星空に恋するハッピーゴースト

meishino

文字の大きさ
3 / 127

3 星つむぎの夜

しおりを挟む
「幽霊なんぞ、いる訳ないだろうが。あれは気の病んだ人間が見てしまう、一種の幻想だ。幽霊と出会ったから精神を病んだのではなく、精神が病んでいるから幽霊を見たんだ。そうは思わないか?」

「そうですね。」

 取り敢えず、そう答えた。イオリは私が納得したのを見て満足した様子で、「よし」と呟くと、また三脚で支えられている白い筒を覗き始めた。いる訳ないと言われてしまったが、実際に私は存在してしまっている。じゃあ、違う質問をしよう。

「じゃあ、イオリは精神を病んでるの?」

「……お前なあ、」

 イオリはやれやれと言った様子で、白い筒を覗くのをやめて、それに寄りかかった姿勢で、私の質問に答えた。

「俺は病んでいない。俺は心理療法士なんだ。自分が自己一致していない状態で、クライアントを一致させる事は不可能。だから自己一致をキープする為に、スーパーバイザーという他の心理療法士に定期的にカウンセリングを受けている。」

「じゃあ病んでいる「だから!病んでいないということが言いたいんだ俺は!どうして俺が病んでいるって……話の流れからすると……な、なんだ?」

 イオリは吃った。そして一気に目が泳いだ。

「ま、まるで、お前が……。」

 よし、今だと思った。

「私は幽霊。さっき、死んだ。」

「ぶー」と、息と唾を漏らしたイオリは、白い筒をまた覗き始めた。スルーされたのかな?なんだかそんな感じで、イオリは私と話すのをやめて、夢中になって白い筒を覗いている。

「何してるの?」

「……星を眺めている。見てみろ。」

 私はイオリの真似をして、少し屈んで、筒を覗いた。そうか、これは望遠鏡だったんだ。それを覗くと、真ん中にポツンと、ピカピカ輝く星があった。

 まるで宝石のようで、つい見惚れた。それに最近はスコープから覗くのは人の頭ばかりだったので、久しぶりに見た綺麗な存在に、素直に感動した。

「その星は、中々見られないんだ。今日はその星が見れると思ったんだが、生憎天気が曇っていてな、どうにかならないものかと街を徘徊していたんだが、不思議なことに、この廃墟の辺りは雲が無いのを発見した。だから見れると思って、ここまでやってきたんだ。それで……ここまで話したんだ、そろそろ君のことを教えてくれないか?」

 私は望遠鏡を覗くのをやめて、イオリを見た。彼は私を見て、優しげに微笑んだ。そうされると、胸がぎゅっと苦しくなったので、胸に手を当てた。

「……私さっき死んだ。」

「その設定は何なんだ?全く、俺をどうしたい?」

「証拠ならある。この屋敷の二階のお手洗いにある。」

「……。」

 イオリは息を飲んだ。きっと、私が具体的な場所を言ったから、一気に現実味を感じたようだった。「ふん、」と鼻で笑ったイオリは、望遠鏡にカメラを取り付けて、何度か星の写真を撮ると、望遠鏡を片付け始めた。私は三脚を畳むのを手伝った。

 ボストンバッグに全てを突っ込み、イオリはそれをまた背負った。

「じゃあ、折角だから、その証拠とやらを、見せてもらおうか。」

「分かりました。どうぞ、どうぞ。」

 今度は私が先導して、屋根裏から降りて、廊下を歩き始めた。それっぽさを出したい私は、移動する間はずっと、足音を消すよう心がけた。イオリはずっと黙っていた。

 二階のお手洗いの前まで来ると、私は立ち止まった。今から自分の死に様を見せるとなると、何だか、緊張する……。あのウィッグが、また床に落ちてないといいな。イオリがお手洗いを指差しながら、私に聞いた。

「こ、ここなのか?ドアを開けたら、証拠が、あると……?その、お前が、幽霊だっていう、証拠……。となると、あまりその、ダイレクトなのは、あまり……いや、そんな訳が無い。お前は生きているんだと俺は思っているからな。」

「うん。」

 私はドアを指差した。イオリはゴクリと喉を鳴らしてから、ドアを開けた。するとやはりそこには、ぐったりとした私が

「あああああああああああ!?あああああああっ!」

 ドスンと、イオリがまた尻餅をついた。私はイオリの腕を掴んで、立たせようとしたが、結構本格的に腰を抜かしているようで、まるで生まれたての小鹿のように、イオリは木の床の上で、ツルツル滑ってしまった。ちょっと面白かった。

「貴様!ふざけるな!だ、だ、なんていうイタズラ!」

 ええ!?イタズラなんかじゃないのに!私は勢いよく首を振った。

「違う!違う!本物!」

「馬鹿め!そ、そんな!こんな事……!?」

 イオリは急に静かになり、スッと立ち上がり、上半身だけお手洗いの中に入るようにして、恐る恐る私の観察を始めた。彼は私の髪の毛を触ると、それがスルリと床に落ちてしまった。それで彼がまた、驚いてしまった。

「だあああああああ!」

「ウィッグ。」

「な、なんでウィッグなんか、ああ、だからか!だからお前も、髪の毛が無いのか!?」

「えっ!?」

 私はさっと自分の頭を撫でた。するとあろうことか、ウィッグが無かったのだ。ああ、ツルツル頭の状態で、イオリと対面してしまったんだ……。てかその状態の私をよく連れて行こうと思ったな、彼は。

 今気づいたが、洋服も確かに死んだ時に来ていた黒い服ではなくて、ふんわりとした白いワンピースという初期アバターのような格好になっていた。そして裸足だ。つくづく、よく私を一緒に天体観測に連れて行ってくれたと、彼に感謝した。それを彼に伝えてみようと思った。

「イオリ、天体観測に連れて行ってくれて、ありがとう。」

「え!?」と、イオリが大きく叫んだ。「なんで急に俺に感謝を!?……いや、ちょっと待ってくれ、俺の思考が、追い付かない。ああ胸が苦しい。いいか、少し仕事モードに入らせてくれ。その方が、はかどる。」

「ええ、ええ。」

 私は彼を見守ることにした。イオリはパンパンと頬を何回か叩いて気合を入れた後に、現場であるお手洗いの床に視線を落として、床に血が溢れていることを確認すると、「ぉぇ」と、何かがこみ上げてきたようで、胸を押さえ始めた。

「大丈夫?」

「あ、ああ……すまないな、普段は現場の写真だったり、死体が無くなった後の現場しか見ないから、あまり、それ自体は見た経験がないもので、胸の傷口とか、匂いが結構。」

「そうだよね。ごめんね。」

「ああいや、いいんだ。君が謝ることではない。すまなかった。続けさせてくれ。」

 イオリは死んだ私の頬を突いた。生前のような弾力は無く、鈍く凹んだ。それを見て、イオリは、最終的な判断を下した。

「うん、確かに、これは……本物だ。確かに証拠だった。こんなダイレクトな証拠でなくてもよかったのだが……。仕方あるまい、俺が、第一発見者で、間違いないな?」

「うん。」

「分かった。……ああ、私です、お疲れ様です。」イオリがノアフォン(手のひらサイズの通信機器)を取り出して、通話を始めた。職場にかけているようだ。その間に私は、お手洗いの床に落ちているウィッグを拾って、自分の頭につけようと思ったけど、イオリに腕を掴まれてしまった。

「そうです、ムーンストリートの奥にある洋館の廃墟です。ええ、ええ。(おい、勝手に遺品に触るな!)」

 イオリがサイレントで私に怒鳴った。私は従うことにして、ウィッグ回収を諦めた。暫くすると、イオリは報告を終えたようで、ノアフォンの通話を消して、現場写真を撮り始めた。私はそれを眺めた。

 イオリは写真を撮りながら私に聞いた。

「……犯人は?」
 
「私の夫。」

「で、お前の名は?」

「アリシア。アリシア・ルイーズ・メリアン。」

 イオリは無言で何度も頷いた。

「そうか、よく話してくれた。その男はノアズがどうにか捕まえるから、さあ、心置きなく、成仏してくれ。」

 ……え?

 イオリと目が合った。彼がノアフォンをポケットにしまった、その次の瞬間だった。私に向かって、丁寧に合掌したのだ!

「安らかに……「ちょっと、ちょっと!」

 私は慌てた。この男は私を昇天させようとしているが、私だってまだこの世に未練があるのだ!私はそれをイオリに訴えることにした。

「一つ、やり残した事がある!お願い、お願い!」

「な、なんだ!?ん、んんっ!?俺の腕を掴むな!」

 イオリの腕を掴んで、ぐいぐい引っ張りながら、私はそれを打ち明けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...