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魔法とアザ花種 編
第16話 ワイムド爺様
しおりを挟むふえ~ん。
あんまりだよ~~~!
何なんだよ……、俺は、わからなかったんだからしょうがないだろ?急に、身体がアザ花種になるなんて、誰がわかるんだよーー。
……でも、なっちゃったときに、もっと勉強しとけば、マーキングのこととかもわかったのかな……。はずし方とか、あるのかな……。はずしたら……、はずしたらさーー……。
キサラ、俺のこと何とも思わなくなるの?まるで夢から覚めるみたいにーー、何してたんだろ?って顔をするのかな……。
……つらい。それは、ドチャクソつらいよーー。
「はっ……、はっ……」
息があがっている。
走るだけ走ってきたけど、ここどこだろう……。辺りを見回して、ドキッとなる。冷静でいられないからって、知らない土地で走り回るなよな……。
バカじゃねえ?俺ってさーー……、いっつもいっつも考えなしでさーー……。
飲み会でも盛りあげなくちゃってすぐ焦るしーー……、
………ーーいや、あのときは、違ったなーー……。
チームメイトだった吉田がJ2の試合に出れるようになって、先輩達から「おまえはもうやらないのか?」、って聞かれて……。やらないんじゃなくて、できないんだってーー、そういっても、「言い訳だな」、「怪我なんかみんなしてるのに、根性が足りないだけだろ?」、みたいなこと言われたんだよなーー……。それで、罰ゲームだって自分から飲んでーー、
酒の席だってわかってても、つらかった、なーー。
「ーー泣き虫やろう……」
そうだ、試合でヘマする度に泣いてたんだーー。アディオンじゃなくて、俺が泣き虫なんだよな。
ゴシゴシと袖で涙をこすりながら、来た道を戻ろうとしたところ、流れる水音に気がついた。
「あーー、露天風呂に滝があったんだから、川もあるよな」
川っていうと、夏を思い出すーー。
俺の家は母子家庭で母ちゃんが看護師だったから、アウトドア系は連れてってもらったことがない。けど、大学に奨学金なしで入れたのは、母ちゃんが昼も夜もがんばってくれたおかげだ。姉貴が進学しなかったことも大きいけどさ……。
ーーなのに、死んじまうなんてーー、ちゃんと生きとけよ、俺……。そしたらアザ花種とか、わけわかんないことで悩まなくてもよかったんだ。キサラとだって会えなかったけど、それは仕方ないことじゃん……。
赤い橋がかかる側の、芝生が生えた緩やかな法面をおりると、そこは川辺だ。ごつごつした白い石がたくさんころがっている。
そうだ、バイト仲間が誘ってくれたキャンプ場も、こんな川だった。はじめてのことですっごい嬉しくて、1日中泳いだんだよ。川の水が思ったより冷たかったのにさ。
テントの張り方も教えてもらって、朝が来たら早朝からまた泳いで、みんなに大笑いされたっけーー。バーベキューじゃ、隣りのひと達が鮎とか焼きだして、「あんな高級魚を焼いてるよ」、ってパートリーダーが仰天してたな……。
けど、たしかに良い匂いだったーー。鮎にまぶしてある塩の焼けた匂いがまた香ばしくてーー……。うん、うん、そうだよ、こんな感じだよーー。あー、美味しそうな匂いだーー……。
?
美味しそうな、匂いーー?
辺りを見廻すと、橋の下に白色のテントが見えた。テント、というよりは、ほらあれだ、遊牧民のゲル、って感じだな。
薄い煙がその近くからあがっている。
興味をかられた俺は、静かに近づいた。ヤバかったら、いつでも逃げられるようにしておかないとーー。
テントに隠れ足音に注意しながらそっと顔を出すと、焚き火の前で老人が座っているのが見えた。老人というには若いけど、おじさんじゃないしな……、なんていうんだ?
「あれ?」
俺はその老人の顔に見覚えがあった。いや、よく似たひとなのかな……。こんなとこにひとりでいるって、まさかなーー。
「ーー誰だい?」
ゆっくりとした声が、そのひとから発せられた。ありゃー、気づかれたかーー。挨拶だけして戻るろうか……。
「失礼、偶然通りかかりましてーー」
優雅に登場して頭を下げる。
はい、そのまま去りましょうかね~。
「おや、アディオン殿下。こんなところまでひとりで散歩に来られるとは、好奇心の塊ですね」
穏やかそうな中性的なおじいさん、が笑いながら俺を見る。
おっしゃるとおりでんがな。
「ーー貴方も護衛のひとりもおられないご様子」
「はははっ。護衛などーー。わたしには何の価値もありません。騎士の無駄使いですよーー」
俺の言葉を笑い飛ばしたそのひとは、昨日はロンドスタット大公の隣りに座っていたひとだ。
「ーー昨日は本当に申し訳ございません……。息子達が愚かな真似をいたしまして……。お怪我は大丈夫でしょうか?」
深々と頭を下げられる。
息子、ってーー。
「やはり、ラジード陛下のーー」
「はい。産み腹のワイムドと申します」
「産み腹……」
「ええ、エウローペーではお腹様と言うのですよね?大層な呼び名だ……」
ばかにするような言い方をワイムドがしたんだけど、それはどっちに対してなんだろう。自分側か、エウローペー側かーー……。
ーーなんだかこの領では、アザ花種をさげすんでいるのかな?このひとも、自分がラジード陛下を産んだことを、ちっとも誇りに思っていないようなーー……、そんな感情がこないか?
「ーーラジード陛下の思惑はわかりませんが、ベリアドには二度と会いたくはありません」
ほんとよ、もう。
「ーー朝一、ルカルドの領地にある牢獄に送りました」
「ルカルド殿のーー?」
「ええ。ここでは、ベリアドと懇意にしている兵士が多いのでーー、脱獄に手を貸す者もいるかもしれない……」
「それでーー」
ルカルドさんなら大丈夫ってわけかよ。そうかなーー、あのひともグルだったら関係ないじゃんね。
パシッ。
焚き火の木が割れた。
「ーー殿下。どうです?」
焼き立ての鮎をすすめられ、俺はびっくりしながらも近づいてそれを受け取った。やっべぇ、高級魚じゃん、食べていいの?
「ヤマメです。よければお召し上がりください」
「ありがとう」
ヤマメってなんだ?鮎じゃないのかーー。でも、すっごいうれしいなーー。
いい感じの石に腰をおろす。いえ~い、平民みたいじゃねえ?
いただきま~す。
パクっ。
…………、~~~ナニコレ、めっちゃ最強に美味いよ!身がふっくらしてて塩がきいてて、魚の脂がマジで美味いんだよ。
ひゃー、はじめて食べた~~、骨めんどくさいけど、噛めない固さじゃないなーー、とルンルンの俺をワイムドが物珍しげに見ている。
「何です?」
「いえ、素直な方なので驚いているのですよ」
単純だって言いたいのかね?憧れてたんだよーー、おかしいかい?
「失礼ですが、殿下は転移魔法を習得したいのですよね?」
「ああ。習得できるのであれば、ぜひともーー」
ん?エドアルドめ、あちこち言いふらしてるのか?できなかったら恥ずかしいからやめてよね。
「ーーわたしも長距離などは移動できませんが、イメージさえしっかりもてば、隣接大陸に転移するのも大丈夫だとは思います」
「そうか……」
ーーん?
わたしもーー?
「ーーワイムド様が転移魔法の使い手なのか?」
「わたしを、様、などとは呼ばないでください……。じじいとでもお呼びくださいーー」
じじい、って、ーー呼べるわけないだろ。ダチのじいさんでも呼ばねえわ。
「とんでもない魔法を所持しておいでですね」
「お褒めいただきありがとうございます……。教えることはかまいません」
「そうですかーー」
イリスは精神魔法じゃない、って言ってたけど万が一もあるしなーー……。駄目で元々、やってみましょうかねーー。
「ーーただ、学びたいのであれば、ラジードの退位を撤回していただきたい」
「え?」
ーー退位……、ってーー。
「愚かなこと申し上げているのは百も承知。ですが、あれは政務においては勤勉で領民からも慕われております……」
何だ?何の話をしてるんだ?
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