スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

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第59話 会議室にて

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 市役所前の噴水広場を抜けて建物内に入る。会議室Bの前は各校の学園長や副学園長で人だかりが出来ていて、皆が僕を見ると頭を下げた。僕も頭を何度も下げながら前に進み、受付に身分証明書を出して名前を書く。受付の40代くらいの女性は僕のことを見るとあからさまに頬を赤らめた。

「ブラウンプラント本校副学園長の家森です。ネイス理事長が急病のために本日欠席致します。大変申し訳ございません。」

 受付の女性はいえいえ、と言うと僕の身分証明書をチェックして会議資料の入った封筒を渡してくれた。それを脇に抱えて、中に入る。

 広い会議室の真ん中に、円形のテーブルに椅子が等間隔で置いてあった。奥の方にはもう座っている人がいて、その人物の周りを囲むように何人か立って話している。真ん中で座っているのは前理事長のメンティス先生だ。もうお歳なので理事を降りてからは雪原校でひっそりと教師を続けているらしい。

 この会議に参加すること自体が初めての僕もその人だかりに入って行き、彼に挨拶をした。彼は笑顔で僕を見て、これからこの学園をよろしくお願いしますと言ってくれた。そうまで期待してくれて嬉しいが……少し重圧を感じた。

 僕は彼の2つ隔てた席のテーブルに黒い鞄を乗せて、木製の椅子に座った。置かれている資料に早速目を通しながら、バッグから出したペンで要所をチェックしていく。

 ふと視線を感じて周りを見ると他校の女性の学園長や副学園長が何人か、僕の方を見て目を輝かせていた。ああ、出来れば大事な会議の前だ、集中したいから今は声をかけて欲しくない。

 そうだ、ヒーたんはどこで何をして待っているだろうか。あんな……今思えばあんな。

 胸の谷間が見えているし露出が激しい服装、リブ素材のキャミソールにデニムのショーパン、それにいつも履かないヒールまで履いていて、普段のユニセックスな服装とは違って艶かしいことこの上ない。あんな格好で食事会に参加するなんて、一体誰との食事なのか。もしやデートなのか……?

 今度から彼女にはもう少し規定を作ったほうがいいかもしれない。僕と会う時だけああいった格好をしていいとでも言って。あの格好、何度思い出しても可愛らしい。リブ素材を好む僕にとってかなりドストライクな格好なので出来れば今後は外で着て欲しくない……。そうだな、今日の夜にでも早速その話をしよう。

 それに昨日だって、僕は我が目を疑った。授業中なのをいいことに高崎に頭を撫でられていつも以上にあんなに密着していて。それ以上仲良くなって欲しくなかったのでつい、高崎にはポーションの再提出を命じてしまった。それは急ぎでは無かったが……あのままだと二人きりで部屋で過ごしそうな仲睦まじい雰囲気だったので致し方なかった。

 今日は彼女は何をして過ごすのだろうと気になっていたところで、幸いにも電話中にヒーたんを見つけることが出来て良かった。しかしまさか、一人で街にくるような行動を取るとは……ナンパしたのが真一だったからまだ良かったものの街にはやはり危険な輩も多い。あとで一人であまり出歩かないようにとも高崎とあまり密着しないようにともヒーたんに釘を刺そう。

「家森くん?家森くんよね!」

 誰かに声をかけられた。僕はじっと資料を見ながら考え事をしていた視線を僕の隣に立っているスーツ姿の女性に移した。金色のサラサラした長い髪、目鼻立ちのはっきりした小顔にスラッとした体型。見覚えがありすぎる。

「え……ミアですか?ここでなにを?」

 彼女は雪原校の生徒時代に同じ学年だった女性だ。その時は丸メガネで目立たない印象だったが、今は赤いメガネをかけて体のラインに沿ったグレーのスーツを着ていてキャリアウーマンの雰囲気が漂っている。彼女のブルーの瞳が僕を見つめた。

「何って山林校の副学園長をしているのよ、ふふ。」

 笑いながら手を伸ばして来たので、僕も応じて握手をした。昔はガリ勉のような雰囲気だったが、しばらく見ないうちに美人になったなと思った。

「家森くんは副理事ですものね。」

「そうですね……実は今回は特に来る予定がありませんでしたが学園長が体調を崩してしまいまして。」

 僕は彼のことを思い出してやれやれと息を吐きながらミアを見つめた。

「あら、体調不良?それは大変ねぇ!それにしても家森くんが副理事だなんて知った時は驚いたわ。しかも元々はお医者さんで途中から学園の教師になったというのに、後から来たあなたに先を越されるとはね……うーん。しかし家森くん素敵な男になったわね。スーツ似合う。」

 そう言ってミアは少し身を屈ませて僕のネクタイを直してくれた。確かに急いでネクタイをして来たのでちょっとずれていたのかもしれない。彼女が急にそんなことをするので僕は少し仰け反る。

「これで大丈夫ね」

「どうも……」

 そしてミアは僕の隣に座ったので、僕は聞いた。

「ここに座っていていいんですか?学園長は?」

「そのうちくるわよ。ほら」

 ミアの隣にサングラス姿の体格のいい男がバッグを置いた。ミアから紹介されて、そのガタイのいい褐色の肌の山林校の学園長と握手をした。笑顔になると見える歯が眩しかった。

「家森くん後で時間ある?」

 また着席した途端にミアが手で口元を隠しながら小声で僕に聞いてきた。ヒーたんには食事するかもとほのめかしたが実は何の用事もない。まあ誰かから誘いがあれば、彼女が終わるまで時間を潰してもいいと思っていた。

「まあ……ありますが。」

「あらそうなの!この後雪原校の校長と副校長と……他にも誘ってみるけれど、兎に角みんなで親睦会しようって話になっていて。是非是非参加してちょうだい。情報交換もしましょうよ。そうだ、色々と聞きたいこともあるしアドレスを教えてくれないかしら?」

 僕は少し考えた。アドレスを聞いてきた彼女の理由は最もだったが、それならば学園に連絡してくれればいい訳で。

「まあ今日の親睦会には参加しますが、アドレスは教えたとしても僕はあまりメールをしないもので、業務について聞きたいことがあるのなら学園に電話を頂いた方が早いかと。」

「あらそうなの……」

 彼女にそう答えてから、この会議の為にシュリントンによって作成された資料のファイルを開いて、目を通した。彼の字を読むことが出来るヒーたんのおかげで清書が出来ているので発表する場になっても楽に読むことが出来る。

ふと視界の端に、未だにじっと僕を見つめているミアが映ったので僕は更に理由を述べることにした。

「はい、それに副学園長と言っても僕は何も大したことはしていませんから。でしたら僕より先輩のベラ先生や理事長に聞いた方が為になりますよ。」

「ねえ、家森くん」

「はい?」

 彼女の方を振り向くと、僕が彼女に興味を持たないことが不満なのか口を尖らせていた。ああ……これは何だか嫌な予感がする。彼女が口を開いたときに丁度、メンティス先生の声が室内に響いた。

「それでは!みなさんお揃いですので学園長会議を始めたいと思います!今回の議長は私、メンティスが担当します。」

 白ヒゲの長いメンティス先生が立ち上がって、自前の大きな声で話し始めた。パチパチと拍手が響き、会議が始まった。


 自己紹介が一通り終わり、今は一校ずつ現状報告をしている。しかしまあ、こうして見ると学園長も考えることがたくさんあるなとシュリントンを少し同情した。

 僕が先生方のお話を聞きながら、万年筆を資料に滑らせるその手を、隣のミアがじっと見ているのが分かった。僕が彼女の視線に気づいた事を悟ったのか、彼女は小声で呟いた。

「ふうん、アクセサリー何もつけてないんだ」

 そんなことを話している場合ではないだろう。僕は何も答えずに引き続き他校の先生の説明を聞くことにした。しかしアクセサリーか。ヒーたんは欲しいと思ってくれるだろうか。彼女の指に僕と同じリングがはめられていることを想像すると、ああ、胸がきゅうと音を立てた。

 このように、集中しなければいけない仕事の時だって、僕の頭は勝手にいつの間にかヒーたんのことを考えてしまう。これほど誰かに恋い焦がれて何度も頭の中に思い描いたことは人生の中で一度もない。彼女は自身の過去や家族が分かったとしても僕と一緒にいてくれるだろうか、いや待てよ。

 過去に誰か恋人が居たかもしれない。いや、寧ろ結婚だって……いやいや。何を……もしそうだったらどうする。彼女はそちらを選ぶのだろうか。いや、何としてそれは阻止せねばなるまい。彼女は僕のものだ……僕のものだ!

「次は……ブラウンプラント本校の家森副学園長ですね。彼は皆さんご存知の通りこの学園の副理事です、それでは家森副理事、よろしくお願いします……でも大丈夫ですか?ちょっと険しい表情をしているようだが。」

 メンフィス先生の声にハッとして僕はスッと立ち上がった。周りの先生方もポカンとした表情を僕に向けていることから結構な間、僕の表情が強張っていたのかもしれないと思った。いけないいけない、つい他に意識が。僕は少し首を振って意識を取り戻した。

「はい。すみません、少し資料を見て考えてしまいました。皆様今後ともよろしくお願いします。我がブラウンプラント本校の学園概要から説明いたします。人事の変更は無く、先日の事件の影響で壊れた防御壁の修復作業も首尾よく……」

 分かりやすく説明を心がける。ある意味、シュリントンのぐちゃぐちゃな資料を順序よく正すという作業は、その分僕の勝手にアレンジ出来るということなのでありがたいことなのかもしれない。

 僕は概要を元に学園の現状報告をしていく。隣のミアも、前や斜め前に座っているおばさまの学園長も僕のこととじっと見つめているし微笑んでいる。自意識過剰ではないと思うが……隣の彼女が僕に少し気があるように感じる。

「それでは次に生徒管理表を説明いたします。我が校のレッドクラスは定員に対し…」

 ああ、ヒーたんどこで待っているんだろうか。変な場所に行ってないだろうか。まさかあの治安の悪いホテル街になど行ってないだろうな。それも説明しておけば良かった。ああ時間無いなんてそんなのただの言い訳だ。ついまた眉間にしわを寄せてしまったと思いスッと表情を戻した。皆はあまり気にしていなかったようだ。

「以上、ブラウンプラント校でした。ご静聴ありがとうございます。」

 パチパチと拍手が響く中、僕は着席した。

「ふっふっふ…何だかシュリントンより理事に向いてそうだけどねぇ。」

 メンフィス先生の冗談に僕はいえ、と言った。
 取り敢えず副理事である僕の発表が無事に終わってよかった。

「とてもよかったわよ」

 小声で話しかけて来たミアの方を見ると、こちらにウィンクを飛ばしてくれた。僕は少しだけ彼女に微笑んで、次の順番の山林校の資料に目を通した。

 しかし区切りのいいこのタイミングで一旦お昼休憩になった。
 外に食べに行く人がやはり多い。この市役所には一般の人も入れる食堂があるので僕はそこで食事を取ろうと思い、スーツのポケットから携帯を取り出して連絡をした。

 ____________
 ヒーたんどこにいますか?
 今からお昼です。
 もし食べてなかったら、
 市役所の食堂で
 一緒に食べませんか?
 家森
 ____________


 よし。僕が携帯を手にしたままバッグを持って立ち上がった瞬間にミアに腕を掴まれた。彼女は何故かにやりとしている。

「あれ~?家森くんってメールあまりしないんじゃなかったっけ?」

 ……確かに、先程僕はそう言った……そうだな。

「……急用です。会議の件について理事長に少し。」

 彼女の周りにはさっき会議中に僕に好奇の目を寄せて来たおばさま先生方が集まって来ていて、僕をキラキラした目で見つめてくる……。

「ねえねえお昼一緒に食べない?折角だし、今日の親睦会に来られない他校の先生も一緒に。」

 ……確かに、仕事の付き合いは大事かもしれない。僕は少し考えた後に頷いた。

「ならば少し理事長に連絡をしたいので、先に向かって「しながら向かえばいいじゃないの!さあさあ行きましょ!」

 ミアが僕の腕を強引に抱いて歩き始めてしまった。つまづきかけた足を何とか直して、僕は彼女たちとともに食堂へ向かうことになった。
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