(完結)主人公の当て馬幼なじみの俺は、出番がなくなったので自分の領地でのんびりしたいと思います。

濃子

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当て馬王子 アディオン 編

第28話 与一、のお風呂タイムと捜索会議

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「ーー国境兵はなんと?」
 怒りが見えるリディアンの表情を、隣りにいるテレゼが不安そうに見上げている。
「賊はアディオン殿下を人質に、国境を越えたとーー」
「責任者は?」

「やめよ、リディアン。アディオンも、責任を問うな、と言っている」
 ざらざらした厚めの紙に視線を落としながら、レディガンが息子を嗜めた。

「しかし、父上!」
「我が愚息よりも、サキナ殿のほうが心配だ。アディオンもそれを考えて、敢えてついて行ったのだろうーー」

「ーー優しい子ですからね。それで、セディラン。いい加減口を開いたらどうだ?」
「……」
 捕らえられたセディランは、兄から目を逸らしどこか遠くを見ている。

「スノウとカーレルを目の前で拷問するか?」
 エドアルドの言葉に、セディランの後ろにいたふたりが息を呑んだ。
「お義父様は黙っていてください」
 はあー、とため息をリディアンはついた。

「サキナが連れ去られたのだ。黙ってられるか!」
「ーーそんなに愛しておられるのに、ひとの弟に無茶な要求をしてーー」
 すべての話を聞いたリディアンは、その場にくずれ落ち、立ち直るまでにかなりの時間を要した。


「それとこれとは別の話だ」
 ある意味潔いエドアルドに、誰もが羨ましそうな視線を送る。強さがあればこんな好き放題してていいんだ、という目だ。

「お父様、最低です」
「そういうなテレゼ。父は浮気者なのだ」
「自覚があるのなら、自制してください」
「厳しい子供だな」
 子供のほうがよほど人間ができている。どうしてあの父親から、こんな天使が生まれたのだろう。

「テレゼがまともに育ったのはサキナ殿のおかげらしい」
「わたしもそう思います」
 リディアンとテレゼが見つめ合うのを、エドアルドが心底嫌そうな表情になる。そして、深い息とともに、言葉を発した。
「ーーサキナに会うのが目的の奴など、ひとりしか思いつかないーー」
 
「ラース大公子息マキラという者か?」
「サキナはひとに恨まれるタイプではないが、あいつだけは別だ」
「ほぅ」
「逆恨みの天才児。前ラース大公がアザ花種だけを可愛がる御仁でな」

「ーー王族には多い」
 血を絶やさないためとはいえ、それはどの王家も反省すべき点だ。
「拗ねて暴走して屋敷に火を放ち、前ラース大公から黄色王こうしょくおうのところへ行かされた」
 
「ーー過激な性格なのだな」
 単なるワガママをなんと言っていいかわからず、リディアンはそうまとめた。
「子供だ。とにかくアザ花種への妬みがひどい。テレゼが腹にいたときも階段に細工をして、サキナを落としたからな」

「お父様ーー」
「サキナやおまえが無事でよかったもののーー、やはりあのときに始末しておけばよかった」
「駄目ですよ。お父様ーー。すぐに始末とかいうのはーー」

「ふん。弱い者は姑息な手ばかりを使う。文句があるなら正面から言えばいい」
「誰もがお父様のようにお強くありませんから」
「言い訳をする暇があるなら剣を振ればよいだけのことーー」

 ふたりの会話を聞きながら、リディアンは思う。エドアルドもその軍を抜いた強さゆえに、まわりから嫌がらせを受けているのだろうーー、それをこの家族は家族で乗り越えているのだ。たとえ軍で孤立しようとも、彼には家族がいる。

 ーー良い絆をもっているのだな……。
 
 



「ーーねえ、いまの話、本当?」
 ようやく口を開いた弟に、リディアンが言う。
「何の話がだ?」
「ーーマキラが、アザ花種を妬んでる、って話ーー」
 セディランの顔を見据えてエドアルドが頷く。

「ああ。兄弟すべてがアザ花種ではないからな。前ラース大公には25人の孫がいるが、アザ花種は8人だけだ。そのひとりサキナの従兄弟のサシャラ殿が、へブリーズ大公の伴侶だ」

「ーーマキラは違うの?」
「ーー違うが、それがなんだ?」
 俯いていくセディランに、リディアンが優しく尋ねた。

「マキラはアザ花種だったのだろ?」
「……」
「え?それは、ではマキラではなく別人では?」
「マキラって名乗ったよ。ここに来る前は、黄色王こうしょくおうのところにいた、って言ってたし……」
「だがーー」

「エドアルド殿は知らないのか?」
 リディアンの問いに、エドアルドがハッとした顔になる。
「後天性のーー」

「ーー後からアザがでてくるーー、後天性アザ花種。最近の研究では、アザがなくても中身はアザ花種のようになっている人間もいるとーー、それが何かのきっかけでアザが出る」

「噂だけではなかったのかーー。それでは、もしかして……」
 エドアルドが口のなかでぶつぶつと言葉をこぼす。

「で、そのアザ花種になったマキラがおまえに何を言ったのだ?」
「ーー自分を妬み黄色王のところへ追いやったサキナに、復讐したい、ってーー」

「はあ!?」
「だって、マキラがそう言うから!」
「なぜ、おまえは彼の言うことを信じた?こんな事件まで起こして」

「ーーハリード様を、ふってくれるってーー」
 セディランの目から涙があふれていく。
「……そうか、マキラがハリード大公子の運命の相手なのだな?」
 眉を寄せ、リディアンがつらそうに尋ねる。弟は嗚咽を漏らしながら、小さく頷いた。

「ーーマキラがいなくなれば元に戻れると?おめでたい頭だ」
 辛辣なエドアルドをテレゼが小突く。本当に子供のほうが人間ができている。

「一度壊れたものが同じになるわけがない。選択しそこねたものを選び直すことができないのと同様ーー」
「お父様ーー。何か間違えたことが?」
「大失態だ」
「まあーー」

「セディラン、復讐とはマキラが何をするつもりなのかはわかるかーー?」
「ーー同じ目に合わせたい、とーー」
「!」

「それは黄色王のようなーー、良い噂を聞かぬ者のところへやるという意味か?」
 リディアンは気を使った。
「そう、えげつないぐらいヤバい助平親父のところに放り込むんだって」
 セディランはそれを台無しにした。

「何だと!」
 激怒したエドアルドの圧に、室内がビリビリと震え、シャンデリアが揺れる。

 こっわーー、とスノウとカーレルが顔を床に伏せた。控えている兵士達も何も言葉を挟むことができない。

「あっ、リディアン様。このお手紙、二重になっていませんか?」
 父の圧などそよ風ぐらいにしか思わないテレゼが、アディオンの手紙を見て声をあげた。それを受け取りリディアンは指で確認する。

「うん?ーー本当だ。父上、アディオンの手紙が重なっています。うまく剥がれるかーー」
 ざらざらの紙をぴたりと貼り付けてある。リディアンはそれを端からゆっくりと剥がしていく。手紙は端だけくっついていたので、文面に影響はなかった。

「ーーこれは、エドアルド殿に宛てた文だな」
「私に?誰がーー」
 手紙を受け取ったエドアルドが、目を通しハッとした表情になる。

「なるほど、そういうことかーー……」
 


 

















「おい、湯加減はどうだ?」
「ーー最高だ」
 風呂、久しぶりのたっぷりのお湯、最高ですやん。キサラに案内されたのは、こざっぱりとした屋敷の中の広い浴室だ。王宮の浴室とは違って飾りもなく、タイルの模様もシンプルで、俺はこっちのほうがいいなと思う。

「浸かりすぎだろ」
 たしかに、かれこれ1時間は湯船につかったままだ。だって、もう生き返るぜ、本当にーー。
「ーー魔ドラゴンにキスマークをつけられたのか?」
「え!?」
 浴布を渡されたが、俺はその前に首を押さえた。くっそー、あのときかよ!!エロマスターめ!

「ーーやられたか」
「未遂だ」
 恥ずかしいーー、見ないでくれよ。
「ラース大公の鷹から逃げられる人間がいたとは」

 目を丸くしたキサラの顔がかわいくて、俺は照れてしまう。気まずくて顔をそらしたいのに、その顔を見ていたいーー、何だよ、俺、病気?

「傭兵も言っていたが、ラース大公の鷹というのはエドアルド殿のことか?」
「ーーああ。祖父がどうしてもと乞い、ブルースティッツ家をラース家の十貴族に加え、サキナと結婚させた」

「それほど有名なのか?」
「戦においては負け知らず。先陣なら味方いらず、殿しんがりならば味方は無傷、とまで言われている男だ」

 ごくりっ、と俺は息を飲み込んだ。キサラのエドアルドを畏怖するような目の色に、それが本当のことを言っているのだと悟る。


 俺、よく無事だったな……。


「……あ、穴が、か、か、かたいと言っていてーー」
「ふうん、やる気はあったのか」
 ごめん、その軽蔑するような目、心が痛む。

「いや、それが、その…………」
 なんで俺はこのひとに言い訳しようとしてるんだ?ええい!減るもんじゃない、聞いてくれそうだし話しちまえ~~~!


 ーーそうなった経緯をすべて話すと、キサラがククッと愉快そうに笑った。

 あっ、笑ってる……。


「ーーばかみたいなお人好しだな……」
 褒めてはなさげ。
 でも、楽しそうな顔を見れて、俺はうれしいな。

 まじまじと彼の顔を見ていると、それに気づいたのか笑いを引っ込めて、俺を湯船から引っ張りだす。
「サキナのとこに行くぞ」
「あ、ああ……」

 世界がぐわんとまわった。頭が重たくなって、俺は壁に手をつこうと腕を動かす。
「危ないな」
 受けとめられた身体が、ビクッと震える。


 あっ……、俺…………、、、。


「ーーすまない」
 お礼を言ってから離れようとしたんたけど、まだ目の前が真っ暗だった。
「気にするな」
 声が近い。

 胸の中がドキドキして、痛いーー。これって、まさか、まさかーー…………、




 錯覚だ。

 そんなはずない。



 俺は同性なんか無理だしーー、アートレ達ともがんばらなきゃならないしーー。とにかく、ないない。

「少し横になるか」
 そう言ってキサラが俺を抱き上げ、涼しく風が通る部屋に運んでくれた。いや、誰も通らなかったからいいけど、俺マッパやん。

「休んでいろ。サキナに言ってくる」
「ーーああ」

 パタン。

 閉まったドアを見て名残惜しくなる自分がいる。何だろうーー。
 いや、それよりもーーー、


 あーーーーーーーー、どうしよう……。イケボだーーーーー。


 声がよすぎるんだよ、耳のなか支配されてるみたいだーー。



 目を閉じる。
 すると、なぜかキサラが浮かんできて、俺は慌てて頭を振った。

 違う、違う、違うーー、俺は違うんだってーー。ひとりでのんびり、エトルカーナ大公として生きるんだって!

 恋じゃない、恋なんかじゃないんだ。ほら、芸能人の男って、同性から見てもカッコいいじゃん、あんな感じ、なんだよ。

 白い天井を見ながら、俺は思う。




 
 出会うんじゃなかった、ってーー……。






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 いつも最後まで読んでいただき、ありがとうございます😊
 物語も佳境に入ってきました。
 
 最後まで読んでいただけるように、がんばりま~す😁
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