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チャラ男vs処女

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「モモちゃんって言うの? 奇遇だねー。俺、モモにナリで桃也トーヤっていうの。運命感じちゃうなー」

 ペラペラと口から出てくる言葉が我ながら薄っぺらい。こんな典型的ナンパ口調では、この相手には逆効果かもしれない。しかし、桃也はこういうやり方でしか女性と近づいたことがなかった。
 案の定、目の前の地味系女子は涙目でプルプル震えている。名前を聞き出すだけでも苦労した。
 だがしかし、桃也は何とかして彼女を説得し、セックスせねばならないのだ。

 なんでそんなことになっているかというと、ネットで有名な都市伝説『ピンク色の部屋』に閉じ込められたからである。
 絶対にセックスするまで出られないという、ピンク一色の部屋。中央にはキングサイズのベッドがひとつ。ビーズの散りばめられたドアは、何度か開けようとしてみたが無駄だった。やはりやることやらないと出られないらしい。

 問題は一緒に閉じ込められた相手だった。お互いに初対面。そこまではいい。桃也はよく知らない女性ともワンナイトパーティーできる男である。
 だが、部屋の隅に立ち尽くしている彼女は、桃也とは全く違うジャンルに生息する女だった。
 体は小さく、猫背でうつむきがち。中途半端に肩まで伸びた黒髪は、後ろでひとつにくくっている。茶色い縁の眼鏡はダサい上に、度数がきつくて目も小さく見える。服装も黒っぽくて野暮ったい。
 桃也の好みは、自分の横を歩かせる時、見映えがする派手目の美女だった。はっきり言ってこの女は論外だ。
 しかも閉じ込められたとわかった時から静かに涙をこぼしている。パニックを起こして喚かれるのもキツいが、こういうじめっぽいのも桃也は苦手だった。

 ――さくっと一回やれば終わるのに、何をぐずぐずしているんだこの女。

 何度目かのため息を押し隠しながら、桃也は新たに話題を探す。

「モモちゃんって何してる人? あ、俺はね、大学生。一応K大」

 モテたくて一生分の勉強をして入った大学である。これを聞くと大抵の女は目の色を変える。
 だが地味女は別の意味で表情を変えた。

「お、お、同じ大学なんですか……?」

 か細い声は聞き取りにくい。桃也はやっとのことで見つけだした共通の話題に飛び付く。

「まじで?! モモちゃん学部どこ? 学食はどこ使ってる?」

「私はお弁当派なので……」

「えっ、手作り? すごいじゃん。今度作ってもらおうかな」

「む、む、無理です……」

「えー、なんでよ」

「…………」

「ノーコメントかい!」

 会話が盛り上がらない。こっちがこんなに気を使っているのに、脱力感も甚だしい。

「おしゃべりが苦手なら、もうしちゃおっか?」

 冗談めかして言いながら、桃也はジャケットをそこら辺に脱ぎ捨てた。
 モモとかいう地味女は肩をびくっと震わせる。もともとベッドにも座らず壁際に縮こまるようにして立っていたが、余計に小さくなって壁にはりついた。
 桃也はイラッとする。笑顔を崩さずにいられる自分は偉い。

「いい夢見せてあげるから、ベッド行こ?」

 大股で近づいて、地味女の顔の横から壁に手をつく。壁と桃也に挟み込まれる形になった彼女は、びくびくするスペースすら与えられず、ひたすら固くなっていた。
 至近距離で見ると、地味女の肌はとても綺麗だった。ノーメイクなのは減点だが、赤っぽい照明の中でも白く透き通っている。
 ぼさぼさで鬱陶しい前髪と、どぎついレンズの向こうに、長いまつげが震えている。マツエクいらないじゃん、と思った時、桃也はとんでもないことに気づいた。
 地味女の眼鏡をむしりとり、前髪をかきあげる。顔を隠そうとした手もついでに押さえつける。

「ひぃ……!」

 ひきつった表情をすると大抵の人間は顔が崩れるものだが、地味女はそうはならなかった。
 はっきりした二重に流れるような目のライン。濃い睫毛はマスカラいらず。眉毛は延び放題だが、もともとの形は良さそうだ。鼻も小ぶりながら筋が通っているし、唇も可憐なピンク色でツヤツヤしている。何より、肌が良い。しっとりとしていて、つい触りたくなる。

「まじか……」

 パッと見は地味だが、素材は悪くない。というか、大変よろしい。髪型と服を整え、ちょっと化粧をすれば、自分の隣を歩かせてもいい。いや、化け方次第では、桃也の方が見劣りするかも……?

「俄然やる気になってきたわー」

 美しい女は大好物である。しかも誰も気づいていないであろう原石の状態とは。これを口説かずしてどうする。
 すでに桃也の頭の中では、目の前の女の着せ替えプランが練られている。清楚系にするか、ふわふわ系にするか、それともギャル系にするか。そのまま黒髪を活かしてもいいが、桃也好みの派手系にイメチェンさせるのも面白い。

「モモちゃん、ちょっとだけ俺の言うこときいてよ。怖いことしないし、痛いこともしないから」

 処女だったら最終的には痛いかもしれないが、嘘も方便というやつだ。

「今から俺はモモちゃんにキスするよ。いいよね?」

「い……」

 いや、と言われる前に桃也は唇を奪った。そしてすぐに離す。こちらを突き飛ばそうとしていたモモの手が、中途半端な位置で止まる。

「ほら、キスできた」

 にっこり笑うと、モモの真っ白な肌が徐々に赤くなっていく。

「あ、う、……?」

「はい、もう一回」

 断られたくない時は、考えさせる暇を与えないのがナンパの鉄則だ。桃也は再び顔を寄せる。

「ひゃ……!」

 今度こそ肩のあたりを押しやられて抵抗される。桃也はまたすぐに唇を離した。

「ほら、二回目もできたじゃん。偉い偉い」

 モモの頭を撫でる。
 女なんてちょろいものだ。コツを掴めばあっさりこちらに転がってくる。
 しかし、モモはそうはならなかった。

「あ、頭、触らないでください……」

 小さく、だがはっきりとした意志の感じられる声。

「え?」

「頭を撫でれば、女は喜ぶと思ってますよね……? わ、私、そういうの駄目なんです……。見下されてる、気が、して……」

 ぼそぼそとした口調のくせにはっきり言ってくれる。

 ――これだから下手に頭が良くてプライドだけ高い女はよおおおお!

 心の叫びを飲み込んで、桃也は申し訳なさそうに笑ってみせる。

「ごめん、モモちゃん、こういうの嫌いなんだ」

「ちゃん付けもやめてください……」

 うっかり舌打ちしてしまった。女の子には優しくがモットーだったのに。
 モモがびくっとなって壁に頭を打つ。確かにキスしたばかりの至近距離でチッとかやられたら怖いかもしれない。
 モモの心の扉は閉ざされてしまったらしい。もとから開いてもなかったけれど。

「はー、もー面倒くさい」

 桃也は開き直ることにした。この女には今までのやり方は通用しない。口説こうとしてみたが、やはり自分とは人種が違う。
 そもそも、可愛くなる努力を怠っているところが桃也は許せない。世の中にはモテるために睡眠時間を削って努力しているやつもいる。それなのにこの女は、持って生まれた一級品の素材を腐らせているのだ。そんなやつを丁重に扱う理由もない。

「じゃあモモでいいよな? こっちが下手に出てやってんのにおまえってやつは」

「う……、う……?」

 桃也の態度が変わったことに気づいたモモが目を白黒させている。壁際から脱出したいらしいが、彼女の腕は桃也の体を突き飛ばすには非力すぎた。

「いいか、状況を説明するぞ。俺とおまえはセックスするまでここから出られない。やるしかない」

「う、あ……で、でも、何か他に方法が……」

「ない。最初に二人で散々部屋を調べただろうが。それで絶望したからおまえも泣いてんだろ」

「ううう……」

「泣くな!」

 モモは口に手を当てて泣き声を圧し殺す。余計にイライラするが、そうさせているのは自分だ。桃也はやや声のトーンを和らげる。

「いいか? 抱くからな? もう一度繰り返すけど、俺の言うとおりにしてくれたら、なるべく痛い思いとかさせないから。セックスってのは共同作業なわけ。おまえも協力しろよ」

「うっ、ぅっ、……でも、は、は、初めて、だし……出会ったばっかりの人と、なんて……」

 消え入るような声で告白されたが、それは想定内だ。

「わかったから、俺が初めてで良かったって思えるようにしてやるから。こういう状況になったのはおまえのせいじゃない。おまえは悪くない。外に出るために仕方なく俺に従うだけ。いいな、モモ?」

「うううう……」

 モモがひゃくりあげ始めた。本人も状況はわかっているが、どうしたらいいのかわからないのだろう。
 抱き締めて背中を撫でてやる。しばらく泣かせてから、落ち着いてきたのを見計らって顔を覗きこんだ。伏し目がちの目に睫毛が濡れて光っている。忘れそうになるが、やはり彼女は美しい。

「ベッド行くぞ」

 ゆっくり腕を引いてみる。モモは諦めたのか、大人しくついてきた。
 シーツの上に座らせる。膝の上で握りしめられた手が震えている。
 急に庇護欲のようなものを刺激されて、桃也は三度目のキスをした。わななく唇を舐める。歯列をなぞってみるが、モモはその先に進ませてくれない。 

「口、開けられるか?」

 モモは恥ずかしそうに目をうろうろさせ、再び閉じた。同時に一筋の涙が、形の良い顎に落ちていく。泣いている彼女は綺麗だ。
 うっすらと開いた口を、更に舌でこじ開けた。モモの舌が怯えて逃げ回る。上顎をくすぐるようにすると、モモの口から微かな声が漏れた。

「……んっ」

 桃也の足の間にあるものがぴくりと疼いた。あまり嫌がられると立たないと思っていたが、これなら大丈夫そうだ。

「おまえも舌出せよ」

 先ほどまでの態度はどこへやら、モモは泣きながらも健気に応えようとする。その様がいじらしい。

「ん、ん」

 何度か胸を叩かれて体を離す。同時にモモが大きく息を吸い込んだ。

「呼吸の仕方、わかんないの?」

「は、はい……」

「じゃあ練習な。鼻ですんだよ。ほら」

 キスなんてしなくても体はつながることが出来るのに、桃也はなぜか何度も繰り返している。モモは言われた通りに下手くそな息継ぎを繰り返した。
 もうどこも探る余地がないくらいたっぷりと口の中を蹂躙して、ようやく桃也は彼女を解放した。モモは唇を濡らしたままぼうっとしている。キスにうっとりしているというよりは、単なる酸欠だ。

「服、脱がすからな」

「え、うあ……」

 モモのあわあわ声は色気がない。無視して、もっさりとしたパーカーのジッパーを下ろす。中からクマらしきキャラクターがプリントされたTシャツが出てきた。この歳にもなってどんな趣味をしているのかは突っ込まないでおく。

「はい、ばんざーい」

 モモはうごうご言っているが、大した抵抗もなくTシャツを脱がされた。白っぽいブラジャーが出てくる。純白のレースなどではない、補正下着のようなおばさん臭のする一品である。中学生だってもっと可愛い下着を着けているだろうに。
 これにはさすがに桃也も黙っていられなかった。

「おまえもっと緊張感持って生きろよ! 男に見せられない格好するな!」

「み、見せる予定なんかないですしぃぃい……」

「今俺が見てるだろうが! アクシデントに備えていつでも臨戦態勢でいろ!」

 げんなりするブラジャーはさっさと取り去ってしまう。桃也が慣れた手付きなのは、今まで場数を踏んできたからだ。
 モモは震えるように胸を押さえながら肩を抱いている。

「手、外すぞ?」

 手首のあたりをがっしり掴む。一回引っ張ったが剥がれない。

「おい」

「ううううう」

 ドスのきいた声をだすと、モモは腕の力を抜いた。桃也が促すまま、胸から手が離れる。
 サイズは大きくもなく小さくもない。が、形が丸くて綺麗だ。肌は白くてしっとりと艶があり、淡く燐光を放っているように見えた。触れてみると指がめり込む。その柔らかさは、つきたての餅を連想させた。
 モモは目を閉じて唇を噛んでいる。肩が細かく震えている。

「おまえ、少し力を抜けよ」

「だっ、て……」

「これからもっとすごいことするんだぞ」

 モモは噛み締めた歯の隙間から、うー、だの、ぐぅ、だの、変なうめき声を漏らしている。
 薄い桜色の頂点に触れる。柔らかいままの粒を細かくしごくようにすると、モモがうっすらと目を開けた。

「あ、あ、あの、ちょっと痛い、です……」

「ん?」

 あんまり刺激されたこともないのだろうか。これだから処女は面倒くさい。

「わかったよ」

 薄紅色の綺麗な突起をぱくっと咥えこんだ。このほうが摩擦も少なくて痛くないだろう。
 モモは口を開けたり閉じたりしていたが、やがて自分の指を噛んだ。漏れだしそうになる声を抑えているのかもしれない。

「……感じてきた?」

 桃也はニヤッと笑う。モモは答えないが、乳首は充血して膨らんでいる。舌で抉るようにすると、しっかりとした弾力で跳ね返ってくる。

「ふうぅ……」

 モモの吐く息が荒い。

「指、そんなに噛んだら歯形が着くぞ」

 口から外させると、細い指には赤い噛み痕がついていた。桃也はそこにもキスを落とす。

「次、こっちな?」

 ベッドに押し倒す。モモが慌てて起き上がろうとするのを押さえつけ、だぶついたデニムを引きずり下ろす。
 現れたのはやはり色気のないショーツ。紺地のストライプで、当然ながらブラジャーと揃いのものではない。

「せっかく体も綺麗なのに、持って生まれた宝を雑に扱うなよ」

 最後の一枚も問答無用でむしりとる。モモが抵抗するそぶりを見せたが、桃也の動きの方が早い。
 モモのそこには毛が生えていなかった。剃っている女も桃也は見たことがあるが、モモがそんな手入れをするだろうか。そういえば腋毛もなかった気がする。生まれもって体毛が薄いタイプなのかもしれない。脛もつるつるしていて綺麗なものだ。

「み、見ないでください……」

「わかったよ」

 というのは口だけで、がっつり見るけれども。
 足の間の、縦に走った溝は小さい。男どころかモモ自身でも触ったことがないのかもしれない。
 処女、という言葉が改めて桃也にのし掛かった。
 同時に処女雪を連想する。誰の足跡もついていない、まっさらな大地。白く滑らかなモモの肌は、無垢な美しさを放っていた。
 唐突な衝動が桃也の中に沸き起こる。

 自分の跡をつけてやりたい。
 滅茶苦茶にしてやりたい。

 今までそんなことを思ったことはなかった。処女を相手にした男は皆こういった心理に陥るのだろうか。
 力加減を間違えればすぐに壊れてしまいそうな薄い襞を、ゆっくりと開いてみる。モモはぎゅっと目を閉じている。
 綺麗な肉色の入り口が現れる。少し湿ってはいるが、挿入するにはまだ準備が必要だろう。
 上部にある突起は鞘の中に守られていた。さっき乳首を痛がられたことを思いだし、桃也は皮の上からそこをつついてみる。

「ひゃ?!」

 それだけでモモの腰が逃げた。

「な、なんっ、なにしてるんですか?!」

「なにって……クリトリス触ってるだけだけど」

「く、くっ?! っ、ひ、ふぁ……!」

 また抵抗されて面倒くさいことになりそうだったので、モモの反応を無視して指先で優しく撫でてみる。剥いた方が気持ち良いと思うのだが、モモにはこの刺激で充分らしい。
 指をくるくる動かしているうちに、モモの体が湿ってきた。滑りを借りながら体内に指を埋めてみる。
 とたんにモモの体が強張った。

「いったいぃ!」

「まだ指一本だぞ」

 中は温かく、キツかった。これだけ締まっていたら、本番はこちらも痛いのではないだろうか。
 たっぷりほぐすことにしよう。とりあえず中に入れた指は動かさず、もう片方の手でクリトリスをいじってみる。

「ひ、あっ、あんっ?!」

 反応が素直なのは良いことだ。鳴き声もなかなか可愛くなってきた。
 気づいたらまたキスをしていた。綺麗になる努力を全くしない、腹立たしい女に、段々情がわき始めている。

「んー、んんーっ……」

 唇の間からモモが鼻にかかった声を出す。シーツを握りしめている指が真っ白になっていた。もっと鳴かせてみたい。
 再び乳首を口に含んでみる。胸とクリトリスと膣、三ヶ所を同時に触れられて、モモが体をくねらせる。中からどろりと液体が溢れてきた。

「気持ちいいか?」

 モモは答えない。目尻から零れ落ちそうになっている涙を舐めあげると、彼女は顔をそらした。

「ほら、二本目も入れるぞ?」

 今度は内側を擦るように動かしてみる。痛がっている様子はなさそうだ。細かく震わせてみると、モモの膝がもぞもぞと動いた。

「っは、っは、あ……」

 中をほぐしながら、モモの細い爪先に唇を落とす。陶器のように白く滑らかな脛を舐め、膝に歯を立てる。
 こんなに触り心地の良い肌は初めてだ。真冬の月のように透明で冴え渡る白。きめが細かく滑らかで、しっとりと柔らかく弾力がある。
 中を解している指はそのままに、仰向けになっているモモの上に桃也は被さった。モモの肩を抱き、胸や腹を密着させる。恋人同士がいちゃついているようなポーズだ。
 だんだん桃也の気持ちも盛り上がってくる。

「おまえ、今日だけ俺の彼女ってことにしてやるよ」

「な、に、言って……」

「ほら、おまえの彼氏がキスすんぞ」

「んんっ!」

 唇を重ねた瞬間、秘穴が甘く緩んだ気がした。三本目の指がすんなり入っていく。上の口からも下の口からも水音がする。
 何度もキスを繰り返しながら、桃也はモモの体を柔らかくしていった。奥を突かれるのはまだ辛いらしく、入り口から徐々に指を拡げて様子を見る。
 クリトリスの鞘をゆっくり剥いてみると、モモの太腿がひきつった。

「ひゃ、それだめっ! だめですっ!」

「痛くないか?」

「い、たくはないけど、だめなんですぅ!」

「なんで?」

 ニヤニヤ笑いながら、責める手は止めない。粒の根本から何度も撫で上げると、モモが握りしめたシーツに皺がよる。

「はぅう、ああ、あぁん!」

 白魚がのたうちまわるように、モモはびくびくと跳ねた。面白いくらいわかりやすい反応だ。
 中に入れた指もぐずぐずになってふやけそうだ。

「そろそろいいだろ」

 ご丁寧にも枕元に準備してあったコンドームを手に取る。歯でパッケージを破って装着すると、モモが他人事のようにぼうっとこちらを眺めていた。

「入れるからな」

 秘所に男性器を押し当てられても、モモはどこかぼんやりしている。

「わ、たし、好きでもない人と……」

「何言ってんだよ。おまえ、もう俺に惚れたろ?」

「え……?」

「こんなイケメンで優しい男なんて他にいないだろーが」

 それはどうだろう、という目で見られた。この期におよんで絆されないとはムカつく女だ。

「や、やっぱり、わたし……」

「ここまできて逃がすかよ」

 腰を抱え直し、ぐっと突き出す。とたんにモモが騒ぎだした。

「い、た、いたい、いたたたた!」

「少し我慢しろって」

「や、いたい! 本当に痛い……!」

 入り口は濡れているのだが、奥の方まで浸透していない。摩擦が強すぎて、ゴムがなかったらこちらも痛みに呻いているところだ。
 額にじっとりと汗をかきながら、ねじ込むように腰を進める。硬い肉を抉る感覚。同時に、本当に誰もここまで到達したことがなかったのだと、妙な興奮を覚える。
 モモがぼろぼろ泣いている。

「ううううう。痛くしないって言ったのに……!」

「もう全部入ったって」

 しばらく抱き合いながら落ち着かせるように髪を撫でる。頭に触って怒られたことを思い出したが、モモは何も言わず涙をこぼしている。

「泣くなよ。俺も悲しくなるじゃん」

 キスをした。軽いものではなく、一晩だけの相手には滅多にしない、深い口付けだ。
 内部が馴染むまでじっとしておいてやる。というか、キツすぎて桃也もすぐには動けない。
 少しでもモモの強張りをほどこうと、再びクリトリスを掘り起こす。

「あっ、そこは、だめ……!」

 モモの腰がくねった。同時に中も蠢く。しつこく粒を捏ねくりまわしているうちに、硬く侵入を拒んでいた内部もゆるゆるとほどけてきた。幾重にも折り重なった襞が奥へ奥へとうねり、桃也を更に飲み込もうとする。

「も、動くからな?」

「あ、や、だめ!」

 正常位でゆっくり律動する。モモは泣きそうな顔でこちらを見ている。それがますます嗜虐心を刺激した。
 桃也の汗がしたたり落ちて、モモの胸や腹に広がっていく。白い肌を汚していく感覚に、仄暗い喜びがわき上がってきた。

 ――もっと汚してしまいたい。

 衝動のままモモの鎖骨に食らいつき、強く吸う。

「あっ、や、いたぃっ!」

 雪に埋もれた苺のように、モモの美しい肌に赤い痕が散っていく。
 Sっ気はないはずだった。桃也も自分の攻撃性に驚いている。ただ、この純真無垢な何も知らないモモとかいう女を、自分の熱で食らいつくしてしまいたい。
 モモの腕を引いて体をひっくり返す。後ろから腰を掴んで貫いた。

「ああっ!」

 後背位になったモモは四つん這いになろうとして、くにゃりと崩れる。そのまま尻を高く上げた状態で桃也に揺さぶられた。
 桃也はもともとこの体勢が好きでも嫌いでもなかった。だが今は違う。後ろから貫く度、モモを征服している気がする。この言うことを聞かない生意気な女を、自分が泣かせている気になれる。
 自分の中の新たな扉が開いたようだった。セックスなんて、手っ取り早く気持ちよくなれれば良いと思っていた。
 だがモモは処女のせいかやたらと手間がかかったし、だからこそ愛着もわく。苛めてやりたくもなる。
 桃也が初めて道をつけてやった女だ。桃也の女だ。そう思うとゾクゾクする。

「モモ、どうだ? 中で動いてるのがわかるか?」

「あっ、あっ!」

「教えられないか? じゃあ、これは?」

 腰を抱くように手を前に回すと、指先でクリトリスを弾いた。バックだと指を動かす隙間があって、苛めるにも自由度が高い。

「ひっ、あ、だめ、だめ、あっ!」

 モモが髪を振りたくっている。内部も痙攣し始めた。搾り取るような動きに桃也は歯を食い縛る。

「っはぁ、もう出すからな!」

「やぁっ! あ! あああああ!」

 最後の一突きを叩き込むのと同時に、モモのクリトリスも押し込んだ。二人で息を止めて震える。モモの内部は複雑な動きで桃也を誘い、ゴムをしているのに精を吸い取られるようだった。
 一瞬の間の後、大きく息を吐くと、モモの腰がシーツに崩れ落ちた。足の付け根から膝の裏まで透明な液体で汚れている。その姿すら綺麗だ。

「おまえ、すごいじゃん。初めてなのにイケるって。もしかして俺ら相性いいんじゃない?」

 一回出したというのに賢者モードにならず、むしろ桃也は興奮していた。二人で同時にイクなど初めてだ。今までにない一体感だった。また抱きたくなってしまう。
 ぐったりしているモモの乱れた髪をかきあげてやる。モモはその美しい目尻から、一筋の涙をこぼした。

「モモ……?」

 慌てて顔を覗きこもうとすると、手を払い除けられた。
 急に桃也は盛り上がっているのが自分だけだということに気づいた。この女を手に入れたような、征服したような気になっていたが、モモはこの部屋から出るために嫌々抱かれただけであって、桃也のことは好きでもなんでもないのだ。
 いや、むしろ、嫌われていると言った方が正しいだろう。自分は、彼女から見れば加害者だ。

「モモ……」

 何と声をかけていいか迷っているうちに、唐突に煙が吹き上がった。閉じ込められた時と同じ、合成音声のアナウンスが流れる。

「みっしょん 達成! オメデトウ ゴサイマス! コレデ 晴レテ 自由ノ 身デス!」

 煙が無くなった時にはピンク色の部屋は消え、廃墟らしき建物の中だった。桃也がきょろきょろしているうちにモモは服を着て、そこら辺に放置してあった荷物を掴んで走り出す。

「ちょっと待て、モモ!」

 完全に出遅れた。桃也がパンツのベルトをはめている間に、モモの姿が見えなくなった。

「くっそ!」

 まだ言いたいことがあったはずなのに。モモは外に出たら、もう二度と桃也とは会わないつもりなのだろうか。部屋に閉じ込められたときのことなど、何もなかったように忘れてしまうのだろうか。

 ――それは嫌だ。

 何が嫌なのかもわからず、桃也は埃っぽい壁を殴りつけた。



 数日後、大学構内をずっと見張っていた桃也は、ついに目当ての女を見つけた。
 小柄で猫背。だぶついた黒っぽい服装。もっさりした前髪と、後ろでひとつにくくった中途半端な長さの黒髪。元の顔を変形させる度数のキツい眼鏡。
 あいつだ。間違いない。
 だが目が合った瞬間、相手は走って逃げ出した。

「くっそ、逃げんな!」

 反射的に追いかける。もたもた走りの女が校舎の階段に消えた。見失う、と思って駆け込んだが、女はちょっと登ったところで手すりに掴まってへたりこんでいた。

「体力なさすぎだろ……」

 こちらはまだ汗ひとつかいていない。
 近づいて顔を覗きこむと、やはり彼女はモモだった。

「なんで逃げるんだよ」

「だ、だ、だって、……」

 言いたいことはわかる。あの部屋のことは彼女にとっては消したい過去なのだろう。
 だが、それでは桃也が困る。

「立てよ」

「な、な、な、なんでですかぁっ……!」

「おまえの服買って、髪切るんだよ」

「……へ?」

 こちらを見上げたモモの顔は間が抜けている。早く瓶底眼鏡をとりあげて前髪も整えてやりたい。

「安心しろ、金は俺が出してやる」

「な、なん、なんのためにっ?!」

 ――あの部屋での出来事を謝りたいから。

 だが桃也は言わない。自分だって閉じ込められて仕方なかったのだ。外に出るためにしたことであって、謝る義理はない。
 それにもし謝ってしまったら、自分が悪いことを全面的に認めなければならない。あそこには悪だけではなく、愛もあったのだと思いたいのだ。勝手な都合だとは重々承知しているけれども。
 だから、別の理由を説明する。

「宝の持ち腐れしてるおまえに腹が立つからだよ!」

 モモはずり落ちた眼鏡をおさえながら、悲痛な声で言った。

「そ、そんなの、ほ、ほっといてくれれば……!」 

「ほっとけないから言ってんだろ! いいから来い!」

 腕を掴むと、モモがこれでもかというくらいの悲鳴を上げた。

「いいやぁああああああ!」  

 横暴な桃也と、暴れながらも結局は引きずられていくモモ。それを大学生たちが変な顔をして眺めている。

 この後、すったもんだあって桃也は女性関係を精算し、モモに交際を申し込むことになるのだが、それはまた別の話である。

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