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作戦が大事!アクロスブルー編
162 願わくば起きている間に
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アクロスブルーに向かう途中、ミリアム食堂からはいつもと同じ、パイナップルを焼いた甘い匂いが漂っていた。晴れた空は、戦いに向かう私の心を勇気付けてくれた。この澄み切った青も、この甘ったるい匂いも、手渡す訳にはいかない。
この日こそが、チェイスが我々と合流する日だった。私を始めとしたLOZの兵達が、ヤシの木通りから繋がっている、アクロスブルーラインのトンネルの入り口に集結した。
兵達は今までのライダースーツではなく、もっと細身になり、LOZのロゴの入った、より動きやすく防弾性の高い、淡い水色の戦闘スーツに統一された。
フルフェイスヘルメットでは無く、より兜に近いデザインで、顔面にはシールドが付いている。頭頂部は硬い素材で覆われており、後頭部は髪が出せるようになっている。このファンタジーなデザインを考えたのは勿論、我らがユーク市長だった。
そして新しいスーツに身を包む我々の足元のアスファルトには、Kエリアという白い文字が書かれている。
この場所がアクロスブルーラインのKエリアであり、正反対のルミネラ平原側はAエリアだ。現在アクロスブルーは緊急事態による封鎖がされていて、一般市民は誰も通れないようになっていた。
私は少しばかりオレンジの光で灯されているトンネルを眺めた後に、振り返って、揃っている兵達に向かい、大声で伝えた。
「チェイスの話だと、敵軍は我々の先鋒隊がBエリアに着き次第、Eエリアに潜んでいるヴァルガ隊が出現して、我々の先鋒隊に対して奇襲をかけるようです。話した通り、先鋒隊にはオーウェン、リン、それからジェーンの部隊を行かせます。そして後方、ここに近いJエリアで待機するのは、私とゲイル、クラース隊です。」
私の話を聞いていたLOZの兵達が、はっ!と声を上げた。訓練を繰り返していくうちに、皆段々と兵士っぽくなってきた。私とオーウェンによる集団演習のおかげで最初はバラバラだった動きが統率を覚え、実戦でも申し分ないほどに成長した。それが頼もしくて、少し切なかった。
そして私の隣で立っているジェーンが、自分の部隊を手招きながら言った。
「それでは我々は、チェイスが居るAエリアに向かうとしましょうか。」
「はいはーい!」と叫んだのは、両手を空に掲げて楽しげに飛び跳ねているリンだった。「行こう行こう!早く行こう!」
いつもと変わらない彼女に様子だったので、周りから笑いが漏れた。私も微笑みながらリンに向かって言った。
「リン達も、気を付けてね。何が起こるか分からない。」
リンはピンク色の短機関銃をぷらぷらとさせながら応えた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって!さあ、早く行こう、もうチェイスさん待ちくだびれているよ。オーウェンさん行こう!」
「はい、リンさん!」オーウェンは凛々しい笑みを浮かべた。「時間が勿体ないですね、さあ皆、続け!」
オーウェン達先鋒部隊は、Aエリアに向かうべく、大きな輸送車に乗り込んで、すぐにそれらはオレンジ色のランプで照らされているトンネル内に向かって発進した。何台もの輸送車が、次々にアクロスブルー内に消えて行った。
少ししてから我々後方本部隊も移動を開始した。私とクラースさんとゲイルさんと少数の兵は同じ輸送車に乗り込み、トンネル内を走り出した。
すっ、すっ、とオレンジの明かりが車内に入ってくる。車内は緊張した空気になり、興奮した誰かの呼吸音が聞こえ、兵が握っている銃がカタっと鳴った。助手席に座る私は、ウォッフォンで現在地を確認した。
アクロスブルーラインはAエリアから、BCDEFGHIJKとアルファベット順にエリアが分けられている。
我々の輸送車はチェイスの助言通り、すぐにJエリアに到着すると、停止した。それに続いて我々後方の輸送車も停止した。運転席のクラースさんが、ハンドルに少し寄りかかりながら、手のひらで顔の汗を拭った。
今、オーウェン率いる先鋒隊は、他に邪魔のない高速道路を爆走して、Gエリアまで進んでいた。トンネルは長い。あと数十分でチェイスの待機しているAエリアに着くだろう。
その後は、ヴァルガを陥れるだけだ。しかし、私の心は落ち着かなかった。手のひらが震えて、身体の奥に冷んやりと嫌な感覚が存在している。
遂に私は、痺れを切らし、クラースさんに頼んだ。
「ちょっと、もうちょっとだけ、前に行ってくれる?」
「え?」クラースさんが驚いた顔で私を見た。彼は私の嫌悪感丸出しの顔を見て、戸惑ったのか目が泳いだ。「どうした?ここで待機しろと言われただろうが。それに前に行けと言われても、あまりEエリアに近付くと、ヴァルガ隊に感づかれるだろう?作戦が水の泡になるし、そうなればチェイスが危ない。」
「でも、Eエリアにヴァルガが居るなら、Gぐらいまで行ったって気付かれないって。その方が、ヴァルガ隊が出てきた直後に、我々が交戦可能になるでしょ?そうした方がいいって。我々は前線に出るタイプの後方部隊だ。今回の最前線は、実はEエリアなのだから、近くに行こうよ。お願い。」
「ん……それはまた、思い切った行動だが……。」と、クラースさんは唇を噛んで考えて、少ししてからアクセルを踏んだ。Jエリアで待機していた我々後方部隊は、ゆっくりと発進し始めた。
*********
私達を乗せた車は、ヴァルガが潜んでいると思われるEエリアを静かに通り過ぎて、順調に先に進んでいる。
車内では相も変わらない様子のリンが「トンネルを車で通るのは久しぶりなんだけど!」や、「ねえねえジェーン、キリーと今度二人でドライブしなよ!やっぱり車ってまた違う密室だから、進展するよ?」などと煩い。同じ車内にいる兵達の困惑した顔が、貴様には見えないのかと不思議で堪らない。
暫く進んでいき、その間私は、チェイスに何を言おうか考えていた。おかえりチェイス、そんな言葉はくだらない。ここに来てもいいが、私の下だということを理解して頂きたい。それは言うべきか。ふと、昨日の夜中に、私の隣で眠るキルディアを思い出した。
将棋、楽しかった。私があの手の遊びで負けることなど、今迄で一度も無かった。夢でも彼女と将棋をしていて、また負けてしまって、ふと目が覚めた。すると彼女は私の腕に抱きつきながら寝ていたのだ。私は眠れなくなった。
昨夜、実は、彼女のおでこに口付けをした。するとそれだけでは足りぬと心が叫んだ。暫し考えた後、私は思い切って、馬鹿げた行為をした。
眠る彼女の唇を奪ったのだ。一度だけでは無い。チェイスに奪われた分も、タージュに奪われそうになった分も、私がこれまで抑えていた分も、彼女を起こさないように気を付けながら、何度も何度も口を付けた。
その時ほど、胸が激しく燃え滾った事は無い。今でも、思い出すだけで、火をつけたかのように顔が、身体が、熱くなる。
その後の私は、胸に抱えきれない程の興奮と恥ずかしさで彼女の顔が見られなくなり、ベッドの中で移動して、彼女のお腹に頭を寄せて抱きついた。
気がつくとそのまま朝になっていた。あれは夢だったのか、そうとも思える程に、浅い眠りの中で起きた出来事だったが、今となってははっきりと思い出せるので、私はつい、顔を手で隠した。
「ジェーン、」と、私に声を掛けたのは、隣に座るリンだった。
「何か?」
「……緊張してる?なんか手が、震えてる。」
確かに、彼女に指摘されて気が付いた。私の手は震えていた。武者震いでは無いだろう、私は命を賭けた戦いで興奮するような性格では無い。正直に答えた。
「何でしょうね、私もよく分かりません。」
「そうなんだ。」と彼女は足をぷらぷらと動かしながら頷いた。「ねえジェーン、相談に乗ってくれる?」
「私に相談をなさるのですか?」
「いいじゃん、聞いてよ。」
気が乗らないが、その相談を聞くことにした。理由は、彼女がキルディアの友人だからだ。そうでなければとっくの昔に無視していた。そしてリンは、私の目をじっと見つめながら言った。
「あのね、この戦いから帰ったら、私、ラブ博士とキスがしたい。」
「……は。はっはっは。」
自分でも不可解なことに、その単語を聞いただけで私は何故か、笑ってしまった。昨日のことを思い出したのだ。しかしリンは自分が笑われたのだと勘違いをして、私の肩を殴った。少し痛かった。
「ちょっと!別にいいでしょ!?……最近特に仲が良くて、一緒に帰ったりするし、一緒に食事したりする。それにこの戦いが始まる前だって、わざわざ私の自宅まで来て、無事でいてくれって言ってくれた。それだってとっても嬉しいよ。私はラブ博士が好き。だから、帰ったらキスしたい。」
「好きだからキスをするのですか?」
「え?そうでしょ?ジェーンはロボットだから、分からないだろうけどね。普通は、好きになったらキスしたいよ。愛を感じるもの、アモーレ。」
薄々感じてはいたが、どうやら私は、本当にキルディアのことが好きらしい。そばにいたいのも、口付けをしたいのも、独占したいのも、全て、私が彼女を愛しているからなのだろう。この手の震えは、初めて愛情を感じた我が身が、そうさせているに違いない。私は幸せな反芻をしていたが、リンは構わず話し続けた。
「ジェーンに教えてあげようか。好きな人とするキスはさ、本当に痺れるよ。何日経っても、その感覚が取れないもの。特に初恋の類はやばいね。あれはマジで殺人級の感覚。だからジェーンもさ、好きな人にはキスしたほうがいいよ。人生一度きり、しかもその人生は時間で出来ている。その時間をどう使うかは、今の自分が決めること。そうでしょ?」
私はため息をついた。彼女にしては至極まともなことを話している。私は彼女に同意をした。
「その通りです。後悔しないように、生きていきたいものです。あなたのことを応援しますよ。」
「え?マジで?あ、ありがとう。」
何故か、リンは呆気に取られた顔で、私を見つめてそう言った。今度は起きているキルディアと、正式な口付けをしたいが、私が妻帯者である限りは難しいだろう。ならば、それを変えるしかない。私はもう二度と、後悔をしたくない。
この日こそが、チェイスが我々と合流する日だった。私を始めとしたLOZの兵達が、ヤシの木通りから繋がっている、アクロスブルーラインのトンネルの入り口に集結した。
兵達は今までのライダースーツではなく、もっと細身になり、LOZのロゴの入った、より動きやすく防弾性の高い、淡い水色の戦闘スーツに統一された。
フルフェイスヘルメットでは無く、より兜に近いデザインで、顔面にはシールドが付いている。頭頂部は硬い素材で覆われており、後頭部は髪が出せるようになっている。このファンタジーなデザインを考えたのは勿論、我らがユーク市長だった。
そして新しいスーツに身を包む我々の足元のアスファルトには、Kエリアという白い文字が書かれている。
この場所がアクロスブルーラインのKエリアであり、正反対のルミネラ平原側はAエリアだ。現在アクロスブルーは緊急事態による封鎖がされていて、一般市民は誰も通れないようになっていた。
私は少しばかりオレンジの光で灯されているトンネルを眺めた後に、振り返って、揃っている兵達に向かい、大声で伝えた。
「チェイスの話だと、敵軍は我々の先鋒隊がBエリアに着き次第、Eエリアに潜んでいるヴァルガ隊が出現して、我々の先鋒隊に対して奇襲をかけるようです。話した通り、先鋒隊にはオーウェン、リン、それからジェーンの部隊を行かせます。そして後方、ここに近いJエリアで待機するのは、私とゲイル、クラース隊です。」
私の話を聞いていたLOZの兵達が、はっ!と声を上げた。訓練を繰り返していくうちに、皆段々と兵士っぽくなってきた。私とオーウェンによる集団演習のおかげで最初はバラバラだった動きが統率を覚え、実戦でも申し分ないほどに成長した。それが頼もしくて、少し切なかった。
そして私の隣で立っているジェーンが、自分の部隊を手招きながら言った。
「それでは我々は、チェイスが居るAエリアに向かうとしましょうか。」
「はいはーい!」と叫んだのは、両手を空に掲げて楽しげに飛び跳ねているリンだった。「行こう行こう!早く行こう!」
いつもと変わらない彼女に様子だったので、周りから笑いが漏れた。私も微笑みながらリンに向かって言った。
「リン達も、気を付けてね。何が起こるか分からない。」
リンはピンク色の短機関銃をぷらぷらとさせながら応えた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって!さあ、早く行こう、もうチェイスさん待ちくだびれているよ。オーウェンさん行こう!」
「はい、リンさん!」オーウェンは凛々しい笑みを浮かべた。「時間が勿体ないですね、さあ皆、続け!」
オーウェン達先鋒部隊は、Aエリアに向かうべく、大きな輸送車に乗り込んで、すぐにそれらはオレンジ色のランプで照らされているトンネル内に向かって発進した。何台もの輸送車が、次々にアクロスブルー内に消えて行った。
少ししてから我々後方本部隊も移動を開始した。私とクラースさんとゲイルさんと少数の兵は同じ輸送車に乗り込み、トンネル内を走り出した。
すっ、すっ、とオレンジの明かりが車内に入ってくる。車内は緊張した空気になり、興奮した誰かの呼吸音が聞こえ、兵が握っている銃がカタっと鳴った。助手席に座る私は、ウォッフォンで現在地を確認した。
アクロスブルーラインはAエリアから、BCDEFGHIJKとアルファベット順にエリアが分けられている。
我々の輸送車はチェイスの助言通り、すぐにJエリアに到着すると、停止した。それに続いて我々後方の輸送車も停止した。運転席のクラースさんが、ハンドルに少し寄りかかりながら、手のひらで顔の汗を拭った。
今、オーウェン率いる先鋒隊は、他に邪魔のない高速道路を爆走して、Gエリアまで進んでいた。トンネルは長い。あと数十分でチェイスの待機しているAエリアに着くだろう。
その後は、ヴァルガを陥れるだけだ。しかし、私の心は落ち着かなかった。手のひらが震えて、身体の奥に冷んやりと嫌な感覚が存在している。
遂に私は、痺れを切らし、クラースさんに頼んだ。
「ちょっと、もうちょっとだけ、前に行ってくれる?」
「え?」クラースさんが驚いた顔で私を見た。彼は私の嫌悪感丸出しの顔を見て、戸惑ったのか目が泳いだ。「どうした?ここで待機しろと言われただろうが。それに前に行けと言われても、あまりEエリアに近付くと、ヴァルガ隊に感づかれるだろう?作戦が水の泡になるし、そうなればチェイスが危ない。」
「でも、Eエリアにヴァルガが居るなら、Gぐらいまで行ったって気付かれないって。その方が、ヴァルガ隊が出てきた直後に、我々が交戦可能になるでしょ?そうした方がいいって。我々は前線に出るタイプの後方部隊だ。今回の最前線は、実はEエリアなのだから、近くに行こうよ。お願い。」
「ん……それはまた、思い切った行動だが……。」と、クラースさんは唇を噛んで考えて、少ししてからアクセルを踏んだ。Jエリアで待機していた我々後方部隊は、ゆっくりと発進し始めた。
*********
私達を乗せた車は、ヴァルガが潜んでいると思われるEエリアを静かに通り過ぎて、順調に先に進んでいる。
車内では相も変わらない様子のリンが「トンネルを車で通るのは久しぶりなんだけど!」や、「ねえねえジェーン、キリーと今度二人でドライブしなよ!やっぱり車ってまた違う密室だから、進展するよ?」などと煩い。同じ車内にいる兵達の困惑した顔が、貴様には見えないのかと不思議で堪らない。
暫く進んでいき、その間私は、チェイスに何を言おうか考えていた。おかえりチェイス、そんな言葉はくだらない。ここに来てもいいが、私の下だということを理解して頂きたい。それは言うべきか。ふと、昨日の夜中に、私の隣で眠るキルディアを思い出した。
将棋、楽しかった。私があの手の遊びで負けることなど、今迄で一度も無かった。夢でも彼女と将棋をしていて、また負けてしまって、ふと目が覚めた。すると彼女は私の腕に抱きつきながら寝ていたのだ。私は眠れなくなった。
昨夜、実は、彼女のおでこに口付けをした。するとそれだけでは足りぬと心が叫んだ。暫し考えた後、私は思い切って、馬鹿げた行為をした。
眠る彼女の唇を奪ったのだ。一度だけでは無い。チェイスに奪われた分も、タージュに奪われそうになった分も、私がこれまで抑えていた分も、彼女を起こさないように気を付けながら、何度も何度も口を付けた。
その時ほど、胸が激しく燃え滾った事は無い。今でも、思い出すだけで、火をつけたかのように顔が、身体が、熱くなる。
その後の私は、胸に抱えきれない程の興奮と恥ずかしさで彼女の顔が見られなくなり、ベッドの中で移動して、彼女のお腹に頭を寄せて抱きついた。
気がつくとそのまま朝になっていた。あれは夢だったのか、そうとも思える程に、浅い眠りの中で起きた出来事だったが、今となってははっきりと思い出せるので、私はつい、顔を手で隠した。
「ジェーン、」と、私に声を掛けたのは、隣に座るリンだった。
「何か?」
「……緊張してる?なんか手が、震えてる。」
確かに、彼女に指摘されて気が付いた。私の手は震えていた。武者震いでは無いだろう、私は命を賭けた戦いで興奮するような性格では無い。正直に答えた。
「何でしょうね、私もよく分かりません。」
「そうなんだ。」と彼女は足をぷらぷらと動かしながら頷いた。「ねえジェーン、相談に乗ってくれる?」
「私に相談をなさるのですか?」
「いいじゃん、聞いてよ。」
気が乗らないが、その相談を聞くことにした。理由は、彼女がキルディアの友人だからだ。そうでなければとっくの昔に無視していた。そしてリンは、私の目をじっと見つめながら言った。
「あのね、この戦いから帰ったら、私、ラブ博士とキスがしたい。」
「……は。はっはっは。」
自分でも不可解なことに、その単語を聞いただけで私は何故か、笑ってしまった。昨日のことを思い出したのだ。しかしリンは自分が笑われたのだと勘違いをして、私の肩を殴った。少し痛かった。
「ちょっと!別にいいでしょ!?……最近特に仲が良くて、一緒に帰ったりするし、一緒に食事したりする。それにこの戦いが始まる前だって、わざわざ私の自宅まで来て、無事でいてくれって言ってくれた。それだってとっても嬉しいよ。私はラブ博士が好き。だから、帰ったらキスしたい。」
「好きだからキスをするのですか?」
「え?そうでしょ?ジェーンはロボットだから、分からないだろうけどね。普通は、好きになったらキスしたいよ。愛を感じるもの、アモーレ。」
薄々感じてはいたが、どうやら私は、本当にキルディアのことが好きらしい。そばにいたいのも、口付けをしたいのも、独占したいのも、全て、私が彼女を愛しているからなのだろう。この手の震えは、初めて愛情を感じた我が身が、そうさせているに違いない。私は幸せな反芻をしていたが、リンは構わず話し続けた。
「ジェーンに教えてあげようか。好きな人とするキスはさ、本当に痺れるよ。何日経っても、その感覚が取れないもの。特に初恋の類はやばいね。あれはマジで殺人級の感覚。だからジェーンもさ、好きな人にはキスしたほうがいいよ。人生一度きり、しかもその人生は時間で出来ている。その時間をどう使うかは、今の自分が決めること。そうでしょ?」
私はため息をついた。彼女にしては至極まともなことを話している。私は彼女に同意をした。
「その通りです。後悔しないように、生きていきたいものです。あなたのことを応援しますよ。」
「え?マジで?あ、ありがとう。」
何故か、リンは呆気に取られた顔で、私を見つめてそう言った。今度は起きているキルディアと、正式な口付けをしたいが、私が妻帯者である限りは難しいだろう。ならば、それを変えるしかない。私はもう二度と、後悔をしたくない。
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