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7.冷酷?なんだよな?
しおりを挟むーーなんだよ、この拷問……。首はきっちり隠してきたけど、即バレしそうな距離じゃねえか……。
「ーー好きなものはあるか?」
無表情のヤツにそんなことを言われても、怖いだけだっつうのーー。俺は半分以上はヤケを起こしていて、『さっさと逃げたいなあ~』、なんて考えながらカツラの重さに耐えていた。
皇帝と食事ってことで、テレビで見るようなすごい長い机の端と端なんかな~って思ってたら、普通の丸いテーブルの前に座らされたよ。しかも、庭園の花がよく見えるテラス席でだ(どう考えてもデートじゃね?)。マジ、向こうの顔が見えすぎて、俺は下を向くぐらいしかできることがない。
ーー慌てて着替えたけど、喉仏見えてないよなーー?
襟元を気にし過ぎか……?いや、用心しないとすぐに男だとバレるだろ?ーーあれだ、オカマさんをイメージするんだよ。女性らしくて言われると敷居が高いが、オカマさんならなんとかできそうだ。
俺は口元を隠しながらニコっと笑ってみる。笑って済まされる相手じゃないことは百も承知だけどな。うん、けど俺はしゃべれない設定じゃん、この後どうすんの?いやだなぁ、皇帝ってば俺の顔見すぎじゃなぁい?
「食べないのか?」
ああ、すみません。お気づかいいただきさーせん、ってやつだ。
俺はテーブルの上に並べられた、良い匂いのする朝食を見ながらよだれを我慢していた。ーーなんせ昨日から何も食べていないんだからな。すぐにいただきま~す、っといきたいところだが、がっついたらダメだ。上品に食べなきゃ姫じゃないことがわかっちまうーー。
ーーでもね~、ここからが大問題~~~♫
「………」
ナイフとフォーク……、何でなんだよ………。食べることもできないじゃないか……。
焼きたてのパン(ナンみたい)、とろりとした卵がかかっているオシャレなハム(ハムだよな?)、色とりどりのサラダに野菜が見えるスープ、さらにはガラスの器に美しくのせられたフルーツの飾り切りーー。
ごちそうが並んでるのに手を付けることができないーー。たしか、外側からとって食べるんだろ?じゃあ皿の前に置いてるのはいつ使うんだ?これはフルーツ用?いや、ーーそもそも音を立てずにとか、音を立てる自信しかないしな……。
「………」
無理だ……、俺にはどうにもできない……。お腹は空いているのに、目の前に食事があるのにーー、手を出せないなんて蛇の生殺しだよ。
「ーー侍女」
俺が黙って俯いているからか、皇帝がクラメンに声をかけた。そうだよ、クラメン、早く助けてくれよ。
「ーー恐れながら申しあげます。セラフィナ様は穢れが重いほうで、いまは座っているだけでもおつらい状態でございましてーー」
「ーーそれは、悪かった」
クラメンの蒼白になりながらの発言に、皇帝はあっさりと頷く。………んーー、なんだか聞いてたイメージと違うな……。普通にこのひと良いヤツなんじゃないのか?
「下がれ」
一言だけいうと、皇帝の視線は庭園のほうに向けられた。横顔も驚くぐらいに整ってる……、きっと身分の高い人は顔もきれいに生まれてくるんだろうな。
俺は立ちあがってクラメンと一緒に頭をさげる。これだけ用意してくれたのに、悪いな、と思いながらーー。
ぐすっ。俺の朝ご飯、スタッフがおいしくいただいてくださいね……、ーーよし、今度はいつ声がかけられてもいいように、ナイフとフォークの特訓をしよう!
決意して歩きだした俺の肩に、ふわっと温かいものがかけられた。なんだろうな、って肩を見ると毛皮のついたマントが、俺の貧相な肩に乗ってるんだよ。
「……?」
振り返ると、視界の中で皇帝が顔を背けるのが見えた。ーーえ?ま、まさかこのマントくれるの!?超高そうなんだけどーー!
「………ッ」
おっと、ダメだ。声をだしちゃ。ーーどうすんだよ、お礼も言えないなんてーー。あっ、そうだーー!
パンッ。
俺は手を叩いた。その音に皇帝がそむけた顔を俺の方に向ける。
「………」
両手を合わせて、しっかりとお辞儀をすると、なんだかその場の空気が和らいだ気がしてくるよ。
「ーー寒そうに見えたからな」
「………」
優しいーー、さすがハーレムをもつひとはスマートだな……。悲しいかな、俺にはそんなことをしても意味ないんだけど。
悪い、だまして申し訳ないーー、そう思いながらもマントをしっかりと手でつかみ、俺はロウバイ宮殿へと急いだ。
「ーーおや、セラフィナ様。もうお食事はーー……」
廊下を歩く兵士の集団の中にいたカメリアが、俺に気づいて声をかけてきた。そこで俺の肩にかかっているマントを見て目を見開く。
「はーー……、あり得ない……」
心底驚いているみたいだ。
「ーー他の方のお耳にはいっては大変……」
なにかブツブツいってるけど、これってマズかったのかな?その態度に俺はひとの目につかないように、気をつけながら宮殿に戻る。いらない喧嘩は買いたくないもんねーー。
ロウバイ宮殿の外観は、薄いクリーム色の石材で造られてて、全体的に丸みのあるフォルムだ。彫刻とか細かくてめんどくさいんじゃないかーー?ってそうクラメンに聞いたら、「削りやすい柔らかい石なんですよ」、って答えてくれた。こういう材料って誰が最初に発見するんだろうなーー。見た目の判断かな?
とにもかくにも今日も無事に生還できたぞ。かなり危うかったけどさーー。この宮殿に帰ってくることが俺のミッション成功の証だよな?
ガチャッ、と鍵を開けた瞬間に、俺とクラメンは勢いよくロウバイ宮殿の中にはいる。そして、すぐにクラメンはしっかりとドアの鍵を閉めた。俺達ふたりでこの広い宮殿暮らしだもんな……、用心に越したことはないーー。いちお、防犯のために、兵士が宮殿のまわりを警備しているみたいなんだけどね。
「ーーセラフィナ様、ナイフとフォークは?」
「まったく使えないよ」
「では、練習いたしましょう」
「お願いします」
やれやれ、身代わりもやることが多いな。
「それにしても……」
「?」
「陛下はセラフィナ様をいたくお気に召したご様子」
「ーー嫌われるのも困るけど、好かれるのも困るとはーー、難儀なもんだね」
まったく相手にされない、が正解なのにーー、うまくいかないな。
「はい……」
困ったようなクラメンを励ますように、俺は明るく言った。
「まっ、新参者だから相手をしてくれてるんだよ、きっと。他の姫様達は2年も経ってるんだ、倦怠期でもきてるんだろ」
「そうだとよろしいのですが……」
クラメンが朝食の用意をしに俺の側から離れて行く。彼女も俺だけしか話すひとがいないのも可哀想だなーー……。
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