(完結)主人公の当て馬幼なじみの俺は、出番がなくなったので自分の領地でのんびりしたいと思います。

濃子

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魔法とアザ花種 編

第17話 魔法使いのおじいちゃん

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「ーー誰がそれを?」
 俺の意識がなくなった後かな……?
「誰、というよりは、当然そうなるものでしょう。お父上にも話がいくでしょうしーー」
「他の領の大公を退位させる気などありません。私が二度とここへ来なければいいだけですから」

 うん、ほんとそう。退位したからって、何ーー?俺にはまったく関係ない話だよ。

 ここの領民がラジード陛下でいい、っていってるのなら、領民の皆さんのためにこれからもがんばってくれればいい。悪い大公ならこの機会に変えたほうがいいけど、世襲制だからハリードが継ぐだけでしょ?絶対に口をだすだろうね。

 あーー、けど、セディランが結婚すれば無関係ではいられないかーー。もう、俺は結婚反対派になろうっと。



「ーーそうですか……」
「本当に魔法を教えてくださるのか?」
 過ぎたことは及ばざるが如しーー、さっさと魔法を教えてもらおう。……嘘教えんやろなーー?
「まずは、ご説明いたしますーー」




 ーー転移魔法とは、文字通り、ある地点からある地点まで移動する魔法であります。スタートは自分がいる現在地、ここから自分が行きたい場所をゴールとします。

 ゴールといっても、自分が行ったことのない場所、おぼろげしか覚えていないところは駄目です。はっきりと明確なイメージが大切ですし、そこが安全ともかぎらないので、わたしはいつも知り合いにつけたマーキング魔法陣を頼りに転移しておりましたーー……。




「ーー口をはさんでよろしいか?」
「はい」
「マーキング、ということは、ワイムド様の懇意にされている方なのか?」

 ーーそっち関係の?

「マーキングにも色々種類がございます。親族につける愛情や、友人につける友情ーー」
「ーー惚れられないのか?」
「目的が違いますから」
「目的……」
「魅了のほうを聞かれてるのでしたら、わたしはどなたにも使ったことがありません。先王陛下も匂いには敏感な方で、わたしの匂いを気に入ってくださっていましたが、他にも側夫がたくさんおられましたしーー」

「他の側夫……」
「先王の崩御とともに、皆故郷へ戻られました。わたしも帰りたかったのですが、子を産むと許されないらしいのでーー」
「……」
 悔しそうな顔のワイムドを見て、俺は頬をかいた。

 ーーいや、旦那様が亡くなったからって、はいお家に帰ります~、ってなるのか?思い出がいっぱいだろーー?帰りたいぐらい、無理だったってことなのか……?

 俺は川にあるテントを見た。
 年限を感じさせるその色合いに、ワイムドがずっとここにいるのでは?って考えてしまうけどーー。

「ーー転移で故郷に帰ることをしていましたが、少し前に両親が亡くなりましたので、もう帰る必要もなくなったのですよ……」
 残念そうに息をつく。

「ーーこんな話、殿下にはなんの関係もないですねーー」
「いや、それは……。私とて、未来はどうなるかはわかりませんし……」
「はははっ!」
 明るく笑われて俺は目を瞬かせる。何で笑われてるのよ。


「失礼……。……スタナ大公はこの婚姻に反対はなされましたか?」
「あーー、キサラの父様……。いえ、贈り物までいただきました」
 あの金のグラス、パピーの部屋にガラスケースに入れて飾ってるけど、マジキンキラキンよ。

「そうですか。それは何よりでございます……」
「ーーお知り合い、なのですか……?」
「大公の父上であられるナディア様とは、それなりの仲ですよーー」
「お祖父様とーー」
 アザ花種大好きお祖父様ね……。絶対にキサラのこといびってたんだぜ。


「ーーマーキングのやり方ですが、血を使った特殊な魔法陣を描きます」
「はい」
「それをタトゥーのように相手の身体に貼りつけます。絶対になくならない建物でも可です」 
「ふむ」

「これには作成時から相手に対する絶対的な信頼が必要ですので、少しでも迷えば自分の身に危険がかかると思ってください」
「はい」
 それは必然的に親とか伴侶になるよなーー。あっ、でもイメージだけでいいなら俺の部屋とかは転移しほうだい~、ってわけだ。超、便利じゃない?

「ーーさて、原理はおわかりいただきましたか?」
「出口がしっかりしていないと、どうにもならないのだな?」
「はいーー。ただ、飛ぶだけなら、どこに出るかわかりません。わたしも一度しくじって、とてつもない高い塔の尖端に着地したことがございます。転移魔法の特性として、高い、障害物の何もないところを行き来すると思っていてください。そこから着地点に降りるのだとーー」
「ーー……」
 
 ーーリスクのほうが多いな……。これはあれだ。海も飛べる飛竜捕まえたほうがよくないか?


「スタートとともに自分を分解し、ゴールで再構築します」
「はいはい」
 やっぱり光みたいになるんだーー。このままだと結局速度Gに身体が耐えられないんだよな。時速150キロぐらいで息がしにくい、って聞いたような覚えがあるぞ……。


 たとえ、息ができるようにしていても、時速300キロを超えると風圧で動けないし、全身骨折になる。さらに速度が増せば空力加熱が始まり、マッハ3くらいで身体が丸焼きにーー。つまり、人間の身では不可能なのよ。

 と、いうわけで自分を分解するーー。はい、難しいのきたーーッ!


「これは、イメージと体感でしかわからないのですがーー。殿下は、性行為の最中に意識を飛ばしたことがありますか?」
「……」


 ???



 ーー急にセクハラぶっこんできたぞ。何聞いてんのよ、このおじいちゃん……。


 黙ったままの俺に何を思ったのか、ワイムドが憐れみの目を向けてきた。
「ありませんか……」
「あるが」
 なんのマウントだ。

「ああ、あるなら話が早いのです。意識がなくなるぐらい良いときは、自分の身体が自分のものではないようなコントロール不可な状態ですよね?」
 冷静に言われるとただ恥ずかしいだけだな。

「まるで、自分がなくなってまた新たにつくられるような浮遊感があるでしょう」
「チカチカくるやつか……」
「はい。脳内が痺れっぱなしになるやつです」
 だから、なんのマウントなんだよ。

「そのイメージで、自分を再構築します」
「イキながら転移するのか?」
「慣れれば普通にできます。むしろ余計なことを考えずにゴールだけをイメージする」

 ふむーー。なるほどねーー……。


 ………。



 できるかーーーッ!

 
 まずはイッてる最中に飛べってか?キサラにイカしてもらってるのに、キサラの側に転移するのーー?なんつうおかしな話だーー……。


 ーーあーー、それって自分のスマホにメールを送るようなものかーー。あれって、一見ちょくで自分のとこに来てるようでサーバー経由してるんだよなーー。



 ふむふむ。
 練習をつめば、イカなくてもできるようになるーー。習得には段階があるってことだな。

「ーーちなみに、習得にはどれくらいかかりますか?」
「こればっかりはーー。個人差としか……。習得できない者のほうが多いですし……」

 だろうな……。

「マーキング魔法陣の描き方を教えておきます」
「あ、ああ。ありがとう……」
「お望みでしたら転移魔法の体感をしてみますか?」
「え?できるんですか?」
 俺だけ粉骨砕身にならない?

「知り合いに保護魔法の使い手がいます。彼に保護魔法をかけてもらい、転移してみましょう」
「保護魔法ーー」
「便利ですよ。どれだけ高速で走ろうと、壁にあたろうと怪我ひとつつきません」
「はーー」

 そっちのほうが、いいな……。

 俺の顔からそれを悟ったのか、ワイムドが微笑んだ。
「転移魔法、というとすごく便利に聞こえるんですがねーー」
「そうだな……」
「高速移動と保護魔法を覚えられれば、こちらのほうが簡単なのですよ」
「組み合わせかーー」

「ええ、殿下も治癒魔法など、ある意味最強ですね」
「そうか?」
「再構築にしくじっても治癒ができればいいのですからーー」
「しくじり……」

 ーーそれってつまり、ピカソの泣く女状態の俺を瞬時に治せ、ってことだよな……。

 
 ーーキサラ、おまえはそんな俺でも、愛せるのかなーー?





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