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104 凍ったひまわり
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一悶着あったけれど、我々は雪降る街に出て、寒さに凍えながら建物の影でフィール草の取引をした。それはすんなりと終わってしまった。
トレーラーに一回帰っている時に、イオリが「街にノアズの衛兵があまりいない。おかしい」と呟くように言った。レイヴは「吹雪いてるから誰も歩いてねーし、衛兵も拠点にいるんだろ」と言った。
確かに、この時間もあって、最初のカップル以来、誰も人が歩いているのを見ていない。本来なら衛兵がチラチラと歩いては見回りをしているはずなのに、それも無い。
逆に怖かった。でも我々は無事にトレーラーに歩いて戻った。何事もなかった。
そしてバリーに連絡をした。彼からターゲットの写真と居場所が送られてきて、私はスナイパーとレモン飴を装備した。
「飴を使ってもいい?最後にする。」とイオリに聞くと、彼は「他に方法が思いつかないし、仕方あるまい、これを最後にしよう。」と答えた。レイヴとヤギさんをトレーラーに置いて、私と彼は二人でターゲットの住んでるアパートの一階の部屋の窓際に行った。
一階ならスナイパーは要らない。私はそれをトレーラーに置いてきていたので、リュック姿の身軽な格好のまま、透けて、窓から侵入をした。
ターゲットはいかついスキンヘッドのお兄さんで、何故か子ども向けの教育番組のビデオを見ながら、ポップコーンを食べていた。
情報によれば、彼はFOCの資金を騙して奪った詐欺師らしい。テレビにはロバの着ぐるみが楽しげな音楽に合わせて腰を揺らして踊っている姿が映っている。音に合わせてスキンヘッドも揺れ出した。
私はポップコーンを口に入れようとした彼の手の動きと合わせて、レモン飴を紛れ込ませた。彼は「ん?」と違う食感に頭を傾げたが、次の瞬間には気にせずにボリボリと一緒に噛み砕いた。
私も少しだけその奇妙な番組を見続けた。ダンスのコーナーが終わると、今度は工作のコーナーだった。女の子とロバが、一緒に紙でひまわりを作っている。
スキンヘッドはソファから崩れ落ちて、動かなくなった。私は彼の脈を確認してから、その場を離れて壁を通り抜け、窓の外で待っているイオリの元へと戻って、姿を現した。
「済んだか?」
「うん、成功した。」
「……いつになっても慣れないな、この仕事は。」
イオリが私の手を握ってから歩き出した。私はそれよりも、彼の腕を抱いて歩いてみたかった。そうしてみると、彼は「ふふ」と少しだけ笑った。
「ねえ、」雪を踏みながら、彼に聞いた。「ひまわりって、好き?」
「好きか嫌いかで考えれば、好きだが。どうして?」
「なんでも無い。」
「……ひまわりか。ひまわりの絵画、では無いな。あのターゲットだ。ひまわりひまわり……」と彼が推理をし始めた。「ひまわりの映像?ひまわり、彼は何か教育テレビでも見てたのか?」
「すごいね、よく分かるね。」
「写真の彼、あの目つきはどこかあどけなさが残っていたし、ひまわりはどこか可愛すぎる。深夜の番組でひまわりが映ることは滅多に無いし、ならば録画だ。あとは直感で。」
「ノアズはきっと、イオリがいなくなって残念に思ってると思うよ。とても優秀だから。」
「……ふっ、アリシアだけでもそう思ってくれるなら、俺は満足だ。」
「イオリは頭がいい。」
「……。」
建物の影から出たところで、彼が立ち止まった。雪が降り続く中、誰もいない街灯の下で、彼が私の顎を指先であげた。
唇が触れて、二人から白い息が漏れて、それは降り続ける雪の奥に流されていった。つい、私は生きていると思ってしまった。
「イオリ、私の唇は冷たい?」
「……そうだな。だから俺が、温めてやる。」
「帰ったら?」
「ふふっ、」彼は私に微笑んだ。「そう言う意味では無かったが……そうしたくもある。そうしたいが、レイヴとヤギが邪魔だな。」
「確かに。」
イオリは私の頬にキスをしてから、また手を繋いで歩き始めた。永久凍土の街、外は寒くても、彼の手は温かい。
街灯の大通りを歩いている時に、ふと大きなお城みたいな建物が見えた。窓の明かりはついていて、屋根の上から謎の白い煙が上がっている。
「あの建物は何?」
私は彼に聞いた。彼は答えた。
「あれはスパだ。室内温泉。この街では外でも室内でも温泉がたくさんある。人々は暖かさを求めているから。……行きたかったか?」
「温泉には行けないと思う。」
「そうだな、FOCの人間は中に入れない。しかしどこかにFOCの使える温泉もあるだろうから、そこにはいける。」
「……行かない。」
もうあまり、彼の中に思い出を増やしたく無かった。もっと悲しくなるから。もっと。
トレーラーに一回帰っている時に、イオリが「街にノアズの衛兵があまりいない。おかしい」と呟くように言った。レイヴは「吹雪いてるから誰も歩いてねーし、衛兵も拠点にいるんだろ」と言った。
確かに、この時間もあって、最初のカップル以来、誰も人が歩いているのを見ていない。本来なら衛兵がチラチラと歩いては見回りをしているはずなのに、それも無い。
逆に怖かった。でも我々は無事にトレーラーに歩いて戻った。何事もなかった。
そしてバリーに連絡をした。彼からターゲットの写真と居場所が送られてきて、私はスナイパーとレモン飴を装備した。
「飴を使ってもいい?最後にする。」とイオリに聞くと、彼は「他に方法が思いつかないし、仕方あるまい、これを最後にしよう。」と答えた。レイヴとヤギさんをトレーラーに置いて、私と彼は二人でターゲットの住んでるアパートの一階の部屋の窓際に行った。
一階ならスナイパーは要らない。私はそれをトレーラーに置いてきていたので、リュック姿の身軽な格好のまま、透けて、窓から侵入をした。
ターゲットはいかついスキンヘッドのお兄さんで、何故か子ども向けの教育番組のビデオを見ながら、ポップコーンを食べていた。
情報によれば、彼はFOCの資金を騙して奪った詐欺師らしい。テレビにはロバの着ぐるみが楽しげな音楽に合わせて腰を揺らして踊っている姿が映っている。音に合わせてスキンヘッドも揺れ出した。
私はポップコーンを口に入れようとした彼の手の動きと合わせて、レモン飴を紛れ込ませた。彼は「ん?」と違う食感に頭を傾げたが、次の瞬間には気にせずにボリボリと一緒に噛み砕いた。
私も少しだけその奇妙な番組を見続けた。ダンスのコーナーが終わると、今度は工作のコーナーだった。女の子とロバが、一緒に紙でひまわりを作っている。
スキンヘッドはソファから崩れ落ちて、動かなくなった。私は彼の脈を確認してから、その場を離れて壁を通り抜け、窓の外で待っているイオリの元へと戻って、姿を現した。
「済んだか?」
「うん、成功した。」
「……いつになっても慣れないな、この仕事は。」
イオリが私の手を握ってから歩き出した。私はそれよりも、彼の腕を抱いて歩いてみたかった。そうしてみると、彼は「ふふ」と少しだけ笑った。
「ねえ、」雪を踏みながら、彼に聞いた。「ひまわりって、好き?」
「好きか嫌いかで考えれば、好きだが。どうして?」
「なんでも無い。」
「……ひまわりか。ひまわりの絵画、では無いな。あのターゲットだ。ひまわりひまわり……」と彼が推理をし始めた。「ひまわりの映像?ひまわり、彼は何か教育テレビでも見てたのか?」
「すごいね、よく分かるね。」
「写真の彼、あの目つきはどこかあどけなさが残っていたし、ひまわりはどこか可愛すぎる。深夜の番組でひまわりが映ることは滅多に無いし、ならば録画だ。あとは直感で。」
「ノアズはきっと、イオリがいなくなって残念に思ってると思うよ。とても優秀だから。」
「……ふっ、アリシアだけでもそう思ってくれるなら、俺は満足だ。」
「イオリは頭がいい。」
「……。」
建物の影から出たところで、彼が立ち止まった。雪が降り続く中、誰もいない街灯の下で、彼が私の顎を指先であげた。
唇が触れて、二人から白い息が漏れて、それは降り続ける雪の奥に流されていった。つい、私は生きていると思ってしまった。
「イオリ、私の唇は冷たい?」
「……そうだな。だから俺が、温めてやる。」
「帰ったら?」
「ふふっ、」彼は私に微笑んだ。「そう言う意味では無かったが……そうしたくもある。そうしたいが、レイヴとヤギが邪魔だな。」
「確かに。」
イオリは私の頬にキスをしてから、また手を繋いで歩き始めた。永久凍土の街、外は寒くても、彼の手は温かい。
街灯の大通りを歩いている時に、ふと大きなお城みたいな建物が見えた。窓の明かりはついていて、屋根の上から謎の白い煙が上がっている。
「あの建物は何?」
私は彼に聞いた。彼は答えた。
「あれはスパだ。室内温泉。この街では外でも室内でも温泉がたくさんある。人々は暖かさを求めているから。……行きたかったか?」
「温泉には行けないと思う。」
「そうだな、FOCの人間は中に入れない。しかしどこかにFOCの使える温泉もあるだろうから、そこにはいける。」
「……行かない。」
もうあまり、彼の中に思い出を増やしたく無かった。もっと悲しくなるから。もっと。
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