雪降る街に

森山葵

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第1話「売れない僕ら」

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- 第1話「売れない僕ら」-

  俺は築40年のオンボロアパートに大学時代から住んでいた。1LDKで、家賃は月3万。売れていない芸人にしてみりゃ、相当な豪邸だ。
「さてと……」
古い椅子に腰掛け、学生時代から使っていた安物の机にネタ帳を開いて、金釘流の文字でネタを書き始めた。昔から俺は字が汚い。学生時代、冗談で俺の文字を解読するために、古文オタクがが動いたくらいだ。多分牧田くらいしかまともに読める奴はいない。いつも黒と青のボールペンで100均で買った青い表紙のノートにネタを書いていく。作ったネタは、学生時代から500本を超える。勿論ネタによって長短もあるし、一軍級のネタもあれば補欠、二軍や戦力外とネタの出来具合もある。だいたい一軍ネタは20本くらいだろうか。それでも、僕らは未だに一回戦敗退レベル。どうしたものか。
「次のネタは……」
いつもネットニュースで話題になっているものや、トレンド入りしたものをネタにする。時事ネタではなく、例えばあのハンバーガーがうまいとかあったらグルメレポーターのネタ、野球の試合が話題ならヒーローインタビューや解説者、詐欺事件が多いなら詐欺師のネタといった具合だ。作るネタのほとんどがコント漫才だが、最近は俺らに向いてないのかもしれないと思い始めた。だからといってテンションがやたらと高いネタもできないし、しゃべくり漫才は関東出身の僕らには無理だ。しゃべくり漫才は、圧倒的に関西に多く、逆にコント漫才は関東多い。中にはこれに区別できないようなネタもあるが、そんなのはよほど才能がないと売れない。
  芸人なんて、所詮博打と何も変わらない。売れればとことん売れるが、売れないと空っぽのまま時だけが過ぎていくだけの虚しいものだ。
夢を追うことを否定したりはしないが、ある程度で敗れて諦めることも必要なのかもしれない。最近はそう思っている。
  それでも、僕はネタを作り続ける。売れるまで、死ぬまで笑いに人生を捧げたい。本気でそう思っていた。
  僕がそう思うのには訳があった。
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