(完結)主人公の当て馬幼なじみの俺は、出番がなくなったので自分の領地でのんびりしたいと思います。

濃子

文字の大きさ
57 / 196
当て馬にスパダリ(やや社畜)婚約者ができました。編

第6話 当て馬か悪役か!?

しおりを挟む
「おや、お早いお戻りでーー」
 マルスが宮の入り口で出迎えてくれたんだけど、なぜか声が尖っている。

 あれ、この感じは戻ってこないほうがよかったのかな……。

「お客様がお見えです」
「ーーそんな予定あったか?」
「ジョージュア侯爵様ですーー」


 げっ!

  あいつかよーー。

 アディオンのお腹様の兄エステーダ公爵の嫡男、ロウェル・リファラ・エルドランティ・ノ・ジョージュア。ジョージュア侯爵だよーー。

 俺がアザ花種になったって聞いて、真っ先に求婚してきたやつだってパピーが言ってた(従兄弟だろ?)。放蕩息子で狩りばっかりしてる狩猟民族だって聞いてるけどーー(もちろん、狩ってるのは人間だよ。やなやつだよね)。

 何のようだ?きっぱり断りましたけどねーー。



 応接室に通してあるそいつは、俺の顔を見て笑顔で立ち上がり、貴族の見本のように優雅に頭を下げた。淡いクリーム色の髪に、銀色の目、なんかインテリっぽい兄ちゃんだ。目がやらしいのが、性格を物語ってるな。


 ーーマルス、絶対に側にいてね。

 ーーはい。坊っちゃま…。


 マルスとのアイコンタクトが済み、俺は彼に声をかけた。
「急な訪問は困るのだがーー」
「これは失礼いたしました。何度もお目通りを願いましたが、断られ続けましたのでーー」
「要件は?」
 さっさと言って、帰ってくだされ~~~。

「はい。殿下はラース大公令息と婚約されましたよねーー?」
「……」
「ですが、その方は、ほぼ殿下の側にいられないと聞いておりますーー」
「……」
「それでは殿下があまりにも不憫でなりませんーー」
「は?」
 うるせえわ。おまえに関係ないだろうがーー。


 不機嫌になる俺にロウェルが言った。
「わたしを側夫にお迎えください。ラース閣下がいない間は、わたしが伴侶の代わりとして、殿下をお慰めいたしますからーー」














 ぐちゃぐちゃぐちゃ……。

 


 心に、ウジ虫がわいたみたいに、不愉快でいっぱいになってくる…………。















「ーー殿下?殿下、どうなさいました?」
「ジョージュア侯爵様。貴方様のあまりにひどいお言葉に、殿下は心を痛めておいでです」



 ーーああ。なんてこと言うんだよ、こいつーー………。


「殿下をお慕いしているからこその言葉ですーー、それにーー」
「………」
「どうせ、あちらもへブリーズ領やあちこちに愛人がいるに決まっていますよーー」











 ……………。












「…………け……」
「その点、わたしはいつでも殿下にご奉仕できる身です。朝でも昼でも夜でも、好きなだけーー。殿下の側にいてさみしい思いなど絶対にさせませんーー」


 
 プチンッ。
 あー、ほんとに頭ってキレるんだなーーッ!!

 ガンッ、と机を叩いて立ち上がり、やつの顔を睨んだ。
「ッ!でてけーーッ!!おまえの顔なんか、二度と見たくないッ!!!」
「へ?」

「ジョージュア侯爵様、お引き取りをーー」
 顔色を変えたマルスが、ロウェルを追い出そうとしてくれる。けど、それよりも先に俺が応接室をでた。
「ーーで、殿下!な、なぜです!?」
「去れッ!!」




 はらわたが煮えくり返ってくる。


 部屋までが遠いーー。




 こんなひどいこと、なんで言われなきゃならないんだよーー。あんなやつに、あんな遊んでるだけのやつにーーッ!!





 部屋に入り鍵をかけた。
「坊っちゃま!!」
 マルスの必死な声が聞こえる。
「ーーひとりにしてくれ!!」
「坊っちゃまーー……」


 そのままベッドに倒れこむと自然に涙がでてきた。




『どうせ、あちらもへブリーズ領やあちこちに愛人がいるに決まっていますよーー』




 うるせえーー!ひとがフタしときたい問題を、無理やりこじ開けんな!!




 くそッ!くそーーッ!!あいつーーーッ!!















 ……。

「ーー……」

 ………。


「ーーおい」
 ハッと気づいた。



「ーーギザラ゙……」
 泣きすぎてひどい声だ。
「ーー泣くなよ……」
「嫌だ、泣くよーーッ!!」
 号泣だ。大洪水だよーー。

「そっか……」
 キサラが俺の横に寝て、俺の身体を抱きしめる。
「泣きたいなら、俺の胸で泣けーー」
「!」
 髪の毛を梳かれ、俺は少し落ち着いた。

「う~、ギザラ゙ーーーー」
 かたい胸に頭をつけてグリグリする。それだけで、くっついてるだけで、俺の心はぽかぽかしてくるんだ。

「ーーマルスさんに聞いた」
「……」
「ーーおまえは、どうしたい?」
「はあ!?」
 涙がピタっと止まる。何言ってんだ、キサラ。頭がおかしくなったのか!

「ーーそいつの言うことも、もっともな意見だ。俺は、これからも、結婚後もおまえの側に、いないーー」
 言葉に、彼の言葉にくじけそうになってくる。けど、俺はこのときキサラの胸に顔をあててたから、彼の心臓の音がやらたと速いことがわかった。


 ーーおまえだって不安、なんだよな……。そりゃ、そうだよ。誰もが不安なんだよ。でもこれって、近くにいるから解消される問題でもないんだよ……。



「ーーそれでも一緒になる、って決めたのは俺だ。キサラの帰ってくる場所になりたいって思ったのは俺だよッ!」
「……」
「さみしいけど、そんな気持ちを他で埋めるなんてするわけないだろッ!?見損なうなよ!キサラ以外のやつに慰めてもらって、何の意味があるんだ!!」

 
 ーー他のやつでなんか、埋まらないよ……。


 どれだけきれいごとを言っても身体が離れるって、しんどいことだとは思う。単身赴任先で浮気、ってよくドラマにもでてきてたしーー。




 けど、俺は信じるーー。
 何があってもキサラを信じよう。でなければ、俺も信じてもらえないーー。


 うん、結婚ってそういうもんだろ?
 昔なんか結婚、即、戦争とかあったんだしーー。昔のひとが耐えられたことを、現代っ子の俺が耐えれるか、って言ったら何ともいえないけど、同じ人間には違いないもんなーー!



 甘える俺の髪を撫でていたその手が、急にとまった。キスかな、って思ったから、顔を彼のほうに向ける。そして、俺は目を見開いた。キサラがとても悲しそうな顔をしていたからーー。

「…………、おまえはひとりでも大丈夫な奴だろ……」
「え?」
 決意に満ちた俺に、まるで冷水のようなキサラの言葉がかけられた。

「………」
「な、なんでそんなこと言うんだ?お、俺だってさみしいけど、キサラの仕事を理解したいから口にださないだけなんだぞ!!」

 な、なんか別れ話に移行しようとしてないか!?、じょ、冗談じゃない!!





 動揺する俺に、まるで言い聞かせるような静かな言葉が続けられた。
「ーーオークション会場の、あの酷い空気のなかでも、おまえはしゃんと立っていた。あれには、驚いたーー」

 だからなんだよ、俺を無理やりキサラがいなくても大丈夫にしようとすんなよ。


「ーー違う」
「……」
「ひとりで立てるわけないだろ?あんな恐ろしいなかッ!!」

 堪えた恐怖を吐き出すように言うと、キサラの身体がピクっと動いた。
「ーーあのときはなーー、あのときは、キサラが抱いてくれたから、一番最初に好きなひとに抱いてもらったから、後はなんでも我慢できるって思ってたのッ!!」




 ーーぶっちゃけちまった……。ロマンティックな与一君の脳内をーー。笑うなら笑えばいいさーーッ!
 

「ーーそれで、耐えられた、のかーー?」
 信じられないーー、とその声色がそんなふうに聞こえるよ。
「耐えたじゃん」
「……」

「ーーキサラが思ってるより、俺、キサラが好きだよ」
 カッコいいし、カッコいいし、やっぱりカッコいいしさーー。純粋に顔が好きなのも、当然大きな理由だよ。

 この、男に興味がない俺を落とした容姿、そして知れば知るほどハマる、不器用さーー。その不器用さは高○健さん並だよ。

「俺のこと考えてくれてるなら、俺を好きでいてくれよーー」
「ーーアディ」
 俺が背中に腕をまわすと、キサラはしっかり抱きしめてくれた。あー、骨砕けるーー、最高の刺激だな……。





「キサラーー」
 キスは俺からねだった。くっつきすぎて熱くなっちゃった下半身のモノを、彼の身体につけてえっちに誘う。
「……アディ……」
 かすれ声、好きーー……。


 激しいキスで俺のおねだりに応えてくれたんだけど、もう彼の匂いだけでもイッてしまいそうだ。
「ーーどうがいい?」
「……キスしながらが、いいーー」
 息は苦しいけど、愛を実感できるんで、最初はそれがいい。

 ああ、でも俺の尻穴もひくひくしてるんだ、早くキサラのを入れてくれってうるさいぐらいにさーー。



しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

処理中です...