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13.新婚さんバンザイ
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フリーギドゥム帝国皇帝グラキエスが、その御手をつかみながら眠るセラフィナを、じっと見つめている。残念ながら、その無表情な竜顔からは、何も伺うことはできないーー。ただ、その瞳は、熱のため苦しげに眉を寄せるセラフィナの顔を、飽くことなく映し続けていた。
一度、クラメンはおそるおそる声をかけたのだが、グラキエスからの返答はなかった。セラフィナの額に氷水をいれてつくった氷嚢をあてるときでも、彼はその場から動かなかったのだ。
さすがに何かがおかしいーー。皇帝はセラフィナ様に何を求めているのかーー……、クラメンが訝しむのも当然の事だ。
ーーこれは、好みなだけでは絶対にないのではーー?
自分の存在をまったく気にしないので、クラメンは自分の仕事をする。
「~~~っ……」
「!」
クラメンはどきりとした。セラフィナが寝返りをしたのだ。
ーーまずいーー、セラフィナ様はよく寝言を言ったりする……!だが、この状況、もうバレていてもおかしくない。ーーなのに皇帝は、それを暴こうと、しない?
セラフィナから寝言はでず、クラメンは飛び跳ねるように脈打つ心臓をなだめ、ひとまず安堵した。だが、そのとき、グラキエスがポツリと言葉をこぼす。聞き取れないほど、小さな声でーー。
「ーーロディテ……」
そのまま、また、ーー静かにセラフィナを見る。懐かしそうな、悲しげなその瞳の色に、クラメンは悟った。
ーーああ、そうか。あの眼差しは…………、……セラフィナ様を誰かに重ねておられるのかーー……。だから、男とばれていても関係がない……。
ーーそうか、それならばーー……。
クラメンはその夜、ニバリスに書く手紙にそのことを書き記しておいた。セチアからの返事はないかもしれないが、自分が何としてでもこの少年を自由にしてやるのだ。
そのためには、やはり本物の姫様が必要になる……。
※※※
「~~う、……ん……」
ーータマ、おまえまた俺の布団にはいってきたのかよ……、あれ?おまえの毛ってこんなだったか?こんなサラサラだったかなーー……、よしよし、イイ子だな、グリグリしてやるぞーー。
いつもいつの間にか俺の布団にはいってくる猫のタマ。親父が世話してるのに、親父にはまったく懐かず、そこそこしか面倒をみない俺のほうにばっかくる薄情な猫。
ーーだめだぞ、たまには親父のとこにもいかないとさーー、ん?なんかおまえ毛がなくなったのか?まるで人間の肌みたいだ……。
ぼんやりと目を開けた俺は、直後に凍りつくことになる。
ーー何でだ?いや、確実にこれは死んだよな、俺ーー……。
どうしてこうなったかわからないが、俺は皇帝の顔をつかんでタマにやるみたいに、頭をグリグリしていたみたいだ。皇帝の前髪がぐしゃぐしゃになってるからね。
悪い、悪い、失礼しましたねーー、………ーーーじゃない!何なんだよ、この状況!く、クラメンはどこに行ったんだよ!?目が覚めたら皇帝が隣りにいるなんて、新婚さんバンザイじゃねえよーーッ!
「ーー体調は良さそうだな」
俺のグリグリに動じないとは、こいつのメンタルはどうなってるんだ?
「………」
あ、そうだ!思い出した、思い出したよ。熱があがるかも、って言ってたんだわ。ーーえ?皇帝が俺の看病してくれてたの?なんでーー?何が目的なんだよ、こいつ。
「失礼致します。陛下、朝議のお時間ですよ」
ドアを開けてひとが入ってきた。あの声はカメリアだ、ノックもなしで入ってくるんだな。
俺の頬を撫でてから、皇帝が身を起こす。外から天蓋が開かれて、光が差し込んできた。
「わかった」
いつもの黒い軍服みたいな姿じゃなく、白いカッターシャツ姿の皇帝が、ゆっくりと立ちあがる。そして俺の顔を見て、手を差し伸べた。
「?」
手を取るのか??
「セラフィナ様、陛下のお召し物をーー」
天蓋を片付けていたクラメンが、俺にこそっと耳打ちをした。えっ?あーー、はいはい、ベッドの上に放置されてる軍服を取るんだな。
俺は軍服を手に取り、急いでベッドから降りる。彼の腕に通そうとすると、カメリアが驚いた顔で、「あっ……」、とつぶやいた。あーー、これはよけいなお節介だったかな……。
けど、皇帝が俺を見て、少しだけ口の端を持ちあげた。頭の後ろから光があたって、横顔が影になっているんだけど、それがウソみたいに神々しくて、俺は胸がぐっとつまってくる。見方によっては微笑んでるように見えるから、変にドキドキしてしまうよ。
ほ、ほら、無愛想なヤツに笑われると、ギャップ萌えするだろーー?
「………」
カッコいいのは、どうしようもないな……、と見惚れてしまっている俺に、カメリアが声をかけてくる。
「セラフィナ様、しっかりとお見送りくださらないとーー」
「……?」
見送り?
「あなたは皇帝陛下がお渡りになられた唯一の妃なのですから」
「!」
ーーいやいやいやいや、ノーカンだよ。濡れ衣だよ!絶対に何もしてないってばーー!
「お急ぎください」
「よい」
「ですがーー……」
「また、夜にくる」
「ーーまあ、よかったですね!セラフィナ様!」
感動しているカメリアには悪いが、これには絶対に裏があるんだ。深い深い事情があるはずだーー、でないとおかしいだろッ!?
ーー………はあ、……思ってるより心のダメージが大きいなぁ……。俺はいったいいつ殺されるんだよ………。もう自分から庭の池に飛び込んじゃおうかなーー……。
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