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突然の告白
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「…はい?今なんて言いました?時任さん!」
「だからぁ、ここのホテルを売却することになって…」
「ば、いきゃく…って…なくなるって事?」
「なくなりはしないわよぉ!」
いつにもまして、時任ののんびりした口調がもどかしい。桜はそう思っていた。
「みんな知ってるんですか?」
「ううん?フロントメンバーにはそれとなく話してるけど、それ以外はこれからかな?」
「…無くなるわけじゃないって事…ですよね?」
「うん!」
「…売却、何ですよね?」
「売却っていうかぁ、あ、そうそう。売るとかっていうよりも管理してくれる人が変わるっていうか?」
「…はぁ…」
「私も雇われ側になるって事位かな?大きな違いは!」
「…それ、大分大きな違いだと思うんですが…?」
「そう?」
『おおげさよぉ!』なんて言っているのはこのグラッドホテルの社長である時任だった。そんな中で突然嵐の様な事実を聞かされたのはバイトのフロントスタッフである御門桜だった。
「じゃぁ、御門さん!後よろしくね?」
そう言えば時任は事務所に移動していった。
「…本当に…どうしたものか…」
ため息のやり場をどこに向ける事も出来ないままに桜はただ黙々と仕事をこなしていくのであった。
***
それから数時間も経てば昼過ぎからのスタッフも一緒になる。と言ってもこの時間からのスタッフは社員であることが多いため、桜は問いかけてみる事にした。
「そういえば、今日時任さんから聞いたんですけど…」
「何を?」
「ここ、売るんですか?」
「売るというか、他のやり手の人に託すみたいよ?」
「託す…??」
また新たな情報が出てくることに桜の頭の中は悶々とするばかりだった。
聞けば、会社の経営がうまくいく事無く、改装に使った費用の借金もまだまだあるという事になっているらしい。ただ、このホテルの名称が変わる訳でも無く、スタッフも変わらない。変わるとすれば経営者、そしてこのホテルが別の会社の傘下に入るという事だった。
「…なるほど…そこまでは聞いてなかったですけど…」
「でも、変わらずっていうなら何も問題はないですしね?」
「確かに…それもそうですよね…」
桜の心配はそれほど大きくなることも無く、その日を終えた。
それから月日も経ち、以前から調子も悪い中、桜は突如体調を悪化させてしまい入院することになった。
「…最悪…」
手術をすることになり、予後も安静にするしかほかなかった。
「…ハァ…」
時間を見ては電話をかけた。
『お電話ありがとうございます、グラッドホテルでございます』
「あ、御門です。」
『あー!御門さん?どう?体調は!』
「大分よくなってきてはいるんですが…まだ退院の目途はなくて…」
『そっかぁ、ゆっくりと休んで!元気になったらまた戻ってきてくださいね!』
そう言って今回の電話も切れていく。それから二日後には退院の日取りも決まり、ホテル側にも連絡を入れる事が出来るようになった。
退院して二日後…ようやく出勤が叶った桜は意気揚々と職場に戻っていく。
「…すみません、本当に長い間…」
「もう大丈夫?!」
「はい、取るもの取ったら痛みも無くなって…!」
「そっかぁ、大変だったのね!」
症状の原因は大腸ポリープ。大型が二つあった。それを取ってしまった今、あの痛みは何だったのかという位に何も無かったかの様に過ごしていた。
「で、突然なんだけど、明日かな?」
「はい?」
「新しい会長との面談?」
「め、んだん…ですか?」
「そう。」
「それは……長期休んだが為の…?」
「違う違う!みんなやるのよ。でも、御門さん入院してる間に終わっていったから後は御門さんだけ」
「……はい?」
「みんな終わった!」
「…本当ですか…」
「えぇ!」
そういうのは主任である中条だった。
「…解りました…覚悟しておきます。入金行ってきますね?」
「はい、お願いします」
そう話を切り上げて桜は売上金を銀行に入れに行った。行って帰るまでの時間はおよそ十分。桜が帰って来た時に、いつもと違う場所に黒い車が停まって居た。
「あれ…あの車って、行く時停まってなかったよね…?」
そう思いながらも従業員用の階段から上がっていき中条に話をした。
「中条さん?何か下に行く時無かった車停まってるんですけど、もう誰かチェックインとか来ました?」
「あ、そうそう、会長みえてる」
「…あ、会長…へ?」
「ほら、さっき言っていた新しい人。」
「新しい人!…ではなく…」
「それで戻ってきたら鳳凰に来てって伝言預かったわよ?」
「……それってもしかしなくても私ですか?」
「はい」
突然のことで頭が回らない桜だったものの、それでもあまり待たせてはいけないからと急いで二階にある鳳凰の間に向かって行った。ここは時任が事務所兼社長室で使っていた場所でもあった。
「…てか、どんな人なのかも聞いてないし…」
階段を一段上がる程に気が重くなっていく桜。それでも鳳凰の間の前に来ると扉をノックした。
「…あれ?」
中から返事が聞こえない。それでも『待っている』と聞いていた手前帰る訳にもいかずゆっくりと扉を少し開けてみる事にした。
「…失礼します…」
「どうぞ?」
突然中から聞きなれない男の人の声がした事に多少なりと動揺をしていた桜。
扉をしっかりと開け、初めて入る鳳凰の間に『へぇ…』という感想を胸に抱きながらも声の主を探した。
「…どうぞ?」
「あ、失礼します。」
「寒くない?」
「はい、あ、すみません。フロントの御門桜と言います」
「知ってる。体調はどう?入院していたって聞いたけど」
「もう大丈夫です。なんかお恥ずかしい…」
「そんなことないと思うけど?」
一礼すれば椅子から立ち上がってその男性もにこやかに笑いかけてくる。それでもその笑顔の裏には何か、見透かすようにも見えていた。
「…聞いていると思うけど、新しくここのグラッドホテルを仕切る事になった株式会社シンテクノの牧田と言います。」
するっと名刺を出された。そこには白地に会社名と名前、連絡先の書いてあるだけの簡単な名刺があった。
「…あ、ありがとうございます。」
それが桜と牧田の最初の出会いとなったのだった。
「だからぁ、ここのホテルを売却することになって…」
「ば、いきゃく…って…なくなるって事?」
「なくなりはしないわよぉ!」
いつにもまして、時任ののんびりした口調がもどかしい。桜はそう思っていた。
「みんな知ってるんですか?」
「ううん?フロントメンバーにはそれとなく話してるけど、それ以外はこれからかな?」
「…無くなるわけじゃないって事…ですよね?」
「うん!」
「…売却、何ですよね?」
「売却っていうかぁ、あ、そうそう。売るとかっていうよりも管理してくれる人が変わるっていうか?」
「…はぁ…」
「私も雇われ側になるって事位かな?大きな違いは!」
「…それ、大分大きな違いだと思うんですが…?」
「そう?」
『おおげさよぉ!』なんて言っているのはこのグラッドホテルの社長である時任だった。そんな中で突然嵐の様な事実を聞かされたのはバイトのフロントスタッフである御門桜だった。
「じゃぁ、御門さん!後よろしくね?」
そう言えば時任は事務所に移動していった。
「…本当に…どうしたものか…」
ため息のやり場をどこに向ける事も出来ないままに桜はただ黙々と仕事をこなしていくのであった。
***
それから数時間も経てば昼過ぎからのスタッフも一緒になる。と言ってもこの時間からのスタッフは社員であることが多いため、桜は問いかけてみる事にした。
「そういえば、今日時任さんから聞いたんですけど…」
「何を?」
「ここ、売るんですか?」
「売るというか、他のやり手の人に託すみたいよ?」
「託す…??」
また新たな情報が出てくることに桜の頭の中は悶々とするばかりだった。
聞けば、会社の経営がうまくいく事無く、改装に使った費用の借金もまだまだあるという事になっているらしい。ただ、このホテルの名称が変わる訳でも無く、スタッフも変わらない。変わるとすれば経営者、そしてこのホテルが別の会社の傘下に入るという事だった。
「…なるほど…そこまでは聞いてなかったですけど…」
「でも、変わらずっていうなら何も問題はないですしね?」
「確かに…それもそうですよね…」
桜の心配はそれほど大きくなることも無く、その日を終えた。
それから月日も経ち、以前から調子も悪い中、桜は突如体調を悪化させてしまい入院することになった。
「…最悪…」
手術をすることになり、予後も安静にするしかほかなかった。
「…ハァ…」
時間を見ては電話をかけた。
『お電話ありがとうございます、グラッドホテルでございます』
「あ、御門です。」
『あー!御門さん?どう?体調は!』
「大分よくなってきてはいるんですが…まだ退院の目途はなくて…」
『そっかぁ、ゆっくりと休んで!元気になったらまた戻ってきてくださいね!』
そう言って今回の電話も切れていく。それから二日後には退院の日取りも決まり、ホテル側にも連絡を入れる事が出来るようになった。
退院して二日後…ようやく出勤が叶った桜は意気揚々と職場に戻っていく。
「…すみません、本当に長い間…」
「もう大丈夫?!」
「はい、取るもの取ったら痛みも無くなって…!」
「そっかぁ、大変だったのね!」
症状の原因は大腸ポリープ。大型が二つあった。それを取ってしまった今、あの痛みは何だったのかという位に何も無かったかの様に過ごしていた。
「で、突然なんだけど、明日かな?」
「はい?」
「新しい会長との面談?」
「め、んだん…ですか?」
「そう。」
「それは……長期休んだが為の…?」
「違う違う!みんなやるのよ。でも、御門さん入院してる間に終わっていったから後は御門さんだけ」
「……はい?」
「みんな終わった!」
「…本当ですか…」
「えぇ!」
そういうのは主任である中条だった。
「…解りました…覚悟しておきます。入金行ってきますね?」
「はい、お願いします」
そう話を切り上げて桜は売上金を銀行に入れに行った。行って帰るまでの時間はおよそ十分。桜が帰って来た時に、いつもと違う場所に黒い車が停まって居た。
「あれ…あの車って、行く時停まってなかったよね…?」
そう思いながらも従業員用の階段から上がっていき中条に話をした。
「中条さん?何か下に行く時無かった車停まってるんですけど、もう誰かチェックインとか来ました?」
「あ、そうそう、会長みえてる」
「…あ、会長…へ?」
「ほら、さっき言っていた新しい人。」
「新しい人!…ではなく…」
「それで戻ってきたら鳳凰に来てって伝言預かったわよ?」
「……それってもしかしなくても私ですか?」
「はい」
突然のことで頭が回らない桜だったものの、それでもあまり待たせてはいけないからと急いで二階にある鳳凰の間に向かって行った。ここは時任が事務所兼社長室で使っていた場所でもあった。
「…てか、どんな人なのかも聞いてないし…」
階段を一段上がる程に気が重くなっていく桜。それでも鳳凰の間の前に来ると扉をノックした。
「…あれ?」
中から返事が聞こえない。それでも『待っている』と聞いていた手前帰る訳にもいかずゆっくりと扉を少し開けてみる事にした。
「…失礼します…」
「どうぞ?」
突然中から聞きなれない男の人の声がした事に多少なりと動揺をしていた桜。
扉をしっかりと開け、初めて入る鳳凰の間に『へぇ…』という感想を胸に抱きながらも声の主を探した。
「…どうぞ?」
「あ、失礼します。」
「寒くない?」
「はい、あ、すみません。フロントの御門桜と言います」
「知ってる。体調はどう?入院していたって聞いたけど」
「もう大丈夫です。なんかお恥ずかしい…」
「そんなことないと思うけど?」
一礼すれば椅子から立ち上がってその男性もにこやかに笑いかけてくる。それでもその笑顔の裏には何か、見透かすようにも見えていた。
「…聞いていると思うけど、新しくここのグラッドホテルを仕切る事になった株式会社シンテクノの牧田と言います。」
するっと名刺を出された。そこには白地に会社名と名前、連絡先の書いてあるだけの簡単な名刺があった。
「…あ、ありがとうございます。」
それが桜と牧田の最初の出会いとなったのだった。
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