冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

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42.月璃、バイトに行く

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「ツキリ~」
「………」
 次の日、何事もなかったような顔で、サージが俺の側に寄ってきた。いちおう俺はこいつをふったわけなんだけど、気にならないのかな?俺は気まずくて嫌だけどさ。

「良い話がある」
「……」
「一緒に魔法薬の新薬協力に行こうぜ」
 おっと、タイムリーな話だな。明るくもちかけられたけど、この辺のひと達にはよくあることなのか?

「やったことあるの?」
「あるある。二日酔いに効いたり、腹の痛みが治まったり、さらにイイ飲み代になるしな」
「へぇ」
 そうか、魔法薬って病気にたいしてのものなんだな。飲んだら目からビームがでるとか、口から火が出るとかそんなんじゃないのか……。

「がっかり……」
「なんだよ~。ふたりで申し込んだから、行くぞ!」
「ーー俺の報酬も自分の分にしてないよな?」
 そこは大事だぞ、仕事は契約内容をよく確認しないとな(父さんも口約束では仕事するな、ってよく言ってたし)。

「大丈夫、大丈夫。おまえ字が読めるんだろ?」
 サージに古びた紙を渡されたけど、字が細かすぎてわからないよ……。
「ーーあやしい」
「いいから行くぞ!」
 強引すぎるな……。

「ファナさんに言ってくるよ」
 急に消えたら心配されるもん。
「ああ」
 ニヤニヤしてるサージに不穏なものは感じるんだけど、子供達や女性も行ってるなら、俺もそこが安全な場所なのかを確認しとかないとなーー。



「ファナさん!」
 女性達がよくいるのは、色とりどりの布を重ねて作った囲いの中だ。赤ちゃんに、……お……、ミルクをあげてるひともいるから外から声をかけないとね(テレるよな)。

「ーーはいっていいよ!」
「失礼します」
 布をめくって中にはいると、トクサで木を磨いていた女性達の中から、ファナさんが立ちあがる。前に俺が木材の余ったやつに絵を描いてパズルみたいにしたら、それを子供達が気にいったらしく、手があいてるひとで作ってるみたいなんだ。

 トクサは竹みたいな見た目の表面がザラザラした細いやつだけど、なんとシダ植物だ。サンドペーパーとかないから、こういうので代用する。けど、こっちの感覚ならサンドペーパーが代用品なんだよな……まあ、まだないんだけどさ(いつか、いいものができたわね~、ってなるのかな?)。他には砂とかで磨くんだって。何もかもが勝手が違うのに、俺もよくこの国に適応してると思うよ。


「サージに魔法薬の新薬協力に誘われたから行ってくるよ」
「ああ、あれか……。最近、誰か行ったかい?」
 俺の言葉に驚きもせずに、ファナさんが女性達に話をふる。ホントに珍しいことじゃないんだ……。

「パヤナが行ったそうだけど、そのときは、『いらない』、って言われたんだって」
 ふ~ん、誰でもオッケーってわけじゃないのか……。

「あの子……、妊娠中じゃなかったかい?」
 おいおい、大丈夫?そのひと。
「そう。ーー誰の子かわからないらしいよ」
 …………。
「こら!」
「だって……、楽な仕事ばっかりしようとしてるし、ーー魔法薬のモルモットなんて、何度もしたくないわよね……」
「ちょっとおかしいし……」
「はいはい、ツキリに聞かせる話じゃない。ーーツキリもやめておいたほうがいいよーー」
 親身になって心配され、俺もしっかりと頷いた。

「うん。これっきりにするよ。じゃあーー」
「あっ、ツキリ。これを持って行きな」
 そう言ってファナさんが渡してくれたのは、ペーパーナイフぐらいの大きさの短剣だ。

「護身用だよ。懐に隠して」
「ーーうん。ありがとう」
 使う気はないけど、たしかにこういうのって必要かもーー。俺って危機感が薄いもんな。現代っ子だからしょうがないけどさ。

「俺も買わないと……」
「武器は高いし、この辺にはないからねーー。たまに近くの駐屯所で古くなった武器を安く売ってくれたりするんだけど……」
「ちゅうとんしょ?」
「王都の見回りをする兵士達の兵舎だよ。あちこちにあるよ」
 なるほど、警察官のポリボックスかーー。









「こっちだ、こっち!」
 妙に陽気なサージに連れてこられたのは、黒い壁の建物だ。まわりと比べて異質さが際立ってるよ。なんか、煙突から変な煙がでてないか?

「ここ……?」
 建物の裏手は川だ。この川はフリーギドゥム帝国で一番大きい川だから、ウーヌスフルーメンっていうらしい。

「……川の側って怖くないのかな?」
 まわりを見ると崩れた家が並んでるけど、かなりの廃墟感だよ。こういうのって撤去しないのかね?
「なんでだ?」
 俺のつぶやきにサージが眉を寄せる。普通におかしな疑問じゃないだろ?なんでもそうだけど、水の側って便利だけど、怖いものじゃないか。

「ほら、洪水とか起きると、危ないだろ?」
「ああ、おまえはよそから来たんだったな。今洪水が起きても昔と違って川は氾濫しないぜ」
 当然、とでも言いたげなサージに俺は疑問しかない。たいした堤防も、ましてやダムもないのに自信満々だなーー。

「だってよ、川の水や湖がヤバいことになったら、皇帝陛下が凍らせちまうからなーー」
「………」
 知らず、目が大きく開いた。




『ーーー私の子供の頃はひどい降雨量が続き、毎年のように氾濫していたーー』




 ーーああ、そうか……。あいつの魔法が子供の頃よりレベルアップして、川や湖を凍らせられるようになったから、洪水は起きなくなったのか……。『工事をするなら今しておかないとーー』、って、きっと自分が生きてるうちに、っていう意味なんだな……。




 なんだよ、それ!エグいぐらいカッコいいじゃねえか~~~っ!!




「ーーどうした?ツキリ、顔が赤いぞ」
 サージが額を触ろうとしてきたから、俺は帽子をなおすフリしてそっぽ向いた。向こうが小さく舌打ちしたような気がするけど、気安く触ろうとするなよな。


 
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