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当て馬にスパダリ(やや社畜)婚約者ができました。編
第3話 とんだ、お邪魔むしがきたぜ。
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「ーー失礼致します。ラース大公令息、ラース閣下とお呼びしてもよろしいですか?」
声をかけてきたのは、埃にまみれていてもキラキラしている男、ルーカスだ。
ちょい、おまえ。その挑んでいくような空気はなんなんだよ。会うのはじめてだろ?アートレも睨みっぱなしだし、感じ悪いな。
「ーー好きに呼べ」
「では、ラース閣下。私は、ルーカスと申します。以前アディオン殿下には魔ドラゴン討伐の旅にお付き合いいただき、格別のお慈悲をいただきました。そのことにつきまして、殿下にお礼の言葉を申し上げたいと思いますが、よろしいですか?」
何だか毒が含まれるようなルーカスの言葉だ。まわりの騎士達がはらはらした顔をして見ているよ。
けど、キサラの表情は変わらない、物珍しいものを見る目でルーカスをみている。
「ーー許す」
なんだろね。
キサラの身体が心配で、俺それどころじゃないんだけどーー。
「ーー殿下」
「あ、ああ」
「あのときは、本当に生命を救っていただきありがとうございます」
そんなキラキラした顔で言われてもさーー。
「ーーどのときだ?」
何かあったか?
俺の言葉に、ルーカスがふと泣きそうな顔になった。いや、でもそんなことあったか?セクハラされたことしか覚えてないぞ(あれはひどすぎだよ、おまえ)。
「ーーおい、こいつに治癒をかけた挙げ句に、生命エネルギーぶち込んだんだろーー」
呆れたようなキサラの声に、俺はハッと思い出した。
「ああ。人命救助は当然のことだ」
そうだ、そうだ、無事でよかったよなーー、と思った俺に、離れたところにいたエドアルドが吹きだす。
「ーー私の愛弟子が、そんな手にのるかーー」
くくっ、と笑いながら、エドアルドがこっちに来た。
「さて、1週間ほどへブリーズ領へ帰らねばならない。おまえは?」
「ムサが次の準備中だ」
「そうか、ならサキナ達はまかせたぞ」
「あれは連れて行け。子供達はみてやる」
「やれやれ、もう少し慕ってやれ」
「エド兄でも冗談を言うんだな」
嫌そうな顔をしながらキサラが言った。エドアルドと話すときは、ちょっと子供っぽいんだ。
激、かわいいーー。我、眼福なりーー。
「まあ、いい。サキナとリンゼは連れて行こう」
「ああ」
訓練場から出ていくエドアルドに、全員で敬礼だ。ほんと、カリスマ力しかないよな、あのひと。
「ーーおい」
キサラが俺に声をかけた。
「ああ、行こうか。ケレイブーー」
「はい。後はおまかせください。しかし、ラース閣下は強いですなーー」
感動で鼻息も荒くなるケレイブに、キサラが言った。
「ーーキサラでいい」
おっ、とケレイブが目を丸くする。
「いやいや、そんなわけにはーー」
「隣接大陸の大公など、こちらでは意味もない」
「そっ、そんな、ご冗談をーー。ラース大公家といえば、あちらの大陸の主でおられるのでしょう?」
「ーー祖父の時代は、だ……」
「いまは、違うのですか?ラース閣下はあちらに戻る気はないのですか?」
口をはさんだルーカスを俺は睨んだ。戻るって言ったら、おまえしばきだからな。
「ーーそうだな。領地返還の手続きには行かないと」
「領地返還?」
「ああ。将来はエトルカーナ領で世話になるからな」
ごく自然にキサラが言葉を続けた。
うん?
エトルカーナ領……、俺の領地で世話になるーーーーー…………。
!
ーーそれって、それって、、、それってまさかぁ!!あかん~~~っ!!平常心、平常心、平常心、平常し~~~んーーーーッ!!
落ち着け、与一。よかったな、与一。おいおい、与一。どっかにレコーダーねえの?誰か発明してくれよ。
ーーもう、あんなのプロポーズじゃないか、うん。プロポーズだよ。なんであんなさらっと言うんだよ。もっとロマンティックなところで、『将来はふたりでエトルカーナに住もう』、って言ってくれよ。
「では、失礼する。フルロンティ卿」
キサラがそう言うと、ルーカスは驚いたように目を見開いた。
「ーーよくご存知で……」
「婚約者の部下の名を知っていることがか?ずいぶんと舐められたものだな」
いやーー!キサラが、婚約者、のとこ強めに言ったよ。そうだぞ、俺はキサラの婚約者なんだぁーー!
「ははっ、さすがにうちの騎士団すべては無理でしょう?」
笑うケレイブに、キサラが言った。
「そうだな。……レルズム砦常駐のカムリとカウリが混ざる」
「へ?」
「邪魔したな。シュラルティ卿ーー」
さっと歩きだしたキサラの後を俺は追う。キサラの歩幅は一定で、いつもは俺を気づかうような歩き方をしてくれるんだけどーー、いまはすたこら行ってしまうぞ。
あれれ?
※※※
引くぐらい幸せオーラがでているアディオンと、冷静さをくずさないキサラが去った後、ケレイブが副団長オーフェンに尋ねた。
「……レルズム砦に、カムリとカウリという兵士がいるのか?」
「いや、レルズム砦の常駐隊長の名は知っているが、隊員の名までは覚えていないなーー」
「失礼します!私の同期にカムリとカウリがいます!」
そのとき、ベルスターという新人の騎士が手をあげた。
「ーーいるのか!」
「はい。学院でも、ややこしいと言われていたやつらです。国境警備部隊に入ったとは聞きましたが、一番遠いところだったんだ……」
その話を聞いて、アートレが顔を曇らせる。
「ーー嫌味な野郎だぜ……」
「ーー本当に……」
ルーカスも同じ気持ちなのか、唇を噛み締めた。
「おまえがいらん喧嘩をふっかけるからだろ!」
「はっ、殿下に冷たくされても、あのひとが怖くて何も言えなかったくせにーー!?ビビったんですか??」
「はあ!誰がビビってんだ!」
「あなたですよ!!」
お互いにつかみかかろうとするふたりの間に、師団長リコルスが入った。
「おまえ達、いい加減にしろ!アートレも警備詰所に帰れ!」
「また来ます!」
やべー、とアートレが逃げ出す。
「時間外にしろ!殿下がお怒りだったぞ!!」
「冗談でしょ!アディはオレには格別優しいんですよ!!」
「ーーいつまでそうだと思っているのやら」
呆れたようにオーフェンが言った。
「まったくーー。さっさと諦めればいいものをーー」
リコルスのぼやきをひろったルーカスが、独り言をもらす。
「諦められませんよ。あの方だけは……」
※※※
「ーーおい、キサラーー」
俺の呼びかけに振り向くこともなく、キサラは歩き続け、脇道から中庭に出ていった。そこには見事に手入れされた季節の花々が美しく咲いていて、目と鼻を楽しませてくれる。
花の側に立つキサラは、まるで絵本からでてきた王子様のようだ、カッコいいにもほどがあるぜーー。
「キサラ…」
近寄った俺の顔をじっと見たキサラが、突然、キスをしてきた。
「ん……」
どうしたんだ、キサラ!?キスは大歓迎ですけど~!
「……あ、…んっ~~」
きつく唇を吸われて、俺はもはや夢見心地だよ。
「ーーキサラ…、俺、ずっとこうしてたい……」
唇が離れるのが、さみしい~。
硬い胸に頭を預けると、優しく抱きとめてくれる。こんなん、もう、幸せのフルコースや~~~!
「ーーダサいな……」
ボソッと、キサラが言った。胸に耳が当たっているから言葉が俺の身体に響いてくる。
「え?」
言われた意味がわからず、俺はキサラの顔を見た。
「ーーあいつらのいるところに、おまえを行かせたくないーー」
ふぇっ!
ほっ!!
ーーまさか、キサラってば、焼いたおもち状態なのか~~~ッ!
「キサラ……」
「ーーいや、いまのは、忘れろ」
「嫉妬か?」
「……」
キサラの無表情な美貌に、少しだけ動揺が走った。
「嫉妬なんだなーー。俺があいつらに会うのが、嫌なんだな?」
確認するように言うと、キサラは顔を背けた。その顔を俺は両手ではさんで自分に向かせる。
「ーー俺はキサラだけだ」
「ーーーーーなぜだ?」
ん?なぜだ?
「え?」
「ーーあいつらのほうが、、、格好いいと思う……」
「うん?キサラは目が悪いのか?」
「ーーいや、遠くまでよく見えるほうだ」
「じゃあ、遠視なのかもな。あいつらよりおまえのほうがカッコいいに決まってるだろ?月と雑草、比べものにもならないよ」
ほんとにこのひとは何を言い出すのやら。
「……」
「それよりも、エドアルド殿のお子さんを預かるのか?」
「ああ」
「キサラは子守りができるのか?」
「問題児の弟がふたりもいるからな」
「そっか」
たしかに、最強(最悪)の弟さんがいたぜ。
ーーガサッ。
「あっ、キサラ!ここにいたの!?」
突然、薔薇の花の間から、愛らしい顔がでてきた。
「アイゼ……」
「お父様にきいたよ。キサラのとこでせわになれって」
「ああ」
「んでね、ぼくいまこまってるんだけどね、どうしたらいい?」
「だろうな……」
ため息をついたキサラが、アイゼの顔のまわりにある薔薇の枝を、左右に分けた。トゲ刺さってたのか?すり傷になってるぞ。
「早くでろ」
「ありがと~」
ピョン、と小さな少年が跳ねる。兄貴の婚約者のテレゼも美少年だけど、この子もかなりの美形だよ。さすがはあの両親の子だな。髪は銀色で、目はサキナと同じ緑色だ。
ほんとに感心するぐらい、美形一族だよな~~~。
「ーーでね、キサラ。ランゼがないてるの」
「はあ?」
「マムがね、ランゼのしろのブランケットにコーヒーこぼしたの」
「鈍臭いやつだな」
ん?マム?ーーああ、ママのことか。ママ呼びとは、さてはサキナさんセレブだったな?
「で、わんわんないてるのーー。ランゼはなきやまないし、お父様はイライラしてるから、ぼくにげてきたんだ」
「ーー行くぞ」
「うん!」
キサラが屈むと小さな少年はその背中に飛びついた。アイゼをおぶって、恋人が歩き出す。
ーーおんぶかーー、うらやましいな……。
「ーー俺も行っていいか?」
「ああ……」
「えーー。いいけど、ぼくとキサラのじゃまはしないでね」
「……」
なんだ?こ、これはライバル登場か!生意気なガキンチョがいっちょまえに!!
兄貴とテレゼのこともあるからな、どんな年齢のやつでも俺は油断しないぜ!
ーーーーーーーーーーーーーーー
いつも最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
いちゃいちゃなふたりに、アイゼくん乱入です。
さあ、どうなんでしょう~~~😄
声をかけてきたのは、埃にまみれていてもキラキラしている男、ルーカスだ。
ちょい、おまえ。その挑んでいくような空気はなんなんだよ。会うのはじめてだろ?アートレも睨みっぱなしだし、感じ悪いな。
「ーー好きに呼べ」
「では、ラース閣下。私は、ルーカスと申します。以前アディオン殿下には魔ドラゴン討伐の旅にお付き合いいただき、格別のお慈悲をいただきました。そのことにつきまして、殿下にお礼の言葉を申し上げたいと思いますが、よろしいですか?」
何だか毒が含まれるようなルーカスの言葉だ。まわりの騎士達がはらはらした顔をして見ているよ。
けど、キサラの表情は変わらない、物珍しいものを見る目でルーカスをみている。
「ーー許す」
なんだろね。
キサラの身体が心配で、俺それどころじゃないんだけどーー。
「ーー殿下」
「あ、ああ」
「あのときは、本当に生命を救っていただきありがとうございます」
そんなキラキラした顔で言われてもさーー。
「ーーどのときだ?」
何かあったか?
俺の言葉に、ルーカスがふと泣きそうな顔になった。いや、でもそんなことあったか?セクハラされたことしか覚えてないぞ(あれはひどすぎだよ、おまえ)。
「ーーおい、こいつに治癒をかけた挙げ句に、生命エネルギーぶち込んだんだろーー」
呆れたようなキサラの声に、俺はハッと思い出した。
「ああ。人命救助は当然のことだ」
そうだ、そうだ、無事でよかったよなーー、と思った俺に、離れたところにいたエドアルドが吹きだす。
「ーー私の愛弟子が、そんな手にのるかーー」
くくっ、と笑いながら、エドアルドがこっちに来た。
「さて、1週間ほどへブリーズ領へ帰らねばならない。おまえは?」
「ムサが次の準備中だ」
「そうか、ならサキナ達はまかせたぞ」
「あれは連れて行け。子供達はみてやる」
「やれやれ、もう少し慕ってやれ」
「エド兄でも冗談を言うんだな」
嫌そうな顔をしながらキサラが言った。エドアルドと話すときは、ちょっと子供っぽいんだ。
激、かわいいーー。我、眼福なりーー。
「まあ、いい。サキナとリンゼは連れて行こう」
「ああ」
訓練場から出ていくエドアルドに、全員で敬礼だ。ほんと、カリスマ力しかないよな、あのひと。
「ーーおい」
キサラが俺に声をかけた。
「ああ、行こうか。ケレイブーー」
「はい。後はおまかせください。しかし、ラース閣下は強いですなーー」
感動で鼻息も荒くなるケレイブに、キサラが言った。
「ーーキサラでいい」
おっ、とケレイブが目を丸くする。
「いやいや、そんなわけにはーー」
「隣接大陸の大公など、こちらでは意味もない」
「そっ、そんな、ご冗談をーー。ラース大公家といえば、あちらの大陸の主でおられるのでしょう?」
「ーー祖父の時代は、だ……」
「いまは、違うのですか?ラース閣下はあちらに戻る気はないのですか?」
口をはさんだルーカスを俺は睨んだ。戻るって言ったら、おまえしばきだからな。
「ーーそうだな。領地返還の手続きには行かないと」
「領地返還?」
「ああ。将来はエトルカーナ領で世話になるからな」
ごく自然にキサラが言葉を続けた。
うん?
エトルカーナ領……、俺の領地で世話になるーーーーー…………。
!
ーーそれって、それって、、、それってまさかぁ!!あかん~~~っ!!平常心、平常心、平常心、平常し~~~んーーーーッ!!
落ち着け、与一。よかったな、与一。おいおい、与一。どっかにレコーダーねえの?誰か発明してくれよ。
ーーもう、あんなのプロポーズじゃないか、うん。プロポーズだよ。なんであんなさらっと言うんだよ。もっとロマンティックなところで、『将来はふたりでエトルカーナに住もう』、って言ってくれよ。
「では、失礼する。フルロンティ卿」
キサラがそう言うと、ルーカスは驚いたように目を見開いた。
「ーーよくご存知で……」
「婚約者の部下の名を知っていることがか?ずいぶんと舐められたものだな」
いやーー!キサラが、婚約者、のとこ強めに言ったよ。そうだぞ、俺はキサラの婚約者なんだぁーー!
「ははっ、さすがにうちの騎士団すべては無理でしょう?」
笑うケレイブに、キサラが言った。
「そうだな。……レルズム砦常駐のカムリとカウリが混ざる」
「へ?」
「邪魔したな。シュラルティ卿ーー」
さっと歩きだしたキサラの後を俺は追う。キサラの歩幅は一定で、いつもは俺を気づかうような歩き方をしてくれるんだけどーー、いまはすたこら行ってしまうぞ。
あれれ?
※※※
引くぐらい幸せオーラがでているアディオンと、冷静さをくずさないキサラが去った後、ケレイブが副団長オーフェンに尋ねた。
「……レルズム砦に、カムリとカウリという兵士がいるのか?」
「いや、レルズム砦の常駐隊長の名は知っているが、隊員の名までは覚えていないなーー」
「失礼します!私の同期にカムリとカウリがいます!」
そのとき、ベルスターという新人の騎士が手をあげた。
「ーーいるのか!」
「はい。学院でも、ややこしいと言われていたやつらです。国境警備部隊に入ったとは聞きましたが、一番遠いところだったんだ……」
その話を聞いて、アートレが顔を曇らせる。
「ーー嫌味な野郎だぜ……」
「ーー本当に……」
ルーカスも同じ気持ちなのか、唇を噛み締めた。
「おまえがいらん喧嘩をふっかけるからだろ!」
「はっ、殿下に冷たくされても、あのひとが怖くて何も言えなかったくせにーー!?ビビったんですか??」
「はあ!誰がビビってんだ!」
「あなたですよ!!」
お互いにつかみかかろうとするふたりの間に、師団長リコルスが入った。
「おまえ達、いい加減にしろ!アートレも警備詰所に帰れ!」
「また来ます!」
やべー、とアートレが逃げ出す。
「時間外にしろ!殿下がお怒りだったぞ!!」
「冗談でしょ!アディはオレには格別優しいんですよ!!」
「ーーいつまでそうだと思っているのやら」
呆れたようにオーフェンが言った。
「まったくーー。さっさと諦めればいいものをーー」
リコルスのぼやきをひろったルーカスが、独り言をもらす。
「諦められませんよ。あの方だけは……」
※※※
「ーーおい、キサラーー」
俺の呼びかけに振り向くこともなく、キサラは歩き続け、脇道から中庭に出ていった。そこには見事に手入れされた季節の花々が美しく咲いていて、目と鼻を楽しませてくれる。
花の側に立つキサラは、まるで絵本からでてきた王子様のようだ、カッコいいにもほどがあるぜーー。
「キサラ…」
近寄った俺の顔をじっと見たキサラが、突然、キスをしてきた。
「ん……」
どうしたんだ、キサラ!?キスは大歓迎ですけど~!
「……あ、…んっ~~」
きつく唇を吸われて、俺はもはや夢見心地だよ。
「ーーキサラ…、俺、ずっとこうしてたい……」
唇が離れるのが、さみしい~。
硬い胸に頭を預けると、優しく抱きとめてくれる。こんなん、もう、幸せのフルコースや~~~!
「ーーダサいな……」
ボソッと、キサラが言った。胸に耳が当たっているから言葉が俺の身体に響いてくる。
「え?」
言われた意味がわからず、俺はキサラの顔を見た。
「ーーあいつらのいるところに、おまえを行かせたくないーー」
ふぇっ!
ほっ!!
ーーまさか、キサラってば、焼いたおもち状態なのか~~~ッ!
「キサラ……」
「ーーいや、いまのは、忘れろ」
「嫉妬か?」
「……」
キサラの無表情な美貌に、少しだけ動揺が走った。
「嫉妬なんだなーー。俺があいつらに会うのが、嫌なんだな?」
確認するように言うと、キサラは顔を背けた。その顔を俺は両手ではさんで自分に向かせる。
「ーー俺はキサラだけだ」
「ーーーーーなぜだ?」
ん?なぜだ?
「え?」
「ーーあいつらのほうが、、、格好いいと思う……」
「うん?キサラは目が悪いのか?」
「ーーいや、遠くまでよく見えるほうだ」
「じゃあ、遠視なのかもな。あいつらよりおまえのほうがカッコいいに決まってるだろ?月と雑草、比べものにもならないよ」
ほんとにこのひとは何を言い出すのやら。
「……」
「それよりも、エドアルド殿のお子さんを預かるのか?」
「ああ」
「キサラは子守りができるのか?」
「問題児の弟がふたりもいるからな」
「そっか」
たしかに、最強(最悪)の弟さんがいたぜ。
ーーガサッ。
「あっ、キサラ!ここにいたの!?」
突然、薔薇の花の間から、愛らしい顔がでてきた。
「アイゼ……」
「お父様にきいたよ。キサラのとこでせわになれって」
「ああ」
「んでね、ぼくいまこまってるんだけどね、どうしたらいい?」
「だろうな……」
ため息をついたキサラが、アイゼの顔のまわりにある薔薇の枝を、左右に分けた。トゲ刺さってたのか?すり傷になってるぞ。
「早くでろ」
「ありがと~」
ピョン、と小さな少年が跳ねる。兄貴の婚約者のテレゼも美少年だけど、この子もかなりの美形だよ。さすがはあの両親の子だな。髪は銀色で、目はサキナと同じ緑色だ。
ほんとに感心するぐらい、美形一族だよな~~~。
「ーーでね、キサラ。ランゼがないてるの」
「はあ?」
「マムがね、ランゼのしろのブランケットにコーヒーこぼしたの」
「鈍臭いやつだな」
ん?マム?ーーああ、ママのことか。ママ呼びとは、さてはサキナさんセレブだったな?
「で、わんわんないてるのーー。ランゼはなきやまないし、お父様はイライラしてるから、ぼくにげてきたんだ」
「ーー行くぞ」
「うん!」
キサラが屈むと小さな少年はその背中に飛びついた。アイゼをおぶって、恋人が歩き出す。
ーーおんぶかーー、うらやましいな……。
「ーー俺も行っていいか?」
「ああ……」
「えーー。いいけど、ぼくとキサラのじゃまはしないでね」
「……」
なんだ?こ、これはライバル登場か!生意気なガキンチョがいっちょまえに!!
兄貴とテレゼのこともあるからな、どんな年齢のやつでも俺は油断しないぜ!
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いちゃいちゃなふたりに、アイゼくん乱入です。
さあ、どうなんでしょう~~~😄
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