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ギルバート騎士団長を探せ編
119 ベールに包まれたもの
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ちょっとぐらいカメラで撮影したっていいじゃん。もうすぐギルバート騎士団長に会えるからって、キリー楽しみ過ぎて、興奮しすぎて、私のこと責めたくなっちゃったのかな。
私は、前を歩くキリーの踵をワザと踏んだ。キリーはそれでちょっと立ち止まったけど、また気にせずに歩き始めた。ふーんだ、何か反応してもいいのに。
それにしても、私も大人気ないのかもししれない。でも待てよ、キリーと普通に接することが出来ないと理由で大人気ないと言われるのなら、ジェーンなんかもう赤ちゃんになってしまうだろう。彼の無視具合は、私から見てもちょっと残酷すぎる。
一番笑えたのは、ロビーの丸いカウンターの周りを、話しかけたいキリーとそれを避けたいジェーンが、ハムスターのようにぐるぐる回っていたことだ。私は頑張って笑うことを我慢したが、心の中で顎の関節が外れるぐらいに大口を開けて爆笑した。ジェーンはきっと許せないのだろう。そう、彼はキリーのことが好きなのだ。
ああ、私がキハシ君からお金をゲット出来る夢は叶わないものとなった。しかも寧ろ払う側になってしまった。それもこれも全てはキリーのせいだ。私はまた彼女の踵を踏んだ。流石にキリーが振り返ったので、怒られると思ってビクッとした。
「リン、ワザとやってる?」
「ごめんね、ちょっとワザとだった。もうしない。」
「……分かった、はあ。」
元気が無いな、もうすぐギルバート騎士団長に会えるのに。ずっと遠くに離れ離れになっていた、幼い頃から想いを寄せていた相手に、やっと会えるんだから、私だったら大喜びで叫びながら、この戦場を駆け抜けて行っただろうに、キリーはテンション低めだ。ついでに言うと、クラースさんもジェーンもずっと黙っている。それもそうか、ここは戦場だった。
キリー達が先行して、私とジェーンは安全が確認された通路を進む。それを何度が繰り返していくと、白と青の鎧のような防具を装備した兵士達の集団が見えたのだ。物陰に身を潜めながら、私は小声で皆に話しかけた。
「見てみて!きっとアレだよ!」
「うるさいよ……」
つい、声が大きくなりかけてキリーにお叱りをもらいました。失敬失敬!でも更に私のテンションは爆上がりした。
何故なら、集団の槍兵の中に、ブレイブホースに乗った、一層と輝かしい鎧を身に纏った、凛々しい表情の青年が、只者でないオーラを放っていたのだ!青年は兜を付けておらず、たまにキョロキョロと辺りを見回している。アレはきっと、念願のギルバート騎士団長に違いない!ウホホッ!
私はキリーの肩をギュッと掴んだ。
「アレかなあれあれ!ギルバート騎士団長!」
掴むのが痛かったらしく、キリーが私の手を無言で取っ払った。何それ!じゃあ、こうするもんね!
私は彼女に罪悪感を抱かせるべく、ワザと大袈裟に転んだ。するとあろうことか、真横で座っていたクラースさんに倒れこんでしまい、私に体重をかけられたクラースさんはバランスを崩して、尻もちを思いっきりついてしまったのだ。その際に、草の音が響いてしまった。こりゃまずい……
「誰だ!」
槍兵の一人がクラースさんに気付いてしまった。これは私のせいになるのかな、多分なるな……。苦虫を噛み潰したような顔をしていると、クラースさんが「仕方ない」と呟いて立ち上がり、物陰から両手を広げながら出て行った。そのポーズは帝国民がよくやる、「敵意はありませんポーズ」だった。
そして私の隣で座っていたジェーンも、同じポーズで物陰から出て行ったのだ。やばい、ここで一緒に出ないと、私は裏切り者の烙印を押されることだろう。死にたくはないが、レジスタンスを信じて、私も一緒に同じポーズでゆっくりと通路に出た。しかし、あと一人足りない。キリーが居ないのだ。
……は?あの子、裏切った?まじで?
「キリー……?嘘でしょ?何処に行ったの、あなた?」
周りを見回すが、キリーの姿はどこにも見えない。クラースさんとジェーンもキョロキョロ探したが、ため息をついて終わった。こんなことある?ボスが、部下を置いて行くなんて。
「お前達は誰だ、ヘルメットを取れ!」
フルフェイスヘルメットを取りながら、ジェーンが言った。
「我々は、連合にも参加した、ソーライ研究所の職員です。今回はギルバート騎士団長に是非ともお会いしたく、こちらに参りました。」
「ソーライ研究所?ああ、連合の……。」
「皆!」その時、あの一際オーラの彼が叫んだ。「武器を下ろせ!彼らは我らの味方なり!」
若い、威厳のある声が響くと、周りの兵士達は武器を私達に向けるのをやめた。そして新型ブレイブホースから青年が降りて、真っ直ぐに私達を見つめながら近づいてきた。青い瞳、揺れる金色の髪、なんてまあ、色男なり!
私は両手を胸に当てて、よだれの垂れそうな顔で、彼を見つめた。
「うわあ……!すごくかっこいい!彼と仲がいいなんて、本当に羨ましいなぁ、キリー。今どこにいるか分からないけど。」
ギル様は私たちの前で立ち止まると、誰かを探し始めた。
「ん?先程もう一人いましたね?誰か、多分女性でしょうか?共にいませんでしたか?」
「居ましたよ」私は答えた。「でも逃げちゃったみたいですね、屁っ放り腰で。」
ちらっとジェーンを見たが、見ない方が良かった。彼はギル様のことを恨み辛み、はたまた憎悪のこもった眼差しで睨んでいたのだ。彼は今、ギル様とは全くジャンルの違うオーラを放っている。例えるならギル様が少女漫画の王子様で、ジェーンはサイコホラー映画の犯人だろう……。二人の世界観のギャップに、割と必死に笑いを堪えた。
でも!生のギルバート騎士団長に会えて良かった!私は自分の中で、一番可愛く見える顔を心がけて、目をパッチリとさせながら、彼に言った。
「逃げるなんて勿体ないですよね!折角、ギルバート騎士団長にお会い出来るのに!」
「ん?……あ……ああ!」
何かに気付いたギル様は、小走りで近くに茂みに向かって、走って行った。何をするのだろう?まさか用でも足す……いやいや、なんでこんなタイミングで、リンの馬鹿め!私は自分の頭をポコポコ殴った。
青年はその茂みの前に立つと、手首から変次元装置の細い剣を取り出して、何回か素早く剣を振って、草を払い切りした。するとその草むらの中には、キリーが苦い顔をして、しゃがんでいたのだ。まさかキリーの方が用を……?いやいやいや、そんな筈はない。
「おお!?おおおお!」ギル様は天を仰いで喜び始めた。まじか、このリアクションは確定だ。彼は構わずに叫んだ。「やっとお会い出来た!やっと……!あなたにお会いしたいが為に、帝国中を駆け回り、ずっと探しておりました!ああ、ここでとうとう、そのお顔を見ることが出来た!私は泣きそうです!」
「そうですか、」隣でジェーンの冷たい声が聞こえた。「そんなに会いたかったのですか、それはお熱いことだ。」
私はすかさずジェーンの腰を叩いた。元気を出せよ、色男!私だって、キハシ君に金を差し出すのは嫌なんだ。あのギル様がキリーのものだってことが分かっても、嫌なんだ。だが、次の瞬間だった。
なんとギル様は、キリーの目の前で、立て膝をついたのだ。そのポーズ、まさか!?帝国民がそのポーズをする時は、アレの時しかない!まさか!?私は息を飲んだまま、呼吸を忘れた。
「え!もしかして!ねえ、もしかしてだよ!ジェーン!」
「耳元で喧しいですね……。はあ、全く何を見せられているのでしょう。早くパーツの話をして「何言ってんのジェーン!これはあれしかないでしょう!ね、クラースさん!」
クラースさんは恥ずかしそうに周りを見て、私に言った。
「お前ちょっと落ち着け。分かったから。」
「はい、そうします……。」
ああ、目の前で私の友が、彼にプロポ……ああ!色々とあったけど、でも喜ぶべきかと思って、私は両手で拍手のスタンバイをした。そしてギル様はそのロマンチックな姿勢で、しゃがんだまま苦笑いを決め込んでいるキリーに向かって言った。
「この日を、この日を……!どれだけ我らは待ち望んでいたことか!ああ!」青年は一度大きく息を吸ってから、キリーをこう呼んだ。「……ギルバート騎士団長!」
「……え?」
この瞬間、何人もの人間が、その一言を放っていた。私も勿論、その一人だ。何を言っているんだこの男は、お前がギルバートだろうが?え?きっと隣のジェーンもそう思っているに違いない。だって彼は、今にもアゴが地面に落下しそうなほど大口を開けて、放心状態に入っている。
クラースさんはあまりの衝撃に、持っていたメットを地面に落としてしまった。そしてキリーは相変わらず、苦い顔をして、しゃがんで黙っている。誰とも目を合わさず、どこを見ているのか、ぼーっとしているのだ。
え?今日って水曜だっけ?木曜?違う違う、そんなことはどうでもいい。え?え?え?我々をよそに、その青年は、とうとうキリーの肩を掴んで、彼女の体を揺らした。
「私です、覚えているでしょう?忘れたとは言わせませんよ!あれだけ一緒に鍛錬を行ってきたんだ。あなたが居なくなった後も、私はギルバート騎士団長の戦い方をずっと続けてきたんです。ね、ほらあなたの補佐をしていたオーウェンですよ?ギルバート様!」
彼はブンブンとキリーの体を揺らしている。しかも話す程に不思議と、彼の魅力が失われていく。何だその子犬のようなデレデレ具合は……。そしてそれを聞いていたレジスタンスの兵達が、笑顔でキリーの元へと駆け寄ってきた。
「おお!師団長!それでは彼女が……!お間違えありませんか!?」
「ああ!」青年はとびっきりの笑顔で答えた。「この凛々しい瞳、このポニーテール!ギルバート様は私の士官学校時代の先輩であります!見間違えようのない、このお方こそ、我らのギルバート騎士団長ぞ!」
兵士たちは手を叩き合って喜び始めた。ちょ、ちょっと待ってよ、二、三確認させてよ……!私が何かを聞く前に、半歩前に出たジェーンが放心状態ののまま、質問をした。
「キルディア……あ、あ、あなた、キルディア・ルーカス・エリオットという名でしょう?そ、それが本名では……?」
するとその質問に、オーウェンが答えた。
「ルーカス・エリオット……ああ確か、ギルド伝説のプラチナランクの傭兵で、その名の者が居ましたね。あ!その名を借りたのでしょうか!?さすがギルバート様!お目が高い!」
お黙りなさいオーウェン、折角のルックスが水の泡になるだろうが!そのキリーに対する盲目的な崇拝を胸にしまってくれ。チワワのような君のデレデレを、早くパンドラの箱にしまって置いてくれなのだ……。私の中の色々な想いが、ガラガラと面白いように音を立てて崩れていく。
私は、力のない足で、ゾンビのような歩みで、キリーに近づいて、こう聞いた。
「じゃ、じゃあ、本名をお聞かせくださいまし。ギル、様?」
「今までごめんね、リン……。キルディア・ギルバート・カガリ。メルディス・オフィリア・カガリの第一子であります。以後お見知り置きを……。」
やだ!騎士のような話し方だ!そんなぁ!私はキリーに飛びかかった。キリーは、ぎょっとした顔をした。
「じゃあじゃあじゃあ!どうして帝都のパレードで見た時に、あんなに背が高かかかかかかったの!?何でみんな、ギル様を男だと思っていたのっ!?どうしてよぉ!」
「お、落ち着いてよ、リン。背が高く見えたのは、高さのある大きな鎧を着ていたからだと思う。ヴァルガだって着ているから、あんなに人外と思える程に大きい訳で。それにあまり市民には知られてないけど、騎士団は決まりで男性名を名乗るから、よく女性の騎士は性別を間違えられるよね……。シルヴァ様は見た目が派手だから、一目で女性だと分かっただろうけど、私の場合は、滅多に人前では防具を外さなかったし、声もそんなに高い方ではないから、ね……。」
んだぁ~ん!私は膝から崩れ落ちた。私の目の前で、オーウェンがご機嫌なイヌのように尻尾を振りながら、キリーのことをハグした。だから、トドメを刺すのをやめろくださいましあ……。
「ギルバート様、それでもまさか、連合を束ねていたとは、流石でございます!」
「もう様付けで呼ばないで……。それに連合は、皆のお蔭だから。」
「何を言いますか!……あ、危ない!」
オーウェンとキリーが同時に、頭上から飛んできた石の礫を、くるりと横に転がって避けた。二人の避け方が全く一緒だったことで、数々の疑念が全て払われてしまった。ジェーンも同じ気持ちなのだろうか、彼の横顔を見てみたが、彼は瞬き一つしないで、魂の抜け殻になっていた。
オーウェンが言った。
「ここは危険です。もう夜ですし、我らのベースキャンプに行きましょう!敵もこれ以上は深追いをしてこないでしょう、一応は警戒しますが。さあ早く!」
「撤収~!撤収~!」
皆はレジスタンスのベースキャンプに急ぎ、向かった。
私は、前を歩くキリーの踵をワザと踏んだ。キリーはそれでちょっと立ち止まったけど、また気にせずに歩き始めた。ふーんだ、何か反応してもいいのに。
それにしても、私も大人気ないのかもししれない。でも待てよ、キリーと普通に接することが出来ないと理由で大人気ないと言われるのなら、ジェーンなんかもう赤ちゃんになってしまうだろう。彼の無視具合は、私から見てもちょっと残酷すぎる。
一番笑えたのは、ロビーの丸いカウンターの周りを、話しかけたいキリーとそれを避けたいジェーンが、ハムスターのようにぐるぐる回っていたことだ。私は頑張って笑うことを我慢したが、心の中で顎の関節が外れるぐらいに大口を開けて爆笑した。ジェーンはきっと許せないのだろう。そう、彼はキリーのことが好きなのだ。
ああ、私がキハシ君からお金をゲット出来る夢は叶わないものとなった。しかも寧ろ払う側になってしまった。それもこれも全てはキリーのせいだ。私はまた彼女の踵を踏んだ。流石にキリーが振り返ったので、怒られると思ってビクッとした。
「リン、ワザとやってる?」
「ごめんね、ちょっとワザとだった。もうしない。」
「……分かった、はあ。」
元気が無いな、もうすぐギルバート騎士団長に会えるのに。ずっと遠くに離れ離れになっていた、幼い頃から想いを寄せていた相手に、やっと会えるんだから、私だったら大喜びで叫びながら、この戦場を駆け抜けて行っただろうに、キリーはテンション低めだ。ついでに言うと、クラースさんもジェーンもずっと黙っている。それもそうか、ここは戦場だった。
キリー達が先行して、私とジェーンは安全が確認された通路を進む。それを何度が繰り返していくと、白と青の鎧のような防具を装備した兵士達の集団が見えたのだ。物陰に身を潜めながら、私は小声で皆に話しかけた。
「見てみて!きっとアレだよ!」
「うるさいよ……」
つい、声が大きくなりかけてキリーにお叱りをもらいました。失敬失敬!でも更に私のテンションは爆上がりした。
何故なら、集団の槍兵の中に、ブレイブホースに乗った、一層と輝かしい鎧を身に纏った、凛々しい表情の青年が、只者でないオーラを放っていたのだ!青年は兜を付けておらず、たまにキョロキョロと辺りを見回している。アレはきっと、念願のギルバート騎士団長に違いない!ウホホッ!
私はキリーの肩をギュッと掴んだ。
「アレかなあれあれ!ギルバート騎士団長!」
掴むのが痛かったらしく、キリーが私の手を無言で取っ払った。何それ!じゃあ、こうするもんね!
私は彼女に罪悪感を抱かせるべく、ワザと大袈裟に転んだ。するとあろうことか、真横で座っていたクラースさんに倒れこんでしまい、私に体重をかけられたクラースさんはバランスを崩して、尻もちを思いっきりついてしまったのだ。その際に、草の音が響いてしまった。こりゃまずい……
「誰だ!」
槍兵の一人がクラースさんに気付いてしまった。これは私のせいになるのかな、多分なるな……。苦虫を噛み潰したような顔をしていると、クラースさんが「仕方ない」と呟いて立ち上がり、物陰から両手を広げながら出て行った。そのポーズは帝国民がよくやる、「敵意はありませんポーズ」だった。
そして私の隣で座っていたジェーンも、同じポーズで物陰から出て行ったのだ。やばい、ここで一緒に出ないと、私は裏切り者の烙印を押されることだろう。死にたくはないが、レジスタンスを信じて、私も一緒に同じポーズでゆっくりと通路に出た。しかし、あと一人足りない。キリーが居ないのだ。
……は?あの子、裏切った?まじで?
「キリー……?嘘でしょ?何処に行ったの、あなた?」
周りを見回すが、キリーの姿はどこにも見えない。クラースさんとジェーンもキョロキョロ探したが、ため息をついて終わった。こんなことある?ボスが、部下を置いて行くなんて。
「お前達は誰だ、ヘルメットを取れ!」
フルフェイスヘルメットを取りながら、ジェーンが言った。
「我々は、連合にも参加した、ソーライ研究所の職員です。今回はギルバート騎士団長に是非ともお会いしたく、こちらに参りました。」
「ソーライ研究所?ああ、連合の……。」
「皆!」その時、あの一際オーラの彼が叫んだ。「武器を下ろせ!彼らは我らの味方なり!」
若い、威厳のある声が響くと、周りの兵士達は武器を私達に向けるのをやめた。そして新型ブレイブホースから青年が降りて、真っ直ぐに私達を見つめながら近づいてきた。青い瞳、揺れる金色の髪、なんてまあ、色男なり!
私は両手を胸に当てて、よだれの垂れそうな顔で、彼を見つめた。
「うわあ……!すごくかっこいい!彼と仲がいいなんて、本当に羨ましいなぁ、キリー。今どこにいるか分からないけど。」
ギル様は私たちの前で立ち止まると、誰かを探し始めた。
「ん?先程もう一人いましたね?誰か、多分女性でしょうか?共にいませんでしたか?」
「居ましたよ」私は答えた。「でも逃げちゃったみたいですね、屁っ放り腰で。」
ちらっとジェーンを見たが、見ない方が良かった。彼はギル様のことを恨み辛み、はたまた憎悪のこもった眼差しで睨んでいたのだ。彼は今、ギル様とは全くジャンルの違うオーラを放っている。例えるならギル様が少女漫画の王子様で、ジェーンはサイコホラー映画の犯人だろう……。二人の世界観のギャップに、割と必死に笑いを堪えた。
でも!生のギルバート騎士団長に会えて良かった!私は自分の中で、一番可愛く見える顔を心がけて、目をパッチリとさせながら、彼に言った。
「逃げるなんて勿体ないですよね!折角、ギルバート騎士団長にお会い出来るのに!」
「ん?……あ……ああ!」
何かに気付いたギル様は、小走りで近くに茂みに向かって、走って行った。何をするのだろう?まさか用でも足す……いやいや、なんでこんなタイミングで、リンの馬鹿め!私は自分の頭をポコポコ殴った。
青年はその茂みの前に立つと、手首から変次元装置の細い剣を取り出して、何回か素早く剣を振って、草を払い切りした。するとその草むらの中には、キリーが苦い顔をして、しゃがんでいたのだ。まさかキリーの方が用を……?いやいやいや、そんな筈はない。
「おお!?おおおお!」ギル様は天を仰いで喜び始めた。まじか、このリアクションは確定だ。彼は構わずに叫んだ。「やっとお会い出来た!やっと……!あなたにお会いしたいが為に、帝国中を駆け回り、ずっと探しておりました!ああ、ここでとうとう、そのお顔を見ることが出来た!私は泣きそうです!」
「そうですか、」隣でジェーンの冷たい声が聞こえた。「そんなに会いたかったのですか、それはお熱いことだ。」
私はすかさずジェーンの腰を叩いた。元気を出せよ、色男!私だって、キハシ君に金を差し出すのは嫌なんだ。あのギル様がキリーのものだってことが分かっても、嫌なんだ。だが、次の瞬間だった。
なんとギル様は、キリーの目の前で、立て膝をついたのだ。そのポーズ、まさか!?帝国民がそのポーズをする時は、アレの時しかない!まさか!?私は息を飲んだまま、呼吸を忘れた。
「え!もしかして!ねえ、もしかしてだよ!ジェーン!」
「耳元で喧しいですね……。はあ、全く何を見せられているのでしょう。早くパーツの話をして「何言ってんのジェーン!これはあれしかないでしょう!ね、クラースさん!」
クラースさんは恥ずかしそうに周りを見て、私に言った。
「お前ちょっと落ち着け。分かったから。」
「はい、そうします……。」
ああ、目の前で私の友が、彼にプロポ……ああ!色々とあったけど、でも喜ぶべきかと思って、私は両手で拍手のスタンバイをした。そしてギル様はそのロマンチックな姿勢で、しゃがんだまま苦笑いを決め込んでいるキリーに向かって言った。
「この日を、この日を……!どれだけ我らは待ち望んでいたことか!ああ!」青年は一度大きく息を吸ってから、キリーをこう呼んだ。「……ギルバート騎士団長!」
「……え?」
この瞬間、何人もの人間が、その一言を放っていた。私も勿論、その一人だ。何を言っているんだこの男は、お前がギルバートだろうが?え?きっと隣のジェーンもそう思っているに違いない。だって彼は、今にもアゴが地面に落下しそうなほど大口を開けて、放心状態に入っている。
クラースさんはあまりの衝撃に、持っていたメットを地面に落としてしまった。そしてキリーは相変わらず、苦い顔をして、しゃがんで黙っている。誰とも目を合わさず、どこを見ているのか、ぼーっとしているのだ。
え?今日って水曜だっけ?木曜?違う違う、そんなことはどうでもいい。え?え?え?我々をよそに、その青年は、とうとうキリーの肩を掴んで、彼女の体を揺らした。
「私です、覚えているでしょう?忘れたとは言わせませんよ!あれだけ一緒に鍛錬を行ってきたんだ。あなたが居なくなった後も、私はギルバート騎士団長の戦い方をずっと続けてきたんです。ね、ほらあなたの補佐をしていたオーウェンですよ?ギルバート様!」
彼はブンブンとキリーの体を揺らしている。しかも話す程に不思議と、彼の魅力が失われていく。何だその子犬のようなデレデレ具合は……。そしてそれを聞いていたレジスタンスの兵達が、笑顔でキリーの元へと駆け寄ってきた。
「おお!師団長!それでは彼女が……!お間違えありませんか!?」
「ああ!」青年はとびっきりの笑顔で答えた。「この凛々しい瞳、このポニーテール!ギルバート様は私の士官学校時代の先輩であります!見間違えようのない、このお方こそ、我らのギルバート騎士団長ぞ!」
兵士たちは手を叩き合って喜び始めた。ちょ、ちょっと待ってよ、二、三確認させてよ……!私が何かを聞く前に、半歩前に出たジェーンが放心状態ののまま、質問をした。
「キルディア……あ、あ、あなた、キルディア・ルーカス・エリオットという名でしょう?そ、それが本名では……?」
するとその質問に、オーウェンが答えた。
「ルーカス・エリオット……ああ確か、ギルド伝説のプラチナランクの傭兵で、その名の者が居ましたね。あ!その名を借りたのでしょうか!?さすがギルバート様!お目が高い!」
お黙りなさいオーウェン、折角のルックスが水の泡になるだろうが!そのキリーに対する盲目的な崇拝を胸にしまってくれ。チワワのような君のデレデレを、早くパンドラの箱にしまって置いてくれなのだ……。私の中の色々な想いが、ガラガラと面白いように音を立てて崩れていく。
私は、力のない足で、ゾンビのような歩みで、キリーに近づいて、こう聞いた。
「じゃ、じゃあ、本名をお聞かせくださいまし。ギル、様?」
「今までごめんね、リン……。キルディア・ギルバート・カガリ。メルディス・オフィリア・カガリの第一子であります。以後お見知り置きを……。」
やだ!騎士のような話し方だ!そんなぁ!私はキリーに飛びかかった。キリーは、ぎょっとした顔をした。
「じゃあじゃあじゃあ!どうして帝都のパレードで見た時に、あんなに背が高かかかかかかったの!?何でみんな、ギル様を男だと思っていたのっ!?どうしてよぉ!」
「お、落ち着いてよ、リン。背が高く見えたのは、高さのある大きな鎧を着ていたからだと思う。ヴァルガだって着ているから、あんなに人外と思える程に大きい訳で。それにあまり市民には知られてないけど、騎士団は決まりで男性名を名乗るから、よく女性の騎士は性別を間違えられるよね……。シルヴァ様は見た目が派手だから、一目で女性だと分かっただろうけど、私の場合は、滅多に人前では防具を外さなかったし、声もそんなに高い方ではないから、ね……。」
んだぁ~ん!私は膝から崩れ落ちた。私の目の前で、オーウェンがご機嫌なイヌのように尻尾を振りながら、キリーのことをハグした。だから、トドメを刺すのをやめろくださいましあ……。
「ギルバート様、それでもまさか、連合を束ねていたとは、流石でございます!」
「もう様付けで呼ばないで……。それに連合は、皆のお蔭だから。」
「何を言いますか!……あ、危ない!」
オーウェンとキリーが同時に、頭上から飛んできた石の礫を、くるりと横に転がって避けた。二人の避け方が全く一緒だったことで、数々の疑念が全て払われてしまった。ジェーンも同じ気持ちなのだろうか、彼の横顔を見てみたが、彼は瞬き一つしないで、魂の抜け殻になっていた。
オーウェンが言った。
「ここは危険です。もう夜ですし、我らのベースキャンプに行きましょう!敵もこれ以上は深追いをしてこないでしょう、一応は警戒しますが。さあ早く!」
「撤収~!撤収~!」
皆はレジスタンスのベースキャンプに急ぎ、向かった。
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