(完結)主人公の当て馬幼なじみの俺は、出番がなくなったので自分の領地でのんびりしたいと思います。

濃子

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その舞踏会、ちょっと待ったぁ〜!編

第10話 「王子様はお姫様のためなら、どこへでも駆けつけるんだ」

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「ほほほ。へブリーズ大公には、本当に感謝していますよ」
「そうですか?」
 光が差すローズガーデンで、ヒッカリエとダウリーはお茶を楽しんでいた。
 
 ヒッカリエの背後には美しく着飾った美青年達の姿があり、そのなかのひとりは、ダウリーの親友(一方通行なのだが、彼は気にしない)だ。

「もう、オスカーの美しさには、これ以上望むものがありません」
 ほぅ、とヒッカリエが見惚れるその先に、薄く微笑むオスカーがいる。

「ーー他の者と違って、何も欲しがらないのですよ。わたくし、なんでもあげたいのにーー」
「それは、そうでしょう。私の親戚ですから、その辺の宝石には興味もありませんよ」
 ダウリーの挑むような言葉に、ヒッカリエの口元が吊り上がる。

「あら、そうですかーー。わたくし、ピンクダイヤももっていますよ」
「彼はグリーンを所持していますからねーー。それにしても、ガルナバ大公家は、お金持ちだなーー。彼らの装飾品も最高級のものばかりだーー」
 揶揄するような言い方に、ヒッカリエが眉をしかめる。

「ーーええ。お金はわいて捨てるほどありますので」
「それはすごいーー。そこまで突出した産業は見当たりませんが、商売上手なのでしょうねーー。税はうちと変わらないぐらいでしょーー?」

「ほほほっ、見えないところで努力しておりますーー。その評価をいただき、ロンドスタット大公陛下からもお祝いとして、魔神馬をいただきましたの」
「魔神馬をーー?」

 ーーあの男がそんなものをやるとは……。
 
「それはそれは、よほど良い取り引きだったのですね」
 明るく言うダウリーに、ヒッカリエの目が鋭く光った。
「ーー何がおっしゃりたいのですか?」
「いえ、私が経済をまわすのが下手なのでしょうね……、ふふっ」
 笑みを絶やさずに、ふたりは腹を探り合う。

「そういえば、ガルナバ大公、こんな噂を知っていますか?」
「はい?」
「ーー最近、妊夫から、花が産まれたそうですよーー」








「ーーは?花?」
「ええ。子供がなくて、やっと授かった夫夫の間に、ようやく待ち望んだ赤ん坊の誕生ーー。しかし、でてきたのは、花の塊ーー。あまりにも悲しい話ですよねーー」

「ーーまぁ、冗談がすぎますわーーー」
「さあ、あくまで噂ですけどねーー。5件ぐらいは聞きましたがーー」

 すっと、ヒッカリエの目が細められた。
 和やかなお茶会の席に、緊張感が広がっていく。
「ーー何か思うところがおありなのね……」
「とんでもないーー。どうしてそう思われましたかーー?」

 睨み合うふたりに、美青年達がざわつく。
「ーーへブリーズ大公陛下は何が言いたいんだ?」
「ーー花が産まれる、って意味がわからないけど…」
「ーーいや、たしかロンドスタット大公陛下が、それを欲しがっていたってーー」
「おだまりーーーッ!!」
 ヒッカリエの罵声に、美青年達はビクリと震え顔を伏せた。

「おまえ達は先に戻りなさい!!」
「大公、どうなさいましたか?」
「へブリーズ大公、あなたも今晩帰られるのでしょう?では、ご無事に帰路につかれることを願いますわ!オスカー!行きますよ!!」
「ーーはい」
 プラチナブロンドの髪が優雅に揺れる。オスカーがちらりとダウリーの顔を見た。

 ーー証拠がない……。

 彼の目がそう言っている。

 ーー揺さぶりには応じないか……、と眉をひそめながらダウリーは紅茶を飲む。そのとき、彼の隣りで石になっていたサシャラが言葉を発した。
「ーー、ダウリー、テレゼが走ってくる」
「おやおや、凄い速さだな……」
 









「ーーダウリー様ぁーーー!!」
 愛らしい容姿に似合わない爆速で、テレゼがダウリーの前に立つ。
「やあ、テレゼ。散歩かい?」
「そんなわけないでしょう」
 サシャラが脱力する。

「ダウリー様、キサラと連絡を取れませんか!?」
 必死な顔のテレゼに、ダウリーがオスカーのほうを見る。
「ーー取れないことはないけど、何か急用かな?」
「はい。結論から言いますと、アディ殿下が島から出られません」
「うん?」
 ダウリーが首をかしげた。

 パタリッ。

「ーー陛下、扇が」
 落とした扇を慌てて美青年が拾う。
「島ーー?」
「陛下?」
 主の顔が青ざめていくのを、美青年達が不安そうに見つめる。

「ーー陛下、椅子へーー」
 オスカーがヒッカリエを椅子に座らせた。そうしないと彼は倒れてしまいそうだったからーー。
「島なら、泳いで帰れるんじゃ?」
 不思議そうな顔のサシャラに、テレゼが手を振った。

「波が変でそこまで行けないそうです。リディアン様はリップカレント、って言ってました。島からは、沖のほうに流されるし、沖には魔ザメがいて脱出が難しいそうです」
「ーーどうして、アディオン殿下はそこに?」
「部屋の地下通路が、島につながっていたそうですーー」

「!」

 ダウリーとオスカーは誰にもわからないように目を合わせた。

「アディ殿下が通ったときは、半月に一度通路の海水がなくなる日だったそうで、もう海水がいっぱいで通れないんですーー。食料も水もないそうでーー」
「彼ならなんとかしそうだけどねーー」
 苦笑しながらダウリーがつぶやく。

「いま、騎士団の皆様が極秘に泳いで救出に行こうとしてるんですが、波に歯がたちません。どうしても左側に流されるんですーー」
「極秘?うちの兵も貸すから総動員でなんとかならないかな」
 ダウリーの言葉に、テレゼが用心しながらヒッカリエを見る。

「ガルナバ側からの要望で、大事にはしたくないそうです……」
「おやおや、エウローペーの王子様でしょ?助けないとまずくないーー?いや、そもそも自業自得なの?」

「……」
 そう言ったダウリーに、鋭い視線を向ける者がいた。

 ーーそんなにわかりやすく睨むなよな……。

 親友の視線が、直で自分を攻撃してきていた。鋭すぎて泣きそうになってくる、もちろん嘘泣きだがーー。

「悪いのはロウェルなんです!変な薬を使って、アディ殿下を襲う気だったみたいです!!」

 ーーうわぁ!とんでもないのぶち込んできたな……。

 舌打ちしたい思いだ。
 こいつがどこまで我慢できるかだけどーー。

「ーーモテモテだね……。でも、部屋に入れた時点で合意じゃない?」
「違います!マリエルさんを買収したみたいです!」

 ーーおっ、これはいい流れだ……。

「ーー大公家の侍従長が、買収?ロウェルって奴が嘘をついているんだろ?」
「リディアン様がお怒りで、国へ帰ったら処分すると言ってますから、へたな嘘はつかないと思います!それに、マリエルさんが、リディアン様に剣を向けました」


「ひっ!」
 ヒッカリエが喉の奥で悲鳴をあげた。
「ーーそれは、完全にまずいな……。どういうことですか?ガルナバ大公。どうして大公家の侍従長が王太子殿下に剣を向けるんです?」

「ーーーッ!!」
 見るも蒼白なヒッカリエが、血走った目をダウリーに向けた。

「な、わ、わたくしは、何のことかーー!!」
「ーーテレゼ、そいつがもってた薬は?」
「はい。リディアン様が魔法科学センターで調べる、ってーー」
 直後、テレゼが身を竦めるような悲鳴が響いた。

「ーーだめよ!!すぐにやめさせなさいッ!!」
 叫び声に、サシャラの顔が唖然となる。
「オスカー!とめてきて!!王太子殿下を!!」
「ーーわかりました」
 すがりつくような主を押しとどめ、オスカーが動いた。その姿をヒッカリエは悲壮な表情で見つめる。

 ーーあいつ、アディオン殿下のとこに行くつもりだな……。
 ダウリーは、口の端だけつりあげた。


 ーーまあ、いい。結果オーライかなーー。


「ーーガルナバ大公、事情を私にお話していただけませんかーー?」
 優しさがにじむ声色で、ダウリーはヒッカリエに話しかけた。

 迷いを顔に張り付かせたヒッカリエが、ため息を吐きながら口を開きーーー。

















「ーー殿下!やはり無理です!!」
 騎士達が波に果敢にも挑戦するが、どうやっても島までは泳げそうにない。すぐに、左へ流されて行ってしまう。

「ーーそうか……」
 リディアンの苦渋に満ちた顔を見て、ケレイブは俯く。

「申し訳ございません。我々が飲んだくれてる間にーー」
「ーーいや、おまえ達に声をかけずに戻った弟も悪いーー」
 全員が動ければ、ロープを張ることもできるかもしれないーー。だが、情けないことに、ほとんどの騎士が二日酔いでダウンしているとは……。

「ーーいやーー、ラミーメルタンを出されちゃいましてね」
 高級ブランデーを惜しみなくだす。他にも贅の限りをつくしたようなもてなしーー。

「見栄っ張りにもほどがある」
 自身の護衛騎士達もつぶれ、リディアンは苦笑するしかない。



「ーーアートレ。おまえ、アディを愛しているなら飛び込んだらどうだ?」
「ーーリディ兄……。オレは真実の愛を見つけてしまったーー」
 海を見て黄昏ている青年を、冷たい目で見る。

「あっそう」
 美青年に籠絡されたとのケレイブからの報告は、どうやら本当だったようだ。とろんとした顔のアートレには、いつもの元気がない。

「はあーー、半月もつかな……」
 涙がでそうだ。

 どうして弟は、いきなりトラブル体質になってしまったのか……。いや、トラブルのほうから寄ってきているのかーー?





「ーーー王太子殿下」
 リディアンはその声に聞き覚えがあった。
「え?」
 声のほうを向くと、昨晩見たヒッカリエお気に入りの美青年が歩いてきている。

「!」
 その姿勢の良さ、足の運び方には見覚えがあった。リディアンは目を細めて薄く笑う。

「ーー君か」
 顔を見ると、彼が頷く。
「ーーそうなのか……」
 すでに、ガルナバ大公家はマークされていたのか……。

「ーーどうがんばっても、行けそうにないみたいだ」
 島を指してリディアンは言う。いくら彼でも無理ではないだろうかーー。
「飲み水もないのですか?」
「そうだ。水だけでも、とは思うのだがーー」
「へブリーズに使いをだしました。3日あればエド兄が飛竜を飛ばしてくれるはずーー」

「あー、空からか……。それなら関係ないなーー」
 問題はアディオンが3日もつかだ。水さえあればいけるだろうがーー。
「水は?」
「革袋に用意してあるが、背負えば余計に身体が沈むーー」
「ください」

 迷いのない彼の言葉に、リディアンは目を見開いた。
「ーー本気か?」
「ええ」
「ーー弟のために、無理はしないでくれ」
「いや、義兄上の弟のためじゃない。俺があいつのところに行きたいだけだーー」
 彼が華美な上着を脱ぎ、シャツ姿のまま用意された水が入った革袋を背負う。

「ーーありがとう」
「礼など必要ありませんーー」






 海の中に勢いよく飛び込んでいく彼を見て、ケレイブが眉をひそめた。
「ーー王太子殿下、なぜガルナバ大公の愛人が、殿下を兄上と呼ぶのです?」
 心底わからない、といった顔にリディアンは苦笑する。
「まあ、見事な変装だな。私もやってみようかなーー」
「はあーー?」


 リディアンの視線の先には、潮の流れに逆らい、きつくとも、少しずつ進んでいく青年の姿があった。
「ーー流されていない」
「かなり、きつそうですがーー。もちますかね」
「ーーもつよ」
 きっぱりと言い切るリディアンを、不思議そうな目でケレイブが見る。

「ーー前からの知り合いですか?」
「ふふっ、本当にわからないのか?」
「………………………え?」
 わからない?
 と、いうことは自分も知っている人物で、もしかして普段の姿と違うーーー、それはーー?

「ーーーまさか!?ラース閣下ですか!!」
「遅いな」
「わかりませんよ!別人じゃないですかーー!!」
「プロだからね」
「はーー、すごいなーー」

 流されても軌道を戻し、踏ん張るように泳いでいくーー。小さくなっていく懸命な背中に、ケレイブが敬礼した。
「ーーこんな昔話をしっているか?」
「なんです?」
「王子様はお姫様のためなら、どこへでも駆けつけるんだ」
「はあーー、お姫様って女性のことでしたっけ?」
「ああ。なんだかピッタリだと思ってねーー」
「……そうですね」




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