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03 ダンジョン攻略

カオスオーガ(前)

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 なににせよ、いちゃついている場合ではない。

 俺とヘレナは、余計なことを考えず、最速で行動した。
 体を洗って、汚れた服を洗って、受け取った服に着替えてから、ロメリアたちが待っている方に戻る。

 通路の所には、焚火が炊かれていて、ロメリアとエルーラが火で体を温めていた。
 簡単な物干しざおのような物が作られて、服が乾かされている。

 俺が支配下に置いているカオスゴブリン三匹は、隅の方で、体に水をかけて油を落とそうとしていた。

「お帰り」

 ロメリアが俺たちを見てニヤニヤと笑う。
 俺とヘレナは気まずさを感じながらも、洗った服を干し、焚火の近くに腰を下ろす。

「それで、これからどうするんですか?」

 ヘレナが聞くとロメリアは少し考えてから言う。

「とりあえず、服が乾くまで休んだ方がいいかな。それで、5層に行く」

「時間的には、少し予定より遅れていますね。今すぐ地上に戻ったとして、ちょうど夕方になるぐらいでしょう」

 エルーラが懐中時計で時間を確認しながら言う。

「オーガと戦って、終わった頃に夕食を摂って、それから地上に帰るぐらいが理想じゃない?」

「それまでに見つかればいいのですけど……」

 見つからなくても帰るしかない。

 ダンジョン内でキャンプを貼るのは危険だ。
 常に魔物に襲われる可能性がある。
 深層の探索が終わらないのも、活動できる時間に限界があるからだろう。

「予定のポイントまで行って、オーガが見つからなかったら、一度地上に戻って明日出直す」

 それでもダメだったら、作戦の立て直しだろうか?

「でも、そんな苦労するとは限らないでしょ。私は、下の階層に降りたら即エンカウント! みたいなのを警戒した方が有意義だと思うな」

 ロメリアは楽観的に言う。

**

 床を流れる水を追って、道の分岐点まで戻る。
 今度は水の流れに従って、道を進んでいく。

 5層に降りると、少し雰囲気が変わった。
 天井が明るい。
 光は遠く薄暗いが、浮遊カンテラがなくてもお互いの顔が見えるぐらいの明るさはあった。

「ここの壁、何か今までと違いませんか?」

 ヘレナが壁に触れながら言う。
 いつの間にか、岩肌の洞窟から、漆喰塗りのレンガの壁になっている。
 壁の表面にはつる草のような物も這っていて、貴族の庭園か何かのようにも見えた。

 こんな地下に人工物が?
 植物が?

「ダンジョンですからね。このぐらいは普通ですよ」

 エルーラが、そっけなく言う。

「でも、このレンガって、人が焼いて積み上げたってわけじゃないんですよね?」

「もちろんです」

 エルーラは、なにを当たり前のことを? と言いたげに俺を見る。

 振り返ると、4層から流れてきていた水は、通路の一本の方に流れていく。
 通路の端を見ると、ちゃんと排水溝のような物があった。
 本当に、人が作った場所じゃないのか? じゃあ、誰が?

「38番通路はこっちだね。ちゃっちゃと行こう」

 ロメリアが地図を確認してそう言う。俺たちはそっちの通路を進む。
 長い通路の終わりには、金属製の巨大な扉があった。
 エルーラは扉に触れて、罠などがないかを確かめる。

「問題ありません。ですが、人力で開けるには少し重いかと。ロメリア様、お願いします」

「《エンプレイスメントコール:ネーロ・アルマトーラ》」

 ロメリアが黒い鎧を呼び出した。
 鎧は全力で扉の片側を押して、開けた。

 すぐに、巨大な骨が目に入った。

 広大な部屋の真ん中、人の背丈よりも大きな頭蓋骨が転がっている。
 動く物のない、静謐な空間。
 天井は高く、上の方の採光窓から差し込む細い光が、薄暗い床を照らしている。

 いや、採光窓ってなんだ? ここは地下なのに?

 ともかく、やたらと高い天井と言い、妙に静謐な雰囲気と言い、どことなく教会に似ている気がした。

「ここは、聖堂か何かのようにも見えますね」

 ヘレナも俺と似たようなことを感じたらしい。

 こんな地下深くまでやって来て、誰かが神に祈ったりするのだろう?
 あるいは、銀貨を払うとガチャを回せて、スキルを獲得できたりとか?
 ……ありえないな。

 俺たちは、部屋の中央に転がる巨大な頭蓋骨に近づく。
 ロメリアの操る黒鎧が、頭蓋骨をつんつんと突く。

「まさか、これが私たちの探してるカオスオーガ……ってことはないよね?」

「ありえません。こんな骨だけになるには、かなりの時間が掛かるはずです」

「ソリス、ちょっとこの骨、生き返らせてみて」

 ロメリアに言われて、俺は死者蘇生を試してみるが、ダメだった。
 ヘレナが後ろから、不思議そうに俺の手元を覗き込む。

「……うまくいく場合とダメな場合、何が違うんでしょうね」

「わからない。死んでから時間が経ってるからかな? それとも、全身の骨がないから?」

「でも、スケルトン系の魔物っていますよね。それに頭だけになっても動く魔物とかも……」

「それは死者蘇生とは関係なくない?」

「そんなの試してみないとわからないじゃないですか。仮説は多い方がいいし、検証は続けるべきです!」

「まあ、それもそうか……」

 スキルの仕組みも気になるけれど
 とりあえず、今はカオスオーガだ。

 部屋の壁には、いくつか扉がある。
 どれも、さっき俺たちが通って来たのと同じぐらいの大きな扉だ。
 ロメリアが、その一つを指さす。

「あれが47番通路……。行きましょ」

 扉を抜けた先は、さっきと同じような通路だった。
 長い長い通路を進んで、行き止まりまでたどり着くが、カオスオーガは姿かたちもなかった。
 というか、5層に来てから魔物を見かけていない気がする。

「もう少し探索したら見つかるかも……」

 俺が言うと、エルーラが首を振る。

「ダンジョンに入る前に立てた予定は、できるだけ変更しない方がいいでしょう。全員で生還することが一番大事です」

 結局、戻ることになった。
 長い長い通路を歩いて、さっきの聖堂のような部屋まで戻って来た。
 部屋の中から、何か重い足音が聞こえる。

「……」

 さっき通った時に開けたままの扉から、見えた。

 人の数倍の身長の巨人。
 全身が赤々と燃え上るように光を放っている。
 巨大な棍棒、ボロ布のような服と頑丈そうなヘルメット。

 カオスオーガだ。
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みんなの感想(1件)

スパークノークス

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