冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

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29.予想通りの展開

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 日が暮れても、馬車は迎えに来なかった。クラメンが申し訳なさそうに俺の顔を見る。
「セラフィナ様……」
「まあ、落ち込むなよ。馬車のひとにチップをやらなかった俺が悪いんだし」
「ーーあなたは、ーーお優しすぎます……」
 怒るようなクラメンの口調に、俺は目を見張る。

「クラメン……」
「ーー逃げだした姫様の代わりに……、あなたはニバリスを救ってくださった……。それだけで十分ですのにーー……」
 泣きそうな顔のクラメンを励ますように、俺はその細い背中を叩いた。

「何、大げさなこと言ってんだよ。俺だって、魔犬から助けてもらったし、衣食住の恩もあるんだから、おあいこみたいなもんだ」
「セラフィナ様………」
 こんなきれいなひとに涙ぐまれても、照れるだけだよ。俺なんかのために涙を見せてくれるなんて、クラメンは優しいひとだ。


「お姉ちゃん達、芋汁食べるか、ってママが言ってるーー」
 子供が俺の側に来て服の袖を引いた。
「ああ、食べるよ」
「セラフィナ様!」
「大丈夫だろ。煮てるんだし」
「お身体にもしものことあればーー!」
「クラメン、落ち着けよ。芋汁だぞ、芋しか入ってないならあたるものも少ないはず」
 何より腹が減った。昼食も食べてないから、そりゃ減ってるよな。

「芋とね、キノコがはいってるんだよ」
「………」
「………」
 キノコ、と聞いて俺とクラメンは黙った。

「ーーキ、キノコは市場で買ってきたやつか?」
 震える俺の声を、なんで?って目で見ないでくれ。そんな純粋な目をされたら、悪いのは完全に俺だ!
「ううん。おばさんが草むらでとってきたの」
「………」
 クラメンが珍しいぐらい引きつった顔をしてるよ。

「ーーごめん。せっかくだけど、キノコアレルギーなんだ」
 俺は秒で心を決めた。素人のキノコ狩りなんか、信用しちゃだめなものトップクラスだよな。
「そうでございますーー!」
 食べる、って言ったらクラメンに後ろからはがいじめにされそうだ……。に、睨まなくても食べないよ……。

「えーー、おいしいのに……」
 頬を膨らませた子供に、俺は丁寧に謝った。

 ーー本当にごめん。でも、キノコはやっぱり、怖いんだよーーー。見た目普通でもヤバいやつ多いしさ……。

「ねえ、お姉ちゃん。セラフィナ様っておなまえなの?」
「うん?ーーうんーー……、まあ、いちおうだ」
「セラフィナ様って、こうていへいかのちょうひなんでしょ?」
 純粋なちびっこ達の澄んだ瞳が俺を見る。ちょっと、好奇心混じってるよな?

「…………クラメン」
「はい……」
「ちょうひって?」
 三国志にでてきたやつか?
「はい、陛下が深く愛されている妃のことにございますーー」
「はあ!?」
 はきはきと答えるクラメンに罪はないのに、俺は思いっきり目を見開いて、彼女の言葉を遮っちゃったよ。

 ーー嘘だろ……、テレビもネットもないのに、なんでそんな噂が広まるんだ?

「そ、それは、だ、誰から聞いたんだ?」
 動揺を隠せない俺に子供達が笑顔で言う。
「お母さんや、おばさん達!」
「………」
 ご近所の井戸端会議的なものか……、どこの世界もそこは変わらないみたいだ。

 なるほどね、新聞もネットもないけど、口頭伝達だけで国民の皆さんは情報を得るんだ。ひと集まればいろんな話題がでるもんな、考えるとひとの口ってすごいや……。

「ーーちびっこ達」
「ん?」
「なに~?」
 俺は息を深く吸った。

「ーー違うから!そんなことちっともないんだからな!!それは、ウソの情報なんだ!」
「……」
「う、うんーー」
 必死の弁明に子供達の顔が引きつる。泣きだしてしまう子供もいて、俺は反省した。ーー子供を泣かすなんて、俺は悪いやつだ……。








「うわぁーー、星空なんかひさしぶりに眺めたな」
 俺達はカラン大橋から離れて、川の土手に座った。見上げれば満天の星、ってやつさ。
「そうですね。ロウバイ宮殿の屋上からも、よく見えますよ」
「そっか……。じゃあ、今度ーー、…………」
 言いかけた言葉をのむ。ーー今度一緒に見ようーーなんて、俺は誰に言うつもりだったんだ?


「ーー陛下のことが、気になりますか?」 
 クラメンに尋ねられ、俺の心臓が跳ねる。びっ、びっくりしたーー!クラメン、何を言いだすんだよ。お、俺はあいつのことなんか、まったく気にしてないってーー。

「へ?ーー何言ってんだよ。ーーク、クラメン、ロウバイ宮殿からも、星空を一緒に見ような!」
「ーーーはい」
 クラメンが横を向いて、俺にわからないように笑ってるよ。こんな顔、うちのお母さんもしてたな……、『素直じゃないわね、あんた』、ってやつだ。
 

「ーー見える星はニバリスと同じか?」
「はい。見える角度は違いますがーー……。北に星の大河が見えますね」
「ーーあ、ああ」
 星の大河って、天の川みたいな感じなんだよ。もっと全体に輝きがまぶしいけど。

「その両側に明るい星が向かい合っていますーー。奇跡の乙女と勇敢なる騎士という星です。これがニバリスでは一年中見ることができます」
「へえーー、織姫と牽牛みたいだな。何か伝説でもあるの?」
「ええ。もう二度と会うことのない、恋人の星です」
 クラメンの声が低くなった。悲しみを堪えているようにも聞こえる。

「ーーーそれは、悲しいね」
「はい………」
 少しかすれた声の返事に、俺は顔を伏せた。
「えっと……、その、ーークラメンの恋人って………」
 無神経だとは思いながらも聞いてみる。やめておけばよかったのにーー……。

「………」
 返事のないクラメンが、星を見たままじっと動かない。ああーー、やっぱりそうなんだ……、と俺はその様子に彼女の心情がわかった。


 ーーもう、会えないのか……。
 

 理由は聞いちゃダメだ……。聞いたとしてもクラメンは言わないだろうけど………。

「ここで、寝ようか?」
 軽く言うと、クラメンに睨まれた。
「寒さがしのげませんーー。少しですがお金がありますので、宿を探しましょう」
「おっ、宿!行く!行きま~す!」
 面白そうじゃん!やったね!テンションあがってきた~~~!


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