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58 真実の刃
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イオリの部屋から大きなリビングに戻った時に、私はハッとした。
彼の香水の匂いがしたのだ。立ち止まって横を向くと、神妙な顔をしたイオリが、腕を組んだまま壁に寄りかかって立っていた。
足には包帯が巻かれている。レイヴも気付いて、「あっ」と声を出した。イオリは我々に目を合わせようせず、静かに立っていた。
「ねー帰るならこれも一緒に捨てていってよー!」とサラがイオリの服をハンガーごと持って我々を追ってきた。
私たちの視線でサラがイオリのことを発見した。すると一気に笑顔になって、イオリに擦り寄った。
「おかえりイオリー!いつ帰ったのー?心配したんだから!」
「その服はどうするんだ?」
「あーこれー?なんかレイヴが欲しいんだって!ほら彼って、あなたほどお金ないでしょ?だからあげてもいいよね?」
「いらねえよ、俺の趣味じゃねえし。」
レイヴがそう言うとサラは一瞬ムッとしたけど、すぐにイオリにニコッと微笑んだ。しかし彼の表情は全然変わらない。
「今……サラが俺の服を捨てろとレイヴに命令していたが。」
「冗談だよ!冗談!あげようと思ったのー!」
「金魚鉢は?」
「え?あれ?なんかレイヴとリアちゃんが、ふざけてバルコニーから投げてたよ?」
「お、俺たち」レイヴが私の手をギュッと引いた。「もう帰るよ。なんかここ、居心地めっちゃ悪いし。明日のミッション朝早いからさー、またね。服は本当に欲しくないし、いらないから。」
「レイヴ待て。」
「はい。」
イオリの命令にレイヴの足が止まった。私は涙をブラウスの裾で拭った。イオリを見ると彼の鋭い視線と目が合った。でもイオリはすぐに目を逸らして、どこかを見つめて、ため息をついた。
そして彼は言った。
「全てを聞いていた。」
「何を?」サラが聞いた。
「レイヴ達がここに来てすぐのことだろう、まだレイヴのくだらない香水の残り香漂うリビングに、俺は帰った。三人で俺の部屋で何かしていると思い、聞き耳を立てた。金魚鉢を捨てたのは、サラだ。俺の服を捨てようとしているのも事実だ。」
「ごめんねー、だってゴミだと思ったの。」
「お前の私物はあってもいいのに、俺のはダメか?毎日バッグや靴、服を買って、毎晩のように飲み歩く。俺が心配で連絡しても無視。俺がお前を必要としている時に電話をすれば、迷惑だとほざく。」
「……どうしたの?こわーい。」
「……このネクタイは、リアがプレゼントしたものだ。お前じゃない。アジトに来たあの日、リアとの会話を俺は実は聞いていた。俺そのものではなく、俺の地位や収入が目当てだと理解した。お前の目を見れば見るほど、微表情を見れば見るほど、俺を愛していることは嘘なのだと理解した。しかし、少しばかりはどこかに俺への愛情があるのではないかと期待をした。だがそんなのはどこにも無かった。俺はお前にとって、ただの奴隷だ。ただの召使だ。おかげでよく反芻することが出来た。」
「そうなんだ。狸寝入りとかして私を試す真似するんだね。」
イオリがサラを睨んだ。
「お前に俺を責める資格があるか?レイヴにも言われてはっきりしたよ。サラが俺の金を愛していたように、俺はサラとの絆に執着していた。実際は……ハッタリの絆だ。」
「ごちゃごちゃ御託は要らないんだけど……ごめんねって言えばいい?」
「レイヴ、」イオリが急に歩き出して、サラの部屋の方へと向かった。そして叫んだ。「帰るついでにそのゴミを捨てて行け!今から俺がそっちへ運ぶ物も全て、まとめて廊下に捨てろ!」
「えっ、あ、はい。」
レイヴがイオリの投げてきたバッグ類を拾い始めた。サラは「何すんのよ!」と喚いている。しかし次の瞬間にサラは、態度を変えて、両手いっぱいにバッグを持ってきたイオリに縋り付いた。
「違うのイオリ!私、環境の変化で不安だったの!だからこうなったの!昔は違ったでしょ?」
「昔は違う?ああそうだったな、そんなこともあったかなと頭の片隅にあるが、全く覚えていない!」
「えー!酷い!」
サラは落ちてた革のバッグを、またサラの部屋に戻ろうと歩くイオリの足にぶつけた。それが彼の傷のところに当たると、イオリが倒れ込んで、「ぬああああ!」と呻いた。
「イオリ!」私は駆け寄った。彼の包帯が赤く滲んでいた。縫合が取れたかもしれない。
「ほーら、私が嫌なことするからそうなったんだよ!」
「サラ!」私は叫んだ。「これはやりすぎ!傷が開いちゃったよ!」
「だから私が嫌なことをするからでしょ!「もうお前一回落ち着けよ!」
レイヴがサラをドアのところに引っ張っていき、ドアの外へ突き飛ばして、無理やり締め出してしまった。出る時にサラが、「リア!あんたにいいものを持ってきてあげる!」と叫んでから消えた。
いいものってなんだよ……。私は苦笑いした。
「イオリ、大丈夫?」
イオリはぐったりと頭を垂れて座っている。
「……少し、一人にしてくれ。色々と整理したい。アリシア、レイヴ、本当に迷惑をかけた。」
「あー」とレイヴが言った。「まあさー、そんな時もあるよ。なんかすごく大変だったんだな。まあ、後で俺の部屋に来ればー?今日ぐらいは一緒に飲んで騒いでやってもいいよー。」
「はは、ありがとうな。それとアリシア、本当にすまない。彼女が酷いことを、お前に。途中で止めればよかったが、すまない。」
「いいよ、まあ、またね。」
私とレイヴはイオリをそのままにして部屋を出た。廊下にはもうサラの姿は無かった。
エレベーターの中で、私とレイヴは黙っていた。お部屋の階について降りると、レイヴがボソッと言った。
「なんか凄かったな。兄貴、今まで色々と我慢してたんだと思うよ。」
「うん、本当にね。イオリは受け止められる力があるから、出来たんだね。」
「ねー。人の心を知るって難しいからさー、つい分かってあげたくなるけど、兄貴みたいに何でも相手のこと知ることが出来ちゃっても、それはそれで辛いよなー、だって相手が嘘ついたら分かるし、相手が自分のこと好きじゃ無かったらそれも分かるんだもんな。たまに騙されることもあるけど、俺は鈍感で良かったよ。」
「うーん、私も鈍感で良かった。」
レイヴの部屋に戻ると、彼は真っ直ぐに冷蔵庫に向かって水色の瓶を取り出して、ぐびぐび飲んだ。私はソファに座って、ため息をついた。
彼の香水の匂いがしたのだ。立ち止まって横を向くと、神妙な顔をしたイオリが、腕を組んだまま壁に寄りかかって立っていた。
足には包帯が巻かれている。レイヴも気付いて、「あっ」と声を出した。イオリは我々に目を合わせようせず、静かに立っていた。
「ねー帰るならこれも一緒に捨てていってよー!」とサラがイオリの服をハンガーごと持って我々を追ってきた。
私たちの視線でサラがイオリのことを発見した。すると一気に笑顔になって、イオリに擦り寄った。
「おかえりイオリー!いつ帰ったのー?心配したんだから!」
「その服はどうするんだ?」
「あーこれー?なんかレイヴが欲しいんだって!ほら彼って、あなたほどお金ないでしょ?だからあげてもいいよね?」
「いらねえよ、俺の趣味じゃねえし。」
レイヴがそう言うとサラは一瞬ムッとしたけど、すぐにイオリにニコッと微笑んだ。しかし彼の表情は全然変わらない。
「今……サラが俺の服を捨てろとレイヴに命令していたが。」
「冗談だよ!冗談!あげようと思ったのー!」
「金魚鉢は?」
「え?あれ?なんかレイヴとリアちゃんが、ふざけてバルコニーから投げてたよ?」
「お、俺たち」レイヴが私の手をギュッと引いた。「もう帰るよ。なんかここ、居心地めっちゃ悪いし。明日のミッション朝早いからさー、またね。服は本当に欲しくないし、いらないから。」
「レイヴ待て。」
「はい。」
イオリの命令にレイヴの足が止まった。私は涙をブラウスの裾で拭った。イオリを見ると彼の鋭い視線と目が合った。でもイオリはすぐに目を逸らして、どこかを見つめて、ため息をついた。
そして彼は言った。
「全てを聞いていた。」
「何を?」サラが聞いた。
「レイヴ達がここに来てすぐのことだろう、まだレイヴのくだらない香水の残り香漂うリビングに、俺は帰った。三人で俺の部屋で何かしていると思い、聞き耳を立てた。金魚鉢を捨てたのは、サラだ。俺の服を捨てようとしているのも事実だ。」
「ごめんねー、だってゴミだと思ったの。」
「お前の私物はあってもいいのに、俺のはダメか?毎日バッグや靴、服を買って、毎晩のように飲み歩く。俺が心配で連絡しても無視。俺がお前を必要としている時に電話をすれば、迷惑だとほざく。」
「……どうしたの?こわーい。」
「……このネクタイは、リアがプレゼントしたものだ。お前じゃない。アジトに来たあの日、リアとの会話を俺は実は聞いていた。俺そのものではなく、俺の地位や収入が目当てだと理解した。お前の目を見れば見るほど、微表情を見れば見るほど、俺を愛していることは嘘なのだと理解した。しかし、少しばかりはどこかに俺への愛情があるのではないかと期待をした。だがそんなのはどこにも無かった。俺はお前にとって、ただの奴隷だ。ただの召使だ。おかげでよく反芻することが出来た。」
「そうなんだ。狸寝入りとかして私を試す真似するんだね。」
イオリがサラを睨んだ。
「お前に俺を責める資格があるか?レイヴにも言われてはっきりしたよ。サラが俺の金を愛していたように、俺はサラとの絆に執着していた。実際は……ハッタリの絆だ。」
「ごちゃごちゃ御託は要らないんだけど……ごめんねって言えばいい?」
「レイヴ、」イオリが急に歩き出して、サラの部屋の方へと向かった。そして叫んだ。「帰るついでにそのゴミを捨てて行け!今から俺がそっちへ運ぶ物も全て、まとめて廊下に捨てろ!」
「えっ、あ、はい。」
レイヴがイオリの投げてきたバッグ類を拾い始めた。サラは「何すんのよ!」と喚いている。しかし次の瞬間にサラは、態度を変えて、両手いっぱいにバッグを持ってきたイオリに縋り付いた。
「違うのイオリ!私、環境の変化で不安だったの!だからこうなったの!昔は違ったでしょ?」
「昔は違う?ああそうだったな、そんなこともあったかなと頭の片隅にあるが、全く覚えていない!」
「えー!酷い!」
サラは落ちてた革のバッグを、またサラの部屋に戻ろうと歩くイオリの足にぶつけた。それが彼の傷のところに当たると、イオリが倒れ込んで、「ぬああああ!」と呻いた。
「イオリ!」私は駆け寄った。彼の包帯が赤く滲んでいた。縫合が取れたかもしれない。
「ほーら、私が嫌なことするからそうなったんだよ!」
「サラ!」私は叫んだ。「これはやりすぎ!傷が開いちゃったよ!」
「だから私が嫌なことをするからでしょ!「もうお前一回落ち着けよ!」
レイヴがサラをドアのところに引っ張っていき、ドアの外へ突き飛ばして、無理やり締め出してしまった。出る時にサラが、「リア!あんたにいいものを持ってきてあげる!」と叫んでから消えた。
いいものってなんだよ……。私は苦笑いした。
「イオリ、大丈夫?」
イオリはぐったりと頭を垂れて座っている。
「……少し、一人にしてくれ。色々と整理したい。アリシア、レイヴ、本当に迷惑をかけた。」
「あー」とレイヴが言った。「まあさー、そんな時もあるよ。なんかすごく大変だったんだな。まあ、後で俺の部屋に来ればー?今日ぐらいは一緒に飲んで騒いでやってもいいよー。」
「はは、ありがとうな。それとアリシア、本当にすまない。彼女が酷いことを、お前に。途中で止めればよかったが、すまない。」
「いいよ、まあ、またね。」
私とレイヴはイオリをそのままにして部屋を出た。廊下にはもうサラの姿は無かった。
エレベーターの中で、私とレイヴは黙っていた。お部屋の階について降りると、レイヴがボソッと言った。
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「うん、本当にね。イオリは受け止められる力があるから、出来たんだね。」
「ねー。人の心を知るって難しいからさー、つい分かってあげたくなるけど、兄貴みたいに何でも相手のこと知ることが出来ちゃっても、それはそれで辛いよなー、だって相手が嘘ついたら分かるし、相手が自分のこと好きじゃ無かったらそれも分かるんだもんな。たまに騙されることもあるけど、俺は鈍感で良かったよ。」
「うーん、私も鈍感で良かった。」
レイヴの部屋に戻ると、彼は真っ直ぐに冷蔵庫に向かって水色の瓶を取り出して、ぐびぐび飲んだ。私はソファに座って、ため息をついた。
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