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19 またまた黒くて怪しい店
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賑わう商店街の裏道に入り、今度はイオリが気に入っているというレストランに到着した。裏路地のコンクリートの壁にポツンと一つだけある扉はパッと見、レストランだと分からない。
中に入って、さらにその雰囲気に私は苦笑いした。黒い鉄製の床に、赤く塗られた壁。店員は何故かボンテージのテカテカレザーで固めていて、ムチを持ちながら「お二人様ですか?」と聞いてきた。
……なんてとこに来ているんだ。イオリ、もしかして普通じゃないのかなこの人。ちょっと引きながら彼に付いて行った。薄暗い店内のテーブル席には全て黒い木製の仕切りがあって、半個室のような雰囲気だ。
訪れているのはカップルばかりで、あまりお一人様はいない。奥にはステージがあって、その真ん中には何故か、と言うか、多分ショーの為の鉄格子があった。
こちらにどうぞと案内された席は、そのステージの一番そばの席だった。L字型の狭い半個室に入って、イオリと斜めで向かい合う形になった。しかもテーブルの下でイオリと膝がぶつかっていて、それがちょっと熱い。
「……なんて所に来てるの。」
つい本音が出てしまった。イオリは「ふふ」と言ってから黒い冊子を開いた。メニューだった。セクシーフェアというページで、ピンク色の謎の料理が全裸のスレンダーな男と共に彩られている。男の股間の部分はキラキラのエフェクトが乗っかっていて、うまい具合に隠れていた。ぬおお。
「……なんて所に来てるの。来たことあるの?」
「ふふ、二度も言うな。来たことはある。」
「サラと?」
「それはない。」
「え……。」
なんだろう。それは嬉しいんだけど、場所が嬉しくない。何この特別感。何この背中にある赤いハート型のクッション。
「じゃあ誰と?」
「いつもは一人だ。」
「えっ。」
一人でこんなところに来てるの?どうして?どうしてっていうか、好きなのかな。頭の中がとても忙しいまま、じっとイオリを見つめていると、メニューをテーブルに置いたイオリが私を見た。その瞬間に彼は眉を顰めて、私の肩をポンと叩いた。
「あからさまにドンびくな。」
「だって、店の趣味が。」
「純粋に料理の味が好きなんだ。ここの店の料理は美味しい。一度捜査でここに来て、その時の差し入れが美味しかったのでな。……まあ確かに店の雰囲気はアレだが、俺は嫌いでもない。リアは?」
「うーん。確かに高級レストランよりかは落ち着くけど。でもどうして私を連れてきたの?」
「お前はいつか消える。だから普段人と来れない場所に一緒に行こうと思っただけだ。悪いが付き合ってもらった。」
「そっか。」
そうだよね、いつか消えるもんね。私はメニューをペラペラとめくった。いつか消える。分かってるけど、昨日会ったばかりだけど、ちょっと寂しいな。
それをイオリは感じないのかな。そうだよね、彼には別に好きな人がいる。
ハムとチーズのサンドイッチが美味しそうだったので、それを指差した。
「これがいい。」
「え……この男根、ゲフッ、サンドイッチがいいのか?形が、少しその、うん。」
「だって美味しそう。」
「……。」
あからさまに動揺した様子で、瞬きを繰り返しながら私の分のメニューを受け取ったイオリを見て、私はくすっと笑った。
イオリが手を挙げると通りがかりの店員がオーダーを取ってくれた。先に飲み物が届いた。イオリも私もローズミルクというジュースにした。イオリは意外と酒が飲めないらしい。私と同じだ。
「おお、美味しい……!」
「な、美味しいと言っただろう。おい、一気に飲むな、チョビチョビ飲んで余韻を……おい!」
「ご馳走様でした。」
一瞬でジョッキが空になってしまった。美味しかったからイオリに微笑むと、彼もふふっと微笑んで、紙ナプキンで私の口を拭いてくれた。
「もう一度それを頼もう。それで一つ聞きたい。」
「私に?」
「ああ。先程の銃のMODだが、何を付け足した?」イオリが髪の毛をかき上げて、照れた仕草をとった。「あまり、その、銃は好きだが、詳しくはない。」
「ふふ。装填数を追加と、リロードの短縮、エイムの精度、射程距離と威力の底上げ、フル・セミオート化、反動軽減、消音機能追加。勝手につけちゃったけど、別に良かった?」
「あ、ああ。そこまで機能が追加されると、職務中に携帯しても良さそうだ。ほう、有り難う。」
イオリが喜んでくれた。それが嬉しくて自然に微笑んでしまった。イオリはどこかを見ながらジュースを一口飲んだ。グラスを挟んだ、彼の綺麗な唇に見惚れてしまった。
「それで、本当にスナイパーなのか?俺の予想通りに。」
「え?あ!うん。」
「そ、そうか……グフっ。」
むせたイオリの口を紙ナプキンで拭いてあげようとしたら、ばっと奪われて、彼が自分で拭いてしまった。
「イオリは私のを拭くのに、どうして私はイオリを拭いちゃダメ?」
「出来ればサラにやってもらいたいからだ。」
「おぅぅぇ。」
「なんだその反応。俺が誰かを好きで悪いか?」
「悪くないけど、じゃあイオリも拭いちゃダメだよ。私のこと。」
「そうだな。気をつけるよ。」
何この空気。暫くの沈黙の後で、料理が届いた。イオリは謎の赤いホットドッグで、私のは……立派なアレの形をしたサンドイッチだった。
私のサンドイッチを見たイオリが笑い始めた。
「メニューのより実物は立派だな、ふっ、あはは!」
「本当だね、ふふっ!」
この笑い合いもサラの前では無駄なんだよなと黒い気持ちを抱いた私は、いただきますとそのサンドイッチを持って先っぽから一口ぱくっと頬張った。
「うん!美味しい!」
「そ、そうか。」
イオリを見ると、彼は私を見ないようにして、頬を赤らめていた。照明でそう見えるのかもしれないけど、雰囲気から多分照れているっぽかった。
へえ……。
「イオリ、変な想像してる。」
「ばっ!」イオリが私の肩をベシッと叩いた。「貴様に何を想像するのものか!いただきます!」
彼が大きな一口でホットドッグを頬張り、添えられた黒いポテトを勢いよく食べ始めた。彼が美味しさに目を丸くしたところで、私もサンドイッチをもう一口食べた。
その時にチラッとイオリが私を見たのが分かった。
「ふふ、やですね、イオリったら。」
「……頼むから大人しく食べろ。」
ああ、今宵の食事は楽しい。私はハムとチーズの余韻を楽しみながら、咀嚼を繰り返した。
中に入って、さらにその雰囲気に私は苦笑いした。黒い鉄製の床に、赤く塗られた壁。店員は何故かボンテージのテカテカレザーで固めていて、ムチを持ちながら「お二人様ですか?」と聞いてきた。
……なんてとこに来ているんだ。イオリ、もしかして普通じゃないのかなこの人。ちょっと引きながら彼に付いて行った。薄暗い店内のテーブル席には全て黒い木製の仕切りがあって、半個室のような雰囲気だ。
訪れているのはカップルばかりで、あまりお一人様はいない。奥にはステージがあって、その真ん中には何故か、と言うか、多分ショーの為の鉄格子があった。
こちらにどうぞと案内された席は、そのステージの一番そばの席だった。L字型の狭い半個室に入って、イオリと斜めで向かい合う形になった。しかもテーブルの下でイオリと膝がぶつかっていて、それがちょっと熱い。
「……なんて所に来てるの。」
つい本音が出てしまった。イオリは「ふふ」と言ってから黒い冊子を開いた。メニューだった。セクシーフェアというページで、ピンク色の謎の料理が全裸のスレンダーな男と共に彩られている。男の股間の部分はキラキラのエフェクトが乗っかっていて、うまい具合に隠れていた。ぬおお。
「……なんて所に来てるの。来たことあるの?」
「ふふ、二度も言うな。来たことはある。」
「サラと?」
「それはない。」
「え……。」
なんだろう。それは嬉しいんだけど、場所が嬉しくない。何この特別感。何この背中にある赤いハート型のクッション。
「じゃあ誰と?」
「いつもは一人だ。」
「えっ。」
一人でこんなところに来てるの?どうして?どうしてっていうか、好きなのかな。頭の中がとても忙しいまま、じっとイオリを見つめていると、メニューをテーブルに置いたイオリが私を見た。その瞬間に彼は眉を顰めて、私の肩をポンと叩いた。
「あからさまにドンびくな。」
「だって、店の趣味が。」
「純粋に料理の味が好きなんだ。ここの店の料理は美味しい。一度捜査でここに来て、その時の差し入れが美味しかったのでな。……まあ確かに店の雰囲気はアレだが、俺は嫌いでもない。リアは?」
「うーん。確かに高級レストランよりかは落ち着くけど。でもどうして私を連れてきたの?」
「お前はいつか消える。だから普段人と来れない場所に一緒に行こうと思っただけだ。悪いが付き合ってもらった。」
「そっか。」
そうだよね、いつか消えるもんね。私はメニューをペラペラとめくった。いつか消える。分かってるけど、昨日会ったばかりだけど、ちょっと寂しいな。
それをイオリは感じないのかな。そうだよね、彼には別に好きな人がいる。
ハムとチーズのサンドイッチが美味しそうだったので、それを指差した。
「これがいい。」
「え……この男根、ゲフッ、サンドイッチがいいのか?形が、少しその、うん。」
「だって美味しそう。」
「……。」
あからさまに動揺した様子で、瞬きを繰り返しながら私の分のメニューを受け取ったイオリを見て、私はくすっと笑った。
イオリが手を挙げると通りがかりの店員がオーダーを取ってくれた。先に飲み物が届いた。イオリも私もローズミルクというジュースにした。イオリは意外と酒が飲めないらしい。私と同じだ。
「おお、美味しい……!」
「な、美味しいと言っただろう。おい、一気に飲むな、チョビチョビ飲んで余韻を……おい!」
「ご馳走様でした。」
一瞬でジョッキが空になってしまった。美味しかったからイオリに微笑むと、彼もふふっと微笑んで、紙ナプキンで私の口を拭いてくれた。
「もう一度それを頼もう。それで一つ聞きたい。」
「私に?」
「ああ。先程の銃のMODだが、何を付け足した?」イオリが髪の毛をかき上げて、照れた仕草をとった。「あまり、その、銃は好きだが、詳しくはない。」
「ふふ。装填数を追加と、リロードの短縮、エイムの精度、射程距離と威力の底上げ、フル・セミオート化、反動軽減、消音機能追加。勝手につけちゃったけど、別に良かった?」
「あ、ああ。そこまで機能が追加されると、職務中に携帯しても良さそうだ。ほう、有り難う。」
イオリが喜んでくれた。それが嬉しくて自然に微笑んでしまった。イオリはどこかを見ながらジュースを一口飲んだ。グラスを挟んだ、彼の綺麗な唇に見惚れてしまった。
「それで、本当にスナイパーなのか?俺の予想通りに。」
「え?あ!うん。」
「そ、そうか……グフっ。」
むせたイオリの口を紙ナプキンで拭いてあげようとしたら、ばっと奪われて、彼が自分で拭いてしまった。
「イオリは私のを拭くのに、どうして私はイオリを拭いちゃダメ?」
「出来ればサラにやってもらいたいからだ。」
「おぅぅぇ。」
「なんだその反応。俺が誰かを好きで悪いか?」
「悪くないけど、じゃあイオリも拭いちゃダメだよ。私のこと。」
「そうだな。気をつけるよ。」
何この空気。暫くの沈黙の後で、料理が届いた。イオリは謎の赤いホットドッグで、私のは……立派なアレの形をしたサンドイッチだった。
私のサンドイッチを見たイオリが笑い始めた。
「メニューのより実物は立派だな、ふっ、あはは!」
「本当だね、ふふっ!」
この笑い合いもサラの前では無駄なんだよなと黒い気持ちを抱いた私は、いただきますとそのサンドイッチを持って先っぽから一口ぱくっと頬張った。
「うん!美味しい!」
「そ、そうか。」
イオリを見ると、彼は私を見ないようにして、頬を赤らめていた。照明でそう見えるのかもしれないけど、雰囲気から多分照れているっぽかった。
へえ……。
「イオリ、変な想像してる。」
「ばっ!」イオリが私の肩をベシッと叩いた。「貴様に何を想像するのものか!いただきます!」
彼が大きな一口でホットドッグを頬張り、添えられた黒いポテトを勢いよく食べ始めた。彼が美味しさに目を丸くしたところで、私もサンドイッチをもう一口食べた。
その時にチラッとイオリが私を見たのが分かった。
「ふふ、やですね、イオリったら。」
「……頼むから大人しく食べろ。」
ああ、今宵の食事は楽しい。私はハムとチーズの余韻を楽しみながら、咀嚼を繰り返した。
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