LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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緑の宝石!ヨーホー海賊船編

108 突然の告白

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 かくして、我々は無事に、ジェーンの二つめのパーツを回収することが出来た。無事じゃないかもしれない、そう、あのツアーの後ジェーンとチェイスはスタッフルームに案内され、特にチェイスの方が、怪我を治療してもらった。

 その後、私とジェーンの部屋に集まったが、チェイスの頭には包帯がぐるぐると巻かれている。私が飛び乗った時に船を揺らしてしまったから、彼のおでこに傷が出来てしまった。大丈夫だろうか、ネビリス皇帝怒らないだろうか……もう別件で怒ってるだろうけど。私はジュースの入ったグラスをチェイスに差し出しながら聞いた。

「大丈夫?おでこ腫れちゃったんだってね。」

「うん、大丈夫だよ。少し腫れただけだから、放っておけば二、三日で治るって!ありがとうね、キルディア。」

 椅子に座り微笑むチェイス、その表情見ると、余計に罪悪感が生まれる。私は肩をすぼめてベッドに座った。隣にはジェーンが座っていて、彼もジュースを飲んでいる。

「しかし」ジェーンが言った。「思った以上に苦戦しました。それもそうです、作戦など無かったのですから。」

 テーブルの上に置いてある緑の石は、拳に収まるほどの大きさだ。あれも約二千年前のものだと思うと、何だか不思議だった。でもよく考えればこの海だって、この空だって、二千年前と同じ物なのだ。そう考えればジェーンが帰った後も、私は彼と繋がり続けることが出来ると思えるだろうか。

 逆なら良かった。ジェーンが未来から来たのなら良かった。笑顔で最後送った後も、彼は生き続けていると思える。だが、ジェーンは過去の人間だ。これから必ず、今はもう無き文明の世界に彼は帰る。私はそれを笑顔で見送りすることになるが、そのあとは耐えられるだろうか。

 その瞬間から、彼はもうとっくの昔に亡くなっていることになるのだ。それを受け入れること、その心の準備は、今の私にはまだ無い。

「しかし」静かになってしまった部屋の中で、またジェーンが言った。

「今回は、あなたの協力無しでは達成出来なかったでしょう。我々に協力してくれて、どうもありがとうございました。チェイス。」

 チェイスは緑の石を見つめながら言った。

「こんなに綺麗で美しいものを、もう失くしたりしたらダメだよ、ジェーン。でも今回、僕だって、とても楽しかった。こうして誰かと旅行するって、実は初めてだったんだ。」

「それは……」ジェーンは鼻の頭を、人差し指で掻きながら言った。「私もです、キルディアは?」

「うん。ギルドの遠征、出張とかそういうのはあるけど、誰かとこうして旅行するのは初めて。」

 チェイスがパッと笑顔になった。

「そっか!じゃあみんな初めてだったんだ!それにしては色々とあったけど……楽しかったよ、僕は。願わくば、こんな世でなければね。」

 私とジェーンが同時に頷いた。

「チェイス、残念なことですが、もう暫く会えないと思います。」

「うん」チェイスは眼鏡をぐっと押し上げた。「そうだね、一般市民のまま生きていれば、こうはならなかったかもしれない。でもそれだと帝国研究所のボット研究室を、好き勝手使えないからね……。それは耐えられないんだ。ガーデニングボットで果物や、綺麗なお花を栽培出来るようになるのが僕や、町の人達だって楽しみにしてる、夢のようなものだから、僕はそれだけは成し遂げないといけない。その為なら、いくらでも、皇帝に従うよ。」

 悲しい程に優しい人だった。

「ねえ、ジェーン、キルディア。」

 チェイスは私とジェーンに両手を差し出した。私とジェーンは彼の手に、それぞれ自分の手を乗せると、彼の温かい手が優しく包んでくれた。そして顔を上げると、彼の瞳は赤かった。思わず、私も目頭が熱くなった。

「お願いだ、これから何があっても絶対に生き延びてくれ。そしてまた再会したときは、本気で戦おう。」

 彼の言葉に私達は頷いた。背負う覚悟の感じられる言葉だった。そしてチェイスはジェーンの手を離した。しかし何故か、私の手は離さない。

「な、何?」

「キルディア、伝えたいことがある。」

 それまでの優しい彼の声が変化して、芯の通った低い声になった。急に本気な声色でくるので、ちょっと驚きで目を見開いてしまった。チェイスは真剣に私を見つめて言った。

「あなたが花なら私は蜂。だけど優しい蜂ね。その魅惑的な花の香りに導かれ、私の心はあなたに奪われました。もう他の花など目に入りません。」

「んえ?」

 どういうことかと考えながら斜め上を見た時だった。チェイスがぐっと、私の腕を引っ張ったのだ。突然の出来事で、姿勢を崩した私は、彼の膝の上に、頭から突っ込んでしまった。椅子の肘置きに捕まって、「ごめん」と顔を上げた時だった。

 ちょうど頬を両手で掴まれて、私はチェイスに口づけを与えられてしまった。視界いっぱいにチェイスの顔があって、唇と唇が触れていて、柔らかい。初めての経験だったからなのか、一瞬でドキドキした。

 だがそれも一瞬で終わった。すぐに唇と唇の間に、無理やり手のひらが差し込まれ、そのまま私は口を押さえられて、ジェーンに引き剥がされて、ベッドに尻餅をついた。

「な、な、何を、何を、していますか!……チェイス!」

 初めてジェーンが怒鳴ったのを見てしまった。だが怒られたにも関わらず、椅子に座っているチェイスは、頬を赤く染めて、嬉しそうに微笑んでいる。

「ふ、ふふ。変な意味じゃないんだけど、キルディアが好きだな~と思って、我慢出来なかった。僕って結構、情熱的に行動するタイプなんだなって、今気づいたよ。今じゃないと、これが最後になるかもしれないからさ。写真で見た時に美しい人だって思った、でも昨日初めて会って、その美しさは、ほんの一部だったことに気付かされた。いつでも眺めていたいほどに、キルディアのことが好き。こんなに胸がドキドキするなんてことは、生まれて初めて知ったよ。」

 え、そうなの……。なんかそう言われると、どうしよう。生まれて初めて誰かに告白された。ちょっと照れてしまっていたが、ジェーンがチェイスの胸倉を思いっきり掴んだのに驚いて、その浮ついた気持ちが吹き飛んだ。

 ジェーンがチェイスを至近距離で睨みながら怒鳴った。

「これが狂憤と呼ばれる心持ちなのでしょうか?ああ、憤懣ふんまんやるかたないあなたの行い、私は狂いそうだ……何故なら、まるで色魔のようなあなたの軽率な振る舞い、彼女に対するたった数秒のその行為が、私の刺激いきを全くと言って無視している!これ以上乱暴な行いをしながら徹頭徹尾の嘘っぱちを決め込むのなら、その首、帝都に帰す訳にはいかない!」

 やばい、めっちゃ怒ってるけど、また新たなジェーンの一面が見れたことがちょっと面白くて、様子を見ることにした。しかしそれもすぐに後悔した。ジェーンが怒りながら、ついに笑い始めたのだ。どうやら第二ステージに入ったらしい。

「ふ、ふふ……ふはははは!ああ!可笑しいですね、チェイスよ、どうか私にご教示してくれ。今の行いは連合に対する策なのか?もしそうなのだとすれば、かなりの愚策だ。毒を持ち毒を制す、今こそ、それが本当に正しいものなのか立証する時が来た!」

「ま、待ってよ、ジェーン落ち着いてよ……違うって!本気なんだよ!キルディアへの気持ちは、本当のものなんだって!信じてよ!」

 ジェーン……ガチギレするとこんな風になるんだ、超怖いんですけど。それなのに、よくチェイスは反論出来るな……。私は大口を開けて、ビビってしまったが、ついにジェーンがチェイスの首を締め始めたので、私は慌ててジェーン達を引き剥がそうと間に入って、彼らを引き離そうとした。

 しかしジェーンの首を絞める力が思ったよりも強い。

「ジェーン!やめなって!本当に死んじゃうよ!」

「構いません、今から本気で戦いましょうよ、チェイス。どちらかが息の根を止めるまでだ!そうそうあなたは蜂なのでしょう?今すぐに蜂蜜にして差し上げますからね、ふはは!」

「蜂蜜は花粉グエエ」

「やめなって!」このままだと本当に彼を殺しかねない、私は叫んだ。

「なんでそんなにジェーンが怒るの!私は別に、そんなに怒ってないから、もういいから、ね?」

「……。」

 私の一言に、ジェーンが鼻でフンと息を漏らしながら、チェイスを椅子に叩きつけるように開放した。そして座りながら咳き込んでいるチェイスに向かって、ジェーンは自分の手の関節を鳴らし始めた。

「……上司に対する侮辱が過ぎます。到底許せません。」

 むせながらチェイスが立ち上がって、首を振って訴えた。

「ぶ、侮辱じゃないって、本当に……!でも、今の状況を考えると、僕の言ったことは不適切だった。それは謝るし、ジェーンがもうとても怖いから、ジェーンの前ではこれ以上はやめておくよ……。ごめんね、キルディアも。」

「まあ」私は答えた。「一瞬だったから、別に大丈夫。」

 チェイスが恍惚のため息を私についた。なんだか、本当に私のことが好きっぽい。

「はあ。こんなことをしたのは初めてだ。でもそうしたいと思える程に、君は美しいと思う。だからこれから何があるか分からないけど……もし世界が無事に平和になったら、デートして欲しいな。」

 そう言ってチェイスは微笑んだ。慣れない展開に、私は照れながら答えた。

「何とも言えないけど、考えておく。」

「ほんと!?良かった!」

 チェイスが笑顔で喜んでいる。私はちょっと拒否のつもりで答えたが、彼は手を叩いて喜んでいる。

「ああ、それだけで十分、僕にとっては生きる希望になった……じゃあ君の懐刀が怖いから、僕はもう自室に戻るよ、お休みなさい!」

 チェイスがドアの外に出て、一度我々を振り向いて、手を振ってきたので、私も彼に手を振った。ジェーンはさっと一瞬だけ手を振った。彼が帰ると、ジェーンはまだ怒っている様子で、ベッドに勢いをつけてドスンと座った。チェイスの使ったグラスを片付けている私を、ジロジロと見つめている。

「な、なに?まだ何か言いたいことでも?」

「……事実を教えてください。あなた、過去に接吻をした経験はありますか?」

「接吻って……」

 またすごい表現してくるな。

「おや、知りませんか?愛情や尊敬の気持ちを伝えるために相手の唇に自分の唇を「言葉の意味は知ってるよ!でも別に、そんなの関係無いでしょ?」

 グラスを持って洗面所に行き、それを洗った。
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