星空に恋するハッピーゴースト

meishino

文字の大きさ
19 / 127

19 またまた黒くて怪しい店

しおりを挟む
 賑わう商店街の裏道に入り、今度はイオリが気に入っているというレストランに到着した。裏路地のコンクリートの壁にポツンと一つだけある扉はパッと見、レストランだと分からない。

 中に入って、さらにその雰囲気に私は苦笑いした。黒い鉄製の床に、赤く塗られた壁。店員は何故かボンテージのテカテカレザーで固めていて、ムチを持ちながら「お二人様ですか?」と聞いてきた。

 ……なんてとこに来ているんだ。イオリ、もしかして普通じゃないのかなこの人。ちょっと引きながら彼に付いて行った。薄暗い店内のテーブル席には全て黒い木製の仕切りがあって、半個室のような雰囲気だ。

 訪れているのはカップルばかりで、あまりお一人様はいない。奥にはステージがあって、その真ん中には何故か、と言うか、多分ショーの為の鉄格子があった。

 こちらにどうぞと案内された席は、そのステージの一番そばの席だった。L字型の狭い半個室に入って、イオリと斜めで向かい合う形になった。しかもテーブルの下でイオリと膝がぶつかっていて、それがちょっと熱い。

「……なんて所に来てるの。」

 つい本音が出てしまった。イオリは「ふふ」と言ってから黒い冊子を開いた。メニューだった。セクシーフェアというページで、ピンク色の謎の料理が全裸のスレンダーな男と共に彩られている。男の股間の部分はキラキラのエフェクトが乗っかっていて、うまい具合に隠れていた。ぬおお。

「……なんて所に来てるの。来たことあるの?」

「ふふ、二度も言うな。来たことはある。」

「サラと?」

「それはない。」

「え……。」

 なんだろう。それは嬉しいんだけど、場所が嬉しくない。何この特別感。何この背中にある赤いハート型のクッション。

「じゃあ誰と?」

「いつもは一人だ。」

「えっ。」

 一人でこんなところに来てるの?どうして?どうしてっていうか、好きなのかな。頭の中がとても忙しいまま、じっとイオリを見つめていると、メニューをテーブルに置いたイオリが私を見た。その瞬間に彼は眉をひそめて、私の肩をポンと叩いた。

「あからさまにドンびくな。」

「だって、店の趣味が。」

「純粋に料理の味が好きなんだ。ここの店の料理は美味しい。一度捜査でここに来て、その時の差し入れが美味しかったのでな。……まあ確かに店の雰囲気はアレだが、俺は嫌いでもない。リアは?」

「うーん。確かに高級レストランよりかは落ち着くけど。でもどうして私を連れてきたの?」

「お前はいつか消える。だから普段人と来れない場所に一緒に行こうと思っただけだ。悪いが付き合ってもらった。」

「そっか。」

 そうだよね、いつか消えるもんね。私はメニューをペラペラとめくった。いつか消える。分かってるけど、昨日会ったばかりだけど、ちょっと寂しいな。

 それをイオリは感じないのかな。そうだよね、彼には別に好きな人がいる。

 ハムとチーズのサンドイッチが美味しそうだったので、それを指差した。

「これがいい。」

「え……この男根、ゲフッ、サンドイッチがいいのか?形が、少しその、うん。」

「だって美味しそう。」

「……。」

 あからさまに動揺した様子で、瞬きを繰り返しながら私の分のメニューを受け取ったイオリを見て、私はくすっと笑った。

 イオリが手を挙げると通りがかりの店員がオーダーを取ってくれた。先に飲み物が届いた。イオリも私もローズミルクというジュースにした。イオリは意外と酒が飲めないらしい。私と同じだ。

「おお、美味しい……!」

「な、美味しいと言っただろう。おい、一気に飲むな、チョビチョビ飲んで余韻を……おい!」

「ご馳走様でした。」

 一瞬でジョッキが空になってしまった。美味しかったからイオリに微笑むと、彼もふふっと微笑んで、紙ナプキンで私の口を拭いてくれた。

「もう一度それを頼もう。それで一つ聞きたい。」

「私に?」

「ああ。先程の銃のMODだが、何を付け足した?」イオリが髪の毛をかき上げて、照れた仕草をとった。「あまり、その、銃は好きだが、詳しくはない。」

「ふふ。装填数を追加と、リロードの短縮、エイムの精度、射程距離と威力の底上げ、フル・セミオート化、反動軽減、消音機能追加。勝手につけちゃったけど、別に良かった?」

「あ、ああ。そこまで機能が追加されると、職務中に携帯しても良さそうだ。ほう、有り難う。」

 イオリが喜んでくれた。それが嬉しくて自然に微笑んでしまった。イオリはどこかを見ながらジュースを一口飲んだ。グラスを挟んだ、彼の綺麗な唇に見惚れてしまった。

「それで、本当にスナイパーなのか?俺の予想通りに。」

「え?あ!うん。」

「そ、そうか……グフっ。」

 むせたイオリの口を紙ナプキンで拭いてあげようとしたら、ばっと奪われて、彼が自分で拭いてしまった。

「イオリは私のを拭くのに、どうして私はイオリを拭いちゃダメ?」

「出来ればサラにやってもらいたいからだ。」

「おぅぅぇ。」

「なんだその反応。俺が誰かを好きで悪いか?」

「悪くないけど、じゃあイオリも拭いちゃダメだよ。私のこと。」

「そうだな。気をつけるよ。」

 何この空気。暫くの沈黙の後で、料理が届いた。イオリは謎の赤いホットドッグで、私のは……立派なアレの形をしたサンドイッチだった。

 私のサンドイッチを見たイオリが笑い始めた。

「メニューのより実物は立派だな、ふっ、あはは!」

「本当だね、ふふっ!」

 この笑い合いもサラの前では無駄なんだよなと黒い気持ちを抱いた私は、いただきますとそのサンドイッチを持って先っぽから一口ぱくっと頬張った。

「うん!美味しい!」

「そ、そうか。」

 イオリを見ると、彼は私を見ないようにして、頬を赤らめていた。照明でそう見えるのかもしれないけど、雰囲気から多分照れているっぽかった。

 へえ……。

「イオリ、変な想像してる。」

「ばっ!」イオリが私の肩をベシッと叩いた。「貴様に何を想像するのものか!いただきます!」

 彼が大きな一口でホットドッグを頬張り、添えられた黒いポテトを勢いよく食べ始めた。彼が美味しさに目を丸くしたところで、私もサンドイッチをもう一口食べた。

 その時にチラッとイオリが私を見たのが分かった。

「ふふ、やですね、イオリったら。」

「……頼むから大人しく食べろ。」

 ああ、今宵の食事は楽しい。私はハムとチーズの余韻を楽しみながら、咀嚼そしゃくを繰り返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

処理中です...