(完結)主人公の当て馬幼なじみの俺は、出番がなくなったので自分の領地でのんびりしたいと思います。

濃子

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当て馬王子 アディオン 編

第30話 与一、変態の目にとまる。

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 お、おいっ!なんかいま、あいつさらっととんでもないこと言ったよな?

「とびっきりの変態にお兄様を買ってもらおうと思ってね」
「……」


 マキラの言葉にサキナの眉が思いっきり寄る。けど、俺はそんなもんじゃない。目を見開き口をぽかんと開ける、唖然、っていうやつだよ。 

「な、おまえは兄にたいして何を言っている?」
「部外者は黙って」
「サキナ殿はお腹に子がいるんだぞ!」
「だから?だから大事にしろって?悪意をぶつけるなって?じゃあ、産んでからならいいわけ?」

「そうではない!兄を人買いに売るなど、人道に背く行いだ!」
「弟ならいいと?」
「いや、そもそも考え方が間違っている!」
「よその人間になんか、うちのことはわからないよねーー」

 いや、わからん。他人が理解できないのは、それは仕方のないことだ。
 でもさ、兄を人買いに売って、自分は幸せになれると思うの?そんなわけないじゃん。憂さ晴らしは成功かもしんないけど、後で死ぬほど苦しむって。

「マキラ殿のためにはならない」
「はあ?」
「生涯苦しむことになる」
「ばっからしい。ぼくは稀代のエロジジイのところに行かされたのに?」
「それはサキナ殿ではなく、祖父君がしたことなのだろう?」

「はあー、うざい。こんなの連れて来るなよ。そうだ、お兄様、ちょうどいいよ、出産ショーが見たいひとがいるから」
「は?」

 この世に悪魔がいるなら、たぶんあいつみたいな顔をしているんだ。そう思うぐらいマキラの顔が歪んでいる。憎たらしくて、超ムカつくよ。

「傑作なんだけど、ライオンを用意しといて、生まれた直後の赤ちゃんを食べさせるんだってーー」
 ぐらっ、とサキナの頭が落ちた。まるで糸が切れたみたいな動きだ。

「サキナ殿!!」
 俺は駆け寄って頭を支えた。サキナの顔色は真っ青になって、俺を掴んだ手が小刻みに震えている。そりゃそうだ、おぞましいこと言いやがって。

「ーー旦那、様……」
「大丈夫!エドアルド殿なら必ず助けに来てくれる!」
 可哀想に、想像だけで気を失いかけてるじゃないか。残酷なこと言うなよ!その出産がみたいやつ、俺が顔面パンチいれてやろうか!


「ーー来ない」
「え?」
「ーー助けになんて、こない」
「いや、だってテレゼ殿はーー」
 すんごい必死になってたぞ。

「……自分の子供は、大事だからーー」
 はらはらとサキナの大きな瞳から涙がこぼれていく。何やっても本当にきれいなひとだな。

 いや、それにしても、なんでこんな卑屈っぽいこと言い出したんだ?

 子供は大事でも、伴侶は大事じゃないのか?

「そんな、ひとじゃないだろーー?」
 エドアルドのことを信用していないのだろうかーー、仲良さそうに見えたけど……。


 サキナが顔をあげて俺を見た。ひとの目は口ほどにものを言うっていうけど、たしかにそうだ。彼の目が俺に何かを言っている。

 伝えていいのか、やめようかーー、悩むようなその瞳……。



「……!」
 薄く笑んだ口が、少し震えていた。それに、サキナの目が俺を拒絶してるーー。なんで、何かやったか、俺ーー……?



 !



 あっ!!そうかーー!そうなのか!!俺のバカぁぁぁぁ~~~~!!あんぽんた~んっ!!


 旦那の浮気に進んで加担してどうすんだよ!あまりにもみんな普通だったし、俺は魔ドラゴンを斬ることにいっぱいで、それしか考えてなかったけど、サキナさんは嫌に決まってんじゃん。バカすぎるぜ、俺ーーッ!!

 きっとあのときの顔は、俺を心配する顔じゃない、やめてくれ、って訴える顔だったんだよ~~~!!


「ーーサキナ殿、私が悪かった。あなたに不愉快な想いをさせる気はなくてーー」
 すみません、すみません、言葉だけで判断したらだめだよなーー!

「ーーいいんです。私の心が、狭いだけーー、旦那様に好きにすればいいと言ったのは私……」
「いやいや、はっきり言いなさい。浮気したら出ていくとか、離婚するとかーー、」

 キサラさんや。大慌ての俺がペラペラ話すのを、横で苦笑するのやめてくれる?

「ーーわかった、って言われたら?」
 泣き顔を見せられ、俺の動揺はとまらない。あなた、美しすぎますよ~~、こんなん捨てるやついる?たとえ捨てられたって、地の果てまで追いかけるってーー!

「ーーサキナ殿、私が言うことではないが、もっと自分を大事にしてください」
「……」
 瞬間、キサラが吹きだした。俺の台詞に大ウケだ。

「ーー珍しい、キサラが笑うなんて」
 ぼそりとマキラがつぶやいたとき、彼の隣りで無言を貫いていた男が声をだした。


「マキラ様ーー」
 ねっとりするような嫌な声だ。

 プロの人買い、ってそんなひどい職業がこの世にはあったのかーー。男の卑しい顔もそうだけど、そっちのほうもすんごい気になるよ。

「ーー口をはさんでよろしいですか?」
「ああ、いいよ」
「すごいですね!さすがはマキラ様!ここまで上質なアザ花種は見たことがありませんーー!」

 腰の低い男が揉み手をしながらマキラに話しかける。おいおいおい、何いってんのあんた!!ま~あ、マキラさん。危ないひととのお付き合いがあるんですね!

「しかも、その黒髪!アンガーティ王家のアザ花種!?本物ですかぁ!!こ、これは、なんという商品だーーっ!!」

 えっ?

「どこの大富豪も喉から手が出るほど欲しがっている黒髪ーー。マキラ様、素晴らしいですね!!」
「……まあね」





 おぉ~~~いっ~~~~!!





 目を剥く俺を前に、マキラと男の会話が続く。
「マキラ様、明日連れに参ります」
「ーーなんで?いま連れて行かないの?」

「アンガーティ王家のアザ花種ですよ。いままでのオークションの規模では取り扱いができません。元締めのガウロ様にお知らせしなくてはーー」

「そう。わかった」
 男がにまにまとやらしい笑顔で俺を見る。
「楽しみにしていてくださいねーー、骨の髄まで腐った、と~っても優しいご主人様達が待ってますからねーー」

 バタンッ。

 ルンルンと足取りの軽い男が出ていくと、部屋が不思議なぐらい静かになっていた。




「えっ?」
 どうなってんの、一体ーー。俺は理解が追いつかない。

「ーーあなたが商品になるなら、お兄様は無事にエドアルドのところに返すよ」
「マキラ!」
 首を振ってサキナが俺の前に立つ。

「私が行くから、殿下は帰して!」
「髪の毛をどうするの?」
「色粉でなんとかする!」
「バレたら殺されるよ、子供と一緒にーー」
「!」



 ーーなんなんだ。この究極の二択。こんなんを選ばなきゃならないの?




 マジなの?マジなの?マジなのか~~~!?




 俺は奇跡にすがるようにキサラの顔を見た。ちょっとは仲良くなったよな、俺達ーーーー。


 目が合った瞬間、キサラが外を向いた。



 ーー顔見た瞬間に、目えそらすなや!!いまのは傷ついたぞ!!はいはい、俺のことなんか何とも思ってないんだよな!売られようが、ひどい目に合おうが興味のきょの字もありませんか!!


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