冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

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4.最初の試練

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 カタンッ。


「ーー陛下?」
 カメリアの声が聞こえた。何かを案じるような声音だ。何かあったのかな、と俺は玉座があるほうを見る。

 そこには、黒髪なんだけど、どう見ても日本人には見えない西洋っぽい顔立ちのイケメンが座っていた。豪華な毛皮がついたマントを肩にかけて(俺にもあれをくれ)、黒の軍服みたいな服を着てる。長さアピールかもしんないけど、偉そうに足を組んで、俺の顔をじっと見てるよ。



 ーーまさか、もうバレたのか……。

 緊張で口を引き結んだ俺の前で、乙女チックな椅子に座った姫様達が美しく微笑んでいる。姫様達の前には巨大な楽器のハープが置かれてて、その縦に張られた弦に手を置き、3人が目を合わせて音を鳴らしはじめた。

 ポロロ~ンーー、ポロポロポロ~~ン……。

 ーーへぇー、ハープだけでも音楽になるんだ。外国っぽくてかっこいいなーー。

 ポロポロポロポロ~~~ポロロ~~~。

 姫様達は優雅に手を動かす。優しく奏でられる音楽は、ときにダイナミックに激しさも加わったような音になる。マジ、プロの音楽家みたいだ。



 ポロロロ~~~ン…………。


 演奏が終わったのか、姫様達がハープから手を離した。俺はすぐに手を叩いて、感動を伝える。いや~~、生で聴くのははじめてだけど、すっごい芸術って感じだな。

「ーーお気に召していただいたご様子……」
「最近流行りの曲なのですが、ーーニバリス国は遠すぎて、聴いたこともないでしょうね~」
 ハデ姫様は何かとつっかかること言うね。セラフィナの国は遠いのかーー。そりゃ、そんな遠くからこんな意地悪なとこに来ちゃったら、逃げ出しても仕方ないよな……。
 
「では、ロウバイの乙女、支度をなさってーー」
「?」
「何を披露してくださるのかしら?」
 当然とばかりにハデ姫様以外のふたりが俺に告げた。冗談きついだろ、何を言い出したんだよこの姫様達。

「次はあなたの番ですわ」
 ハデ姫様の宣告に、俺の意識は飛びそうだ。俺に何ができるって言うんだよ。こちとらバスケ部の永久補欠、スリーポイントの唐梅とは言われていたが、ボールもゴールもないところではクソの役にも立たないぜ。

「ーーどうなさったの?」
 まあ、ハデ姫様ったらグイグイくるなぁーー。美人が台無しのやらしい顔してるよ。
「ーー特技を披露していただけると聞いておりましたが……」
「ねえ?」
 他の姫様達が首を可愛くかしげてるけど、それ誰から言われたんだ?俺は聞いていませんけど?

 ーーだからセラフィナ姫様、逃げたんじゃないか?


「ーーあの後ではね……」
「お可哀想に……」
「ーーロウバイの乙女様は、所詮数合わせの引き立て役でしょーー?」

 あれ?俺に同情してくれるひともいるんだ。そりゃありがたいねーー。


「ーークラメン」
「はい……」
 俺は手で口を隠しながら、クラメンの耳にだけ聞こえるように言葉をだした。

「大きくて白い紙、ってない?大きかったら大きいだけありがたい。後、墨と硯と筆ーー」
「ーー聞いてまいります」
 クラメンが立ち上がり、広間の後ろにいる女性達に話しかけた。

「何ができるのかしら~?」
「ーー陛下はお忙しい方、あまり時間を取らないほうがーー……」


「よい」

 凛とした声が響くと、上段にいる美人達の間に緊張が走る。全員が一斉に皇帝の方を見てから、すぐに俺の顔を睨みつけてきた。

 ーー何で睨むんだよ、俺の歓迎会なんだから皇帝様もサービスしてくれてるんじゃね?



「ーーセラフィナ様、こちらでよろしいですか?黒宋国の伝統の道具だそうですがーー」
 戻ってきたクラメンともうひとり女のひとが、俺の前に俺の身体よりもデカい紙と、道具を一式置いてくれた。

 すぐに俺はタイルの上の紙を、指で触れてつっかかりを確認する。それから筆を手に取り、左手のひらに文字を書く真似をした。ーーうん、良い筆だ、コシがあるし、これ超良い筆だよ。


 飾りの腰紐を一本解いて、さっとたすき掛けにする。よし、これで服が邪魔にならないなーー。文化祭でやったパフォーマンスのようにはいかないだろうけど、書道四段の腕を見せてやろうじゃないか。

「……」
 気持ちを落ち着かせて、俺は紙の上に膝をつき、大量の墨汁をつけた筆を、硯で整え、ひと筆めをおろす。



「………」
 広間の静けさが良い緊張感を生んでくれる。紙は少し引っかかるけど、筆が感動するぐらいの書き心地だ……、後でもらえないかな、これ。





「ーーー」

 良く書けた。


『咲けば散り
 散れば咲きぬる山桜
 いやつぎつぎの
 花さかりかな』


 行書もかなり上達してきたな。

 筆を置いて、ふぅ、と息をつく。これを七夕展にだしたら、観峰賞は間違いなしだぞ。

「………」
「………」
「………」

 ーーあれっ、どうもこれは違いましたか……。けどさぁーー……、他に俺には特技がないんだよな……。この服じゃ、ソーラン節も決まんねーし……。

「セラフィナ様、持ち上げてもよろしいですか?」
「(ぶんぶん)」
 クラメンに尋ねられ、俺は頭を振る。彼女がさっきの女性に声をかけて、そのひとと一緒に俺の書をもちあげ、上座に向かって頭を深く下げた。


「ーーすばらしいですわ!」
 皇帝の左側に座っている姫様達が手を叩いてくれた。あっ、ほんと?よかった~~~。

「ッ!」
 ハデ姫様は睨んでくるけど、ここを乗り切れて俺は安堵したよ。一発芸ができなくて、国民が殺されちゃたらたまらないもんね。

 気が抜けそうな俺を見ながら、皇帝が口を開いた。
「ーー褒美をやる。言え」
 すっごい上から発言だな。まあ、これが皇帝ってやつなのね。

 ーーそうは言ってもいま欲しいものなんかないぞ。後から出てくるかもしれないけど、大体口聞けないしな……。

 悩む俺の横でクラメンが、「あっ」、と声をあげた。なんだろう、と彼女のほうを見て俺の目が丸くなる。

 なんとびっくり、俺の書から桜の花が飛びだしたんだ。いきなり、ふわっと吹きだした、っていうのかーー。山桜だから、ピンクより薄い色だけど、それが皇帝の間に吹き荒れ、はらはらと床に落ちた。

「………」

 おーー、プロジェクションマッピングみたいだなーー。どんな仕掛けなんだろう?

 桜吹雪がやむと余韻にひたる俺とは違い、姫様達がボソボソと話をはじめる。
「ーー魔力持ちだなんて……」
「ーー聞いていないわ……」
 それはそれは冷たい視線が俺に投げつけられきた。せっかく美人な姫様達と距離が縮まったと思ったのに、一瞬で他人に戻ったみたいだぜ。

「……」
 ここはもう頭を下げてやり過ごすしかないーー、と思いながら、俺は筆と硯を指差して、皇帝の美麗な顔を見あげる。

「ーーそんなものでいいのか?」
 いいです、この筆最高ですから、という表情を作りながら俺は頷く。皇帝は、「そうか」、と一言いった。なかなか物わかりのいい兄ちゃんじゃん。

「ロウバイの乙女」
「ーーー」
 急に皇帝の雰囲気が変わって、俺は目をしばたたいた。なんだ?無礼だったのか?

「ーー夜におまえの宮に行く」

 ざわっ。

「ーーまさか……」
「ーーそんなばかな!」

 皇帝の発言に広間がざわついた。ーーうん?おまえの宮って、ロウバイ宮殿に来るの?ーー何しにーー?

「ーーセラフィナ様……」
 隣りにいるクラメンの声が震えている。なんでそんなに真っ青になってんの?皇帝がロウバイ宮殿にくるだけだろ?あっ、もしかしてお茶菓子がないのか?そりゃひとっ走りシャト◯ーゼにでも走りたいよな。

「ーー陛下が夜に来られるのですよ……」
 悲壮なクラメンの声に俺もよく考えてみる。このひとおもてなしは得意そうだから、そういう心配じゃあないんだろうけど……。

 んーー、皇帝が夜にロウバイ宮殿にくる?ロウバイに住んでるのはセラフィナ、ーー皇帝が夜にセラフィナ……妃候補の家にくるーー……。妃候補ってようは奥さんなんだよな?つまり目的は、………ッ!


 ーーそれしかないだろぉーーーーー!!



 あかん、それはあきませんて!即バレて、ジ・エンドじゃないか!う~、う~、どうする、どうする、どうするんだよ~、俺ぇ~~~!





ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます😄

 書道の画像ですが、たすき掛けがうまく処理できませんでしたので、諦めました。書も息子に書いてもらおうか悩みましたが(書道二段)、「なんで?」って言われたのでやめました(ちぇー)。

 では、失礼いたします。
 皆様、お気に入り登録、いいね、いただき、ありがとうございました😆

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