星空に恋するハッピーゴースト

meishino

文字の大きさ
4 / 127

4 ノアズの職員が来る

しおりを挟む
「まだ見たいドラマがある。犯人はティーカップの中っていうドラマ。それの続きが見たい!」

「何だそのちっぽけな未練は!それに、どれだけ小さい犯人なんだ!んな訳あるか!」

「比喩だよ、イオリ。本当は、犯人おっきい。」

「それは理解している!……はあ、」とイオリは前髪をかき上げた。それから何か閃いた様子になり、続けた。「ああ、あのドラマか。そういえば俺も、家にいる時たまたま放送されていたから、それを見たな。まだ一話だったか?……なんだその期待のこもった目は。」

「だって、イオリも見てたんだと、思った!」

「話が合うとでも思ったのか?」

「……。」私はコクリと頷いた。

「時短の為に教えてやるが、あれの犯人はデューク公爵だ。名前からして、公爵なのか伯爵なのか訳わからんが、あれが殺したと考えれば、トリックも辻褄が合う。さあ、心置きなく成仏しろ。」

 やっぱり見てたんだ!私はぱっと笑顔になって、イオリに反論した。

「違う。それは、ミスリード要員。本当は、ジュンコ夫人だよ。絶対にそう!」

「馬鹿な、フッ、俺がミスリードしたとでも思うのか?ははっ、中々君は愉快だ。」

 イオリは腰に手を当てて、はっははっは笑った。

「俺は一度もドラマの犯人を当てられなかった事はない。何故なら、俺は犯行現場から被害者の性格、生活、歩んできた人生を解析する仕事をしている。そこで加害者との接点を割り出して、更に、容疑者の話を聞いて、その話す様子から基本的な性格、特徴、趣味、被害者への感情、例えそいつがポーカーフェイスだったとしても、体全体の仕草から割り出して、それらを知る事が出来る。実際に犯人を何人も検挙してきたんだ。ニュースで俺の名を見た事はないか?」

「ない。それにジュンコ夫人だと思う。」

「……強情だな。なら、俺の実力がいかなるものかを証明する為に、お前について、分かったことを教える。」

 おお、それは楽しみだ。私はワクワクしながらイオリが話し始めるのを待った。まるで自分が推理ドラマの世界に入ったような気がしたのだ。イオリはじろっと私の全身を見て、結論を出した。

「結婚は嘘だ。」

「え?してたよ。」

「本当に結婚と言えたものだったか知らんが、その割には指輪が無い。用意しない夫婦もいるが、そういうところは大体金銭的な理由だ。しかしお手洗いにいる君……のそれは、パンクゴシックブランドであるポワズンの服を上下で着ていた。お金はあるはずだから、精神的な理由で用意したかったと見える。性格は内向的で、声の様子から多大なストレスを受けて育ったと見える。更に、頭髪が一本も無いという、若い女性にしては奇抜な髪型をしていて……。」

 と、ここで、イオリの顔色が悪くなってきた。何かに気付いたのかな。それにしても、ポワズンを知っていたとは。さすがイオリだ。

「もしや、全身脱毛をしているか?」

「うん。」

「……んんんん、そうか。質問を変更する。スコープを覗くような仕事だったか?」

 やばい。これはやばい。私はギュッと口を閉じた。するとイオリが、その場で勢いよくしゃがんだ。

「そういう……仕事をするから……お前はこうなるんだあああ!」

「痛っ」

 びょーんと立ち上がったイオリに肩を叩かれた。今宵だけで、何度叩かれただろうか。それでも一緒にいて、これまで楽しい人は初めてだった。純粋に、人に懐いたことのなかった私は、尻尾を振っているイヌの如く、イオリを気に入ってしまい、そばにいたいと思ってしまった。

「うふ、うふ。」

「いやいや、そのそれっぽい笑い方はやめろ。近づいてくるな。いいから早く、成仏しろ!」

「だから、犯人はティーカップの中「犯人はティーカップの中にいるから!絶対にいるから!成仏しろ!」

 本当にイオリは面白い。それはタイトルであって、ティーカップの中に犯人がいる訳ないのに。そう思って笑っていると、廊下の窓からサイレンの光が入ってきた。きっとノアズの衛兵の車が到着したんだと思った。

「ねえねえ」

「なんだ?頼むから俺の服を引っ張るな。」

「分かった……。私の姿って、イオリ以外にも見えるの?」

 イオリは黙ってしまった。黙ったままどこか遠くを見つめ続けて、何も答えてくれなかった。

「アルバレス!」

 玄関から響いた声にイオリがハッとして、玄関の方へ急いで歩いて行った。私はどうしよう、あなたは誰?と聞かれた時、何て答えればいいかわからない。

 だから前もってイオリに説明してもらおうと思って、姿が見えるのかな?って聞いたのに。

 まあいいや。

 私は姿を消すことにした。もうここでお別れなんて寂しいけど、最後に彼の仕事姿を見ていようと思った。

 階段下からイオリと一緒に何人かの衛兵が登ってきた。イオリは事情を説明して、褐色肌のガタイのいいドレッドヘアの女性が、イオリの話にウンウン頷いている。多分彼女が上司っぽい。

「それで遺体が、お手洗いにあるのを発見したと?」

 その女性の声は、訓練で喉が潰れたのかそれともお酒が大好きでたまらないのか、しゃがれていた。イオリが「はい」と答えると女性がお手洗いの中を覗いた。

「んんん……まだ鮮血だ、死後まもないな。」

 イオリが答えた。

「ええ、私もそう考えます。……?」

 ここでイオリが何かを探し始めた。キョロキョロと辺りを見ては、思案顔になって俯いてしまった。

 もしかして私を探してるのかな。急に消えたから寂しくなってたりして。なんてね、ふふっうふうふ!しかもイオリって仕事の時だと一人称が私なんだ。ちょっと可愛い。

「もう一人目撃者がいます。私の連れなのですが……一体こんな時に、どこに行ったんだ?」

 褐色肌の女性がイオリを見た。

「そうなのか?もしかしたらこの惨状を見て気が動揺してるのかもしれない、たまにいるからなそういう人は。私とバリーはここで検証を続けるから、イオリは連れを探して。」

「はい、フォレスト少佐。」

 イオリは一度頭を下げてから、その場を離れて廊下に出た。私は彼についていくことにした。イオリは歩きながら口に手を当てて、

「お~いアリシア?どこだ~?」

 と、まるで飼い猫を探すかのように私のことを呼び始めた。私はほくそ笑んだ。ちょっと悪い気もするが、どうするか見てみたかった。

 それはそうと、さっき姿を消そうと思ったら、イオリを含めて誰にも姿を見られずに済んだ。これはもしかしたら……楽しい状況なのかも。色々なものが覗ける。イオリの自宅だって覗ける。

 この館から出られればの話だけど。うーん!

 イオリは部屋の扉を開けては私を探した。

「アリシア?……くそ、姿を消してるな。いや、」と、急に立ち止まった。

「近くで俺のことを見てる可能性が高い。奴め、試しに見立てをしてやると言った時に喜んでいたからな。自分の関わってる事件なら尚更、見ていたいに決まってる。」

 ぎくっとした。さすがイオリ。

「そこにいるんだろう、お前。」

「……。」

「どこだ?いいか、俺はお前に力を貸してほしい訳でもない。愛着がある訳でもない。お前の死体が発見された後で、お前が誰かに目撃されたらノアズは混乱する。双子だって言っても無駄だ。全ての市民がデータ管理されてる。だからお前が過ごしやすいように、言い訳を考えてやる。」

 確かにそうだ、死体と同じ顔の私が発見されたら混乱するよね。でも私はどうせ、この館から出られないよ。するとイオリが、鼻を掻いて恥ずかしいのかボソッと言った。

「聞いてるのか?……犯人はティーカップ、見たかったら本当について来い。聞いてないか?まあいい……。それなら、はあぁ。」

 イオリがため息をついた。不思議なことに、本当について来いと彼が言った時に、私の身体が青白く光った。それは彼には見えてないけど、でも何かが変わったような気がした。

「アリシア、置いていくぞ。犯人は貴様の夫、それは分かったからな。」

「ま、待って!」

 またお手洗いの方へ向かったイオリの腕を、私は掴んだ。振り返った彼の、星空のような瞳と目があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

処理中です...