、剣を手に入れなければいけない。

***

 会議室の中は、いつも通りだった。
 俺たちは床に跪いて、領主一族がやって来るのを待つ。
 すぐに全員が揃った。

「さて、シモンよ。今日の招集の理由は何だったかな?」

 大領主、マーシウス・オルライトが問う。
 四男が答える。

「実は、つい昨日。素晴らしい武器を手に入れましてね。今見せても?」

 またか。
 この四男は、金遣いの荒いアホだ。
 領主一族にとっては、大した出費ではないのかもしれないが……。

 金の力で手に入れた物を見せびらかすために会議を開くとは。
 バカ息子、ここに極まれり、だな。

「好きにしろ」

「では。《ウエポンコール:赤ダイヤの火炎剣》」

「なっ!」

 出現した赤い光を放つ剣を見て、俺は思わず声を上げてしまった。
 カジノにあるはずの剣が、なぜここに?

「おや、ご存じの方もいたのかな? この剣、俺が手に入れた」

 四男は、にやにや笑いながら俺の方を見る。
 くそっ。

 ふと横を見ると、俺の隣にいた男が拳を握り締めて悔しそうにしている。
 名前は知らんが、カジノでよく見かけた気がする。
 こいつもあれを狙ってたのか。
 気持ちはわかる。
 俺だって、相手が領主一族でなければ、殺してでも奪いとっていた。

「シモン、おまえバカだけど、珍しくいいことをしたな」

「珍しくって何さ。俺はいつもいいことしかしてないよ! ちゃんと役に立ってるよ!」

 次男が言い、四男が不満げに言い返す。

 なにがいいことだ。
 金の力でメチャクチャをしやがって……。
 おまえさえいなければ、その剣は俺の物だったのに!

 領主の右側に座る長男が聞く。

「剣の効果は?」

「聞いて驚け! 《斬撃:5》《傷跡炎上:4》《加速:4》だ!」

「ほう、凄いな」

「もしそれを上回る剣があるとしたら、魔剣ゴライアスぐらいの物だろうね」

 長男が驚き、右端の三男も追従する。
 そして右から二番目に座る長女が問う。

「その剣、どうするつもりなの?」

「もちろん、戦いで使うさ。とりあえず、どこかのダンジョンで試し斬りをしたいね」

「それだ!」

 今まで黙っていた、左端の末娘が急に大声を上げる。

「父上。私もダンジョンに行きたいです。許可を!」

 並ぶ兄弟たちは、不信げに末娘を見つめる。

「それはシモンに同行するという意味か?」

「いえ、別の目的があります。出来れば別行動を……」

「目的とは? 何か欲しい物でもあるのですか?」

 右から二番目にいる長女が聞く。
 
「魔物と戦って実力を計りたいのです」

「そう言えば、おまえも新しいオモチャを手に入れたんだったな。スナホリを剣士に仕立ててカルキエ流に入門させたとか?」

 次男がバカにしたように言う。

 カルキエ流だと?
 剣術道場として、名門中の名門だぞ?
 そこらのザコが入れるわけないだろ。
 この俺ですら、パレスに来ている師範代たちから指導を受けれないのに。
 まさか、それすら金と権力で解決したのか?

「ああ、兄様。残念ながら、それは失敗に終わりました」

 末娘は、さほど残念でもなさそうに言った。

「それで、どんなダンジョンに行きたいわけ? 『エギラス山の亡霊鉱山』とかどう? 難度Aだけど」

 三男が言う。
 そこは流石に死ぬだろ。
 ってか物理職が行く場所じゃねーよ。バカか?

「ドラゴン系か、オーガ系と戦わせてみたいのですが……」

「だったら『封印穴のカタコンベ』はどうだ? あそこ、大体なんでもいるだろ」

 四男が言い、末娘は頷く。

「わかりました。そこにします」

 正気とは思えん。
 難度Cのダンジョン、俺なら行かない。

 ところで、あのダンジョンは、ロクスポンの担当地域だったな。

 もし、ダンジョンで末娘が事故死でもしたら、ロクスポンの責任問題になる。
 そんな未来を想像するのは、ちょっと楽しい。
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