冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

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54.月璃はセラフィナを知る

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 侍女に変装した俺は、クラメンと裏口から外に出る。近衛兵さんもいないみたいだし、いまのうちにレッツラゴーだ。

 目指すは国政エリア。ーーまた、延々と歩くやつね。15分ぐらい歩いたんだけど、城で働いているひとっていうか、みんな健康だよな。お年寄りも分厚い本をもって、ビシッと歩いているんだよ。俺、絶対に体力で負けてる気がするなーー、こういう風景を目にすると、現代っ子は歩いてないんだって実感できるよ。


「ーーこちらです」
 威圧感しかない会議室を使用人用の小窓から覗くと、中の様子がしっかりと見えた。
「向こう側からは模様に見え、こちらからは室内が見やすい窓なのですよ」
「ほえ…」
 日本の城の隠し狭間みたいーー、鉄砲を撃つときに使う窓ね。

 部屋の机は円卓だ。アーサー王と円卓の騎士みたいでワクワクするよ。あたりまえだけど、奥の一番豪華な椅子にはルイリが座っていて、後は偉そうな顔のおじさん達。でも、その男性ばかりの円卓に銀髪の女性がひとりいるんだ。

「……あれが、セラフィナ姫様?」
「ーーーはい……」
「ずいぶんとイメージが違うな……」
「……………申し訳ありません」
 クラメンが謝ることないけどね。なんていうか美人なんだけど、ツンとした感じが高飛車な印象をまわりに与えるひと、かな……。


「ーー魔法師達がどこまでその薬を売ったのか、リストが行方不明になっているらしく……」
「ーーでしたらその魔法師をなぜ拷問しないのです?どんな方法でもいいから、痛めつければよいのですわよーー」
 おほほっ、と声をあげてきつめの美女が笑い声をあげる。他の誰も笑ってないのに、何考えてんだ?

 

「ーーなあ、クラメン。姫様ってば話す内容がおかしくないか?」
「………」
 おいおいクラメン。もしかしなくてもセラフィナ姫様ってヤバいやつじゃん。会議室にいるひとみんなから睨まれてるぜ?

「ルイリのやつ、なんで何も言わないの?」
「………」
「クラメン」
「……いままでは、あの…ツキリ様で脅していた、とでもいいますか……」
「はあ?」
 俺の眉がこれ以上ないぐらい寄る。なんだよそれ、それで黙って好きにさせてたの?なんかルイリってヘタレだなーー……。ちょっと見損なったよ、冷酷はどこいったんだよな?

「じゃあ、もう凍らせてやればいいのに」
「あれでも妃候補ですから」
 クラメンの言い方が面白すぎる!あれでも、って~~~!

 俺は吹きだしたいのをこらえて成り行きを見続けた。


「もう、報告はけっこうよ。お菓子の時間にしてーー」
 勝手に口をはさんで勝手に終わる。ーーなんとなくだけど性格がわかったぞ。かなりの問題児だな。


「ーークラメン」
「………はい」
「クラメンが姫様の話になると気まずそうになる理由が、ようやくわかったよ」
「…………はい……」
 そりゃ後先考えずに自分の立場から逃げ出す時点でそうか……。代わりに俺、超がんばったんだよ?ほんとお礼を言ってもらいたいねーー。

「ーーはあ……」
 俺の後ろで給仕の女性が盛大にため息をつきながら、会議室に入っていく。
「……あのひと、どうしたの?」
「………申し訳ございません」
「?」
 クラメンの表情に、俺は首をかしげてその女性を目で追った。

 肩を小さくしたそのひとが、びくびくしながら姫様に声をかける。かなり、怯えているみたいだけどーー……?
「ロウバイの乙女様、どうぞお召しあがりーー」
「ーー遅いわ!」
「!」
 セラフィナ姫様が給仕の女性を睨む。な、なんで?遅いって、待てない時間じゃないだろ?


「姫様、ひどいな……」
「……」
 俺のつぶやきにクラメンが悲しそうに俯いた。あのーー、クラメン?なんなのあの姫様……。ーー俺はあんな高慢ちきな姫様の身代わりだったわけ?ーーあのひとのために必死で男だってバレないようにしてたの……?


 …がっかりくる………。


「ーーいつもおんなじものばかり、愚かしい奴隷ね!」
「申し訳ありませんーー」
「ロウバイの乙女、黙れ」
 セラフィナ姫様の隣りに座っているルイリが、忌々しそうな表情で彼女を見た。皇帝の発言に会議室内がざわざわとしはじめる。

「陛下!ーー何をおっしゃるの!わたくしにそんな口をきくなんてーー!!」
 ヒステリックに叫ぶセラフィナ姫様だけど、ーーいや、きくだろ。あんた皇帝って一番偉い人なんだろ?それよりもなんで姫様のほうが偉そうなんだよ……。

 俺は泣きながら帰ってきた給仕の女性に駆け寄る。
「大丈夫?」
「ーーもう、無理……」
「そうだよね…」
「ーー少しでも気に食わないと、扇で叩かれるし……。私以外、みんなやめてしまったの………」
 ぐすぐすと泣く女性が、「私だって、病気の母がいなければ……」、って悲しい身の上を打ち明けてきた。



「ーーちょっと、何をしているの?言われるまで気が付かないのかしらーー? さっさと次を用意なさい!」
 声を荒らげる姫様の様子に、俺の顔は苦虫を噛み潰したみたいになってるだろうね。


「……クラメン、このひとを頼むよ」
「え?」
 テーブルに置かれたおかわり用の小さな丸いケーキに目をやり、残っている材料を見る。あーー、生クリームだよね、この白いのは……うん、甘い。

「ツキリ様?」
 不安気に俺の名前を呼ぶクラメンに軽く手を振り、俺はケーキの真ん中にスプーンを入れて生地を取り出し、開いた穴に生クリームをたくさんいれた。これでもかってぐらいにもりもりに高く盛る。

「………」
「………ツ、ツキリ様……」
 クラメンが呆然としてるよ。給仕の女性なんて真っ青になっちゃった。感性が違うよねーー、美しくないって思ってるみたいだ。

 しかし、これでコ◯ダ珈琲のアレができたよ。母さんが週4通うあの店の有名デザート、ーー残念ながら俺は食べたことない……、けど、こんなんだったよな?あれ?ケーキ?パン?まあ、どってでもいいや。

「クラメン、俺の顔見えない?」
「大丈夫ですが……」
 心配するクラメンが、会議室内に視線を向ける。うん、俺が行くよ。
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