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9月8日 月曜日
第28話 懐かしい面々
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その懐かしい声に、私は真っ先に反応する。
「──輝!」
開け放たれたドアにもたれていたのは、そのくりりとした目をいたずらっぽく光らせた輝だった。
「牧村さん……どうしてここに?」
新垣くんが尋ねる。実行委員会からは突然いなくなり、そしてまた突然現れたのだ。輝の性格を知らない彼が驚くのも無理はないと思う。
「だって。合唱祭、やっぱりやるって聞いたから。しかも放送室ジャックなんておもしろすぎるじゃん」
そう言って楽しげに笑う輝を、新垣くんは半ば唖然としたように見つめた。
「いや、だからその話は──」
乾が取りなそうとしたのを、中村くんが遮る。
「わかってますよ、牧村先輩。ヤツですよね」
「そう、ヤツです」
いったい何を通じ合っているのか、二人はにやりと顔を見合わせた。
そして中村くんが誰かに電話をかけ始める。
「……あ、ちょっとさ、今暇? あのさ、生徒会室来てくんない?──うん、ちょっと。──うん、たぶん面白いから。──オッケー。待ってる」
用件だけの短い会話の後に電話を切った中村くんは、部屋中の視線が集まっているのにも気づいていないようだった。私は仕方なく尋ねる。
「中村くん、誰を呼んだの……」
「ああ、完全な部外者じゃないんで安心してください。大丈夫ですよ」
中村くんは意外そうに目を瞬いてからそう言った。が、もちろんそれでは答えになっていない。
けれどその人物はものの数分で、私たちの目前に現れたのだった。
「はあ。まあ、行けんじゃないっすかね。三年生もいるんで話通しときますよ」
中村くんに呼び出された彼──湯浅くんは、軽いノリでそう言った。輝に続いて合唱祭実行委員会のグループを抜けた、あの湯浅くんだ。放送部員だったとは……知らなかったけれど、言われてみればあの特異な集団にも溶け込めそうなタイプではある──気がする。
「てか、合唱祭やるなら俺、戻ってきた方がいいっすかね?」
湯浅くんは体半分で新垣くんを振り返る。
「え? ああ、うん。戻ってきてくれるなら歓迎だけど……」
あの新垣くんがやや圧され気味だ。
私は全く系統の違うメガネ男子二人を、どこか新鮮な気分で眺めた。
が、私はそこでふとあることに気づく。
「いや、湯浅くん! 是非戻って!」
私は思わず彼の方に身を乗り出した。
明日の昼放送ジャックだけではない。講堂で合唱祭をやるというのなら、音響関係で間違いなく放送部の力を借りることになるだろう。湯浅くんがいるのといないのとでは、そのあたりの調整の進めやすさが全然違って来るに違いない。
「いいですよ。木崎先輩が言うなら」
「え?」
なぜ私?と思って首をかしげたところに、塚本くんが戻ってきた。
「──講堂の使用許可申請、出してきました!……って、あれ?」
湯浅くんの姿を認めて目を丸くしている。
そんな塚本くんに、湯浅くんは「よお」と片手を挙げて答えた。
「復帰?」
「そりゃ、推しに乞われちゃ戻らないわけにはいかないっしょ」
すると、さっきのやりとりは知らないはずの塚本くんが、なぜかちらりとこちらを見た。が、その意味を問うより先に中村くんが不満げな声を上げる。
「いや、俺が電話で呼び戻したんじゃん」
「まあそうだけど」
湯浅くんに悪びれる様子はない。あくまでマイペースなあたり、もしかしたら中村くんといい勝負なのではという気がする。
「んじゃ、改めて頼むわ。湯浅」
会話が落ち着いたタイミングを逃さず乾が言うと、湯浅くんは「うっす」と会釈して見せた。
「……で、明日の段取りはどうするわけ?」
桐山会長の声が割り込む。
そうだ。明日の昼休みに放送で合唱祭への参加呼びかけをするなら、早いことその準備をしてしまわないといけない。
私はとっさにリーダーたる新垣くんの顔を見たけれど、彼よりも先に口を開いたのは中村くんだった。
「あの、言い出しっぺってことで明日のことは俺に任せてくれませんか?」
何か考えがあるのだろうか。「いいですよね?」と新垣くんを振り返る。
「それはいいけど……」
それを聞くやいなや、中村くんはくるりと向きを変えた。
「んじゃ、牧村先輩! 頑張りましょう!」
突然話を振られたにもかかわらず、輝はにやりと笑って親指を立てている。
特に何か相談し合っていたわけでもないはずなのに、二人で何か企んでいるのは明らかだった。
「……なあ、あいつらに任せて大丈夫か?」
「たぶん何か考えがあるんだろうとは思うけど……」
乾と新垣くんがこそっと囁き合っているのが聞こえてきた。
乾の懸念はもっともだったので、私は中村くんに尋ねてみる。
「私も何かできることない? 手伝うよ」
「いや、大丈夫です」
ものの見事に即答されてしまった。
「木崎先輩は教室で俺の勇姿を見守っててください。っていっても、放送なんで実際には見えませんけどね」
「ああ、うん……」
こう言われてしまっては引き下がるほかない。
と、新垣くんと目が合った。大丈夫だろうとは言いつつも心配なのだろう。
「ま、放送室は部員もいるんでそんなに人数入りませんしね」
湯浅くんにまでそんなことを言われてしまい、私は若干複雑な気分になる。
けれど輝はともかく中村くんは、中止宣告を受けたあの日からずっと一緒に走ってきた仲間なのだ。今更信じて任せられなくてどうする。
私は新垣くんとこっそりうなずき合った──翌日の昼休みに度肝を抜かれることになるなど、想像だにせずに。
「──輝!」
開け放たれたドアにもたれていたのは、そのくりりとした目をいたずらっぽく光らせた輝だった。
「牧村さん……どうしてここに?」
新垣くんが尋ねる。実行委員会からは突然いなくなり、そしてまた突然現れたのだ。輝の性格を知らない彼が驚くのも無理はないと思う。
「だって。合唱祭、やっぱりやるって聞いたから。しかも放送室ジャックなんておもしろすぎるじゃん」
そう言って楽しげに笑う輝を、新垣くんは半ば唖然としたように見つめた。
「いや、だからその話は──」
乾が取りなそうとしたのを、中村くんが遮る。
「わかってますよ、牧村先輩。ヤツですよね」
「そう、ヤツです」
いったい何を通じ合っているのか、二人はにやりと顔を見合わせた。
そして中村くんが誰かに電話をかけ始める。
「……あ、ちょっとさ、今暇? あのさ、生徒会室来てくんない?──うん、ちょっと。──うん、たぶん面白いから。──オッケー。待ってる」
用件だけの短い会話の後に電話を切った中村くんは、部屋中の視線が集まっているのにも気づいていないようだった。私は仕方なく尋ねる。
「中村くん、誰を呼んだの……」
「ああ、完全な部外者じゃないんで安心してください。大丈夫ですよ」
中村くんは意外そうに目を瞬いてからそう言った。が、もちろんそれでは答えになっていない。
けれどその人物はものの数分で、私たちの目前に現れたのだった。
「はあ。まあ、行けんじゃないっすかね。三年生もいるんで話通しときますよ」
中村くんに呼び出された彼──湯浅くんは、軽いノリでそう言った。輝に続いて合唱祭実行委員会のグループを抜けた、あの湯浅くんだ。放送部員だったとは……知らなかったけれど、言われてみればあの特異な集団にも溶け込めそうなタイプではある──気がする。
「てか、合唱祭やるなら俺、戻ってきた方がいいっすかね?」
湯浅くんは体半分で新垣くんを振り返る。
「え? ああ、うん。戻ってきてくれるなら歓迎だけど……」
あの新垣くんがやや圧され気味だ。
私は全く系統の違うメガネ男子二人を、どこか新鮮な気分で眺めた。
が、私はそこでふとあることに気づく。
「いや、湯浅くん! 是非戻って!」
私は思わず彼の方に身を乗り出した。
明日の昼放送ジャックだけではない。講堂で合唱祭をやるというのなら、音響関係で間違いなく放送部の力を借りることになるだろう。湯浅くんがいるのといないのとでは、そのあたりの調整の進めやすさが全然違って来るに違いない。
「いいですよ。木崎先輩が言うなら」
「え?」
なぜ私?と思って首をかしげたところに、塚本くんが戻ってきた。
「──講堂の使用許可申請、出してきました!……って、あれ?」
湯浅くんの姿を認めて目を丸くしている。
そんな塚本くんに、湯浅くんは「よお」と片手を挙げて答えた。
「復帰?」
「そりゃ、推しに乞われちゃ戻らないわけにはいかないっしょ」
すると、さっきのやりとりは知らないはずの塚本くんが、なぜかちらりとこちらを見た。が、その意味を問うより先に中村くんが不満げな声を上げる。
「いや、俺が電話で呼び戻したんじゃん」
「まあそうだけど」
湯浅くんに悪びれる様子はない。あくまでマイペースなあたり、もしかしたら中村くんといい勝負なのではという気がする。
「んじゃ、改めて頼むわ。湯浅」
会話が落ち着いたタイミングを逃さず乾が言うと、湯浅くんは「うっす」と会釈して見せた。
「……で、明日の段取りはどうするわけ?」
桐山会長の声が割り込む。
そうだ。明日の昼休みに放送で合唱祭への参加呼びかけをするなら、早いことその準備をしてしまわないといけない。
私はとっさにリーダーたる新垣くんの顔を見たけれど、彼よりも先に口を開いたのは中村くんだった。
「あの、言い出しっぺってことで明日のことは俺に任せてくれませんか?」
何か考えがあるのだろうか。「いいですよね?」と新垣くんを振り返る。
「それはいいけど……」
それを聞くやいなや、中村くんはくるりと向きを変えた。
「んじゃ、牧村先輩! 頑張りましょう!」
突然話を振られたにもかかわらず、輝はにやりと笑って親指を立てている。
特に何か相談し合っていたわけでもないはずなのに、二人で何か企んでいるのは明らかだった。
「……なあ、あいつらに任せて大丈夫か?」
「たぶん何か考えがあるんだろうとは思うけど……」
乾と新垣くんがこそっと囁き合っているのが聞こえてきた。
乾の懸念はもっともだったので、私は中村くんに尋ねてみる。
「私も何かできることない? 手伝うよ」
「いや、大丈夫です」
ものの見事に即答されてしまった。
「木崎先輩は教室で俺の勇姿を見守っててください。っていっても、放送なんで実際には見えませんけどね」
「ああ、うん……」
こう言われてしまっては引き下がるほかない。
と、新垣くんと目が合った。大丈夫だろうとは言いつつも心配なのだろう。
「ま、放送室は部員もいるんでそんなに人数入りませんしね」
湯浅くんにまでそんなことを言われてしまい、私は若干複雑な気分になる。
けれど輝はともかく中村くんは、中止宣告を受けたあの日からずっと一緒に走ってきた仲間なのだ。今更信じて任せられなくてどうする。
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