冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

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55.セラフィナ姫様、ざまぁされる。

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「ーーまだなの!」
 どんだけお腹が空いてるんだか……。川のあの子達はお菓子なんか毎日食べられないんだよ?いや、生まれてから数えるほどしか口にしていないかもしれない……。そりゃ姫様とは、生まれが違うといえばそれまでだけどさーー……。


 ーーでも、姫様、それは違うよね?


「愚図!」

 そんなこと言うのは変だって、自分で思わないとさーー、まわりから見捨てられちゃうよ?


「行ってきま~す」
 トレイを持っていざ出陣ーー!
「ツキリ様!」
「まかせて、まかせてーー」
 カフェでバイトしたことぐらいあるんだから~~。


 大空間が肌寒い部屋にはいると、円卓に座るおじさん達がため息を吐いた。目をそらすひともいて、俺がどうとかっていうよりも、これから起こることを見るのが嫌って感じなのかな?

 そのなか、ルイリがちらりと俺を見て、眉をひそめた。すっごいきつい目で睨んでくるじゃん、ごめんね~じっとしてなくてーー。

「ーー遅いわよ」
 鋭い声が飛び、俺は頭を下げる。急いでセラフィナ姫様の前にトレイを置くと、彼女から声があがった。

「まあ!何よこれ……」
 生クリーム増し増しだけど、何かーー?この暴力的なビジュアル、絶対にウケると思うな。
「すごいわ……、そうよねーーこのぐらいのクリームがいいわよね……」

 でしょ?

 ごきげんなセラフィナ姫様がケーキを食べはじめようとする。皇帝に何も言わずに、無礼にも無礼だな。

 あーー、だからおじさん達、嫌な顔してんだ……。これは絶対にお仕置き必要案件だね……。

 俺は皿から手を離さず、それを持ち上げた。
「何?ーーなんの真似?」
 はい、もったいないとは思いますよ?でも、俺が原因ならちゃんとしとかないとねーーー。



 バシッ!



「!」
「ひっ!」
 おじさん達から優雅な悲鳴があがる。誰も、「ギャー」、「おぉっ!!」とか言わないとは、貴族って不思議だね……。

「………ロウバイの乙女…、様……」
 青ざめたおじさん達が言葉も続けられずに呆然となる。それもそうか、給仕の女性が姫様の顔にケーキをぶつけたんだもんねーー☆



「ーーーーな、な、な、な、な、ーーーーー」
 皿をゆっくりとはがし、生クリームまみれの白塗りの顔でセラフィナ姫様が俺を睨んだ。視線で石になりそうなぐらい、殺意がこもったきつい目だ。


「なんて事をっ!あなたは処刑よ!」
「ーーできるの?姫様」
「はっ?あなた、なんて口をーー……、えっ?声が、ーーあなた、男性?」
 そう言われて、俺は銀髪のカツラをとった。そこから見えた黒い髪に、セラフィナ姫様の目が大きく開かれる。


「どうされましたセラフィナ姫様!」
「何がーー……、あっ!」
 会議室内の異変を感じて、セラフィナ姫様の家臣のセチアとカールアが入ってきた。ふたりとも俺を見て、すごい顔になったよ。

「お、おまえーー」
「あっ、なんでーー」
「……………」
 拭くものがないから姫様は白塗りのままだ。こらえきれずに貴族のおじさん達がくすくすと笑ってる。

「ひさしぶりだね……、おじさん達」
 にこにこしながらセチアとカールアの顔を交互に見る。このふたりは俺を見て、すっごく気まずそうにしてるよ、そりゃそうだよね?

「こ、こ、このひと、ま、まさか………」
「俺?月璃だけど」
「!」
「ーーそう、姫様の代わりにロウバイの乙女をやってた唐梅月璃だよ」
「ーーーーッ」

 どっ!

 会議室にどよめきが起こった。ひとの驚いた声や気配が、全部俺に注がれるよ。
「ーーーーー」
 生クリームがなくても姫様の顔色は真っ白になってるかも。さっきまでの勢いがなくなっちゃったからね。

「姫様が妃候補が嫌で逃げ出したから、俺は強制的に身代わりにされたのにーー、なんで戻ってきたの?」
「ッ!」
「国が滅ぶとまで言われたから引き受けたのにーー………、そっちのふたりも、たしか、国の秘宝をくれるんじゃなかったのかなーー?ニバリスの国民はずいぶんと薄情なんだね?クラメン以外みんなそうなの?」
 あきれたように言うと、セラフィナ姫様の目がきっと吊り上がった。

「ーーわ、わたくしの国を侮辱しないでーー!」
「されるようなことをしてるのが、セラフィナ姫様だ。何やってんの?国の看板に泥を塗ってるのは間違いなく姫様だよ!!」
「ッ!ーーよくも偉そうに……、あなたなんか処刑してやるわぁ!!」
 怒鳴り声が響き渡る。でも、悪いけど、俺はそんなの怖くないからーー。もっと怖い目にあっちゃったからな……、感覚がおかしくなってるのかも。


「ーーロウバイの乙女」
 ひんやり………。
 俺と姫様の間に、息が止まりそうなぐらい冷たい空気が流れてきた。
「ル……」
 あっ、ルイリ呼びはふたりのときだけだった。え~と、皇帝陛下って呼ぶんだっけ?

「何ですの!陛下!」
「おまえは何を勘違いをしている?」
「ーー勘違い?わたくしはロウバイの乙女、陛下の妃候補ですわ。そうですわよね!?カランコエ公爵ーー!」
 セラフィナ姫様に顔を向けられた紳士なおじさんが、嫌そうにため息を吐く。

「ーー身代わりを立てていらしたとは……、よほど妃候補でいるのが嫌だったのですね……。辞退してくださればよかったのに……」
「ま、まあ!わたくしが皇妃になればあなたは公爵家筆頭になるんでしょ!?」
 『このひとは自分の味方だ』、と自信満々な姫様だけど、カランコエ公爵って呼ばれたおじさんは、どう考えてもそんな顔じゃない。

「ーーなれるわけないでしょ!あなたみたいな方が、皇妃に!?そんなにその地位にいたければ、どうぞお好きになさい、一生をロウバイ宮殿で静かに暮らすことになりそうですがね!」
「なんですって~~~!ひどい!ひどいわぁ!わたくしが何をしたのよ~~~!」
 全員からしらけた目で見られても、セラフィナ姫様は負けなかった。

 けどさ、ロウバイ宮殿に閉じ込めて終わりじゃ、誰も納得しないんじゃない?

「いやいや、そんなの甘いよ」
「ーーは、はぁ?」
「セラフィナ姫様、これから半年は侍女達と一緒に仕事をやること。しっかり反省したほうがいいよ」
「何を言ってるの!!頭がおかしいんじゃない!」
 わたくしが侍女の仕事なんかするわけがない、ときっぱり断った姫様だけど……。

「じゃあ、俺、姫様がしたこと城のひとや国民の皆さんにバラすよ。もちろん、ニバリス国にも手紙を書くから」
「うっ!」
「それか、氷漬けでニバリスに帰る?」
「はあ?氷漬け、って……」
 俺がルイリのほうを見たからか、姫様もびくびくしながら隣りにいる国のトップの様子を伺う。彼は姫様には興味もなさそうに、抑揚のない声で言った。

「組織を壊さずに冷凍保存してやろう。良い像ができたと、国の者も喜ぶのではないか?」
「ひっ!」
 ルイリの手から雪の結晶がポロポロとでてきて、床のタイルに落ちていく。それを見てセラフィナ姫様が愕然と口を押さえた。

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