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39.月璃、川辺で暮らす
しおりを挟む「タオ、なんだよそのおもちゃ」
「いいだろ?ツキリが作ってくれたんだぁ」
「いいな……」
ーーはいはい、君の分もあるから大丈夫だよ。
「おいで」
「!」
俺が声をかけると悲しそうな顔をしていた少年が、肩にかけていた作業用のカゴをその場に置いて走ってきた。
「はい、竹とんぼっていうんだ」
少年に渡したのは、ザッ昭和のおもちゃ『竹とんぼ』、だ。昔お父さんと作った記憶をたどり、なんとなくで作ってみたんだけど、うまく飛んだんだよ。これが子供達に大ウケで、大量に作るハメになっちゃったけどね。
「すごい!いいの!」
「いいよ。ひとにあたらないように遊ぶんだよ」
「わあい~~~!」
子供は覚えるのが早い。遊び方なんか教えなくても誰かのを見たらすぐに学習する、すごいよな……。
「ツキリーー!」
「はあい。何だよ、ファナさん」
ファナさんは俺に懐いてくれてるタオ君のお母さん、いま俺がお世話になっているこの場所のドンみたいなひとかな?
「役人が来てるわ。水のことを聞きたいみたい」
「またか……」
「早く行って」
断るのもひと苦労なのよーー、とファナさんが愚痴る。すみませんね、俺、よけいなことやっちゃったかな……?
「お~い!ツキリ!」
ファナさんが指差す方向にいたのは、顔なじみになった青年のサージだ。
「サージ……」
「オレの紹介だぞ!」
もじゃもじゃ金髪の陽気な男が、人懐こい笑顔で手を大きく振っている。
「よけいなことだよ……」
俺は疲れた顔を隠すことなく、深いため息をつく。最近はただでさえやることが多いのに、もう身が保たないなーー。
ーーと、いうことになったのも、まあ俺の行動からでたところなんで何とも言えないんだけどね。
俺はリタナ姫様と別れた後、カラン大橋を目指したんだ。かなり歩いて、靴擦れがほんとにひどいことになってた。靴を脱いだら血まみれだったんで洗いたかったからさ、俺が知ってるところはそこしかないし、川に向かったんだよ。
途中、教会の前でパンを配ってたんで、行列に並んだ。これで腹ペコをしのいでーー、麦の味が口いっぱいに広がって、マジで泣けてくるほど美味しかったなーー。
で、ようやく橋の下についたら、ファナさんが俺を見て大喜びしたんだ。
「あ、あんた!あんたのおかげであたしら助かったんだよ!」
「え?ーー何で?」
「あんたに言われて川の水を沸かして飲んだからか、この辺の者は腹を壊さずにすんでね!」
「あーー」
やってくれたんだな……。
「建国祭の後、あちこちで腹を壊すものが増えたって聞いてね」
「えっ……」
そうか……、大勢のひとが集まったんなら、川にゴミを捨てるひとや用を足すひともいただろうーー。
「去年はそうでもなかったのに、今年はこの下のミモザ大橋の下に住むひと達がひどい目にあったそうよ」
「あーー、さらに下流じゃあ、危険度がますか……」
山の清水も海にいく頃には濁っちゃうのは仕方のないことだよな、みんな使うんだから。
「いまは沸かしてからじゃないと飲まないことにしてるんだ」
「ーーその前に水をろ過したら、完璧だよ」
「ロカ?」
「空き瓶とかないかな……、容器ならなんでもいいんだけど……」
そして、理科の実験でやったろ過装置を作って(小石とか砂とか重ねるあれね)、ファナさん達はいつでも安全な水を手に入れることができるようになったんだ。
まあ……、100%安全とは言えないんだけど……。所詮はガキのウラ覚え、なんちゃってろ過装置だ。そりゃ今までよりは全然いいだろうけどさーー……。
橋の下に住む女性達の中には、赤ちゃんがいて働くことができないひともいて、そのひと達が交代で水を管理してくれるんで、俺は別の仕事をすることにした。
でっ、ここの子供達が近くにあるゴミ捨て場のゴミの仕分けをしてるっていうんで、そこについていくことになって、子供達の雇い主であるサージと知り合ったわけだ。
最初はケチ臭い嫌なヤツだと思ってたけど、頼みこんだら子供達の賃上げに応じてくれたし、ちょっと嫌なヤツじゃなくなった。
だけど、かなり図々しい人間だとは思う。俺が水をろ過する装置を作ったことをあちこちに言いふらしたり、カラン大橋の下の装置を勝手に持ち出して売ったり、困った行動にでるんだよ。
子供達のことがなかったら付き合ってないんだけど、あの子達に職場で理不尽な思いをさせるのも嫌だしーー、役人を連れて来られるのも困るしーー、何かいい方法がないかな……?
「おまえが噂の水職人か」
ひとを品定めするような目つきのおじさん達が、俺の顔をジロジロ見てくる。俺だってジロジロ見ちゃうからね。
「……水職人」
どうやら、俺は知らないうちに職人になってたらしい。そういえば、このひと達の服は、軍服でも城の兵士とは色が違うな。あっちは青色で近衛兵は白に近いクリーム色、このひと達は緑色だ。役職によって色をわけるのかな?
「いや、そんな大層なものじゃないし、もう知ってることはありません」
「おまえはなぜ、水を小石や砂でろ過することを知っていた?それに、水を煮沸して飲むことは、あまり平民の間では広がっていないことだ」
ははーん、知識はあるんだ。問題はそれが定着、もしくは装置ができないんだな?あーー、でも免疫や人口の違いもあるし、ーー結構難しいのか。
「それは、俺がこの国のものではなくーー、ニバリスから来た者だからです。そこでやってたことをしているだけで、これ以上難しいことはわかりません」
「ほう、ニバリスから……。なるほど、ーー陛下がロウバイの乙女様をご寵愛なさるのも、それがあるからかもしれないな」
「………」
ーーロウバイの乙女様をご寵愛……、かーー。あいつ……、例の令嬢に似てたらなんでもいいのか?最低だなーー。
「……ふん」
「は?」
「あ、いや、なんでもないです。俺のやり方だけ教えときましょうか?」
「いや、城の飲用水は山の雪解け水を引き込んでいるからきれいなのだが……」
「ああ。気をつけたほうがいいですよ。キツネが糞をしてたら、エキノコックスって寄生虫がいて、ひとの身体の中で悪さするみたいなんで」
わかるかなーー?、って思いながら俺は話す。変な話をするヤツだな、で終わるかもしれないけどさ。
「きせいちゅう?」
「ええ、目に見えない菌みたいな……、虫……?」
そこまで言って、俺はかたまった。おじさん達とサージがすごく訝しげな目で俺を見ていたからだ。
だけど、おじさん達は理解できる部分があったのか、何かを考えるような顔になった。
「ーーそうか……、雪解け水もそう考えるとそうだな」
「獣がどこで糞をするかなんて、わからないものな」
「陛下や妃候補様方の飲用水は山の一番上流の水だが、それもろ過したほうがいいか?」
「ーーー念のため、しないよりはいいと思います。人間は飲んでないかもしれないけど、鳥は飲んでるかもしれないし……」
「鳥にも菌がいるのか?」
「うーーん、カビやアレルギーになる成分があったような……」
俺もはっきりとはわからないけど、アレルギーって昔からあるのかな?よく聞くのは蕎麦とか、エビ・カニだよな。
「ーーおまえの話は興味深いな」
「是非に王城の研究室に来てくれないか?」
王城、と聞いて俺の胸がドキリとした。
「ーーーいや、そんなすごいものじゃないんで……、すみません……」
それだけ言うと、俺はおじさん達の前から立ち去る。サージが慌てたような顔で俺の肩をつかもうとしたけど、俺はそれをかわして子供達のところまで戻った。
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