隣のアイツ

みやび

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規格外なグレイ

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「お帰りなさいませ、グレイ様」
「あぁ。ユリア、ユリアは居るか?」
「はい、ここに」
「この娘はミク。森で拾った」
「猫か何かと同じような言い方しないで」
「…聞いての通り、俺に対してもこの通りだ」
「グレイ様の事をご存知ではないので?」
「恐らくな」
「あの…私…」
「ユリアに任せる」
「かしこまりました。こちらへ」

そう言ってユリアはくるりと背を向けた。そんな相手にミクは戸惑い、どうしたものかと立ち往生していた。

「何している、早くいかないと置いていかれるぞ?」
「でも、私は話をしに来ただけで」
「知っている。」
「じゃぁどこに連れて行くつもりですか?」
「ついて行けば解る。」

そう言うだけ言ってグレイもまたミクを追い越して階段を上がって離れていく。少し離れたところの扉の前でユリアと呼ばれたメイド服の女性が立ち、ミクの来るのをただ、待っていた。

「あの…本当に私…」
「…どうぞ、中へ」

有無を言わせないというのはこの事だろう。押し込まれた訳でも無いものの、入る以外の選択肢を奪われた感覚に陥っていた。

「苦手な物はありますか?」
「え…?あの、苦手って?」
「温かいものをお持ちいたします。」
「コーヒーは苦手ですけど」
「・・……こーひー…ですか?」
「あ、すみません、何でも良いです」
「解りました、しばらくお待ちくださいませ」

そう答えれば丁寧にお辞儀をしてユリアはその場を離れた。きょろきょろとあたりを見渡すミク。こんな広いリビングを見る事はドラマだけの話の中だと思っていた。立派なシャンデリア、高い天井、生活感がない位に整えられた家具や諸々の備品…先程とは違う意味のため息を零した直後、ゆっくりと自身が入ってきた扉が開いた。

「待たせたな」
「あの…なんか私場違いで…すぐ帰ります」
「帰る所も無い中で、か?」
「…え?」
「その顔、図星を突かれたか。言葉すら解らないヤツがこの付近に家を持っているとも考えられないからな。しかも俺の領地でそんな身なりは初めて見た」
「でも…」
「失礼いたします。こちらお持ちしました。」
「え、あ…ありがとうございます。」
「スパイスドリンクか、ユリア、俺にも」
「グレイ様は苦手でしょう?殆どのスパイスが」
「だからグレイスペシャルで頼む」
「全く別物ですけどね」

そう吐いてくるりと背を向けたユリアは来た場所に戻っていった。

「酷いだろ?主人に対してあの口は」
「…あー、はい」
「で?森で聞いた話に戻るが」

そう言うとグレイはテーブルに肘をつき、まっすぐにミクを見つめたまま、ゆっくりとその口を開いた。

「あの森に、何故いた?」
「本当に解らないんです。バスに乗って仁と一緒に大学に行く所だったし…」
「じん?…だいがくとは?」
「仁は幼馴染で、…大学を知らないんですか?」
「知らないから聞いている」
「えっと…勉強する所…?」
「勉学か…それはいいな。」
「…逆に聞いてもいいですか?」
「おぅ、何だ?」
「ここはど『お待たせいたしました。』…こ」
「…ユリア…空気を読めと言っているだろう」
「…すみません」
「で?」
「……なんか、もう良いです。」
「なら俺から。」

そう切り出してグレイはミクの事をとにかく色んな情報として聞いてきた。年齢を始め、出来ることを事細かく聞いてきた。

「よし」
「…あの、今の聞いて何が…」
「ん?俺のもとで暮らせば良い」
「へぁ!?!?」

素っ頓狂な声を上げながら、同時にガチャリと飲み切ったマグカップが音を立てた。

「あの!グレイ様!?」
「なんだ?」
「失礼ですが、確かに部屋数からしても手は足りませんし、かと言って雇うとしても部屋はありますが…」
「それで?」
「このどこから来たかもわからない娘を置くのですか!?」
「あぁ」
「他の御縁はどうされるのですか!」
「うーむ…なんとかなるだろう」
「あの、ご迷惑かけるなら…別に出ていきますが…」
「ミク。」
「はい?」

ガタリと音を立て、席を立つグレイ。そのままミクの傍まで行けば上から見下ろした。

「聞くが、お前が今行きているのは誰のおかげだ?」
「…えっと」
「今お前が話す事が出来る、会話ができるのは誰のおかげだ?」
「…ッ」
「言えないか?」
「グレイ…さんです」
「…お前がどこから来たかは詮索しない。ただ、お前の世界では恩を仇で返すのか。」
「……それは…」

にっと笑いながらも目を細め、じっと見つめるその瞳から逃げる様に視線を外したミク。

「解りました……」
「決まったな。ユリア、世話係をよろしく頼む」
「かしこまりました。」
「これからよろしく頼むぞ、ミク」
「…はい」

弱い所をつかれ、屋敷に残る事になったミク。こうしてミクの第二の人生が始まるのだった。

「さて、と」

椅子に座りポツリと呟くグレイのすぐ後ろからコホン…とあからさまな咳払いをする執事がいた。

「なんだ、カイル。どうかしたか?」
「グレイ様、お言葉ではございますがなぜあの様な小娘を引き取られたのですか」
「はは、それを言うなら俺も小男だな」
「な…!」
「聞いたろ?ミクの歳は十九。俺は七つしか変わらん」
「七つも違えば大きな差です。加えて言うならグレイ様はグリーンウッド伯爵ですぞ?」
「たかだか父が早くに亡くなったが故に受け継いだ伯爵だ」
「何を言ってらっしゃいますか!グレイ様に代が移ってから平民達も生活が潤っていると声が届いております。」
「父の残した声明を壊さない様に皆が手伝ってくれているだけだが?」

一貫して自身の手柄とは一切言わないグレイ。けらけらと笑いながらカイルに視線を向けるとグレイは、続けた。

「面白いじゃないか。今では幼子から老人まで皆口を揃えて『様』付けして呼んでいるだろう?それが『様』が無い。あんな風に食って掛かってくるのも面白い。」
「ただ単に物を知らないだけの気もしますが」
「それでも、俺は楽しいがな。」

楽しいだけではないだろうに…カイルがそう言いたかった言葉は飲み込まれた。

その頃のミクは、ユリアに部屋に案内されていた。

「こちらをお使いください」
「え、っと……」

通された部屋は広く、ベッドの上に天蓋が付いている所謂いうところのプリンセスルームだった。

「あの…ほんとにこの部屋…ですか?」
「はい、何かありましたらお呼びくださいませ」
「い、いやいや!今ある!」
「どういたしました?」
「ちょっと…グレイさんに話!…してくる」

そう言ってミクは部屋を後にすると、先程までいたリビングに戻っていく。その後を着いて一緒に入っていくユリアの事はお構い無しに扉を開けて入っていった。

「あの、グレイさん」
「お、部屋は気に入ったか?」
「気に入るとかいらんの問題じゃなくて…あんな部屋使えません!」
「気に入らんかったか…」

うむ…と唸るような仕草を見せたグレイ。ツカツカツカっと前に立てば、ミクは少し困った様に話しだした。

「あんな豪華な部屋は使えません!落ち着かないし…」
「ん…?色々が狭いとかそういうのではなくか?」
「狭い…?あれが!?」

半ば呆れながらミクはグレイの顔を見つめた。

「あの…私はそんな偉くないし、仕方なくここにいるだけで…」
「ふは…やっぱり面白いやつだな。」

そういうと椅子を押し、グレイは咳を立った。すっとポケットに手を入れ目を細めながら上から見つめるグレイの視線を外さぬようにミクはキッと見返している。

「偉くない、か。…ならこれから偉くなれば良い」
「…は?」
「誰もがひれ伏す様な、そんな女になれ」
「…あの、興味ないんですけど」

そのひと言でカイルとユリアは笑いを吹き出しそうになるのをこらえるので必死になっている。

「(あの、グレイ様が…振られた?)」
「(まさかの興味ない…っふふ)」
「興味ない、?本気で言っているのか?」
「グレイさんこそ本気で言っているんですか?ひれ伏すとか。それで動くと思うの?」
「何がだ?」
「…国の事とか、人の心とか。そういうのが力でなんとかなるものじゃないのは知ってるんじゃないの?」
「…なら金か?」
「……本気?」
「なら何だと思う?」

試すかの様にグレイはミクに問いかけた。

「人を動かしたい、そう言うなら人の心でしか動かせないのよ。」
「それはどうする?」
「…聞くしか無いじゃない。皆の話をできる限りまんべんなく。お金で動くのは人の器だけ。心は本音では動かせないよ」
「ミクさん、それは流石に…」

そう言いかけたカイルをグレイは止めた。

「聞く、か。ならそうしようか」
「グレイ様!」
「そう言うな、カイル」
「しかし…」
「ミク、支度しろ。すぐに出るぞ」
「へ?」
「言っただろう?先程自分で。聞けばいいと。ならば聞きに行こうか」
「…あの…」
「ユリア、ミクの支度を。」
「かしこまりました。」
「私はこのままでいいですけど…」
「なら行こうか」

笑いかけたグレイはすっとポケットから手を差し出してミクを連れ出した。

「カイル、しばし行ってくるよ」
「…はぁ…行ってらっしゃいませ」

そうしてカイルとユリアを残してグレイはミクと一緒にバタンと屋敷を後にした。残された二人は顔を見合わせるでもなく、湿られた扉を見てため息を吐く。

「また別の子猫を拾ってこなけれは良いですけど」
「縁起でもないことをいうな、ユリア。に、してもだ。グレイ様は今日も城下に行ったというのに…」
「確かにそうですね。その時にミクさんを連れてこられたと言うのに。」
「グレイ様ほど民の声を聞くお方はいないと思うのだが…」
「伯爵様であっても近寄りがたいのは性に合わぬ、が口癖ですものね」
「あぁ……お二人が戻られても良い様に準備しておこうか…」
「はい」

そうして二人は奥に戻っていくのだった。
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