君と、僕と、キミたちと…

みやび

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緊張する時間

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しかし、雅からラインが来た仁がそのままにしておくわけがなかった。

『今でもいいけど?』
『明日直接会って話してもいい?』
『直接だと先輩緊張しちゃうでしょ』

トントンと進んでいくラインに仁の表情はどんどんと緩んでいく。

「…これ、何言ってくれんだろうなぁ…」

そう思っていたものの、既読が付いてからなかなか返事が来なかった。少し待ってみればピロンっと入ってくる。

『青木君、バスタでバイトしてるって聞いたの。今度行ってもいい?』

そう送ってくるメッセージの長さからしてもこれほどに時間がかかるものではないのは十分に解るものだった。それでもこの時間を要した、と言う事はどれだけ考えていたのだろうかと思うものだった。

「…行ってもいいかって…別にいいだろ…聞かなくても…」

そう思いつつも雅に平静を装いながらも仁は入れ始める。

『別にいつでも来てくれていいよ。夏目先輩ならサービスしちゃうし』
『や、ちゃんと買うし!それはダメ!』
『たまには頼ってよ』

送ったものの、恥ずかしくなり送信取り消しを試みるものの、すでに既読が付いていた。

「詰んでんじゃんよ…」

しかし少し間をおいて雅からの返信があった。

『頼る所はそこじゃないです…』

ただ一言そう入ってきた。

「じゃぁどこで頼ってくれんだって…」

仁も解っている。自分よりも紫音に頼ることが多いと言う事も、自分が茶化し続けてきているとは言え、雅の心が紫音にあると言う事も…それでもこうしてラインが繋がっている、いつも離せない時間に会話が成立している…それだけで嬉しく思っていた。

「…明日、誘ってみるか…」

そう呟く声は雅には愚かどこかに届くわけでもないままに、空をさまよっていくのだった。
翌日、何気なく道場の横を通った仁は漏れ聞こえる音に扉を開けた。

「だから言ってんだろうが、せめてボカロはやめろ」
「うるさいなぁ…」
「ぁあ?一緒に練習してるこっちの気にもなりやがれ」
「ならコレ…」

そう言って一気にバラードに変わる。

「……これかよ…」
「ん、いいでしょ?」
「思い出すわ」
「えー?何を―?」
「てめ…っ、わざとだろ」
「ほら、紫音の番だってば…」
「音下げろ」
「え、上げろって?」
「そのままでいい。」

チグハグとも思えるような会話をしながら二人揃って袴を着、打っていた。入り口付近の仁んお姿に気づくことも無いままに二人で音楽をかけて練習している雰囲気にそのまま声をかける事もしないままに仁はその場を後にしていった。

「…やぁっぱな。付き合ってんだろ、隠しきれてねぇって…」

珍しく弱音にも似たような言葉を紡ぐ仁の後ろから女子生徒が声をかけた。

「ねー!仁、おはよ!」
「おー」
「え、テンション低くない?」
「別に?で、何?」
「今度の日曜って用事ある?」
「ぁ?日曜か…バイトだわ」
「えー、残念!一緒に映画行こうと思ったんだけど…」
「わりぃな」

そうやんわりと断りを入れた仁だった。しかし、バイトと言っても午後からの物だったため、特別断らなくても問題は無かったのだろ。それに加えて仁自体も午前中に一緒にタバスに行かないかと雅を誘おうと思っていたのだ。

「…ダメもとで誘ってみるってのアリか…」

呟きながらも授業中にはほぼ上の空と言わんばかりに仁は一日を過ごした。少し早くに道場に向かう途中、雅と鉢合わせる事になった。

「あ、青木君。」
「夏目先輩、いまからっすか?」
「そうだよー」
「…そういや…今、少しいいっすか?」
「何?」
「昨日…言ってくれた事なんすけど…もしよかったら今度の日曜にバイト入ってるんすよね、俺。だらかバイト前に一緒に行きません?」
「あ、今度の日曜、先に約束あって…」
「……もしかしてそれって住吉さんっすか?」
「そう、よくわかったね」
「いや、解ったっていうか…」
「紫音のお母さんとか、一緒に進路のことでいろいろと相談しようかって話になって…それで家族で会う事になっててね?」
「あ、二人とかじゃなくて?」
「えー、何で?」
「いや。なんていうか、さ」
「あ、もしかして青木君も芹沢君と同じかな…」
「は?部長?」
「私、紫音と付き合ってないからね?」

突如聞かされた言葉に仁の足はふいに止まった。

「クスクス…やっぱり付き合ってると思ってた?」
「そりゃ、あんな風にいつだって一緒に練習してたら、よ?」
「朝練ってうちの部やってないでしょ?だから私が打ちたいって言ってるのに付き合ってくれてるだけ」
「俺も一緒に行こうかなぁ…?」
「あ、来る?」

にこにこと何の違和感もないままに誘っている雅だった。

「…でも、住吉さん怖ぇからな…きっと」
「そう?紫音そんな圧強い…か、うん、圧強いね」
「だろ?」
「うるせぇよ、何人の悪口堂々と言いやがってんだ」
「あ、紫音、朝振り!」
「住吉さんって、夏目先輩の事ほんっと好きっすよね」
「お前はそのなんでもかんでも好きっていう癖をやめろ」
「へーへーっと」
「直す気ねぇだろ」

そう話しながらも道場に入っていく三人だった。次々に面々が揃って来る中で紫音は雅に声をかける。

「…で?」
「何?」
「誰彼構わず好きっていう男が好きとはな」
「ちょ…!紫音!!」

ぐいっと手を引いて道場の隅に連れていく雅。

「…あのね?秘密にしてるんだけど…」
「どうせバレてるだろ」
「さっきまで私と紫音が付き合ってるって思ってた青木君が?」
「あながち間違いじゃねぇだろ」
「今は違うでしょ」
「うるせぇよ」
「……もぉ…」

しかしその隅で二人が話しているのをみて周りはやはり『…付き合ってるのか…』と同じことを漏れなく思っているのだった。そんな中穏やかじゃないのはマネージャーである唯だった。そんな二人の方を見ない様にしつつもきゅっと手を握りしめていた。

「どうかした?小坂ちゃん」
「青木君…別に?」
「住吉さんの事好きなの?」
「そ、れは…恐らくみんな好きですよ」
「まぁなぁ…あぁ見えてカリスマ性は抜群だしよ」
「でしょ?」
「でも、そんな小坂ちゃんに一つ、」
「え?」
「あの二人付き合ってないらしい」
「そう言ってるだけで、あの空気、どう見ても付き合ってなくても両片思いですよ」

フフッと寂しそうに笑う唯を見て、仁はふっと視線を二人に向ける。そう見えなくもない。だとしたらなぜ付き合わないのだろうか…と考えていた。

「付き合ってたらその時点でジエンドだけどな…」
「え、何か言った?」

道場内のざわつきに消されるほどの仁の言葉に唯はそれとなく話かけるものの、なんでもね…と交わすのだった。
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