LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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まるでエンジェル火山測定装置編

65 大浴場とアマンダ

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 食事が終わると一度自室に戻り、シャワーを浴びることになった。寮の個室にはバスルームが無く、全室共同の大浴場が一階にある。それを使用する為に、わたくしリンとキリーは、一緒に浴場に向かった。

「それにしても、キリーとお風呂に入るのって、何だかんだ初めてだよね。」

 キリーが無言で頷いた。食堂で見渡した限りだと、この研究所には女性の職員は、殆ど居ない様だ。なので、夕飯直後の混んでいるかと思われる時間帯でも、キリーと二人きりだった。脱衣所で服を脱ぎながら、隣でモソモソ服を脱いでいる彼女の体を、それとなくチェックさせて頂く。

 へえ……思ったよりも、傷跡だらけの体だった。何年か前に、一緒にサンセット通りの海岸にナンパ目的で一緒にぶらついたが、その時キリーは水着の上に、薄手のパイル素材のパーカーを羽織っていたので、あまり気が付かなかった。ぎだらけの身体、ちょっと怖い。そして左の上腕には、包帯が巻かれていた。

「その傷って、この前サウザンドリーフの村から逃げてた時に、ヴァルガ騎士団長にやられた傷?」

 私が聞くと、キリーが着ていたスーパー冷気レーヨンTシャツを畳みながら、頷いた。

「うん、もう結構治ってきたけどね、ほら。」

 あろうことか、彼女は私の目の前で、包帯を取り始めてしまった。ちょっと待ってくれ、食後だし、まだ心の準備が出来ていない!

 私はちょっと、そういう生々しい描写は苦手なのだ……と、思いながらも食い入る様に見ていると、彼女の言った通り、まだ縫われた糸は残っているものの、もう傷は殆ど塞がっていた。予想よりも平和な視界を提供してくれたことに、ちょっと感謝しながら言った。

「本当だ!治り早いね~!これくらいの回復力なきゃ、ギルドで戦士は出来ないか!はは!」

「なんかスコピオ博士みたいな話し方になってる……。でもまあ、これぐらいの傷だったら、キュアクリーム使ったら、すぐに塞がるよ。ここ最近は毎日のように、お風呂上がりに付けているんだけど見てみる?……ほらこれ。」

 え、何だろうそれは。キリーは脱衣カゴに入っている、彼女の着替えの服をゴソゴソと漁り、何か赤いチューブを取り出して、私に見せてくれた。

「なにこれ……『俺のホスピタルちゃんキュアクリーム』?……もしかしてだけど、これってクラースさんに教えてもらった?」

「え?何で分かるのリン。」

 ……なんか段々とクラースさんのことが、分かってきた気がするなぁ。そのことを踏まえて、私はキリーに聞いた。

「クラースさんって、いつもそういうグッズ持ってるの?ほら、くっつく君とか。」

 キリーは頷いた。

「うん、結構いい道具を教えてくれるよ。ホームセンターに売ってるって言うから、私もよくそのホームセンターに行ってるし、ハンマーとか鍛える時の道具も、大体ホームセンターで揃えたよ。質の割に値段がお手頃なんだもん。ロケインだってクラースさんの影響で、今では立派なホームセンター中毒らしいよ。」

「へえ~なんか面白い~。そこまで言われると、ホームセンターに行きたくなってきた!」

 そんなこんなを話しながら、私とキリーは浴場に入った。一般的な大浴場で、壁には鏡とシャワーが数台設置されていて、隣には大きなタイルの浴槽があった。

 隣は男子風呂か……この壁の何処かに穴があったらどうしよう。覗いちゃうかも。キリーがシャワーの方へ向かったので、私も後を追った。

 シャワーの前に置いてある浴槽用の椅子に座り、お湯を出していると、突然物音が鳴った。

 ガラッ

 誰かが入ってきた。他に誰か女性居たっけ?と思いながら、後ろを振り向くと、そこには黒いショートヘアの女の子が立っていた。女の子も私たちのことを、不思議そうな目で見ていた。

「あれ?お姉ちゃん達は……あ!そうか!スコピオ博士が呼んだ、ソーライ研究所の人達でしょ!」

 やばい。子どもはちょっと、今までロクな接点が無かったから、戸惑う!私は椅子をずらして、キリーの後ろに隠れた。するとキリーが優しくその子に声を掛けてくれた。ありがたや。

「うん、そうだよ。あなたは?」

「私はね、アマンダ!ヴィノクールから来てるの!ヴィノクールは知ってる?」

 キリーの隣に、アマンダと名乗る女の子が座った。ヴィノクール……それはルミネラ平原とハウリバー平原をへだてる、巨大なナディア川の、中腹辺りに存在している、莫大な面積を持つ湖の呼称だ。以前、自然の神秘という動画を見た時に、ヴィノクールの特集を放送していたのを思い出した。

 その湖の真ん中には、水上に浮かぶように古代遺跡のような建物があるんだけど、それは氷山の一角で、何と湖の中に、水の都、ヴィノクールという街があるのだ!人々は、湖や街のことを一括してヴィノクールと呼ぶから、彼女はその街から、来たのだろう。

 そこには帝都やユーク程じゃないけど、たくさんの人が住んでいて、彼らは食べるものや環境が影響して、ほぼ全員が水属性らしい。勿論、街の内部には、ちゃんと空気があり、街の最下層は敢えて水面があって、そこで人々は魚を養殖したり、漁をしたりして、生計を立てているらしい。

 因みに、そこの魚介類は絶品なの!ああ、食べたくなってきた!ヴィノクールのお刺身は帝国一と、その動画で話題になっていたのを思い出して、今年の夏休みに行こうと決めた。

 でもそっか、この子はヴィノクールの子なんだ~、確かに、ここグレン研究所からヴィノクールまでは近いので、よく遊びに来るのかな。何をしに、ここに居るんだろう。疑問に思ってるとキリーが話し掛けた。

「アマンダちゃんね。」

「アマンダでいいよ!」笑顔で答えた。「お姉ちゃんは、なんて名前?」

「私はキリーで、後ろでコソコソしてるのはリンだよ。」

 コソコソとか言うな!キリーをぶちたい気持ちになったが、アマンダが屈託のない笑顔で私に手を振ってくれたので、私も何とか堪えつつ、精一杯の笑顔をしながら、手を振った。アマンダが言った。

「キリーちゃんにリンちゃん!宜しくね!スコピオおじさん……じゃ無かった。博士と、火山にはもう行ってきたんでしょ?いいなぁ~。」

 アマンダはシャワーを浴び始めた。私達もシャワーを浴びた。浴びながら、キリーは度々アマンダに話し掛けている。すごいなぁ~私はどうも苦手で困った。そのうちに、キリーがアマンダに聞いた。

「ねえ、スコピオ博士とは何か関係があるの?」

「うん、私は博士の助手だよ!私は将来、このグレン研究所で働いて、絶対に火山博士になるんだ!あとスコピオ博士はね……私のお父さんの弟なんだって!だからおじちゃんって、たまに言っちゃうの。」

 なるほど!つまり彼女はスコピオ博士の姪なんだ!なるほどね~博士にもこんなに可愛らしい家族が居たとは。ちょっと微笑ましい。

 その後もアマンダの話を聞いていると、よくこの研究所に来ては、スコピオ博士と火山に行ったり、研究を手伝ったりしているらしい。小さい時から、スコピオ博士と火山に遊びに行っていたから、火山のことが大好きになったと言うことみたいだ。

 私達は一緒に湯船に浸かってからも、アマンダの火山に対する想いをずっと聞いていた。そう過ごしていくうちに、ちょっとだけ、私の子どもに対する苦手な意識が、薄れた気がした。
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