スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

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第47話 彼女の条件

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 私の部屋のシングルベッドは二人で寝ると思ったよりも狭かった。もしくは家森先生が私の方へ敢えて近寄っていたのかも知れない。とにかく彼はずっと私に抱きついて眠っているせいでスペースが狭く、寝返りを打つたびに起きてしまった。

 彼よりも早く起きた私は、寝息を立てる家森先生をじっと見つめて考えに耽っている。こうはしてくれるし好きと言ってくれるけど、彼の中で私はどれくらいに大事なのだろう。記憶がない私に遠慮してるだけで心の中では恋人のように考えてくれているんだろうか。それとも私がボケボケしてるからただ単にからかってるのか。

「ん……起きていましたか」

 あ、家森先生が目を開けた。彼は私が起きてることが分かると、ベッド脇の棚の上に置いてある青い豪華な懐中時計を手に取って時間を確認した。彼の手の時計は朝の4時を指していた。

「随分と早起きですね。」

「あ、ああはい……」

「どうしました?」と私に聞いてくれながら、家森先生はベッド脇の棚に置いてある彼の眼鏡を手に取りかけて、まだ眠気の残る眼で私を見つめた。

「……ふと起きてしまったので、こうして一緒にいてくれるのはどうしてかと思っていました。お戯れがすぎると。」

「ふん……戯れなど。それは違います。」

 家森先生が真剣な目で私の手をとりその甲にキスをしてくれた。

「僕の愛情表現は少々歪んでいるかも知れない。そしてそれがあなたを困惑させてしまうこともあると思います。しかし……僕は確実にヒイロのことをとっても……慕っています。」

 頭を撫でてくれる家森先生。眼鏡の奥の瞳が照れているのか目が合うたびに泳ぐ。私に照れてくれる、それが少し嬉しい。

「ヒーたんは恋愛の記憶がないのでしょう?」

「あ、はい」

「ですから優しく接していきたいんです。ヒーたんは……僕のことをどのように思っていますか?」

 どのように、か……。正直に話してみよう。

「……正直に言いますと、独り占めしたいです。」

「ぶっ」

 え?

 何で吹き出した?

 家森先生は口元に拳を当てて肩を震わせて笑っている。そんなに彼が笑っているのを見るのは新鮮な経験だけどどうしたのだろう……今おかしいこと言った?

「いえ、すみません。僕が思っていた以上に僕のことを想ってくれてたようで。」

「え?そうなんですか?独り占めしたい、まあそっか……」

「では、質問を変えます。僕のことはどれほど好きですか?」

 どうとはまあ……これも正直に話してみよう。また笑ってくれるかも知れないし。私は仰向けになって両手をこれでもかと広げてから言った。

「家森先生のことは……これくらいとっても、大好きです。」

「っ!」

 今度は顔を赤くして目をパチパチさせている。笑うかと思ってた予想とは違い、今度はめっちゃ照れている。

「ヒイロ、」

「はい?」

 横からぎゅうと抱きしめられた。布団の中で抱きしめられてドキドキするし、熱い。

「あなたが他の誰かと親密になるのを僕は耐えられない。こんな提案、まだあなたには時期早々で酷なのかも知れない。それでも僕はあなたと一緒にいたい。」

「え……」

 な、何をいきなり……?

 家森先生が布団に置かれた私の手をぎゅっと握ってくれた。

「僕と、おつ

 ポーン

 私の携帯が鳴った。こんな早朝に誰だろうと私は、家森先生越しに棚に手を伸ばして自分の携帯と取って画面を確認した。

「あ、メールです。」

「……どうぞご確認を」

 お言葉に甘えてチェックすることにした。

 ____________
 好きとか独り占めとか、
 朝早くから勘弁してくれよ
 マーヴィン
 ____________

「ああ~!ははっ……」

 私は笑いを漏らしつつ携帯の画面を家森先生に見せてみると、彼も理解したようで一気に笑顔になってくれた。

「おやおやそれは失礼しました……ふっふっふ。しかしこの部屋は少し考えものですね……」

「そうなんですよね~、もう彼と一緒の部屋で暮らしているように考えて過ごさないといけないと思いました。あ!それで僕とおつってなんですか?」

「……それはまた次の機会にお話しします。」

 何だろう、それ。また眼鏡を取ってまた寝始めた家森先生の横でマーヴィンにごめん、と返事をした後に私も2度寝をすることにした。

 目を閉じて眠りの世界に入りそうになった時に、家森先生が手を繋いでくれた。こんなに温かくて、心地のいい眠りは初めてだった。


 その後、家森先生は私より早くこの部屋を出て行った。部屋を出るその時も名残惜しそうに何度もキスしてから出て行った……けど1限は有機魔法学だからすぐに教室で会うんだけれど。

 部屋から出ると案の定、玄関前でマーヴィンがジト目で待っていた。彼に昨日の会話がどれくらい聞こえたか恐る恐る聞いてみると、思った以上に何から何まで聞こえてたみたいで口止めする代わりに今度食堂で奢ることになってしまった……。

 でもそれぐらいで済んだのだからよかった。もしこれがグレッグだったら口止めするのに新しいPCでも買ってくれとか言ってくるだろう。昨日の会話は結構過激だったから家森先生のイメージに関わってくるだろうし、食堂ぐらいなら喜んでおごります。

 今日は火曜で獣扱学や魔工学、有機魔法学を専攻している生徒は5限までみっちりとあるが、私は通常実践魔学の専攻なので皆よりも早めに帰ることが出来る日だった。

 それでも4限までみっちりと授業を受けて昨日の寝不足もあってか疲れてしまった。1限は90分あるし中々長いのだ。グリーンクラスからリュックを背負って帰る途中に1階の食堂が目に入ってちょっとコーンスープをもらって一息つくことにした。

 そう言えば一人で食堂に来るのって初めてかも知れない。遠くにはケビンが座っていて何やら勉強している様子だった。邪魔しちゃいけないから声をかけるのはやめておこう……私はその辺の椅子に座って、温かいコーンスープを飲みながら考え事をする。

 そう言えば家森先生は火、木、土日に会うように言ってきたな……今日は火曜だから今日も会うんだろうか?いや昨日会ったばかりだしそれはないだろうな。考え事をしているとそのうちウトウトしてきて耐えられなくなり、ついに私は目を閉じて眠ってしまったのだった。

 ゆさゆさと誰かが私の肩を揺らしてくる。誰だ?

 眠さで両目を擦って体を起こすと私のそばにレッドローブを着たマリーが立っていた。相変わらず美人だこと。

「ヒイロ!起きて!」

「え?何?起きたよ?どうしたの?」
 
 ……何だろう、急になんの用事なんだろう。彼女はちょっと怒っているような表情なので、もしかしたら何か怒られるのかも知れないと思い、ちょっと早く帰宅したくなった。

「マリーどうしたの?」

「うん……」

 ここじゃダメなのか、マリーは私の手を引っ張って食堂から出て、校舎からも出て校庭の花壇のところまで連れて行った。

 校庭では他に、タライさんと愉快な仲間たちがサッカーをしていたり、海沿いの防御壁の側ではジョンとエレンが海を眺めながら……多分愛を語っていると思う、ジョンが肩を抱いているのが見えた。すごいなジョン。

 ジョンの方を見つめていたらマリーが私に彼女の方を向くように肩を揺さぶってきた。

「ねえヒイロ、前に協力してって言ったよね?」

「え?ああ……」

 それはきっと以前、荒野に向かうバスに乗っている時にマリーと家森先生が付き合うのに協力してって言ってきた件だと思った。確かに、協力どころか家森先生とはちょっと申し訳ないぐらいの状態になってるけれど……なんだろう、そのことについて話すのかな。

 マリーはムッとした顔で私に聞いた。

「でも家森先生からデートのお誘いがあったんですって?リサから聞いたんだけれどそれは本当なのかしら?……」

 リサから聞いただと?ということは情報を漏らしたのは十中八九リュウだろうな。彼は結構話しちゃうんだ……何も言えずに苦い顔をしているとマリーがそれが事実だと察したのか眉間にしわを寄せた。

 ドン!

 肩を思いっきり押されて花壇につまづいて転びそうになった。うっわ……危ない。押された部分が鈍く痛むので、肩を押さえながらマリーを見るとかなり私を睨んでいた。

「断ってよデート。ヒイロが家森先生と釣り合うわけないじゃない!きっと彼はあなたに同情してそう申し出てくれただけなのよ?彼と釣り合わないことは分かるわよね、自分で。」

 何それ……確かにマリーに比べたらって思うけど、でも私のこととやかく言う権利なくない?私もつい眉間に力が入ってしまい、右手はどんどんと紅のヒビで覆われてしまった。それを見たマリーはふん、と憎らしい笑いを浮かべた。

「その炎のやつ出しても無駄だもん。それだってこの前のドラゴンの時みたいに顔までヒビが届くとちょっと変だからやめた方がいいわよ?醜いっていうか……醜くて見にくいから。ふふっ」

 なんだと……ムカつく発言だが、最後のシャレは評価したいと思う。マリーは顎を高い位置に固定して私を見下したまま言った。

「とにかく今後、家森先生と会う機会があったら私のことを推薦してちょうだい。さもないと……リサに、リュウと別れるように言うから。」

「ええ!?それは……だってリュウはリサのことかなり好きだもん。」

 そうそう、だっていつもリサがリュウのことを呼べばみんなで集まって遊んでててもすぐに行っちゃうし、リサの欲しいものあれば自分で買いたいもの我慢してプレゼントするし、リサ可愛いから他まじで興味ないとか言ってるし……でも?

「そう言われたからってリサはリュウと別れるの?マリーが言っても別れなかったらどうするの?」

「別れるわよ!リサは私の言いなりよ!私のことかなり慕ってるもの。私が命じればなんでもするような子なのよ。」

「ええ……そんな感じなの」

 確かに金曜の実戦の時のリサを見ているとマリーの為に行動している感がある。マリーを立てるというか、マリーのサポートを積極的にするというか……だからこそ女王様気質のマリーと仲がいいんだろうなと思ったこともあることを思い出した。

「ねえ、やること分かったのかしら?」

 どうしよう……

「じゃあもう今後一切は家森先生とプライベートで会うなってこと?」

 一瞬でマリーの表情が歪んだ。

「あなたプライベートで会ってたの!?どこで!?どれくらいの頻度で!?」

「ああいや……稀に会うときがあったから。ほら図書室で調べ物とかしている時にさ……はは」

 マリーが怖くてつい嘘を言ってしまった。仕方ないよね、この場で殺されたくない……。納得してくれたのか少し落ち着いたマリーが私を睨みながら言った。

「じゃあそういう偶然の遭遇時もすぐにその場からいなくなるようにして。できれば私のことよく発言してくれると助かるけれど。あとそのデートも勿論断ってちょうだい。まあそれはお情けの発言でしょうから、断ってあげた方が彼も喜ぶわよ。そういうことだから。分かった?もし守れなかったらリュウが悲しむのよ?」

 うわぁ……なんて人なんだろう。家森先生に隠れて会ったとしてもそれがバレたらリュウが悲しむことになってしまうのか……。いろいろ考えたけど、この場はとにかく頷くことにした。

「わ、分かった。」

「ふふっ」

 そう少し笑ってからマリーはレッドローブをなびかせながら校舎に向かって行った。ああもう……どうしてこんなことになってしまったんだ。どうしてちょっと脅されてるんだろう。

 はあ~~~

 長い溜息の後、私は重たい足取りで自室へ向かって行った。
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