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迷いとミニキルディア編
195 夜風のデッキ
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「私はもう帰った方がいい?何故です?私は、ネビリスを倒すまで、共に戦い続けると、約束しました。」
「……うん。それは覚えているよ。でも、帝都を攻略しようとなると、城壁の自警システムは完全だし、ネビリスとチェイスは城で構えるから、その防衛線を崩すとなると、今までとはまるで違って、かなりの人間が犠牲になるだろう……果たして、その状態で私は、ジェーンを守れるだろうか?彼は、元の世界に戻らないといけないんだ。この世界で死ぬべきでは無いよ。」
と、リンの方を向いた。キルディアの言うことも一理あるが、そもそも、どうしてリンに尋ねる?腑に落ちないと思いながらも、リンの回答に耳を傾けた。
「だ、大丈夫だよキリー。ジェーンってほら害虫のようにしぶといから「誰が害虫ですって?」キリーが守れなくっても、大丈夫だって!それに相手にチェイスがいるのに、どうやってジェーン無しで対抗するつもり?どう考えたって、ジェーンの脳みそが必要だよ!タージュ博士じゃダメなの!分かるでしょ?」
「分かるよ……。」
彼女の即答ぶりに、私は口角を上げてしまった。この件は、タージュには黙って置いた方が良いだろう。リンの例えが気に食わないが、今はキルディアの気持ちを支えるべきだ。男として、彼女の大切な存在として……出来れば、あのタマラの部屋では、彼女に関係を訂正して欲しかったが。これは私の胸の中にしまっておく。私は彼女に言った。
「キルディア、何も、今この場所で考え込まなくても宜しいと思います。その時になったら、一番最適な解決方法を見つけましょう。状況は一刻一刻と変化していきますから、臨機応変に思考し、行動する事は、いつの時代においても変わらずに、大切なことです。」
キルディアは顔を上げて、頷いた。先程からずっと、遠くの海ばかり見つめて、私のことを見てはくれない。それだけで、私は胸がチクチクと痛んだ。
この痛みは、以前よりも、頻度も、痛みのレベルも増している。そしてそれは、彼女と二人きりになった時に、激しい鼓動に変化する。私だって、それを手放す事は、もうとても考えられないのだ。
「うん、そうだね。私が弱気になっていて、どうするって話だ。」彼女は少し笑った。「ジェーン、リン、ありがとう。そうだよね、皆が無事に乗り越える方法を、今までだって考えて、実行して来たんだ。これからも、皆が私のそばにいてくれるなら、なんとかなる。ふふ。」
「そうそう!そうだって!」リンが笑顔で手をパチパチ叩き、それから何かを思い出した。「あ!そうだ!聞いてほしいんだけど!聞いて!ねえ聞いて!ジェーン、ほら聞いて!」
「聞いていますよ、煩いですね。」
「なら良かった!あのね、牢屋に入れられてる時に、チェイスとお話ししたんだよ!」
私とキルディアが、同時にリンを見た。私は聞いた。
「チェイスと?」
「そうそう!なんかねぇ、ジェーンのことを教えてくれって言ってたから、適当に好物はヤモリの唐揚げだとか、トイレに新聞持って入ったら長引くとか言っといた!」
「あっはっはっは!ヒィー!」
腹を抱えて笑っているのは、キルディアだった。私はムッとして彼女の肩を叩くと、彼女は「ごめん!だって確かに新聞持ってく、ヒィー」とまた笑った。リンめ、くだらないことで私を羞恥の沼に突き落としおって!しかしキルディアが笑ってくれたので、許すべきか……。
「それでね!」リンは笑顔で続けた。「ジェーンのことが知りたいのかなって思ってたんだけど、話を聞くうちに、ちょっと事情が変わってきたの!あれは絶対に、キリーのことを気にしてたね!ジェーンに奥さんいるって言ったら、喜んでたし!」
あの男……この情勢になっても依然、キルディアのことを考えていたとは。無意識に力の入った私の拳が、ギリギリと音を立てている。もし、もう一度私の目の前で、彼女の柔らかい唇を奪ったとしたら……彼はもう二度と、次の朝日を見ることは出来ないだろう。
キルディアは私のものだ。キルディアが愛情を受けるべきなのは、私からのみだ。昔よりも今、昨日よりも今日。この胸にはどんどんと、しまい切れないほどの感情が、生まれてきている。この状態の私の前で、キルディアに手を出すことは、死を意味していると称しても過言では無い。
ああ、その時の為に、SAKURAの弾丸を取っておけば良かったのだ。七つの孤島でモンスターに襲われた時や、あの骸骨を見て驚いた時に発砲して何発か使用し、先日のオーバーフィールドでシルヴァに対して使った。それは彼女の為の一発だったので、仕方ないが。
「ジェーン、大丈夫?目つき怖いよ?」
リンの言葉にハッとした。二人が私のことを、心配そうに見ていた。私は眼鏡を指で調節して、答えた。
「……はい、今は、拳銃の弾を、取っておけば良かったと考えておりました。」
二人は苦笑いをした。そしてキルディアが言った。
「物騒な……でも拳銃って、シルヴァに使った、あの銃のことだよね?あれはおじいさんの形見って言ってたけれど、地上出身なんだよね?」
「はい、そうです。祖父の父、私の曽祖父は地上で衛兵のような職に就いておりました。それを何らかの方法で、祖父が受け継いだのでしょう。詳細は私も存じておりません。」
「そうなんだ」キルディアは頷いた。「でも、どうして、オーバーフィールド内に発生していた超重力の中でも、あの弾は飛んで行ったのだろう。」
キルディアは首を回しながら考え始めた。実はその仕草を気に入っている。時たまに、私もその仕草をしてしまうようになった。私は説明した。
「あの弾は魔力を使用していません。オーバーフィールドは、魔力を持つ物体に対して、重力をかけ、特殊な波動で破壊しようとします。我々も、体内にプレーンを埋め込んでいるせいで、超重力の影響を受けました。しかしそれも後から判明したことで、その機械、私は全ての物体に対して、重力がかかるものだと予想していました。だが実際は、魔力の伴わない武器でしたら、あの中を飛んでいくことは可能だったのです。外から石でも投げれば、勿論シルヴァに当たったでしょう。」
「そ、そっか、なるほど。」「ふーん、ちょっと分かんない。」
……リンに通じなくとも構わない。私は続けた。
「ですが、あの時の私はもう、これを使うしかないと思っておりました。何しろ、キルディアが極めて危険でした。そして彼女を救う為、オーバーフィールドの魔力の影響を受けて、弾道が下がることを計算し、シルヴァに確実に当てられるように、彼女のすぐ近くまで、這って近づきました。キルディアの信念を貫く為、彼女を生かしたかった。私は、彼女の脇腹に命中するように、弾道を計算し、銃口をより高めに構えて発砲しました。しかし結果として、弾道は下がらず、彼女の頭に命中してしまいました。」
「な、なるほど……最初から頭を狙ってた訳じゃないのね。ちょっと安心した。」
キルディアの言葉に私は頷いた。すると彼女は、私の膝を撫でてくれた。温かい手だ。これも私のもの、後で、もっと温かいものを頂きたい。
「じゃあ、安心したかも……なんかさ、戦いを経験していくうちに、何かに影響されて、ジェーンに修羅の心が生まれたのかと思った。」
「分かる分かる!」リンが手を叩いて反応した。「私もちょっとジェーンが何か覚悟を決めちゃったのかと思ったよ!でもそれ聞いて安心した!それでさっきの話に戻るけどさ、キリーはチェイスのことどう思ってるの?」
またその話か……私は遠くの海を眺めながら、聞き耳を立てた。キルディアは少し笑った後に、言った。
「うーん、ふふ、どうだろうね。彼は少しイケメンだけども。」
ああ、実にくだらない。あの男など、私の足元にも及ばないのに、お世辞なんて。
「リンは本当に、そう言う話が好きだよね。」
「だって、ときめきたいじゃん!」
リンは口を尖らせて、片手をくるくると回転させた。何だその仕草は、全く彼女の言動は理解し難い。そしてキルディアは困った様子で答えた。
「そうは言っても、帝国の軍師だから、無理でしょう。」
リンは顎に人差し指をちょんちょんと当てて、考えた後に、何か閃いたのか、キルディアに質問した。
「でもでも!もしジェーンが帰ったら、他の人探すよね?」
重力が強まった気がした。誰かがオーバーフィールドでも使用しているのだろうか。想像したくもない、そのようなこと。
だが、彼女の本当の幸せを考えるのなら、私よりも、この世界に生きている他の誰かと一緒になる方が、いいのかもしれない。それに彼女は、私と仲良くなることを恐れている。私が帰るからだ。確実に、その時は迫っている。実は何度か、帰らないことも考えたが、あの世界で、やり残したことがある。
ああ、どうせきっと、彼女は「探す」と言うだろう。それならそれで、私はもう諦めようか。どうも彼女は、私とのスキンシップを望んでいないようだし、と段々と捻くれてしまった。
しかし彼女の答えは、意外なものだった。
「……探さないよ、探せないと思う。」
……。
私は、一回立つと、遠くを見つめるキルディアの背後に移動した。そしてキルディアの背中に私の腹を密着させて座り直し、その姿勢のまま彼女のお腹に、手を回して、後ろから包み込むようにハグをした。
この大胆な行動、人前だから嫌がられるかと思ったが、意外にも彼女は無抵抗だった。私は少し嬉しくなり、彼女の肩に自分の顎を乗せた。髪からココナツの良い香りがする。いつだって、彼女からはココナツの香りがした。
……私だって、絶対に手放すものか。過去に帰ることも、彼女を手に入れることも、絶対に叶えてみせる!
「あははっ!ちょっと動かないでね、撮るから!」
どんどん撮って頂きたい。そしてくだらないSNSというツールで、拡散するが良い。私とキルディアがこれほど仲がいいというのを、リンよ、あなたが拡散するのだ。思惑通り、リンは何度もパシャパシャと我々を撮った。
「ハァ~、これなんか超いい!音楽CDのジャケットみたいだよ!何だかキリーが、抱っこされてる猫ちゃんみたい~!」
「そ、そう?」
「ところで、ジェーンには奥さんがいるけど、こういうことしていいの?」
私はリンのことをとても睨んだ。この世の悪魔がいるとしたら、きっとこういう姿をしているだろうと確信を持った。しかしキルディアは、優しく笑った。
「ははっ、そうだね。今だけなんだから、ちょっとぐらい許してって感じで、いいんじゃない?私はもう、騎士じゃないからね。そう、もう騎士じゃないの。事実もそうだし、中身もそう。私はね、泥沼に足を突っ込んでるんだよ。だからジェーン、覚悟したほうがいい。」
リンがお腹を抱えて笑っている。私はキルディアに聞いた。
「覚悟ですか、何を?」
「……だから、私が本気になったら、恐ろしいことになるからね。もういいでしょ、この話題は。顔が熱いよ。」
ゴクリと喉が鳴った。彼女が本気になったら、どうなるのだろうか。そしてそれは今夜から反映されるのでしょうか?とても気になるが、予想して楽しむもの一興。ふふっ、今とても、高笑いたい。
「ジェーン、」
「何でしょう?」
「ちょっと鼻息が荒いんだけど……。」
「ああ、これは失敬、つい。」
リンがずっと笑っている。そして海風がびゅっと吹いた。その時に、リンから独り言が聞こえた。
「これでキハシくんから金をゲット出来る……このまま行けばいい……ヒッヒッヒ!そうだ!」
と、リンは起立した。
「ちょっとクラースさん達呼んでくる!一緒にやりたいことがあるんだ!みんなでさ、ちょっと話そう!」
「え、あ、ああ……。」
キルディアがそう反応すると、彼女は足早に去っていった。ついに二人きりになれた。私は更に彼女を抱きしめた。
客観的に見れば、私は彼女にベタベタしているだろう。昔は街でベタつく若者を見ては、理解に苦しんだが、今となっては自分が夢中で、その状態に陥っている。人生とは分からないものだ。
「キルディア、」
「ん?」
「……私にこうされるのは、好きですか?」
「……すー。」
「す?」
すると彼女は、マグカップを隣に置き、私の両腕を掴んで、前方に引っ張り始めた。その結果、私はもっと彼女と密着することとなった。彼女の不意な行動に、私は胸が高鳴った。
「す、好きでしょうか?」
「言わなくても……分かるでしょう?気に入ってるから、こうしたよ。」
ああ、彼女を抱きしめながら、私は彼女の頭に口づけをした。これは、なんて暖かくて、心地がいいものか。永遠がここにある、そんな気さえした。我々はとろけて、水平線の隙間に流れていく。静かに、目を閉じた。
暫くすると、リンがクラース達を引き連れて戻ってきたので、キルディアは慌てた様子で、私から離れた。
「……うん。それは覚えているよ。でも、帝都を攻略しようとなると、城壁の自警システムは完全だし、ネビリスとチェイスは城で構えるから、その防衛線を崩すとなると、今までとはまるで違って、かなりの人間が犠牲になるだろう……果たして、その状態で私は、ジェーンを守れるだろうか?彼は、元の世界に戻らないといけないんだ。この世界で死ぬべきでは無いよ。」
と、リンの方を向いた。キルディアの言うことも一理あるが、そもそも、どうしてリンに尋ねる?腑に落ちないと思いながらも、リンの回答に耳を傾けた。
「だ、大丈夫だよキリー。ジェーンってほら害虫のようにしぶといから「誰が害虫ですって?」キリーが守れなくっても、大丈夫だって!それに相手にチェイスがいるのに、どうやってジェーン無しで対抗するつもり?どう考えたって、ジェーンの脳みそが必要だよ!タージュ博士じゃダメなの!分かるでしょ?」
「分かるよ……。」
彼女の即答ぶりに、私は口角を上げてしまった。この件は、タージュには黙って置いた方が良いだろう。リンの例えが気に食わないが、今はキルディアの気持ちを支えるべきだ。男として、彼女の大切な存在として……出来れば、あのタマラの部屋では、彼女に関係を訂正して欲しかったが。これは私の胸の中にしまっておく。私は彼女に言った。
「キルディア、何も、今この場所で考え込まなくても宜しいと思います。その時になったら、一番最適な解決方法を見つけましょう。状況は一刻一刻と変化していきますから、臨機応変に思考し、行動する事は、いつの時代においても変わらずに、大切なことです。」
キルディアは顔を上げて、頷いた。先程からずっと、遠くの海ばかり見つめて、私のことを見てはくれない。それだけで、私は胸がチクチクと痛んだ。
この痛みは、以前よりも、頻度も、痛みのレベルも増している。そしてそれは、彼女と二人きりになった時に、激しい鼓動に変化する。私だって、それを手放す事は、もうとても考えられないのだ。
「うん、そうだね。私が弱気になっていて、どうするって話だ。」彼女は少し笑った。「ジェーン、リン、ありがとう。そうだよね、皆が無事に乗り越える方法を、今までだって考えて、実行して来たんだ。これからも、皆が私のそばにいてくれるなら、なんとかなる。ふふ。」
「そうそう!そうだって!」リンが笑顔で手をパチパチ叩き、それから何かを思い出した。「あ!そうだ!聞いてほしいんだけど!聞いて!ねえ聞いて!ジェーン、ほら聞いて!」
「聞いていますよ、煩いですね。」
「なら良かった!あのね、牢屋に入れられてる時に、チェイスとお話ししたんだよ!」
私とキルディアが、同時にリンを見た。私は聞いた。
「チェイスと?」
「そうそう!なんかねぇ、ジェーンのことを教えてくれって言ってたから、適当に好物はヤモリの唐揚げだとか、トイレに新聞持って入ったら長引くとか言っといた!」
「あっはっはっは!ヒィー!」
腹を抱えて笑っているのは、キルディアだった。私はムッとして彼女の肩を叩くと、彼女は「ごめん!だって確かに新聞持ってく、ヒィー」とまた笑った。リンめ、くだらないことで私を羞恥の沼に突き落としおって!しかしキルディアが笑ってくれたので、許すべきか……。
「それでね!」リンは笑顔で続けた。「ジェーンのことが知りたいのかなって思ってたんだけど、話を聞くうちに、ちょっと事情が変わってきたの!あれは絶対に、キリーのことを気にしてたね!ジェーンに奥さんいるって言ったら、喜んでたし!」
あの男……この情勢になっても依然、キルディアのことを考えていたとは。無意識に力の入った私の拳が、ギリギリと音を立てている。もし、もう一度私の目の前で、彼女の柔らかい唇を奪ったとしたら……彼はもう二度と、次の朝日を見ることは出来ないだろう。
キルディアは私のものだ。キルディアが愛情を受けるべきなのは、私からのみだ。昔よりも今、昨日よりも今日。この胸にはどんどんと、しまい切れないほどの感情が、生まれてきている。この状態の私の前で、キルディアに手を出すことは、死を意味していると称しても過言では無い。
ああ、その時の為に、SAKURAの弾丸を取っておけば良かったのだ。七つの孤島でモンスターに襲われた時や、あの骸骨を見て驚いた時に発砲して何発か使用し、先日のオーバーフィールドでシルヴァに対して使った。それは彼女の為の一発だったので、仕方ないが。
「ジェーン、大丈夫?目つき怖いよ?」
リンの言葉にハッとした。二人が私のことを、心配そうに見ていた。私は眼鏡を指で調節して、答えた。
「……はい、今は、拳銃の弾を、取っておけば良かったと考えておりました。」
二人は苦笑いをした。そしてキルディアが言った。
「物騒な……でも拳銃って、シルヴァに使った、あの銃のことだよね?あれはおじいさんの形見って言ってたけれど、地上出身なんだよね?」
「はい、そうです。祖父の父、私の曽祖父は地上で衛兵のような職に就いておりました。それを何らかの方法で、祖父が受け継いだのでしょう。詳細は私も存じておりません。」
「そうなんだ」キルディアは頷いた。「でも、どうして、オーバーフィールド内に発生していた超重力の中でも、あの弾は飛んで行ったのだろう。」
キルディアは首を回しながら考え始めた。実はその仕草を気に入っている。時たまに、私もその仕草をしてしまうようになった。私は説明した。
「あの弾は魔力を使用していません。オーバーフィールドは、魔力を持つ物体に対して、重力をかけ、特殊な波動で破壊しようとします。我々も、体内にプレーンを埋め込んでいるせいで、超重力の影響を受けました。しかしそれも後から判明したことで、その機械、私は全ての物体に対して、重力がかかるものだと予想していました。だが実際は、魔力の伴わない武器でしたら、あの中を飛んでいくことは可能だったのです。外から石でも投げれば、勿論シルヴァに当たったでしょう。」
「そ、そっか、なるほど。」「ふーん、ちょっと分かんない。」
……リンに通じなくとも構わない。私は続けた。
「ですが、あの時の私はもう、これを使うしかないと思っておりました。何しろ、キルディアが極めて危険でした。そして彼女を救う為、オーバーフィールドの魔力の影響を受けて、弾道が下がることを計算し、シルヴァに確実に当てられるように、彼女のすぐ近くまで、這って近づきました。キルディアの信念を貫く為、彼女を生かしたかった。私は、彼女の脇腹に命中するように、弾道を計算し、銃口をより高めに構えて発砲しました。しかし結果として、弾道は下がらず、彼女の頭に命中してしまいました。」
「な、なるほど……最初から頭を狙ってた訳じゃないのね。ちょっと安心した。」
キルディアの言葉に私は頷いた。すると彼女は、私の膝を撫でてくれた。温かい手だ。これも私のもの、後で、もっと温かいものを頂きたい。
「じゃあ、安心したかも……なんかさ、戦いを経験していくうちに、何かに影響されて、ジェーンに修羅の心が生まれたのかと思った。」
「分かる分かる!」リンが手を叩いて反応した。「私もちょっとジェーンが何か覚悟を決めちゃったのかと思ったよ!でもそれ聞いて安心した!それでさっきの話に戻るけどさ、キリーはチェイスのことどう思ってるの?」
またその話か……私は遠くの海を眺めながら、聞き耳を立てた。キルディアは少し笑った後に、言った。
「うーん、ふふ、どうだろうね。彼は少しイケメンだけども。」
ああ、実にくだらない。あの男など、私の足元にも及ばないのに、お世辞なんて。
「リンは本当に、そう言う話が好きだよね。」
「だって、ときめきたいじゃん!」
リンは口を尖らせて、片手をくるくると回転させた。何だその仕草は、全く彼女の言動は理解し難い。そしてキルディアは困った様子で答えた。
「そうは言っても、帝国の軍師だから、無理でしょう。」
リンは顎に人差し指をちょんちょんと当てて、考えた後に、何か閃いたのか、キルディアに質問した。
「でもでも!もしジェーンが帰ったら、他の人探すよね?」
重力が強まった気がした。誰かがオーバーフィールドでも使用しているのだろうか。想像したくもない、そのようなこと。
だが、彼女の本当の幸せを考えるのなら、私よりも、この世界に生きている他の誰かと一緒になる方が、いいのかもしれない。それに彼女は、私と仲良くなることを恐れている。私が帰るからだ。確実に、その時は迫っている。実は何度か、帰らないことも考えたが、あの世界で、やり残したことがある。
ああ、どうせきっと、彼女は「探す」と言うだろう。それならそれで、私はもう諦めようか。どうも彼女は、私とのスキンシップを望んでいないようだし、と段々と捻くれてしまった。
しかし彼女の答えは、意外なものだった。
「……探さないよ、探せないと思う。」
……。
私は、一回立つと、遠くを見つめるキルディアの背後に移動した。そしてキルディアの背中に私の腹を密着させて座り直し、その姿勢のまま彼女のお腹に、手を回して、後ろから包み込むようにハグをした。
この大胆な行動、人前だから嫌がられるかと思ったが、意外にも彼女は無抵抗だった。私は少し嬉しくなり、彼女の肩に自分の顎を乗せた。髪からココナツの良い香りがする。いつだって、彼女からはココナツの香りがした。
……私だって、絶対に手放すものか。過去に帰ることも、彼女を手に入れることも、絶対に叶えてみせる!
「あははっ!ちょっと動かないでね、撮るから!」
どんどん撮って頂きたい。そしてくだらないSNSというツールで、拡散するが良い。私とキルディアがこれほど仲がいいというのを、リンよ、あなたが拡散するのだ。思惑通り、リンは何度もパシャパシャと我々を撮った。
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「そ、そう?」
「ところで、ジェーンには奥さんがいるけど、こういうことしていいの?」
私はリンのことをとても睨んだ。この世の悪魔がいるとしたら、きっとこういう姿をしているだろうと確信を持った。しかしキルディアは、優しく笑った。
「ははっ、そうだね。今だけなんだから、ちょっとぐらい許してって感じで、いいんじゃない?私はもう、騎士じゃないからね。そう、もう騎士じゃないの。事実もそうだし、中身もそう。私はね、泥沼に足を突っ込んでるんだよ。だからジェーン、覚悟したほうがいい。」
リンがお腹を抱えて笑っている。私はキルディアに聞いた。
「覚悟ですか、何を?」
「……だから、私が本気になったら、恐ろしいことになるからね。もういいでしょ、この話題は。顔が熱いよ。」
ゴクリと喉が鳴った。彼女が本気になったら、どうなるのだろうか。そしてそれは今夜から反映されるのでしょうか?とても気になるが、予想して楽しむもの一興。ふふっ、今とても、高笑いたい。
「ジェーン、」
「何でしょう?」
「ちょっと鼻息が荒いんだけど……。」
「ああ、これは失敬、つい。」
リンがずっと笑っている。そして海風がびゅっと吹いた。その時に、リンから独り言が聞こえた。
「これでキハシくんから金をゲット出来る……このまま行けばいい……ヒッヒッヒ!そうだ!」
と、リンは起立した。
「ちょっとクラースさん達呼んでくる!一緒にやりたいことがあるんだ!みんなでさ、ちょっと話そう!」
「え、あ、ああ……。」
キルディアがそう反応すると、彼女は足早に去っていった。ついに二人きりになれた。私は更に彼女を抱きしめた。
客観的に見れば、私は彼女にベタベタしているだろう。昔は街でベタつく若者を見ては、理解に苦しんだが、今となっては自分が夢中で、その状態に陥っている。人生とは分からないものだ。
「キルディア、」
「ん?」
「……私にこうされるのは、好きですか?」
「……すー。」
「す?」
すると彼女は、マグカップを隣に置き、私の両腕を掴んで、前方に引っ張り始めた。その結果、私はもっと彼女と密着することとなった。彼女の不意な行動に、私は胸が高鳴った。
「す、好きでしょうか?」
「言わなくても……分かるでしょう?気に入ってるから、こうしたよ。」
ああ、彼女を抱きしめながら、私は彼女の頭に口づけをした。これは、なんて暖かくて、心地がいいものか。永遠がここにある、そんな気さえした。我々はとろけて、水平線の隙間に流れていく。静かに、目を閉じた。
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