スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

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第48話 意志を貫く

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 自室に戻った時に誰もいないけど、ただいまと言った。

 ベッドの上にはドラゴンハンターの上下セットがとても綺麗に畳まれていた。それは今朝、家森先生が畳んでくれたものだ。

 ぎゅっ

 手に取って、思わず抱きしめてしまった。そこにはあのリンスの甘い匂いが残ってる。ああ、彼の着ていた服をクンクンするなんて……ついにここまで変態になったか、私よ。

 マリーには家森先生には会ってはいけないと言われた。それを守らないとリュウが悲しい目に遭ってしまう。リュウのことは守りたいけど……家森先生にだって会いたい。無意識に家森先生の着てた服を抱きしめる力が強くなった。

 そのドラゴンハンターセットを抱きしめたまま、私は気分をどうにか紛らす為にPCで動画を見ようと思って、サバンナの恋人という広大な大地で繰り広げられる動物たちのドキュメント番組を観ることにした。

 大草原の中でライオンのオスにたくさんのメスが群がっている……まるで家森先生に群がるマリー達のようだ……。

「あああああ~」

 もうダメだ。気分転換もできないわ。思いっきりテーブルに突っ伏した。

 どうしよう。家森先生に相談する?でも彼に言ったところで迷惑をかけてしまうだけかもしれないし……リュウに相談してもじゃあ家森先生と会うなって言われそうだし。マリーの言う通りにするしかないのかな。

 悩んでいるとテーブルの上に置かれた携帯がポーンとなった。ため息をつきながらそのメールを確認する。

 ____________
 今日の夜暇~?
 一緒にちょっと
 ゲームして遊ばへん?
 タライ
 ____________

 タライさん~~~!私はすぐに返事した。

 ____________
 今日は情緒不安定なので
 誰かと何かして、
 過ごしたいです。
 もう少し、考えてから
 返事しますね。
 ヒイロ
 ____________

 うん……お言葉に甘えて今日はタライさんといようかな。マリーの件でかなり不安になってしまっているし、もうどうしたらいいのか分からなくて押しつぶされそうな気持ちだし。誰かと遊んで気分を晴らしたい。そう思っていると返事が来た。

 ____________
 お疲れ様です。
 今、仕事終わりました。
 来ますか?
 家森
 ____________

 …………。

 はあ~~~~~。

 ああ、タライさんじゃなかった。どうしよ。どうしよ!?

 いいじゃん行っても!誰も見ちゃいないよ!
 ダメよヒイロ!誰かが見てて、もしマリーに知られたらどうするの!?

 脳内で緊急会議が開かれて議会はもう騒然としている。議長は過激化する意見にあたふたしているばかりで意味を成していない。ああ~~!

 そ、そうだ。

 気持ちだけ試しに返信してみよう。それならいいよね。

 ____________
 お疲れ様です。
 実はちょっと会いたいと
 それだけ思ってました。
 ヒイロ
 ____________

 そう、思ってるだけならいいよね。それを伝えるだけならいいよね。するとすぐに彼から返事が来てしまった。

 ____________
 早く僕の部屋に来て
 家森
 ____________


 ウワアアアアア!?
 ウワアアアアアアアア!?

 ど、ど、どうしよう。落ち着こう?落ち着こうよ……。
 胸を押さえて呼吸を整える。落ち着いて考えよう。

 ここでの選択肢は2つ、隠れて会うか、リュウの為に断るかだった……隠れて会って、マリーにバレたりするのかな。裏口のところにマリーを慕う生徒の誰かがずっと立って見張ってるのなら別だけど、それはないと思うし。

 よし。少しだけ、会って帰ろう。少しだけ会うならバレないよね、顔だけ見てさ、それで……それで、辛いけどそれを見納めにしよう。

 そう思って、私は勿論お泊まりの準備はしないで家森先生の部屋に向かうことにした。

 誰も見ていないことを何度も見回して確認しながら職員寮までやってきた。携帯と学園の懐中時計だけという、ほぼ手ぶらの状態でここに来ることはもしかしたら初めてかもしれない。

 私は階段を上がりきった。すると通路先の家森先生の部屋の玄関が開いているのが見えたのだ。あれれ!?玄関のところにミニスカート姿のマリーが立っていて、多分家森先生と話している……咄嗟にまた階段のところに引っ込んでチラッと覗いて様子を見る。

 声がちょっと聞こえるので耳を澄ます……何を話してるんだろう?

「でも、あれからちっともお部屋に入れてくれません!今日は教えて欲しいことがあって……」

「それなら、来週の授業後に説明致します。本日はこの後に用事があるので、あなたを僕の部屋に上げることは不可能です。勉強熱心なのはとても素晴らしいことですが、また日を改めてもよろしいですか?」

「そうですか……。こんなこと聞くのは変ですが、もしかして誰かとお付き合いされてますか?最近少し、家森先生が誰かの為に時間を割いている気がするのです。メールだって前よりも遅れて返事くださいますし……それとも私が嫌われているのか分かりませんけれど。」

 そうだったんだ。なんていうか私がマリーだったら、ちょっと辛いかもしれないけど……。

「あなたを嫌いなどしません。好きですよ。」

 え!?あれ?それって私だけに言ってくれる訳じゃないのね。ま、まあしょうがないけど……けど。

「それに、最近は副理事の仕事がどうしても多くなり、忙しくなっているのは事実です。今はお付き合いしている人はいませんよ。」

 マリーがパッとした笑顔になった。

「そうですか!分かりました、また来週に教えてください。それと来週はお部屋にお伺いしても構いませんか?」

「……まあ予定を見て、ということにはなりますが構いません。」

「わあ!ありがとうございます~!では失礼します!」

 ぴょんぴょん跳ねながら家森先生の部屋の前からマリーがこの階段に向かってくる。そっか……お部屋にくるのも構わないのね。まあマリーも生徒だもんね……。

 と、とにかくここにいては見つかってしまう。1階に降りて廊下の端っこの観葉植物の後ろに隠れることにした。

 するとすぐにマリーが階段から降りてきたのだが、その表情は達成感からか恐ろしい程にニヤリとしていた。

 めっちゃ怖い。もう既に私の中の怖い人ランキングで彼女は堂々の一位に輝いているよ。

 マリーが通り過ぎてから私はそそくさと階段を上がって、2階の通路を歩いて家森先生の玄関の前に来た。そこでさっきの会話を思い出してしまった。

 ……でもマリーが望んでいるのはお勉強だし彼は先生だ。別にお勉強の為に二人きりで彼の部屋に居ても仕方のないことなのだから、私が心配することでもない。それにこれで見納めなのだし、そもそも彼は私の恋人でも何でもないのだから……ああ~もう仕方のないことなのだから!いいじゃん別にそれくらい気にしない


 ガチャ

「あ」

「何をしているんです、早く入って。」

 ドアが開いて白衣姿の家森先生がそこにいて手招いている。

「よく私がここにいるって分かりましたね。」

「足音で分かります。グリーン寮ほどではありませんがここも音が聞こえるので。さあ早く靴を脱いで。」

 私は言われるままに部屋の中に入って靴を脱いだ。そう言えば、家森先生の部屋とタライさんの部屋、リュウもだけど彼らの部屋では玄関で靴を脱ぐ。きっと日本の風習なのか。

 それはそうと彼に何て言おう。

 ぎゅっ

「あ」

 どうしようか考えながらスニーカーを脱いでいたら、後ろからハグされてしまった。これが最後の温もりかもしれない。そう思うと急に切ない気持ちに支配されて、私は靴を脱ぎ捨てて彼のことをハグし返した。先生はちょっと驚いたようだったけど、また抱きしめ返してくれた。

 もう今日だけ、ほんの少しだけ、彼のことを好きでいていいよね。

「ど、どうしました?あなたから抱きしめてくれるのは珍しい……」

「……今日は色々と情緒不安定なんです。さ、さっきだってマリーとの会話を聞いてしまったし」

「ああ……最近は特に彼女がここに来だがっていて。まあ勉強を教えてくれということなので僕も拒否出来ません。しかし、こうするのもキスするのもヒーたんだけです。それは絶対に変わりませんから。ね?」

 ううう……嬉しいけど。けど。

「でも好きって。」

「それは普通に、という意味です。あなたも高崎のこと普通に好きでしょう?」

「はい」

「……そ、そうですか。しかしそれと同じです。こうしたいのも僕のことを癒してくれるのもヒーたんだけです。」

 あああ……私だって癒されている。これまで幾度となく映画やドラマで人が恋愛する様子を見てきたけど、こんなに苦しくて温かいものだとは思わなかった。

 すると先生が少し離れて、頬を手で包んで口づけをしてくれた。どうしても私は、キスされるときに両手をまるで拳銃を向けられた人物のように上げてしまう。それを家森先生が笑った。

 ちゅっ

「ふふ……あなたはいつもそうしますね。」

「だってそうなっちゃうんですもん。」

「可愛い」

 ボンと顔が熱くなったけど、家森先生もちょっと頬が紅い。ああ……じっと見つめてしまう。立ちながら、私に体を密着させてキスされた。

「……これは熱い。」

「うん……僕も熱い。もうずっとこうしていたい。」

 もう全ての感覚がとろけそうで支配される。

 いけない。いけない。もう止めないと。

 私は彼から離れて距離をとった。彼は一瞬不思議な顔をして私に近づこうとしたが私は遠ざかる。

「どうしました?……それに今日はリュックが無い。お泊まりはしませんか?」

「き、今日はちょっと……はは。お話だけと思って。」

 私にハグするのを諦めた家森先生は首を傾げながらテーブルに座った。彼の前にはPCとあと見たことのない茶色のファイルが積まれていた。

「まあお泊まりしてもいいと思っていたのですが……実を申せば僕もまだ仕事が終わっていなんです。」

「そうなんですか……」

 私ももう少しだけ居ようと彼の正面に座った。

「……僕は今から作業しますが、その間もそばにいてくれますか?」

「なら、側で読書でもしようと思います。書斎の本を何か借りてもいいですか?」

「ええ。お好きなものをどうぞ。しかし僕は本を読みながらペンで書き込む癖があるので汚い本ばかりですが……好きに読んで。」

 そうなんだ……書き込む派なんだ。ちょっとどうやって書き込むのか気になったので早速書斎にお邪魔することにした。すぐそばにあった海馬の力という脳みそのイラストの本をとってリビングに戻ると、表紙をチラりと見た家森先生が笑った。

「はっはっは……脳に興味があったとは。」

「ふふ……このピンクの脳みそのイラストが可愛かったので。」

 今日で最後だから、もうちょっとだけ彼といたい。そう思いながら借りた本を開いた。

 座ってページを何回かめくると確かに冒頭の文章のページから丸で囲ってあったり、はてなマークに赤いペンで補足が書いてあったり、線が引いてあったりした。新品の本にこうやって書き込むのは何だか勇気がいる行為だけれど、なるほどこうやって書き込みながら読んで、半ば勉強みたいにして頭に入れてるんだ!

 今日はもう少しだけ彼と一緒にいたいし、この書き込み方がすごい参考になるし、この本は意外と読みやすかったのでじっと読んでしまった。

 少し時が過ぎたところで家森先生のことを見てみると、彼の手が止まっていることに気づいた。ファイル片手に頭を抱えながら、険しい表情で何やら考え込んでいる。たまに目を細めては目頭を指で押さえて。

「ど、どうしたんですか……って言っても仕事の件だったら私には言わない方がいいのかもしれないですけど。」

 私が本を閉じてテーブルに置くと家森先生がうん、と溜息交じりに漏らしてファイルを広げてテーブルに置いた。

「シュリントン先生の作成した資料を僕がPCで清書しているのですが、文字がきたな……個性的な殴り書きで読めなく、苦戦しています。ベラならまだ読めるかもしれないので、あとで聞きに行くしかないと考えていたところです……」

 ……なるほど汚いんだ。確かに彼の黒板の字もいつも汚い。私が言える立場じゃないけど、急いでいる時なんかは私より汚いと思う時もあるもん。どれどれ……とその殴り書きの資料に目を通した。

 え?汚いか?これなら私の方が綺麗な気がするけど。私は読んだ。

「モンスター戦闘の進捗はレッドクラスが……って書いてありますけど。その後も読んでいいんですか?」

 家森先生が目を丸くして私を見つめてきた。

「これが読めますか?」

「……多分、私のより綺麗な字だと思いますけど。」

「ふふっ!そんなこと、ふふっ!」

 ……別にもっと笑っていいのに。

「ではヒーたん読んでください。ここは?」

 私は家森先生が苦戦してる箇所の文字を読み続けた。

 ちょっといるはずが、彼と過ごしていると時間が過ぎるのがとても早く感じるものだ。ファイルの清書が終わる頃にはいつの間にか夜になっていたし、もうこれが最後かもしれないと思うとまだ帰りたくなくて、遂にはお夕飯のお弁当も一緒に食べてしまったのだ。意志の弱さが憎い。

「ヒーたん、今日はお泊まりしないの?」

「しません。この後予定があるから……」

 家森先生がムッとする。してはまた同じことを何度も聞いてくる。

「しかしその理由は言えないと言いますし、本当に泊まらないんですか?……ならば今からずっとハグします。」

 私はガタッと席を立った。

「い、いや……それはちょっと。」

 戸惑いの表情の家森先生も立ち上がって私に近づいてきた。

「どうしたのですか?今日のあなたは何かおかしい……何かあった?」

 黙ってしまう。リュウのため、マリーのため。じゃあ自分はどうしたいなんて……。考え込んでいると家森先生が両手を広げて近づいてきて、私を抱きしめてくれた。

 温かい感触、甘い匂い。もうこれもダメなのかな。

「ヒーたん、ずっと僕のそばにいて。」

 ……ああ、どうしよう。

「前々から言おうと思っていたんです……前回はタイミングが悪くてうまく伝えられませんでした。しかしもう、僕は我慢ならないのです……少し離れているだけでも僕は何度も、この部屋に、僕のそばに、あなたがいてくれる想像をしてしまいました。」

 ……それは私も同じだと、言いたかった。

「……ヒイロ、どうか僕を選んでください。」

 ああ。辛い。

 辛さで目頭が熱くなる。

 私だって本当はそうしたいなんていけない考えを持ってしまって、ぎゅっと目を閉じた。ぎゅっと抱きしめ返すと、家森先生が照れたような興奮したような表情で私をじっと見つめてきて、キスをしようとしたので……私は遠ざかった。

「……。」

 もう一度家森先生の表情を見ると、彼がショックを受けていたのが分かった。

「……なぜ避ける?」

「……。」

 何か言わないと、いけない。

「……家森先生はマリーがいいと思う。」

「……そうですね、ではそうしますっておばか」

 ベシッ

「あいた!何するんですか……」

 肩を叩かれてしまった。予想外の家森先生のノリツッコミについ涙目のまま笑ってしまった。彼も同様に笑っている。

 しかしすぐに家森先生はシュンとした表情になり、聞いてきた。

「僕が何かいけないことをしたのでしょうか?重たいとか……そうは言われましてもこの性格を今から変えることは難しい。あなたには慣れてもらうしかありません。大体、毎日一緒にいたいところを我慢してメールで済んでいるのですから評価すべきだと思いませんか?」

「すごい言ってきた……た、確かにそうなら評価するべきかもしれないですけど、ふふっ」

 笑ってる場合じゃない。何か、彼が諦めるような理由を考えないといけないんだから。どうしよう。どうしよ。

「でも違うんです……そ、そう。わたし、他に好きな人出来たから。」

「……。」

 恐る恐る彼のことを見ると青ざめていて、とてもショックを受けたような顔をしていた。もしや傷つけたかもしれない。

 ああ。でもリュウの気持ちを大切にしたい。私のせいでリサがリュウから離れることを想像したくない……記憶の無い私にはまだ本気の恋愛は早いのかもしれないし……彼の過度なスキンシップはちょっと気に入ってるけども。

「……その相手は高崎でしょうか?相変わらず仲がよろしいようですし、あの男め……!」

 ギリギリと拳を握り始めた家森先生に慌てて首を振った。何か別の人を用意しないと遅かれ早かれ彼がやられてしまう。

「ち、違いますって!あ、えっと……そうそう!出会い系で知った人です。配管工なの。」

「ああ、例の配管工プレイの男ですか……」

 この前の出会い系の彼のことをまだ覚えてたんだ……。家森先生はムッとした表情で私を見つめながら言った。

「それなら僕だって調べて配管工プレイでも、お医者さんプレイでも、望むのなら先生プレイだって出来ますが?」

「出来ますが?じゃないですよ!今までの経験利用してすごいグイグイきますね……」

「当たり前です。可愛いヒーたんが僕から離れようとするなんて耐えられない。僕は僕を選んでほしいと心から願っていますし、こんなに仲がいいのに急にどうして距離を置くようなことを言い出したのか……一体どうして?」

 ああ、そんなに想ってくれているのにと、胸が締め付けられる思いでいっぱいになってしまった。リュウのためにと思えていられるうちに、どうにか一度距離を置かないと、このままでは多分……一緒にいたいという気持ちが勝ってしまうから。

 私は家森先生と目を合わせないで、これなら、という気持ちで言った。

「……やっぱり、ドMの人がいいから。」

「……。」

 引きつった。やっぱりこれは譲れないでしょうね……プライドの高いご主人様よ。家森先生は窓の外の暗闇を眺めて考えた後に静かに言った。

「……そうですか。そう言われてしまうとなかなか難しいものがあります。わかりました……わかりました。なら……配管工と仲良く……してください。」

 ああ、納得してしまった。
 してしまった、なんてそれで良いのに。

 静かに時が流れるリビングに私は耐えられない気持ちになってしまった。

「今日はもう、帰りますね。お弁当も今後は……ちょっと考えなきゃならないですね。ちょっと考えます……火・木・土日もしばらくは別々で……ごめんなさい。」

「あなたが謝ることではありません……食事代はとりあえずは継続して僕が支払います……それは気にしないで。そうですか……そうとなれば少し、僕もお時間をいただこうと思います。お気をつけてお帰りください。」

 家森先生はこちらを一度も見ないままそう言った。辛い気持ちに瞼が潰れそうになって私は急いで玄関に向かった。

「……ヒイロ、」

 何か言いかけてきたけど構わずドアを閉めてしまった。
 もうここには自由に来られない、彼にも会えない……想像するだけで苦しいのに、その状態にもうなってしまっている。

 この悲しさにどう向き合えば良いのか、私は分からなくてまだ職員寮の中なのに涙を流してしまった。

「……うぁ」

 我慢して、堪えて、階段を降りた先にある201号室のポストに先日渡された食費用の家森先生の真新しい黒い財布を入れた。そんな、別々に暮らすのに食事代だけお世話になる訳が無い……その優しさだって今思うと本当にありがたかった。

「ありがとうございました……」

 ポストに呟いてから、もう陽の落ちた外に向かって歩いた。
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